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43:防衛戦Ⅴ

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防衛線が行われている場から500m程離れた森に二人の見慣れぬ人物がいた。二人は森の中にある木の中でも一際大きな木に登り、今現在も繰り広げられている防衛戦の様子を眺めていた。


「どうやら失敗したようだなラグリア」

「…そう改めて言われると中々くるものがありますね」


 全身を黒い服装に包んだ男の「失敗したな」と言う発言に対しラグリアと呼ばれたこれまた全身黒のまるで執事のような服装をした紳士っぽい男はさして失敗を気にするような素振りも見せずに言葉だけは残念そうに答える。


「まったく残念そうには見えないな。まあ、お前にとってはあの程度大した損失でもないのだろうがな」

「まったくの痛手がないわけではないですよ。Aランクも数匹であれ投入しましたからね。それよりもライジングバングを倒したあの子供どう思います、ヴァイン?」

「見た感じ、齢はまだいいとこ十代後半と言うとこか?あの年でAランク、しかも強化されたバングを倒すとは中々に強いんだろう」


 ラグリアの質問に対しヴァインと呼ばれた男は素直に感想を述べる。口では平静を装ってはいたがヴァインは内心あの子供ーーセリムの強さには驚いていた。


「今回の侵攻で都市アルスのギルドマスター、龍人のレイが出てこないのは分かってはいましたが、Aランクは数人程度しか参加しませんか…」


 ラグリアとしては少々舐められているとも思わないでもなかったがまぁいいかと軽く流す。が、ヴァインは違ったようでラグリアに対し手駒は大切にすべきだと注意を促してくる。


「それほど気にする必要はないですよ、Aランクモンスターだって 時間がたてば倒されると思ってましたからね。それにあの程度ならいくらでも替えはききますから」


「やはり怪物の考える事は出鱈目だな」と小声でラグリアを非難する。Aランクモンスターを失っておいて替えの効く代替品でしかないと言うのだ。普通の冒険者が聞けば驚いて腰を抜かしてしまうかもしれない。と言うのも本来モンスターを召喚できるのはテイマーや召喚士サモナーという職業だけなのだがAランクモンスターを捕まえる事自体大変な事であり、それを唯の代替品と切り捨てるラグリアは少々おかしいのだ。


「何を言ってるんですか、ヴァインだって十分に怪物じゃないですか」


 どうやら先程の小言が聞こえていたらしく落ち着いた口調で話してはいるが心外だなと言うのが表情から見て取れた。


「私とお前では度合いが違うと言う話だ。お前のように神へと反逆するスキルを持っていれば私の方が上だっただろうがな…」


 そこまで話した所でヴァインはラグリアに背を向け、「そろそろ行かないか」と提案をする。ラグリアに対し「そろそろ行くぞ」ではなく「行かないか」と言ったあたり物腰が柔らかいラグリアに主導権があるのが分かる。


「そうですね、嫌がらせももう済みましたし、何よりライジングバングを一人で倒して見せたあの子供の事も気になりますしね」


「後で情報を集めなければですね」と言い残し突如として空間に出現した亀裂の中に二人の姿は消えていった。消えていく寸前、戦場の方へと振り返ったラグリアの顔には優しさが一切消えた冷たい笑みが浮かんでいた。





 Aランクモンスターが複数体出現したことにより戦場は混乱の渦に呑み込まれつつあったが、クロの指示により自身の役割を改めて自覚した者たちが指示に従い、戦闘を続行していくのだった。そして指示を無視したにも関わらず今現在倒したモンスターの貢献度ならば一番と言っても過言ではないセリムの周囲では今だ戦闘中にも拘わらず驚愕、歓喜などの様々な感情が見られた。


「倒しちまいやがった…」
「す、すげぇ…」
「あの子一体何者なの?」


 周囲の冒険者から向けられる視線をマルっと無視し敵がいる方へと再び歩き出す。バングと戦っている最中は周囲の事など一切考えずに戦っていたので多少被害が出ているかもと思っていたのだが、見た感じ出ていなかった。加えてバングを倒したことにより周囲にいたモンスター達が他のところに流れて行ってしまい中々面倒な事になっていた。


(バングが倒されて恐怖でもしたのか?)


