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六、真白再び
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しゃがんだままの佳紀は立ち尽くす俊と岡を見つめていた。
二人の手元が自由になっていることに気づいたのか舌打ちをする。
「サムット、おまえもあっちの味方かよ」
「いえ。先生の味方です」
「訳がわかんねぇな」
「もうやめましょう、先生」
「うるせぇ! おまえに何がわかる」
佳紀の腕をサムットが掴むとすぐそれを振り解く。
はずみでサムットは床に叩きつけられた。
「俊、おまえは僕といたいんだよな? ずっと一緒にいたもんな?」
懇願するような声に俊は拳を握る。
『童顔だから威厳もないんだよ』
少し拗ねた顔をしながらそんなことを言っていた佳紀。
はじめて一緒にワインを飲んだ時の嬉しそうな顔。
きっと佳紀は何よりも自分を愛してくれていたんだろう。
だけど彼は愛し方を間違えた。
それが彼なんだと理解したところで、もう、彼を愛すことはできない。
佳紀だけが悪いのではない。はっきりと言葉にしなかった自分もまた、佳紀を暴走させたのだ。
俊は拳を強く握り、掠れた声を出した。
「佳紀さん。あの時助けてくれてありがとう。確かに俺はあなたに惹かれた時期もあったけど、もう恐怖でしかないんだ。楽しかった日々より、苦しくて怖い日ばかりだった。そんなあなたとは一緒にいられない。ごめんなさい。早くそう言うべきだった。逃げる前に」
逃げたい気持ちを奮い立たせて、俊はまっすぐ佳紀を見据える。
あの時言えずに逃げてしまった弱い自分と、決裂するためにも。
佳紀は一瞬大きく目を開き、すぐに苦々しく歪んだ顔を見せた。
そして、拳を床に叩きつける。
「ふざけんな! あんなに俺に服従してたくせに、コマンドが欲しいって、ねだってたくせに何言ってんだ!」
その怒鳴り声に思わず岡が止めようとしたが、俊は首を振る。
どんなに罵声を浴びせられてもいい、これで気が済むなら。
諦めてくれるなら。罵詈雑言の嵐にも、俊は真っ直ぐ佳紀を見続けた。
(ここで逃げたら、【ロジウラ】にきた時のような自分に戻ってしまう。俺はもう、前を向いて歩きたいんだ)
俊のことを心配しながら一緒にいてくれた明彦や拓也、そして時間をかけて見守ってくれた、岡のためにも。
やがて佳紀は喉から搾り出すような声を上げ、そのまま項垂れて手で顔を覆った。
「お前が望むから……そうしてたのに」
しばらくの沈黙。それがずいぶん長く感じた。
いたたまれず俊が声をかける。
「佳紀さ……」
「もういい、お前なんかいらない! さっさと出ていけ、二度と顔も見たくない!」
そう怒鳴りつけながら、佳紀の頬に見えたのは涙。初めてみた佳紀の涙だ。
気がつけば俊も頬を濡らしていた。この涙は何の感情なのだろう。
二人の涙をサムットと岡はじっと見つめていた。
そして、動かない俊に佳紀は再度怒鳴る。
「頼むから俊、Get out(出ていけ)!」
佳紀の口からでたコマンドに、俊の体が反応する。
強い口調でコマンドを放ちながらも、頼むからと付け加えたその言葉に俊は何も言えなかった。
体が勝手に動き佳紀から離れようとする。
俊が見た最後の佳紀は、涙を流しながら自分を睨みつけている姿だった。
そして佳紀を背にして、俊はドアノブを回した。
二人の手元が自由になっていることに気づいたのか舌打ちをする。
「サムット、おまえもあっちの味方かよ」
「いえ。先生の味方です」
「訳がわかんねぇな」
「もうやめましょう、先生」
「うるせぇ! おまえに何がわかる」
佳紀の腕をサムットが掴むとすぐそれを振り解く。
はずみでサムットは床に叩きつけられた。
「俊、おまえは僕といたいんだよな? ずっと一緒にいたもんな?」
懇願するような声に俊は拳を握る。
『童顔だから威厳もないんだよ』
少し拗ねた顔をしながらそんなことを言っていた佳紀。
はじめて一緒にワインを飲んだ時の嬉しそうな顔。
きっと佳紀は何よりも自分を愛してくれていたんだろう。
だけど彼は愛し方を間違えた。
それが彼なんだと理解したところで、もう、彼を愛すことはできない。
佳紀だけが悪いのではない。はっきりと言葉にしなかった自分もまた、佳紀を暴走させたのだ。
俊は拳を強く握り、掠れた声を出した。
「佳紀さん。あの時助けてくれてありがとう。確かに俺はあなたに惹かれた時期もあったけど、もう恐怖でしかないんだ。楽しかった日々より、苦しくて怖い日ばかりだった。そんなあなたとは一緒にいられない。ごめんなさい。早くそう言うべきだった。逃げる前に」
逃げたい気持ちを奮い立たせて、俊はまっすぐ佳紀を見据える。
あの時言えずに逃げてしまった弱い自分と、決裂するためにも。
佳紀は一瞬大きく目を開き、すぐに苦々しく歪んだ顔を見せた。
そして、拳を床に叩きつける。
「ふざけんな! あんなに俺に服従してたくせに、コマンドが欲しいって、ねだってたくせに何言ってんだ!」
その怒鳴り声に思わず岡が止めようとしたが、俊は首を振る。
どんなに罵声を浴びせられてもいい、これで気が済むなら。
諦めてくれるなら。罵詈雑言の嵐にも、俊は真っ直ぐ佳紀を見続けた。
(ここで逃げたら、【ロジウラ】にきた時のような自分に戻ってしまう。俺はもう、前を向いて歩きたいんだ)
俊のことを心配しながら一緒にいてくれた明彦や拓也、そして時間をかけて見守ってくれた、岡のためにも。
やがて佳紀は喉から搾り出すような声を上げ、そのまま項垂れて手で顔を覆った。
「お前が望むから……そうしてたのに」
しばらくの沈黙。それがずいぶん長く感じた。
いたたまれず俊が声をかける。
「佳紀さ……」
「もういい、お前なんかいらない! さっさと出ていけ、二度と顔も見たくない!」
そう怒鳴りつけながら、佳紀の頬に見えたのは涙。初めてみた佳紀の涙だ。
気がつけば俊も頬を濡らしていた。この涙は何の感情なのだろう。
二人の涙をサムットと岡はじっと見つめていた。
そして、動かない俊に佳紀は再度怒鳴る。
「頼むから俊、Get out(出ていけ)!」
佳紀の口からでたコマンドに、俊の体が反応する。
強い口調でコマンドを放ちながらも、頼むからと付け加えたその言葉に俊は何も言えなかった。
体が勝手に動き佳紀から離れようとする。
俊が見た最後の佳紀は、涙を流しながら自分を睨みつけている姿だった。
そして佳紀を背にして、俊はドアノブを回した。
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