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第五十話 手袋
50-1.やると言ったらやる
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巨大カボチャと入れ替わりに駅前商店街の真ん中にはクリスマスツリーが現れていた。それを見上げて池崎正人はやはり去年の出来事を思い出してしまう。我ながら女々しいと思ってもつい不安になってしまう。早く彼女の顔が見たい。
賑わっている駅前商店街の奥、昔ながらのアーケード街の更にはずれにその店はある。看板らしい看板はなく扉の脇に取ってつけたようなプレートが張り付いているだけ。商売っ気のないその店に、正人の会いたい人がいるはずで。
「勘弁しろよ」
「何さ、もったいぶって。減るもんじゃないでしょう」
正人が着くより前に店の扉が開いて、美男美女が揉めている。
「お、池崎!」
宮前仁がほっとした顔になった。
「助かった! おい、池崎が来たから俺はいいだろ」
言われて中川美登利が正人を振り返る。
「どうしたんすか?」
尋ねると、美登利はにっこり微笑んで宮前から手を放し、今度は正人の手をしっかり握る。
「運動に付き合って」
「いいけど……」
「ったく、物好きだよな」
寒風に首をすくめて宮前は店内に戻る。
「河原に行こう」
美登利に手を引かれて正人は河川敷に向かって歩き始めた。
船岡和美の紹介で和美の後輩たちが制作する自主映画のスタントマンを頼まれたことを聞いたとき、正人は美登利は断るだろうと思った。ごく限られた範囲の人間の目にしか入らないとはいえ、不特定多数に素顔を晒すことを彼女がするはずはない。
しかし美登利は興を引かれたようで、そうなるとまわりは彼女の意に従うしかない。
坂野今日子がしつこいほど代表者に確認し、彼女の顔が画像に残らないようにすることを条件にゴーサインを出したことを知って、正人は顎がはずれるかと思った。
「ほんとにやるの?」
「もうオーケーしちゃったもの」
彼女はやると言ったらやる。知っているから正人は強く反対できない。駄目な恋人だ。
「台本を貰ったけどアクションシーンってさ、細かい指示がないの。ここでふたりがやり合う、とかって書いてあるだけ。びっくりしちゃった」
「へえ」
「だからちょっと組み合ってみたくて」
天気が良くて日差しは暖かいけど風は冷たい。隣を歩く美登利が簡単に上着を羽織っただけの格好なのに正人は心配になる。
「寒くない?」
「池崎くんこそ」
マフラーなどは鬱陶しいから正人は使わない。
賑わっている駅前商店街の奥、昔ながらのアーケード街の更にはずれにその店はある。看板らしい看板はなく扉の脇に取ってつけたようなプレートが張り付いているだけ。商売っ気のないその店に、正人の会いたい人がいるはずで。
「勘弁しろよ」
「何さ、もったいぶって。減るもんじゃないでしょう」
正人が着くより前に店の扉が開いて、美男美女が揉めている。
「お、池崎!」
宮前仁がほっとした顔になった。
「助かった! おい、池崎が来たから俺はいいだろ」
言われて中川美登利が正人を振り返る。
「どうしたんすか?」
尋ねると、美登利はにっこり微笑んで宮前から手を放し、今度は正人の手をしっかり握る。
「運動に付き合って」
「いいけど……」
「ったく、物好きだよな」
寒風に首をすくめて宮前は店内に戻る。
「河原に行こう」
美登利に手を引かれて正人は河川敷に向かって歩き始めた。
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しかし美登利は興を引かれたようで、そうなるとまわりは彼女の意に従うしかない。
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「ほんとにやるの?」
「もうオーケーしちゃったもの」
彼女はやると言ったらやる。知っているから正人は強く反対できない。駄目な恋人だ。
「台本を貰ったけどアクションシーンってさ、細かい指示がないの。ここでふたりがやり合う、とかって書いてあるだけ。びっくりしちゃった」
「へえ」
「だからちょっと組み合ってみたくて」
天気が良くて日差しは暖かいけど風は冷たい。隣を歩く美登利が簡単に上着を羽織っただけの格好なのに正人は心配になる。
「寒くない?」
「池崎くんこそ」
マフラーなどは鬱陶しいから正人は使わない。
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