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第五十二話 悪い病気
52-1.現実的に考えて
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年が明けて三が日の三日、池崎正人は慌ただしくロータスの扉を開けた。
飛び込んでみればカウンターに宮前仁と一ノ瀬誠と村上達彦が座っている。頬が引きつるのを感じて正人は一瞬怯んでしまう。なんだこの並びは。
「なんだ、正月早々。実家にいたんだろ」
店主の志岐琢磨に促されて正人は「おめでとうございます」とあいさつした。
実家からの帰りで荷物があったからテーブル席の方に行く。正直カウンターには座りにくい。
「びっくりすること聞いて……先輩は?」
「女どもは福袋買いに行ったぞ。夕方まで戻らんだろ」
答えてくれた宮前が正人に訊き返してくる。
「なんだよ? びっくりすることって」
「森村が、結婚するって」
正人としては爆弾のつもりで言ったのに、カウンターの大人たちは驚いてくれなかった。
「だってな」
雑誌のページをめくりながら宮前がさらりと言って、横から誠が付け加えた。
「年末に本人から報告の電話があったみたいだ。もう散々騒いだ後だよ」
森村拓己は正人への報告は後回しにしたらしい。本当に冷たい友人だ。
「ゴールデンウィークに田舎の神社で式を挙げるってよ」
「あの神社ですか」
翡翠荘の裏側の。拓己が中川美登利と知り合った公園のある神社だ。
「神前式ってヤツだな。おまえ呼ばれるんじゃないの?」
「そう言われました」
そこでようやく落ち着いて、正人はテーブル席に腰を下ろす。
「学生結婚なんか珍しいことでもないだろ」
煙草の煙を吐き出しながら達彦がけだるげに言う。
「おまえらも結婚でもなんでも早くしちまえ」
腕を小突かれた誠が軽くむせた。珍しい、動揺している。正人は思わずせき込む誠の背中をじっと見つめる。
「投げやりに適当なこと言わないでください」
「適当じゃないさ、建設的な意見だろ。まさか巽が怖いのか?」
新年早々、ギスギスした空気が充満するのに正人は今来たことを悔やむ。いや、自分だって負けてるようじゃダメなのだが。
「現実的に考えて、おじさんが許してくれないですよ」
論点をずらした誠の返事に、宮前も首をすくめつつ同意する。
「確かに」
達彦は紫煙を吐き出すだけで特に反応しない。
正人はおそるおそる声をあげた。
「先輩のお父さんて、厳しい人ですか?」
「うーん……」
雑誌から顔を上げて、宮前が正人に目を向ける。
「ピンポイントで厳しいんだよな」
誠を足で突っつきながら補足を求める。誠は不機嫌そうにしながら少しだけ正人を振り返った。
飛び込んでみればカウンターに宮前仁と一ノ瀬誠と村上達彦が座っている。頬が引きつるのを感じて正人は一瞬怯んでしまう。なんだこの並びは。
「なんだ、正月早々。実家にいたんだろ」
店主の志岐琢磨に促されて正人は「おめでとうございます」とあいさつした。
実家からの帰りで荷物があったからテーブル席の方に行く。正直カウンターには座りにくい。
「びっくりすること聞いて……先輩は?」
「女どもは福袋買いに行ったぞ。夕方まで戻らんだろ」
答えてくれた宮前が正人に訊き返してくる。
「なんだよ? びっくりすることって」
「森村が、結婚するって」
正人としては爆弾のつもりで言ったのに、カウンターの大人たちは驚いてくれなかった。
「だってな」
雑誌のページをめくりながら宮前がさらりと言って、横から誠が付け加えた。
「年末に本人から報告の電話があったみたいだ。もう散々騒いだ後だよ」
森村拓己は正人への報告は後回しにしたらしい。本当に冷たい友人だ。
「ゴールデンウィークに田舎の神社で式を挙げるってよ」
「あの神社ですか」
翡翠荘の裏側の。拓己が中川美登利と知り合った公園のある神社だ。
「神前式ってヤツだな。おまえ呼ばれるんじゃないの?」
「そう言われました」
そこでようやく落ち着いて、正人はテーブル席に腰を下ろす。
「学生結婚なんか珍しいことでもないだろ」
煙草の煙を吐き出しながら達彦がけだるげに言う。
「おまえらも結婚でもなんでも早くしちまえ」
腕を小突かれた誠が軽くむせた。珍しい、動揺している。正人は思わずせき込む誠の背中をじっと見つめる。
「投げやりに適当なこと言わないでください」
「適当じゃないさ、建設的な意見だろ。まさか巽が怖いのか?」
新年早々、ギスギスした空気が充満するのに正人は今来たことを悔やむ。いや、自分だって負けてるようじゃダメなのだが。
「現実的に考えて、おじさんが許してくれないですよ」
論点をずらした誠の返事に、宮前も首をすくめつつ同意する。
「確かに」
達彦は紫煙を吐き出すだけで特に反応しない。
正人はおそるおそる声をあげた。
「先輩のお父さんて、厳しい人ですか?」
「うーん……」
雑誌から顔を上げて、宮前が正人に目を向ける。
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誠を足で突っつきながら補足を求める。誠は不機嫌そうにしながら少しだけ正人を振り返った。
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