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天使は甘いキスが好き
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水溜りで、恵は前のめりに倒れ掛け、龍之介が咄嗟に抱き留める。
「うわっ、大丈夫か?」
「う、うんっ」
恵は龍之介の腕の中でこくりと頷く。二度目だ。心臓が壊れそうな程ドクンと鳴る。
「落ち着くまで、あそこの軒下に行こうか」
「…解った」
二人は、閉店した店の軒下に走る。落雷が近くで鳴った。
「ひあっ!」
恵は龍之介の胸に抱き付くと、龍之介が恵をきつく抱き締めてきた。落雷が再び鳴ると、恵はビクンとして思わず龍之介を見上げる。濡れて額に張り付いた前髪。今は銀縁眼鏡は外してある。何かに囚われた様な感覚に、数秒の間二人は見詰め合った。
龍之介の顔が傾き、恵の唇に優しく触れる。恵は双眸を見開いた。
「…好きだ。恵…男の子相手にこんな事いけないのは解ってるのに…ごめん」
「ど、して? どうして謝るの? 俺も好きだよ!!」
思わず叫ぶと、龍之介は再び口付けた。舌が絡み合う。重なった唇から銀色の糸が絡み、恵は二人分の唾液を飲み込む。こんなキスは知らない。初めてだから、知らないだけなのだが。唇が離れ、深い息が零れた。
「恵…」
二人はきつく抱き締め合った。 途中で買った一本だけの傘を差して、自宅までの距離を二人は手を繋いでいた。青い大きな傘は、二人の顔を隠してくれる。例え、知っている人間に会っても、多分気付く者は居ないだろう。今は雨だ。
「それじゃ」
恵は頬を染めたまま云う。
「…おやすみ。今夜メール送るよ」
「うん、…待ってる」
お互いの気持ちを確認した後は、なんだか照れ臭い。恵が家に入るのを確認すると、龍之介は自分の自宅へ向かった。
「おかえりなさい」
恵はハッとして、顔を上げる。十和子が恵を出迎えた。
「…ただいま」
「外凄い雨ね。早くお風呂入って、身体を温めなさい」
「うん……」
恵は靴を脱いで隅に揃えると、太一の靴を見つけた。珍しく今日は早く帰ったのかと、恵は冷たい眼で見詰める。恵はリビングには寄らずに、浴室へ向かった。
「恵」
太一が声を掛けて来た。恵はびくり肩が揺れて固まる。
「…何?」
「あのな、この間の話なんだが、……別れたから」
恵は双眸を見開き、太一を振り返った。
「…それで?」
「それでって…」
太一は困って恵を見詰める。ネクタイを外し、ボタンを二・三個外していた。
「それでお母さんへの裏切りが帳消しになったとでも? 絶対お母さんに知られるなよ? お母さんに何かあったら、俺絶対許さないからなっ!」
「恵、お父さんになんて口の聞き方を!?」
十和子は気になって脱衣所に来ていた。太一は十和子を止めると、哀しげな眼で恵に頷いた。
「解ってる」
恵は太一を睨むと、浴室に入ってドアを閉めた。熱いシャワーを頭から被り、涙も一緒に流した。チャプンと湯に入れば、強張った身体が解れてホッとする。自分でも、云って良い事と悪い事ぐらい解る。解るからこそ許せないのだ。湯で顔を洗うと、ふと龍之介の事を思い出す。
ーーーさっき別れたばかりなのに、もう会いたい…。
恵は龍之介の触れた唇に人差し指でなぞる。止まらない想いが在るのだと、十五歳にして初めて知った。 男とか女とか関係ない。そうだこれが、好きだという事。
ーーーこんなに惹かれるなんて想わなかった…。
恋はこんなに人を温かくする。恋はこんなにも切なくさせる。初めての恋は壁が厚く高い。
自分が男だから。龍之介は教師を目差している。迷惑は掛けたくない。でも…。恵は未成年。男同士の恋に生涯が有るのだと、恵は思う。
ーーー解ってるけど…でも好き…。
自室に戻った恵は、携帯のフラップを開くと、龍之介からメールが届いていた。
【今日は愉しかった。おやすみ、恵】
