上 下
51 / 51
番外編

【お遊びSS】キスしないと出られない部屋

しおりを挟む
(ご注意)
 ここから先はIFストーリー(もしかしたらの世界線)です! パトリックとラギウスが一緒に行動しているので、時系列では4章終わりくらいでしょうか。でも本編とはまるで関係ありません。
 X(旧Twitter)でちょっと話題になったキスの日にちなんで何か書きたかったので、リクエストのあった(あったんだよ!)お話を書いてみました。

 ほんのりBがLする匂いがします。明言はしてません。匂うだけです。お遊びです。なのでそういうのが苦手な方は、ここから先に進むのはどうぞ自己判断でよろしくお願いします。
 本編のキャラのイメージが崩れた!等もありえますので、ほんとそこは自己判断でよろしくお願いします。(大事なことなので二度言う)

 では……○○しないと出られない部屋へ、行ってらっしゃいませ。







***








「あ? キスしないと出られないだ?」

 とある遺跡の散策中、トラップを踏んで落ちた地下にラギウスは閉じ込められてしまった。ご丁寧に壁には松明が燃えており、その明かりのおかげで唯一の出口である扉を見つけることができたのだが……そこにかけられた魔法陣に組み込まれていたのは、何とも珍妙で不可解な呪文だった。

「何の冗談だよ」

 わしわしっと赤髪を掻き上げて、自分が落ちてきた天井を見上げる。そこは既に石壁で塞がれており、魔狼の身体能力をもってしてもよじ登ることはできそうにない。試しに黒い魔石ノクリムの剣で扉を突いてみたが、魔法陣が消えることはなかった。ということは、呪われた魔法具の類いではないということだ。
 周りを見ても、出口はこの扉ひとつだけ。つまり、脱出するには魔法陣に組み込まれた呪文の通り「キス」しないと出られないわけで。

「一人だとマジでヤバかったかもな」

 そう言って振り返った先では、青い制服を着た金髪の美男子が、これでもかというほど眉を顰めてラギウスを睨み付けていた。

「二人でならどうにかなると思っているのか?」
「なるだろ? 一人じゃキスもできねぇし」
「私と君でできるようなものでもないだろう!」
「何だよ、照れてんのか? 海軍のくせにそっち方面には疎いのか?」
「愚弄するな! だいたい海軍を何だと思っている!」

 ラギウスに向けた剣には、美男子――パトリックの怒りを表すような紅蓮の炎が纏わり付いている。彼の指に嵌められている魔法具の指輪の力だ。指輪に込められた力は精霊の魔力。精霊の力なら、ラギウスの持つ黒い魔石ノクリムの剣が効く。

 キンッと高い音を立てて二つの剣がぶつかり合った瞬間、パトリックの剣から炎のうねりが消えた。同時に素早く距離を詰めたラギウスが、そのまま体当たり同然に突進して、パトリックを強引に押し倒した。
 海軍大佐であるパトリックでさえ目で追えない瞬発力は、ラギウスにかかっている魔狼の呪いのせいだ。忌々しい呪いの力さえなければ、海賊ごときに後れを取ることもなかったのに。そう悔やんでも、もうパトリックは両腕を上から押さえつけられ、さながらか弱き女性のようにラギウスに組み伏せられてしまった。

「押し倒すんならヴィオラの方がよかったんだが」
「っ! 彼女に手を出していないだろうな!」
「お前の基準がどうか知らねぇが、まだだと思うぞ。だから正直ちょっと堪えてんだよ。お前も男ならわかるだろ?」

 ラギウスの言葉の意味を知り、パトリックの端正な顔にサッと嫌悪感が走る。その表情を見て愉悦に浸っているのか、押し倒した側のラギウスは終始上機嫌だ。マリンブルーの瞳には、ほのかな色さえ滲み始めている。
 欲に従順なのは元々なのか、あるいは魔狼の呪いのせいなのか。どちらにしろ、今パトリックにのし掛かっているのは文字通りの「獣」だ。

