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第八話 本音と喧嘩
4.見世物
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「あなたが少しでもお義兄さんを好いて、そして本当に久子さんを思っているなら、どうしてお義兄さんをよそ者だなんてふうなことを言うの? あなたは本当はお義兄さんを嫌ってるんだよ。お姉さんを盗られて悔しかったんだよ。お義兄さんがいなくなってほんとは喜んで……ッ」
さやかの頬に、平手が飛んでいた。
「あ……」
驚いたのは、ぶたれたさやかではなく手を上げた昌宏の方だった。殴るつもりなんて、なかったのに。
「ごめ……」
謝ろうとした昌宏の頬にさやかのこぶしが飛んできた。
「いって」
「何血迷ってんのさ、馬鹿っ」
さやかは腰に手を当て、仁王立ちになって昌宏を見据えた。
「なんで謝るの? 怒って当たり前でしょう。謝る必要ないよね」
昌宏は訳がわからず殴られた頬を押えてさやかを見つめた。
「はっきりなさいよ。あなたはお義兄さんが好きなの? 嫌いなの?」
「義兄さんのことは、尊敬してる」
呑まれたように目を瞠ってさやかを見つめたまま、昌宏はとつとつと語り始めた。
「頭が良くてなんでも知ってて、研究熱心で。みんなが義兄さんのこと褒めてくれた。いいお婿さんをもらえて良かったねって。義兄さんがいなくなって初めてわかったんだ。みんな心の中では義兄さんのことよそ者だって思ってたんだ。でも、それは義兄さんが悪いんだ。いなくなったりするから。姉さんたちを置いて、いなくなったりするから」
「だからシスコンだって言うんだよ」
ムカッとして昌宏は言い返した。
「シスコンシスコンうるせえな。おまえだってブラコンじゃんかっ」
「なんですってえええ?」
「いい歳して兄貴にくっついて回って、そうじゃないって言うのかよ」
「失礼な! 言うに事欠いてブラコンとは何さ」
「そっちの言い草は失礼じゃないとでも言うのか? はっきり言っておれは傷ついたぞ!」
「なにさ、男のくせに繊細ぶらないでよ」
「な……っ」
稲刈りのすんだ後の田んぼは実に見晴らしが良い。その見晴らしの良い畦道の真ん中で大声でやり合っているふたりは、はっきりいって良い見世物であった。
「おやおや、なんだかカワイイことになってるよ」
さやかの頬に、平手が飛んでいた。
「あ……」
驚いたのは、ぶたれたさやかではなく手を上げた昌宏の方だった。殴るつもりなんて、なかったのに。
「ごめ……」
謝ろうとした昌宏の頬にさやかのこぶしが飛んできた。
「いって」
「何血迷ってんのさ、馬鹿っ」
さやかは腰に手を当て、仁王立ちになって昌宏を見据えた。
「なんで謝るの? 怒って当たり前でしょう。謝る必要ないよね」
昌宏は訳がわからず殴られた頬を押えてさやかを見つめた。
「はっきりなさいよ。あなたはお義兄さんが好きなの? 嫌いなの?」
「義兄さんのことは、尊敬してる」
呑まれたように目を瞠ってさやかを見つめたまま、昌宏はとつとつと語り始めた。
「頭が良くてなんでも知ってて、研究熱心で。みんなが義兄さんのこと褒めてくれた。いいお婿さんをもらえて良かったねって。義兄さんがいなくなって初めてわかったんだ。みんな心の中では義兄さんのことよそ者だって思ってたんだ。でも、それは義兄さんが悪いんだ。いなくなったりするから。姉さんたちを置いて、いなくなったりするから」
「だからシスコンだって言うんだよ」
ムカッとして昌宏は言い返した。
「シスコンシスコンうるせえな。おまえだってブラコンじゃんかっ」
「なんですってえええ?」
「いい歳して兄貴にくっついて回って、そうじゃないって言うのかよ」
「失礼な! 言うに事欠いてブラコンとは何さ」
「そっちの言い草は失礼じゃないとでも言うのか? はっきり言っておれは傷ついたぞ!」
「なにさ、男のくせに繊細ぶらないでよ」
「な……っ」
稲刈りのすんだ後の田んぼは実に見晴らしが良い。その見晴らしの良い畦道の真ん中で大声でやり合っているふたりは、はっきりいって良い見世物であった。
「おやおや、なんだかカワイイことになってるよ」
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