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第三十三話 蓮の花
33-1.最終兵器
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池崎正人との勝負を経て中川美登利の不機嫌は益々酷くなるのでは、宮前仁はそう予想していたがそうでもなかった。ただ、暗くなった。
さすがに客の前ではにこにこ営業スマイルしているが、仲間内だけになるとろうそくの火を吹き消すように笑顔を止めてふさぎ込んだ表情になる。
ぷりぷり怒ってくれてる方がまだ良かった。愁いた横顔を眺めて宮前も落ち込みそうになる。
「一緒に暗くなってどうするんですか」
坂野今日子にお尻を叩かれてあれこれ遊びの計画を挙げてみても、美登利は興の乗らない様子でぼんやりしている。
「放っておけ。そのうち自分で復活する」
最初から匙を投げている志岐琢磨が言う。それもそうだろうが宮前は居たたまれない。その点、一ノ瀬誠や大人たちは冷たいなと思う。
「どうしていいかわからないからクールぶってるだけかもしれないですよ」
ひんやり吐き捨てる今日子に思わず首をすくめる。
そうこうしていたら最終兵器が帰国した。
「さーわーむーらー」
駅で出迎えた宮前は久々に会う幼馴染に頬ずりせんばかりに抱き着く。
「あれ? 何、この熱烈歓迎」
澤村祐也は、柔和な面持ちの中に戸惑いの色を浮かべて坂野今日子を見る。今日子は澤村の隣にいる船岡和美の顔色を窺う。
「いいよ。状況が状況だもん。行こ」
和美は恋人の腕を自ら引いて歩き出す。
「澤村くんだって早く会いたいよね」
「みどちゃんがどうかしたの?」
顔色を変える澤村を見上げて今日子は頷く。
「会って察してもらった方が早いと思う」
カウンターの中で、美登利は真剣な表情でショートケーキの仕上げのクリームを絞っている。窓際のテーブル席で通りの方を窺っていた誠が顔を上げる。
「来たみたいだ」
頷いて美登利は手を止めて外に出る。
店から出てきた彼女を見て澤村祐也は相好を崩す。
「みどちゃん」
「久しぶりだね。元気だった?」
「うん。はい、チョコレート。まだたくさんあるよ。こっちにいるうちにお家に持ってくからね」
「どうもありがとう……」
微笑んだ美登利の頬が引きつる。見咎めて澤村は眉をひそめる。そこで美登利はもう無理、というふうにチョコレートの箱で顔を隠した。
「みどちゃん」
「ごめん……。ケーキがあるからみんなで食べてて。ちょっと、買物に、すぐ戻るから」
見え見えの猿芝居で走って行ってしまう姿に誰も何も言えない。
さすがに客の前ではにこにこ営業スマイルしているが、仲間内だけになるとろうそくの火を吹き消すように笑顔を止めてふさぎ込んだ表情になる。
ぷりぷり怒ってくれてる方がまだ良かった。愁いた横顔を眺めて宮前も落ち込みそうになる。
「一緒に暗くなってどうするんですか」
坂野今日子にお尻を叩かれてあれこれ遊びの計画を挙げてみても、美登利は興の乗らない様子でぼんやりしている。
「放っておけ。そのうち自分で復活する」
最初から匙を投げている志岐琢磨が言う。それもそうだろうが宮前は居たたまれない。その点、一ノ瀬誠や大人たちは冷たいなと思う。
「どうしていいかわからないからクールぶってるだけかもしれないですよ」
ひんやり吐き捨てる今日子に思わず首をすくめる。
そうこうしていたら最終兵器が帰国した。
「さーわーむーらー」
駅で出迎えた宮前は久々に会う幼馴染に頬ずりせんばかりに抱き着く。
「あれ? 何、この熱烈歓迎」
澤村祐也は、柔和な面持ちの中に戸惑いの色を浮かべて坂野今日子を見る。今日子は澤村の隣にいる船岡和美の顔色を窺う。
「いいよ。状況が状況だもん。行こ」
和美は恋人の腕を自ら引いて歩き出す。
「澤村くんだって早く会いたいよね」
「みどちゃんがどうかしたの?」
顔色を変える澤村を見上げて今日子は頷く。
「会って察してもらった方が早いと思う」
カウンターの中で、美登利は真剣な表情でショートケーキの仕上げのクリームを絞っている。窓際のテーブル席で通りの方を窺っていた誠が顔を上げる。
「来たみたいだ」
頷いて美登利は手を止めて外に出る。
店から出てきた彼女を見て澤村祐也は相好を崩す。
「みどちゃん」
「久しぶりだね。元気だった?」
「うん。はい、チョコレート。まだたくさんあるよ。こっちにいるうちにお家に持ってくからね」
「どうもありがとう……」
微笑んだ美登利の頬が引きつる。見咎めて澤村は眉をひそめる。そこで美登利はもう無理、というふうにチョコレートの箱で顔を隠した。
「みどちゃん」
「ごめん……。ケーキがあるからみんなで食べてて。ちょっと、買物に、すぐ戻るから」
見え見えの猿芝居で走って行ってしまう姿に誰も何も言えない。
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