 独り言ちながらも歩を進めようと踏み出そうとした瞬間、慣れたはずの痛みが襲ってきた。それは今までに比べればかなり弱い部類ではあったが無意識的にセリムは心臓の上あたりを掴む。


「うっ、この感覚は…」


 その言葉とともに痛んだ辺りを確認する。そこにはより大きくなった黒い模様のようなものがあった。


(Aランクを喰ったからか…)


 原因は分からなかったが今までにも似たような事はあったのでそれほど気にする必要もないと割り切り再び歩を進めた。


 セリムがバングとの殺し合いをしている最中他の場でもAランクモンスターとの殺し合いは繰り広げられていた。

 ガンッと言う音と共にモンスターの攻撃を盾でガードしたにも関わらず吹き飛ぶ男。


「がはっ」


 地面にぶつかった衝撃により肺の酸素が無理やりに排出されられむせかえる。


「なんだよ、これ… ははっ」


 咳が収まり顔を上げた男は乾いた声で笑ってしまった。男が見た光景は幾人もの冒険者が挑んでは吹き飛ばされ、まったくと言っていい程ダメージのない無傷のモンスターだった。

 後衛職の連中も援護射撃してくれてはいるのだが然程ダメージを与えているとは言えなかった。二つの頭で周囲をくまなく見渡し大きなダメージを覆いそうな攻撃は全て回避しているのだ頭を一つ潰そうとして完全に死角から攻撃したにも関わらず、攻撃の方を向いてもいないのに回避をするなどと言った出鱈目なことをされ、中々に苦戦を強いられていたのだ。

 次々に冒険者が吹き飛ばされあるいは血を流す中Aランクモンスターである二首の番犬、オルトロスは先程吹き飛ばし乾いた笑みを浮かべている男に向かって突っ込んでいく。周りから今のうちに攻撃をしようとする者もいたがオルトロスが吐き出す炎により、近づけずに後退せざる得なかった。


「クッソ、俺もここで終わりか…」


 男の冒険者が諦観の表情を浮かべながら死を受け入れようとした瞬間、男の目に前でガキンッと言うまるで金属同士がぶつかったような音が響いた。


「まったく、情けないにゃ 男なら少しは根性みせる‥にゃっ」


 そこに立っていたのは、全身から赤色のオーラが噴き出し眼は三白眼の縦割れ…狂獣化状態である都市アルスAランク冒険者クロック・シルバーだった。道中で拾ったであろう剣を手にオルトロスの噛みつきを防いでいた。そして剣で牙を弾きオルトロスを後退させる。


「クロにゃん…」

「その呼び方はやめてほしいにゃ」


 男が言った「クロにゃん」と言う呼び名をクロは嫌っていた。特に理由はないのだがイヤだったのだ。

 クロックは都市アルスでも特に男性人気が高い存在である。胸は手に収まる程のサイズで普通だが親しみを持ちやすく、見た目も愛くるしい。だが本当に人気の理由はその人懐っこさだ。男女とも気兼ねなくくっつきスリスリするというちょっと?変わった趣向の持ち主であり、その光景を見た中年などのおっさん冒険者は「俺にもいつか…」と夢見るのだ。その為いつかやってもらえるかもしれないと言う希望を抱きつつエロい目で見る存在、そうゆう事でクロは人気があるのだ。

 クロがくっつくのは大半が女の人か子供なので自身が人気なのをしらないクロだが、たとえ知っていたとしても支持してくれるおっさんを優先的に助けるような事はしなかっただろう。ここに居合わせたのは距離が一番近かったからに過ぎない。


