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第四話 幼き約束
4-6.糸
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箱の底板が持ち上がった。本体の底と底板の間から紙切れが出てくる。
「あった……」
涙を滲ませて少女が安堵の表情を浮かべた。
「あったよ。よかった、よかったよぅ……」
「うん。よかった」
それまでの冷めた表情が嘘のように少年も笑顔になる。
「ありがとう、ありがとう」
ぶっちぎりのタイムでワンツーフィニッシュを決めて、少年と少女は仲よく手をつないで帰っていった。
約束通り賞品を貰って美登利も機嫌がいい。
「結局なんだったの?」
「優勝というより、いちばん最初に宝箱を開けることが目的だったんだろうな」
「あの紙を回収するため」
「そういうことだね」
ロータスに向かって歩きながら美登利はようやくサンバイザーをはずす。
「あの女の子、大会スタッフの娘さんなんだよね。あの箱はあの子の持ち物だったんじゃないかな。ちょうどいいからって持っていかれて焦っただろうな、自分の宝物が入ったままで」
「あの紙切れ?」
罫線が入っていたから、ノートから切り取ったのを四つ折りにしただけの紙に見えた。
「あの子たちにとっては宝物なんだよ、ふたりだけの。だから大人にも誰にも言わずになんとかしようとした。結婚しようねとか、ずっと一緒だよ、なんて言葉が書いてあったんじゃないかな」
「は? なんでわかるの」
「ふたりとも左手の薬指に糸を巻いてた」
自分の指を示しながら美登利は笑う。
「かわいいよね」
全然気づかなかった。
「こまっしゃくれたガキどもだな」
「池崎くんはしなかったの? そういうこと」
「するもんか」
先輩は? と返そうとして口を噤んだ。したに決まってる。相手は山ほどいたはずだ。
ロータスに着くと志岐琢磨がバタバタと奥から出てきた。
「ちょうど良かった。俺ぁ出かける。遅くなるから店もう閉めていいぞ」
「ええ? お昼ご飯作ってもらいたかったのに」
「あきらめろ」
琢磨を見送って美登利は肩をすくめる。
「お昼はどこか食べに行こう」
「先輩ケーキは作るのに料理はしないね」
「地獄を見たいなら作ってあげる」
「遠慮します」
閉店作業を手伝って床にモップをかけながら正人は話す。
「安西先輩にのせられて勝負したときのこと思い出した」
「あったね、そんなこと」
「あった……」
涙を滲ませて少女が安堵の表情を浮かべた。
「あったよ。よかった、よかったよぅ……」
「うん。よかった」
それまでの冷めた表情が嘘のように少年も笑顔になる。
「ありがとう、ありがとう」
ぶっちぎりのタイムでワンツーフィニッシュを決めて、少年と少女は仲よく手をつないで帰っていった。
約束通り賞品を貰って美登利も機嫌がいい。
「結局なんだったの?」
「優勝というより、いちばん最初に宝箱を開けることが目的だったんだろうな」
「あの紙を回収するため」
「そういうことだね」
ロータスに向かって歩きながら美登利はようやくサンバイザーをはずす。
「あの女の子、大会スタッフの娘さんなんだよね。あの箱はあの子の持ち物だったんじゃないかな。ちょうどいいからって持っていかれて焦っただろうな、自分の宝物が入ったままで」
「あの紙切れ?」
罫線が入っていたから、ノートから切り取ったのを四つ折りにしただけの紙に見えた。
「あの子たちにとっては宝物なんだよ、ふたりだけの。だから大人にも誰にも言わずになんとかしようとした。結婚しようねとか、ずっと一緒だよ、なんて言葉が書いてあったんじゃないかな」
「は? なんでわかるの」
「ふたりとも左手の薬指に糸を巻いてた」
自分の指を示しながら美登利は笑う。
「かわいいよね」
全然気づかなかった。
「こまっしゃくれたガキどもだな」
「池崎くんはしなかったの? そういうこと」
「するもんか」
先輩は? と返そうとして口を噤んだ。したに決まってる。相手は山ほどいたはずだ。
ロータスに着くと志岐琢磨がバタバタと奥から出てきた。
「ちょうど良かった。俺ぁ出かける。遅くなるから店もう閉めていいぞ」
「ええ? お昼ご飯作ってもらいたかったのに」
「あきらめろ」
琢磨を見送って美登利は肩をすくめる。
「お昼はどこか食べに行こう」
「先輩ケーキは作るのに料理はしないね」
「地獄を見たいなら作ってあげる」
「遠慮します」
閉店作業を手伝って床にモップをかけながら正人は話す。
「安西先輩にのせられて勝負したときのこと思い出した」
「あったね、そんなこと」
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