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第四十七話 忠告と後悔
47-3.「この頃は良かったなあ」
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「亜紀子さんはお出かけ?」
「うん」
「お茶でも飲んでく?」
「うん。お邪魔でなければ」
「ちょうどおやつの時間だし。待ってて。何か持ってくるから」
優しい従兄に礼を言って、中川巽は縁側から淳史の部屋へと入る。八畳間にはもうこたつが出されていた。
座ってぼんやりしながら巽は先程の亜紀子からの電話の内容を反芻する。
村上達彦と偶然会って食事をしたと言っていた。揺さぶりをかけるふうだったが大したことは話していない。会ったのが本当に偶然かどうかはわからない。亜紀子は低い声音でそう報告してきた。
自分では動揺していないと主張していたがさざ波を立てられたことは間違いない。バタフライ効果。彼の足掻きがいつも波紋を広げる。先日釘をさしたときの様子では、既にあきらめきっているように見えたというのに。
誰が彼をけしかけたのか。そんなのは彼女しかいない。
巽はしょんぼりとうなだれて背中を丸める。
「お兄ちゃんは、敵なんかじゃないのにな……」
悲しい。寂しい。妹に敵対視されたことがこんなにも。
(そんなに好きなの?)
虫けらを踏みつぶしてやりたい気分。それが怒りだと巽にはわからない。
「お待たせ。お饅頭があったよ」
ポットと菓子折りを持ってきた淳史に気を取り直すように微笑んで巽はお茶を淹れる。
「巽くんたち籍はいつ入れるの?」
「まあ、おいおいかな」
「今はいろいろだからねー。僕はいいと思うけどまた山科のお祖父さんがうるさく言ってこないかな」
「そうだね」
ゆっくりと熱いお茶を飲む。
「言われたらそのとき考えるよ」
小振りの温泉饅頭に手を延ばしながら、巽は視線を上げる。本棚からクリアファイルが飛び出ている。眺めていたら淳史が気がついた。
「ああ、これこれ。覚えてる?」
写真館のオープンのチラシ。幼いころの巽と妹が並んで立っている。
「覚えてるよ。可愛いなあ」
「ねえ」
あどけない天使の笑顔。本当に可愛い。写真の中のふたりはしっかりと手を握っている。
「この頃は良かったなあ」
「うん」
「お茶でも飲んでく?」
「うん。お邪魔でなければ」
「ちょうどおやつの時間だし。待ってて。何か持ってくるから」
優しい従兄に礼を言って、中川巽は縁側から淳史の部屋へと入る。八畳間にはもうこたつが出されていた。
座ってぼんやりしながら巽は先程の亜紀子からの電話の内容を反芻する。
村上達彦と偶然会って食事をしたと言っていた。揺さぶりをかけるふうだったが大したことは話していない。会ったのが本当に偶然かどうかはわからない。亜紀子は低い声音でそう報告してきた。
自分では動揺していないと主張していたがさざ波を立てられたことは間違いない。バタフライ効果。彼の足掻きがいつも波紋を広げる。先日釘をさしたときの様子では、既にあきらめきっているように見えたというのに。
誰が彼をけしかけたのか。そんなのは彼女しかいない。
巽はしょんぼりとうなだれて背中を丸める。
「お兄ちゃんは、敵なんかじゃないのにな……」
悲しい。寂しい。妹に敵対視されたことがこんなにも。
(そんなに好きなの?)
虫けらを踏みつぶしてやりたい気分。それが怒りだと巽にはわからない。
「お待たせ。お饅頭があったよ」
ポットと菓子折りを持ってきた淳史に気を取り直すように微笑んで巽はお茶を淹れる。
「巽くんたち籍はいつ入れるの?」
「まあ、おいおいかな」
「今はいろいろだからねー。僕はいいと思うけどまた山科のお祖父さんがうるさく言ってこないかな」
「そうだね」
ゆっくりと熱いお茶を飲む。
「言われたらそのとき考えるよ」
小振りの温泉饅頭に手を延ばしながら、巽は視線を上げる。本棚からクリアファイルが飛び出ている。眺めていたら淳史が気がついた。
「ああ、これこれ。覚えてる?」
写真館のオープンのチラシ。幼いころの巽と妹が並んで立っている。
「覚えてるよ。可愛いなあ」
「ねえ」
あどけない天使の笑顔。本当に可愛い。写真の中のふたりはしっかりと手を握っている。
「この頃は良かったなあ」
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