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第二十三話 接触
23-6.「本気じゃないならいちいち言うな」
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ふっと、巽の口から息が漏れて瞳が和らいだ。
「なんてね」
手を離してくすりと微笑む。
「亜紀子さんは知ってるし、もう絶対に秘密ってわけでもないよね。君は黙っててくれるだろう?」
口封じは変わらないと言うことか。もちろん誰にも話すつもりはない。正人は汗を流しながら大きく頷く。
「ありがとう」
微笑み方が美登利と同じだ。そういう巽は妹の気持ちを知っているのだろうか。
気にはなったが正人にはとてもこの人の相手はできない。
「僕も君がいたことは黙っててあげるよ。都合が悪いのだろう?」
今度は正人は小さく頷く。表情がまた暗くなる。
そんな正人に巽がまた不思議な眼差しを向ける。
「いいことを教えてあげる。多分、君は今がいちばん苦しいときだ。これを乗り越えれば少しは楽になるよ。居直るか、壊れるか。どちらにしろね」
「……どっちがマシですか?」
「駄目だよ。楽しようなんて思ったら」
どこを見るともなく空を仰いで巽は囁く。
「覚悟があって、あの子を好きになったんだろう」
「……」
やっぱりこの人も男なんだ。正人は思った。彼女に苦痛を捧げる男のひとりなのだ。
ぴとっと冷たいものが頬に当たって跳び起きた。胸がどきどきして口の中が干からびたように渇いていた。
「馬鹿、死ぬぞ」
冷えたペットボトルを持って誠が横に座っている。汗をかいて体が重かった。水を飲んでやっと声が出た。
「ありがとう」
汗で張り付いた額の髪をかき上げて尋ねる。
「紗綾ちゃんは?」
「榊さんがずっと張り付いてたから辟易して部屋に逃げた。おまえがいないって泣きそうだったぞ」
「それはそれは」
明日もひらひらの服を着せられるかもしれない。
こめかみを汗が流れて誠が持っていたタオルで拭いてくれた。
「部屋に戻って湿布を替えよう」
「抱っこして」
怒られるのは承知の上で言ってみる。兄にするように両手を伸ばしてみる。
「馬鹿」
やっぱり。手を下ろそうとしたら、脇に腕が回って持ち上げられた。
抱き上げられてぎょっとする。
「え、冗談だったんだけど」
「本気じゃないならいちいち言うな」
まったくもってその通り。
「ごめんね」
首に腕を回してつぶやく。
「ところで」
誠が少し不安そうな顔になる。
「この裾、引っかけて破きそうだ」
「だよね」
くすりと笑って、でも絶対に下りないからと、がっしりしがみついた。
「なんてね」
手を離してくすりと微笑む。
「亜紀子さんは知ってるし、もう絶対に秘密ってわけでもないよね。君は黙っててくれるだろう?」
口封じは変わらないと言うことか。もちろん誰にも話すつもりはない。正人は汗を流しながら大きく頷く。
「ありがとう」
微笑み方が美登利と同じだ。そういう巽は妹の気持ちを知っているのだろうか。
気にはなったが正人にはとてもこの人の相手はできない。
「僕も君がいたことは黙っててあげるよ。都合が悪いのだろう?」
今度は正人は小さく頷く。表情がまた暗くなる。
そんな正人に巽がまた不思議な眼差しを向ける。
「いいことを教えてあげる。多分、君は今がいちばん苦しいときだ。これを乗り越えれば少しは楽になるよ。居直るか、壊れるか。どちらにしろね」
「……どっちがマシですか?」
「駄目だよ。楽しようなんて思ったら」
どこを見るともなく空を仰いで巽は囁く。
「覚悟があって、あの子を好きになったんだろう」
「……」
やっぱりこの人も男なんだ。正人は思った。彼女に苦痛を捧げる男のひとりなのだ。
ぴとっと冷たいものが頬に当たって跳び起きた。胸がどきどきして口の中が干からびたように渇いていた。
「馬鹿、死ぬぞ」
冷えたペットボトルを持って誠が横に座っている。汗をかいて体が重かった。水を飲んでやっと声が出た。
「ありがとう」
汗で張り付いた額の髪をかき上げて尋ねる。
「紗綾ちゃんは?」
「榊さんがずっと張り付いてたから辟易して部屋に逃げた。おまえがいないって泣きそうだったぞ」
「それはそれは」
明日もひらひらの服を着せられるかもしれない。
こめかみを汗が流れて誠が持っていたタオルで拭いてくれた。
「部屋に戻って湿布を替えよう」
「抱っこして」
怒られるのは承知の上で言ってみる。兄にするように両手を伸ばしてみる。
「馬鹿」
やっぱり。手を下ろそうとしたら、脇に腕が回って持ち上げられた。
抱き上げられてぎょっとする。
「え、冗談だったんだけど」
「本気じゃないならいちいち言うな」
まったくもってその通り。
「ごめんね」
首に腕を回してつぶやく。
「ところで」
誠が少し不安そうな顔になる。
「この裾、引っかけて破きそうだ」
「だよね」
くすりと笑って、でも絶対に下りないからと、がっしりしがみついた。
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