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第五十六話 変身
56-2.ただの気晴らし
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後から坂野今日子と宮前仁が店に来て、合流した女性陣は買物に出かけていった。残された正人は宮前にさっきのやり取りを話す。
「そうは言っても、やると言ったらあいつはやるからなあ」
「ですよね」
「就職のこと、なんか聞いてるか?」
宮前に尋ねられて正人は驚く。込み入ったことならむしろ宮前の方が詳しいはずで、正人に答えられることは何もない。
「院まで行く気はないんだろ? 家で花嫁修業でもやってりゃあいいけどさ」
「……」
彼女なら、本当はなんだってできるのに。
「OLだって、やってみたいって言うかな」
「ばーか」
独り言のつもりだったのに返事が降ってくる。村上達彦が冷淡な顔で正人を見ながら隣に座った。
「あんなのがそこらの企業に入社してみろ。秘書配属は間違いないだろ。それであっという間に社長愛人だ」
「駄目っすね」
呆れた様子で達彦は正人の表情を眺めまわす。
「おまえがあれこれ気を揉んだって仕方ないだろ。父親でも兄貴でも一ノ瀬でも、養う人間はいくらでもいる」
「今だってあいつは高給取りだぞ」
達彦にコーヒーを差し出しながら琢磨も言う。
「そういう問題じゃなくて……」
正人には上手く言えない。上手く言えないけれど。
「先輩は何がしたいんだろう?」
黙る達彦の反対側で宮前が首を傾げる。
「そんなの。やりたきゃなんだってやるさ、あいつは」
「そうっすけど」
できるのはただの気晴らし。彼女にとってはそれだけのこと。お月様は手の中に落ちてこないしポケットに入れられない。本当は、彼女にはできるのに。
「大人になったんだろ、おまえらは。大人なら我慢の一つや二つするもんだ」
至極もっともなことを達彦が言うものだから、正人も宮前も苦笑いするしかなかった。
新年度初回のゼミは貴島教授の居室に集まることになっていた。時間通りに集まった学生三人は教授からありがたい仰せを受ける。
「君たちならもう、卒論は何を取り上げるか決めてあったりするだろ? この用紙にテーマと仮のタイトルを書いて学生課に提出してきなよ」
「はい……」
「六月に中間発表会があるからレジュメを用意して。下書きができたら僕に一度見せに来てくれればいい」
「はい」
「それじゃあ、帰っていいよ」
「そうは言っても、やると言ったらあいつはやるからなあ」
「ですよね」
「就職のこと、なんか聞いてるか?」
宮前に尋ねられて正人は驚く。込み入ったことならむしろ宮前の方が詳しいはずで、正人に答えられることは何もない。
「院まで行く気はないんだろ? 家で花嫁修業でもやってりゃあいいけどさ」
「……」
彼女なら、本当はなんだってできるのに。
「OLだって、やってみたいって言うかな」
「ばーか」
独り言のつもりだったのに返事が降ってくる。村上達彦が冷淡な顔で正人を見ながら隣に座った。
「あんなのがそこらの企業に入社してみろ。秘書配属は間違いないだろ。それであっという間に社長愛人だ」
「駄目っすね」
呆れた様子で達彦は正人の表情を眺めまわす。
「おまえがあれこれ気を揉んだって仕方ないだろ。父親でも兄貴でも一ノ瀬でも、養う人間はいくらでもいる」
「今だってあいつは高給取りだぞ」
達彦にコーヒーを差し出しながら琢磨も言う。
「そういう問題じゃなくて……」
正人には上手く言えない。上手く言えないけれど。
「先輩は何がしたいんだろう?」
黙る達彦の反対側で宮前が首を傾げる。
「そんなの。やりたきゃなんだってやるさ、あいつは」
「そうっすけど」
できるのはただの気晴らし。彼女にとってはそれだけのこと。お月様は手の中に落ちてこないしポケットに入れられない。本当は、彼女にはできるのに。
「大人になったんだろ、おまえらは。大人なら我慢の一つや二つするもんだ」
至極もっともなことを達彦が言うものだから、正人も宮前も苦笑いするしかなかった。
新年度初回のゼミは貴島教授の居室に集まることになっていた。時間通りに集まった学生三人は教授からありがたい仰せを受ける。
「君たちならもう、卒論は何を取り上げるか決めてあったりするだろ? この用紙にテーマと仮のタイトルを書いて学生課に提出してきなよ」
「はい……」
「六月に中間発表会があるからレジュメを用意して。下書きができたら僕に一度見せに来てくれればいい」
「はい」
「それじゃあ、帰っていいよ」
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