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四、植物たちの中で
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そしていよいよカウンセリングの日。
電車で二駅、数分歩けば岡の指定した建物が見えた。近づいて俊は少し悩む。
七階と名刺に書いてあるのでビルだと思っていたのだが、目の前にあるのはタワーマンションだ。
カウンセリングをマンションの一室で行うことがあるのだろうか。
俊はいささか不審を抱きながらエントランスに入り、オートロックを開けるためのインターフォンの前で立ち止まっていたが、やがて意を決して七階の部屋のボタンを押した。
「ああ、よく来てくれたね。今開けるから、上がってください」
岡の声の後、ピピッと解錠の音がして目の前の自動ドアが開く。
そこを抜け、エレベーターを待っている時。
不意に佳紀のタワーマンションのエレベーターホールがなぜか頭に浮かんできた。
動悸が激しくなるにつれ、息苦しさも。もう佳紀はいないのにまだ囚われているなんてと俊は拳を握る。
(前に進まなきゃ)
七階までエレベーターまで進み、部屋のチャイムを鳴らすとドアが開き岡が出てきた。
「どうしたの、顔色が悪いよ」
俊の顔を見るなり岡はそう言いながら、部屋に入るように促す。
「……少し、疲れてしまって」
靴を脱ぎ、目の前のリビングにつながる廊下とその先のドアを見て俊はまた息が止まりそうな感覚に陥った。
マンションの間取りが、佳紀と暮らしていた部屋と似ていたからだ。
もしかしたら、彼はその先にいるんじゃないだろうか。
俊はその場に立ち尽くしてしまう。
廊下の先のドアを開くと真っ白なリビングが広がる。
大きめのパーソナルチェア、ローテーブルにダイニングテーブル。
何もかもが白い部屋。奥に佳紀がソファに座り、俊に微笑みかける。
『長い間、どこに行っていたの? お仕置きしなきゃね』
ガクガクと俊は震え初めて、その場にしゃがみ込んだ。
岡はその様子に驚きながらも、自分もしゃがみ込んで俊の体を両腕で包み込んだ。
「安田くん、大丈夫だよ。ここは安全だからね。ゆっくり、息を整えて」
「あ……ああ……」
俊が落ち着くまで、岡はずっと震える体を抱きしめていた。
しばらくしてようやく立ち上がりリビングに入ると、フローリングの床に観葉植物が所狭しと置いてあって、ナチュラルな雰囲気だ。
真っ白で統一された佳紀の部屋と違い、植物があるせいかどことなく落ち着けるインテリアだった。
ミルクティーを差し出されて俊はゆっくりと飲むとその暖かさに気持ちがどんどん落ち着いていく。
「取り乱して、すみませんでした」
「いや、気にすることはないよ」
ゆっくり微笑む岡。
しかしこの部屋はどう観てもカウンセリングを行うような部屋には見えなかった。
岡によると本業は別らしいのだが、カウンセリングの資格を持っているらしくたまに自宅で行っているらしい。
「先生をしているみたいな言い方でママに言ってごめんね。君をどうしても助けたくて」
申し訳なさそうな顔を俊に見せる岡。
拍子抜けしたのは事実だが、病院に行く前段階の「予行演習」と考えればいいかと俊は前向きに考えた。
それに岡とはもう話をしている仲だ。
全く初対面の先生より、岡の方がいい方向に進んでいくかもしれない。
「岡さん、ありがとう。感謝します」
その言葉に岡は少し微笑んで、テーブルに置いていた俊の手を握る。
「ゆっくり、友達みたいな感覚でいいから」
何故そこまでしてくれるのかなと俊は疑問に思ったがきっと岡は優しいのだろう、と感じた。
カウンセリングというよりは今まであったことを、ゆっくりと俊が話して岡が聞くだけ、というようなものだった。subを認められなくて、自暴自棄になりかけたこと。
そして佳紀に出会い、だんだんと日常が壊れていったこと。
特に佳紀の話をするのには時間がかかった。話したくても言葉が出ない。
そんな様子を見て岡は無理に今日じゃなくてもいいんだよ、と優しく諭した。
