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六、真白再び
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「え?」
「君がコマンド不足の時、拓也さんにお願いしているって言ってただろう? それを聞いて私はねとても動揺したんだ。パートナーではない同士が寝るのは確かによく聞くんだけど、私は君が拓也さんに抱かれることに嫉妬したんだよ」
ゆっくりと俊の手を取ると岡はその甲にキスをする。
「自分勝手は承知の上で、許さないと分かっていたけれど私は俊くんに惹かれていた。……いや、いまでも惹かれている」
自分をじっと見つめる岡に、ずるいと俊は胸を痛める。
騙されたと分かっていても、すぐにこの手を振り払えないほどに俊も岡に惹かれている。
体だけではなく彼の優しさもたまに見せる笑顔も。
何もかも、好きだと思っているからこそ俊は自分がどうしたら良いのか混乱していた。
「ずるいなあ、岡さんは。俺、何にも言えないよ。騙されてたのにさ、目が離せないもん」
そう口にした途端、一気に感情が溢れ出して俊の瞳から涙が溢れだす。
溢れ出した涙は頬を濡らしながらポタポタと床に落ちていった。
「ごめんね」
俊の手をとったまま、岡は片手でその体を抱きしめた。
血の匂いとかすかに香る柑橘系の匂い。
その香りに俊は思わず自分の腕を岡の身体に回そうとしたができずにいた。
信じたい。このまま抱き合ってまたあの穏やかな日々を暮らしたい。
でも本当に信じていいのか。これも演技なのではないか。
そんな燻る思いが岡に伝わったのか、ゆっくりと身体を離す。
「安田くん。無理しないで、すぐ君に信じてもらえるなんて思っていないから」
そう言いながら岡はどこか寂しげに微笑んだ。涙で滲むその笑顔。それでも俊は答えられない。
「ただ知っていて欲しかったんだ。……許されるなら、君のそばにいたい。図々しくて、ごめん」
「……少し時間をください」
絞り出すような声で俊が答えた時、佳紀が咳き込んだ。
それに気づいたサムットがすぐ佳紀の元に駆けつける。
床に倒れた時、頭を打ったのか後頭部をさすりながら佳紀は目を開いた。
「いってぇ……」
まだ朦朧としているのか、頭を振りながらサムットにもたれかかる。
それを見て俊は深呼吸しながら、自分を落ち着けようとしていた。
好きになるほど束縛してしまうと苦悩していた、昔の佳紀。
彼に対してしっかりとした拒絶の意思を示したことはなかった。
嫌だ、とは言っていたけれどそれは行為の中の言葉に取られていたのだろう。
もっと佳紀と話すべきだったのではないか。
何も言わない自分にも非があったのではないか。
だから、佳紀はどんどんエスカレートしてしまったのではないか……。
それなら自分から拒絶を明確に告げたら佳紀は楽になるのかもしれない。
「君がコマンド不足の時、拓也さんにお願いしているって言ってただろう? それを聞いて私はねとても動揺したんだ。パートナーではない同士が寝るのは確かによく聞くんだけど、私は君が拓也さんに抱かれることに嫉妬したんだよ」
ゆっくりと俊の手を取ると岡はその甲にキスをする。
「自分勝手は承知の上で、許さないと分かっていたけれど私は俊くんに惹かれていた。……いや、いまでも惹かれている」
自分をじっと見つめる岡に、ずるいと俊は胸を痛める。
騙されたと分かっていても、すぐにこの手を振り払えないほどに俊も岡に惹かれている。
体だけではなく彼の優しさもたまに見せる笑顔も。
何もかも、好きだと思っているからこそ俊は自分がどうしたら良いのか混乱していた。
「ずるいなあ、岡さんは。俺、何にも言えないよ。騙されてたのにさ、目が離せないもん」
そう口にした途端、一気に感情が溢れ出して俊の瞳から涙が溢れだす。
溢れ出した涙は頬を濡らしながらポタポタと床に落ちていった。
「ごめんね」
俊の手をとったまま、岡は片手でその体を抱きしめた。
血の匂いとかすかに香る柑橘系の匂い。
その香りに俊は思わず自分の腕を岡の身体に回そうとしたができずにいた。
信じたい。このまま抱き合ってまたあの穏やかな日々を暮らしたい。
でも本当に信じていいのか。これも演技なのではないか。
そんな燻る思いが岡に伝わったのか、ゆっくりと身体を離す。
「安田くん。無理しないで、すぐ君に信じてもらえるなんて思っていないから」
そう言いながら岡はどこか寂しげに微笑んだ。涙で滲むその笑顔。それでも俊は答えられない。
「ただ知っていて欲しかったんだ。……許されるなら、君のそばにいたい。図々しくて、ごめん」
「……少し時間をください」
絞り出すような声で俊が答えた時、佳紀が咳き込んだ。
それに気づいたサムットがすぐ佳紀の元に駆けつける。
床に倒れた時、頭を打ったのか後頭部をさすりながら佳紀は目を開いた。
「いってぇ……」
まだ朦朧としているのか、頭を振りながらサムットにもたれかかる。
それを見て俊は深呼吸しながら、自分を落ち着けようとしていた。
好きになるほど束縛してしまうと苦悩していた、昔の佳紀。
彼に対してしっかりとした拒絶の意思を示したことはなかった。
嫌だ、とは言っていたけれどそれは行為の中の言葉に取られていたのだろう。
もっと佳紀と話すべきだったのではないか。
何も言わない自分にも非があったのではないか。
だから、佳紀はどんどんエスカレートしてしまったのではないか……。
それなら自分から拒絶を明確に告げたら佳紀は楽になるのかもしれない。
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