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いざゆかん

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 ソープ街に入った途端、店の前で呼び込みをしていた者が、一斉に道路の中央に出てきて、車を止めにかかろうとする。俺は仕方なくのろのろと走らざるを得なかった。何軒かの呼び込みを振り切ったが、どこの店と決めていない俺だった。助手席の窓をどんどんと叩かれたので、俺は車を止めて窓を開けた。

「兄ちゃん、店決めてんのか。うちトコ若いのがいるから入らへんか」40近い呼び込みの男が言った。

「初めてやから決まってないねん」俺が言うと、

「初めてやったら、いい店に行っといた方がいいで、金はいくらぐらいまで出せるんや」

 俺は財布に7万円位あるのを知っていたが、相場がどのくらいかも知らなかった。

「5万円ぐらいかな」と俺が言うと相手は、

「5万円も出せるんか。ここらの店やったら2、3万が平均や。ほんまに5万も出せるんか」呼び込みは俺に確認して、俺が出せると言うと、

「ちょっと待ったり、今紹介したるさかいに」と言った後、二、三軒向こうに居る男を呼んだ。しばらく2人が話したあった後、さっきの呼び込みより若い男が、窓から声をかけた。

「案内しますんで、車に乗ってもいいですか」スーツを着こなし、髪もきちんとセットしたイケメンな男だった。呼び込みの男とは雲泥の差と言ってもいい。

 俺は男を助手席に乗せると、男が指示する『真珠』というソープランドに入った。車を店の入り口で止まるよう指示した男と一緒に、車から降りた。

「車は預からして頂きます」という男に、俺はキーを渡した。

 男が開けたドアから入ると、小さなカウンターで前金3万円を払わされた。俺はここまで入って来たからには、もう引き返せないと自分にいい聞かせ、案内の男に言われるまま、カウンターを通って、奥にあるテーブルのソファーに座った。

「何か飲まれますか」案内して来た男が言う。顔は、接客業者がする微かな笑顔だ。

「何があります」俺は少し緊張していただろう声で聞いた。

「ビールに水割り、コーヒー、コーラ・・・」男が言っている途中で俺は、

「それじゃコーヒー」

「ホット?アイス?」

「ホットで」俺が答えると男は、「少しここでお待ちください」と言い、部屋から出て行った。
 
 ここが待合室かと俺は思った。思っていたより部屋は広く、俺が座った左手には、スナックやバーでよく見る細長いカウンターがあった。

 他の客が待って居なくて良かったと思った。いくら見ず知らずの者だと言っても、これからやることがわかっている者同士、顔を合わせるのは、俺には耐えられない。俺はテーブルに置いてあるタバコを一本取った。マイルドセブンだった。タバコに火をつけ吸い始めた時に、さっきの男が部屋に入って来た。
「すいませんが、用意ができました。コーヒーは部屋の方へ運びますので」

 俺は吸いかけのタバコを消して、男の方へ歩いていった。

 そばにスーツを着た、ショートヘアの女の子が立っていた。
 
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