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1話 文化祭の憂鬱

6.お願い

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「もっと高校生らしいことしておかなきゃってないの? 文化祭が最後のチャンスなんだよ。これが終わったら受験勉強まっしぐらだよ」
「わかってるよ」
「わかってないよ。わたしは紘一くんと思い出が作りたいんだよ」
「なんで?」
 どうして香澄が突然そんなことを言い出すのか理解できず俺は真顔で問う。

「なんでって」
 さっきまでの勢いはどこへやら、香澄はしきりに瞬きしてからしどろもどろに答えた。
「その、せっかく三年で同じクラスになったんだし、えと、お、お母さんたちは仲が良いのに、わたしたちはあんまりだし、その、ど、どうせだったら……」
「母さんたちは関係ないだろ」
「そう、だけど」
 消え入るように声をしぼませ、香澄は顔を下に向ける。
「わたしは紘一くんとやりたいんだよ」

 ひそやかな囁きが風に乗って俺の耳に届く。参ったなあ。俺はぐしゃぐしゃ頭をかきまわしながら息をつく。
「わかったわかった。でも今決められねえから、一晩考えて明日返事する。それでいいか?」
「紘一くん」
 語尾を弾ませ香澄が顔を上げる。
「ほんとに?」
「まだやるとは言ってねえ。やっぱやらねえってなる可能性のが高い。そしたら山田とか鈴木とかと組めよ」
「うん。わかった! それなら明日の朝ここで待ってるね」
 満面の笑顔になった香澄にほんとにわかってるのかと不安になる。まだやるとは決めてないんだからな?



「ねーえ、こうちゃん」
 風呂上がりの千鶴は湯上がりたまご肌だ。つるつるぴかぴかで触りたくなる。ほんのり上気したほっぺたをうりゃっとつまむと「うにゃ」って変な声を出していた。

 髪にドライタオルを巻きつけたままの頭で千鶴は俺のベッドに座る。おもむろにカップのアイスを食べ始める。
「おい、俺の布団汚すなよ」
「だいじょーぶ。はい、あーん」
 つい口を開いて一口もらう。濃厚なバニラ味だ。美味い。

「それでね」
「どれだよ」
「文化祭だよ。来月でしょ。もう準備で忙しくなるころでしょ」
「まーな」
「今年も行こうかなあって」
「去年で最後だっつってたじゃんか」
「んー、でもさあ」
 スプーンをくわえたまま千鶴はくるんと瞳を丸くして俺を見た。

「こうちゃんがいるうちは、やっぱりって」
「毎年俺のところへなんか見に来ないくせに」
 やべ、つい本音が。慌てたものの取り繕う方がカッコ悪い。無言でなるべくポーカーフェイスを保つ俺をじっと見つめる千鶴の口元がふにょんと緩む。
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