「何も最後まで試そうってんじゃねーんだ。キスくらい、お前も初めてじゃないんだろ?」

 艶めく微笑に彩られて、ラギウス本来の美貌に余計な拍車がかかる。松明の炎に照らされて煌めく赤髪がパトリックの額を掠めたかと思うと――ふっと、堪えきれずにラギウスが声を漏らした。

「何て顔してんだよ、リッキー。冗談だよ、冗談」

 さっきまでの色香を豪快に吹き飛ばして、ラギウスが盛大に笑った。

「本気でキスするわけねーだろ。俺は男に興味ねー……って、うわっ!」

 上体を起こしかけた体を引き戻され、バランスを崩したラギウスの体を今度はパトリックが半回転させて組み敷いた。強かに打った後頭部に閉じていた目を開くと、形勢逆転したパトリックが冷ややかな目でラギウスを見下ろしている。ちょっと……いや、かなり怒っているようだ。

「あー……何? もしかしてマジで怒ってんのかよ?」
「そうだな。君の冗談には慣れているつもりだったが、今回の件に関しては許容できない」
「相変わらずクソ真面目なんだよ、お前は。少しは遊び心を持った方が人生楽しいぞ」
「君は遊びで人に手を出すのか」
「そういうことを言ってんじゃねーよ。いいから手ぇ、離せ」

 可能な限り抵抗を試みるも、ラギウスを押さえつける力はびくともしない。さすがは海軍大佐。絵本から出てきた王子様のような風貌のわりに、細身の体はしっかりと鍛えられているらしい。
 それでもラギウスとて海賊船エルフィリーザ号の船長だ。常日頃からからかっている相手に、いつまでも組み敷かれたままでもいられない。
 今はただパトリックに重力が味方しているだけで、互いの力にそう差はないのだ。再度形勢逆転すれば……と足を上げたところで、不意に電流が走ったような衝撃がラギウスの全身を襲った。

「……っ!」

 危うく変な声が出そうになったが、そこは必死に耐え抜いた。若干の涙目で睨み付けると、ラギウスの上でパトリックが妖しく笑う。

「そういえばメルヴィオラ様から、君の弱点を聞いていた」

 ささやくように呟いて、パトリックの右手が再度ラギウスの尻尾を撫で下ろした。その度に狼の尻尾はブワッと膨らんで、ラギウスの体は痙攣するようにぷるぷると小刻みに震えている。

「くそ。やめ……ろ! そこ触られる、と……気色悪ぃんだよっ!」
「だから触っている」
「リッキー、テメェ!」
「躾のなっていない獣には罰が必要だろう? 今までの君の行いを悔いればいい」
「あーっ! あー、もう! わーったよ! 悪かった! 俺が悪かったから……いい加減、手ぇ離し……」

 ふっと、掠めるように。
 けれど声を奪うには十分過ぎるほどの感触を残して、互いの唇が触れる。
 見開いた瞳の奥、重なり合うのは二つのブルー。驚きに瞼を閉じる間もなく、二度、三度触れ合った唇は、やがてしっとりと濡れ始めて。
 吐息が絡まり合う前に離れていく唇に、ラギウスは呆然としたままパトリックを見つめることしかできなかった。

「君にはこれが一番の罰になるだろう?」

 そう言って、パトリックは嫌味なくらいに綺麗に笑った。







***




こちらのSSを文遠ぶんさんがミニ漫画にしてくださいました!!
漫画だけ見るとちょっとアレな感じ(๑´艸`๑)ですが、大丈夫です!
彼らはキスしかしていません!!(笑)

しれっと右下にイーゴンがいるのうれしい!





しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

一色姫凛
2024.02.05 一色姫凛

三話まで読みました。
南国を思わせる爽快感がありますね!
話のテンポもよくて、すらすら読めました。
呪われた狼がどうやって涙を手に入れたか気になるところですが……ここまでで一票入れときます!更新頑張ってね😊✨

紫月音湖(旧HN/月音)
2024.02.06 紫月音湖(旧HN/月音)

ぷりんちゃん!
感想まで書いてくれてどうもありがとうございます!!
冒頭は結構気にしてたからテンポよいといってもらえてホッとしてる…うれしい。
貴重な1票も本当にありがとう!!

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。