「まさか、二首の番犬…オルトロスまでいるにゃんてにゃ…」


 驚きを露わにしつつも冷静にこの場を分析するクロ。


 オルトロスとは仔牛サイズの犬に似たモンスターである。高い機動力を誇り炎の魔法を得意とする。そして何より特徴となるのが視覚の共有と言うものである。仮に一方が目をつぶっていて、つぶっている方が攻撃を受けようとしてももう片方がそれを視ていれば眼を開けずに回避することもできるのである。


「さっき指示した通りBランク冒険者以外はここを離れて周りの奴らを担当するにゃ」


 Aランクが出現したときに言ったことをもう一度告げる。その間オルトロスが他に注意を向けないように魔法で注意を引き付けたりしながら下位の冒険者がいなくなるのを待つ。

 本来大半の冒険者よりも高ランクのモンスターが出現した場合周囲への被害を抑える為勝てる戦力だけで挑むのが一番最良だとされる。今回は特に後衛職も控えている為無理して下位の者たちを場にとどめておく必要はなかったのだ。故に、セリムが周囲の冒険者がいる中で戦ったのは本来ならかなりの犠牲を出してもおかしくなかった行為と言えた。

 オルトロスが吠え自身を取り囲む冒険者を威嚇する。それが開始の合図となり殺し合いが始まった。持っていた剣を左手に持ち替え右手で腰のレイピアを抜剣するそして抜剣と同時にオルトロスに向かいまるで砲弾とも取れるようなスピードで突っ込んで行くクロ。

 狂獣化・纏衣により身体能力を爆発的に跳ね上げた状態で接近し左手に持つ剣を降り下ろす。が、オルトロスはバックステップで回避をする。一つの頭で前を見て残りの頭で周囲の安全を確認することで躊躇なく後ろへと回避することが可能なのだ。


「その程度で避けられたと思わない事にゃー」


 その言を放つと同時に右手に持っているレイピアに風が纏わり始める。剣を降り下ろした体勢から右腕を引いた半身になりレイピアを突き出す。するとレイピアに付加されていた風がオルトロスに向かって飛んでいく。まるで風の槍のように形成された付加攻撃だ。


「ウォォォォォン」


 まさか風の槍とでも呼べるべきものが前方にいた敵から飛んでくるとは思っていなかったのだろう。回避できないとみるや犬のような鳴き声をあげるオルトロス。すると身体の周りに炎の渦が表われ攻撃を防いでしまう。


(さすがはAランクと言うべきかにゃ、簡単にはいかないにゃ…)


「むぅ~」とまるで拗ねた子供のような声で唸りつつ次手はどうするかと考え出すクロだった。

 一方その頃キーラの目の前にもAランクモンスターが姿を現していた。キーラの近場にはAランク冒険者がいなくまだ誰も駆け付けられていなかった。その所為でBを中心に何とか戦っていた。

 逆円錐型の巨大な四本の脚とその脚より内側より生えている八本近くの脚それらに支えられた硬く頑丈な甲殻を纏ったモンスター。例えるならエビが近いだろうか。全体は三m近くありそうな巨大な水棲型モンスター。シェルアーマードと言われるモンスターが目の前で暴れていた。



(落ち着け、落ち着け、大丈夫。大丈夫)


 シェルアーマードを前にいつもとは違い怯えたような表情で自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐキーラ…否、それは実際に言い聞かせていた。



 在りし日の記憶が蘇る――――

 それはたった一月と少し前の事だ…

 遠くもなくらかと言って近くもない時間の経過。その日、エルフの国アルフレイムは壊滅した。突如何者かが国に攻め込んできたことにより国は壊滅状態へと陥った…

 自身を逃がすために両親は戦いへと出向いて行ってしまった…そしてその命を燃やし尽くしてしまった。
   

『行かないで』なんて事も今にして思えば言えなかった。ただただ恐怖したのだろう。圧倒的な力で国を壊滅するまで追い込んだ存在に。呪ったのだろう、自身の無力さを…

  