結局、週に一度、岡のマンションに通うことになった。
電車で二駅、数分歩けば岡の指定した建物が見えた。近づいて俊は少し悩む。
七階と名刺に書いてあるのでビルだと思っていたのだが、目の前にあるのはタワーマンションだ。
カウンセリングをマンションの一室で行うことがあるのだろうか。
俊はいささか不審を抱きながらエントランスに入り、オートロックを開けるためのインターフォンの前で立ち止まっていたが、やがて意を決して七階の部屋のボタンを押した。
「ああ、よく来てくれたね。今開けるから、上がってください」
岡の声の後、ピピッと解錠の音がして目の前の自動ドアが開く。
そこを抜け、エレベーターを待っている時。
不意に佳紀のタワーマンションのエレベーターホールがなぜか頭に浮かんできた。
動悸が激しくなるにつれ、息苦しさも。もう佳紀はいないのにまだ囚われているなんてと俊は拳を握る。
(前に進まなきゃ)
七階までエレベーターまで進み、部屋のチャイムを鳴らすとドアが開き岡が出てきた。
「どうしたの、顔色が悪いよ」
俊の顔を見るなり岡はそう言いながら、部屋に入るように促す。
「……少し、疲れてしまって」
靴を脱ぎ、目の前のリビングにつながる廊下とその先のドアを見て俊はまた息が止まりそうな感覚に陥った。
マンションの間取りが、佳紀と暮らしていた部屋と似ていたからだ。
もしかしたら、彼はその先にいるんじゃないだろうか。
俊はその場に立ち尽くしてしまう。
廊下の先のドアを開くと真っ白なリビングが広がる。
大きめのパーソナルチェア、ローテーブルにダイニングテーブル。
何もかもが白い部屋。奥に佳紀がソファに座り、俊に微笑みかける。
『長い間、どこに行っていたの? お仕置きしなきゃね』
ガクガクと俊は震え初めて、その場にしゃがみ込んだ。
岡はその様子に驚きながらも、自分もしゃがみ込んで俊の体を両腕で包み込んだ。
「安田くん、大丈夫だよ。ここは安全だからね。ゆっくり、息を整えて」
「あ……ああ……」
俊が落ち着くまで、岡はずっと震える体を抱きしめていた。
しばらくしてようやく立ち上がりリビングに入ると、フローリングの床に観葉植物が所狭しと置いてあって、ナチュラルな雰囲気だ。
真っ白で統一された佳紀の部屋と違い、植物があるせいかどことなく落ち着けるインテリアだった。
ミルクティーを差し出されて俊はゆっくりと飲むとその暖かさに気持ちがどんどん落ち着いていく。
「取り乱して、すみませんでした」
「いや、気にすることはないよ」
ゆっくり微笑む岡。
しかしこの部屋はどう観てもカウンセリングを行うような部屋には見えなかった。
岡によると本業は別らしいのだが、カウンセリングの資格を持っているらしくたまに自宅で行っているらしい。
「先生をしているみたいな言い方でママに言ってごめんね。君をどうしても助けたくて」
申し訳なさそうな顔を俊に見せる岡。
拍子抜けしたのは事実だが、病院に行く前段階の「予行演習」と考えればいいかと俊は前向きに考えた。
それに岡とはもう話をしている仲だ。
全く初対面の先生より、岡の方がいい方向に進んでいくかもしれない。
「岡さん、ありがとう。感謝します」
その言葉に岡は少し微笑んで、テーブルに置いていた俊の手を握る。
「ゆっくり、友達みたいな感覚でいいから」
何故そこまでしてくれるのかなと俊は疑問に思ったがきっと岡は優しいのだろう、と感じた。
カウンセリングというよりは今まであったことを、ゆっくりと俊が話して岡が聞くだけ、というようなものだった。subを認められなくて、自暴自棄になりかけたこと。
そして佳紀に出会い、だんだんと日常が壊れていったこと。
特に佳紀の話をするのには時間がかかった。話したくても言葉が出ない。
そんな様子を見て岡は無理に今日じゃなくてもいいんだよ、と優しく諭した。
結局、週に一度、岡のマンションに通うことになった。
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