恵君から恵と呼ばれているのがくすぐったい。嬉しい。
【俺も愉しかった。おやすみなさい】
恵は返事を打つと、送信した。
「うわっ、大丈夫か?」
「う、うんっ」
恵は龍之介の腕の中でこくりと頷く。二度目だ。心臓が壊れそうな程ドクンと鳴る。
「落ち着くまで、あそこの軒下に行こうか」
「…解った」
二人は、閉店した店の軒下に走る。落雷が近くで鳴った。
「ひあっ!」
恵は龍之介の胸に抱き付くと、龍之介が恵をきつく抱き締めてきた。落雷が再び鳴ると、恵はビクンとして思わず龍之介を見上げる。濡れて額に張り付いた前髪。今は銀縁眼鏡は外してある。何かに囚われた様な感覚に、数秒の間二人は見詰め合った。
龍之介の顔が傾き、恵の唇に優しく触れる。恵は双眸を見開いた。
「…好きだ。恵…男の子相手にこんな事いけないのは解ってるのに…ごめん」
「ど、して? どうして謝るの? 俺も好きだよ!!」
思わず叫ぶと、龍之介は再び口付けた。舌が絡み合う。重なった唇から銀色の糸が絡み、恵は二人分の唾液を飲み込む。こんなキスは知らない。初めてだから、知らないだけなのだが。唇が離れ、深い息が零れた。
「恵…」
二人はきつく抱き締め合った。 途中で買った一本だけの傘を差して、自宅までの距離を二人は手を繋いでいた。青い大きな傘は、二人の顔を隠してくれる。例え、知っている人間に会っても、多分気付く者は居ないだろう。今は雨だ。
「それじゃ」
恵は頬を染めたまま云う。
「…おやすみ。今夜メール送るよ」
「うん、…待ってる」
お互いの気持ちを確認した後は、なんだか照れ臭い。恵が家に入るのを確認すると、龍之介は自分の自宅へ向かった。
「おかえりなさい」
恵はハッとして、顔を上げる。十和子が恵を出迎えた。
「…ただいま」
「外凄い雨ね。早くお風呂入って、身体を温めなさい」
「うん……」
恵は靴を脱いで隅に揃えると、太一の靴を見つけた。珍しく今日は早く帰ったのかと、恵は冷たい眼で見詰める。恵はリビングには寄らずに、浴室へ向かった。
「恵」
太一が声を掛けて来た。恵はびくり肩が揺れて固まる。
「…何?」
「あのな、この間の話なんだが、……別れたから」
恵は双眸を見開き、太一を振り返った。
「…それで?」
「それでって…」
太一は困って恵を見詰める。ネクタイを外し、ボタンを二・三個外していた。
「それでお母さんへの裏切りが帳消しになったとでも? 絶対お母さんに知られるなよ? お母さんに何かあったら、俺絶対許さないからなっ!」
「恵、お父さんになんて口の聞き方を!?」
十和子は気になって脱衣所に来ていた。太一は十和子を止めると、哀しげな眼で恵に頷いた。
「解ってる」
恵は太一を睨むと、浴室に入ってドアを閉めた。熱いシャワーを頭から被り、涙も一緒に流した。チャプンと湯に入れば、強張った身体が解れてホッとする。自分でも、云って良い事と悪い事ぐらい解る。解るからこそ許せないのだ。湯で顔を洗うと、ふと龍之介の事を思い出す。
ーーーさっき別れたばかりなのに、もう会いたい…。
恵は龍之介の触れた唇に人差し指でなぞる。止まらない想いが在るのだと、十五歳にして初めて知った。 男とか女とか関係ない。そうだこれが、好きだという事。
ーーーこんなに惹かれるなんて想わなかった…。
恋はこんなに人を温かくする。恋はこんなにも切なくさせる。初めての恋は壁が厚く高い。
自分が男だから。龍之介は教師を目差している。迷惑は掛けたくない。でも…。恵は未成年。男同士の恋に生涯が有るのだと、恵は思う。
ーーー解ってるけど…でも好き…。
自室に戻った恵は、携帯のフラップを開くと、龍之介からメールが届いていた。
【今日は愉しかった。おやすみ、恵】
恵君から恵と呼ばれているのがくすぐったい。嬉しい。
【俺も愉しかった。おやすみなさい】
恵は返事を打つと、送信した。
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