 今までにこんな恐怖に囚われる事はなかった。防衛戦の話を聞いた時も実際にモンスターの大群を眼にしたときでさえも。

 だが、目の前にいる圧倒的ともいえるAランクモンスターの格に今の自分では何をした所で敵わないのではと考えてしまう。


(大丈夫、私はもうあの時とは違う。強くなった。だからだいじょ…)


 だが、ここで気付いてしまう。ここには絶対に助けてくれる、頼れる信頼できる者がいない事に。自身より格上と戦う時は必ず誰かが居てくれた。セリムと出会うまではアーサーが。ミノタウロス、リザードマンの時はセリムが…なんだかんだ口は悪くても気遣ってくれた。

 だから安心感にも似たものがあったのだろう。ピンチになったら助けてくれる存在が必ずと言っていい程存在していた。だからこそ、何の気兼ねもなく戦えていた。だが今はそれがいない。確に周りには他の冒険者はいるのだが信頼のおける者ではないだ。自身がピンチになったら必ず助けてくれる存在はいないかもしれない…そう思うと怖かった。だが、誓ったのだ。両親の死を知った日に誓ったのだ。"仇討ちをする"と…


 だから護ってもらえると言う安心がなければ戦えないようなそんな脆弱な考え捨てようとここてま新たに誓う。


(仇を殺るまでは私は死ねない、死なない!)


 決意の炎を瞳に灯し敵を見据える。


「おい、嬢ちゃんあぶねーぞ」
「下がってな」


 口々に危険だと注意をされるが気にも留めないキーラ。誰かに護ってもらえる環境でなきゃ戦えないなんて…と自身の臆病さを叱咤し乗り越えなきゃと言い聞かせる。

 シェルアーマードはキーラが決意を固めている間も絶え間なく周囲へと攻撃していた。両手にある巨大な鋏で、巨体での体当たりで…周囲の冒険者は防御するが巨体から繰り出される一撃には耐える事が出来ずにおもちゃのように吹き飛ばされる者がかなりいた。

 出発前に試供品としてバロックが提供してくれた魔法衣ー上下服・手袋 etcーのお陰か何とか耐えられている者や果敢に攻めている者もいたがあまりダメージはないように見える。

 しかしさすがはAランク甲殻型モンスターとでもいうべきか。動きは早くはない、寧ろ遅いのだが今回侵攻に加わっているモンスターの中でも最硬度の硬さを誇る身体には下位の者では中々傷をつける事は難しい。加えまるで動きが遅いのを補うかのように体力が桁違いに多いのだ。

 だが、それでも動きが遅い故にAランク冒険者でなくとも攻撃は通る。各々のスキル等を使用し少しずつダメージを蓄積させていく。キーラも街の為に、己が乗り越えるべき一つの壁とでも言うべきものの為に攻撃を仕掛けていく。


紫電の雷槍ライトニングピアス


 手を前に翳しその前に魔方陣が二つ形成される。そこから二条の閃光が奔りシェルアーマードへと向かっていく。バチバチと言う雷独特の音を立てながら向かっていった雷槍は一つが鋏で強引に叩き落されもう一つは見事に直撃した。

 直撃したもののそこには多少傷を付けるが大きな傷にはなっていなかった。それでも今の所で見ればキーラの攻撃が一番ダメージとしては大きいだろう。


「嬢ちゃん、魔法が使えるのか!?」


 今はそんな事どうでもいいでしょ!と思わなくもなかったが男が鬼気迫る顔で問うてきたこともあり答えることとなった。


「使えるけど、何よ」

「あいつは体の裏までは甲殻で覆われてないんだ。だから土魔法で地面を隆起させてひっくり返してくれないか?」


 シェルアーマードは全身全てが硬い甲殻で覆われているわけではない言う。男はキーラに魔法による支援を求めてきたのだ。だが残念ながらキーラは土魔法を覚えていない。その旨を伝えると話しかけてきた男は「そうか…」と一言だけつぶやいた。ここで露骨に使えない奴みないな顔をしなかったのは自身が魔法を使えなかったからか…だが、そこでキーラは思ってもみない提案をした。


「何言ってんだ、嬢ちゃん!」


 キーラの提案に男の冒険者は無茶だと苦言を呈してくるがキーラの意思は硬く「やってみせるわよ」と言い切った。


「サポートは頼むわよ」


 そう言うとキーラは本日何度目かも分からない暴風翼テンペストを発動させ戦闘に備える。


 キーラから作戦を聞かされた男の冒険者は周りの冒険者に声を掛けシェルアーマードの注意を引くようにとの指示を出す。最初は成功するのか疑う冒険者たちだったが現状倒す手段がそれしかないのも確かだったので一縷の望みをかけて従う一同。

 数人でシェルアーマードを取り囲み攻撃を繰り返していく。鋏の攻撃を二人で捌き側面からも二人がかりで脚を攻め立てていく。そうして注意をそらしながらキーラの作戦が成功するのを祈る冒険者たち。

 チャンスを逃すまいとその様子を食い入るように見るキーラ。シェルアーマードは見える所をは殆どが分厚い甲殻に覆われており、冒険者の攻撃は殆ど通らない。寧ろ注意を引くためにやっている冒険者の方がダメージを負っている始末だ。一人吹き飛ばされる度に、新たな冒険者がアーマードを押さえるために奮戦する。

 ローテーションを組み、決してキーラの邪魔はさせないように誰も彼もが力の限り戦う。しかしそれども相手はAランクモンスターだ。時間が経てば経つほどに冒険者達は傷を負い疲弊していく。それでも諦めない。負けないためには、いや勝つために皆で力を合わせ、たった一瞬の隙を作ること全力を注ぐ。そしてその瞬間は訪れた――


「嬢ちゃん、今だ!」


 鋏を剣で受け止めながら男はキーラに合図を送る。合図を受けたキーラはシェルアーマードの正面目掛けて駆けていく。その表情はすでに怯えをはらんだものではなかった。

 男たちが固唾を飲んで成功することを祈る中、あと敵まで一mほどの距離になった瞬間身をかがめスライディングをするような体勢に入る。

 勢いを殺すことなくそのまま面を滑っていく。ザザザァァーと地面をこすり傷が出来き、痛みが走るのもお構いなしにシェルアーマードの腹部へと滑り込んでいく。途中シェルアーマードが己の危機を感じとったのか暴れだすが、周りの冒険者が最後の力を振り絞り押さえ付ける。そうして作ってくれた隙を無駄にしないためにもこの一撃で決めると誓う。

 人とは一人では出来ることが少ない。だが、そこに誰かが協力してくれるなら可能性は広がる。

 怖くても恐ろしくても一人じゃないと思えればきっと人はどれだけでも強くなれる。どんなに力の差があろうと護る為に護りたいものの為に立ち上がれる。


 "こんな所で負けられないのよ!"


 心の中でそう叫ぶ。チャンスは一回、シェルアーマードの下を滑りながら、地面に足を突き立て威力を殺しながら手を胴体に押し付ける。魔法を発動のトリガーを引く。この一撃でなんとしてとも倒す。今あるありったけの魔力を込めた一撃。



 直後、シェルアーマードの腹部から間欠泉のごとき水ではなく大量の炎が四方八方へと噴水のごとく噴き出す筈だった。だが、腹を貫通するも甲殻までは貫通することは無かった。手応えを感じるも、殺つたと言えるかは微妙な所。

 そんな…足りなかったの…

 また、私の力が足りなくて。もっと強ければ…そう思ったときだった。ボンッと言うまるで爆弾が密閉空間で爆発したかのような音が響いた。皆が何が起こったと困惑する中シェルアーマードはゆっくりとその巨体を地へと伏せたのだった。


 その光景を腹の下にいた為に見れなかったキーラ。周囲から聞こえる歓声に先程までの気持ちが晴れていく。どうやら倒せたようだと。

 そして倒したことにより自身の脚で立つことが出来なくなったシェルアーマードはキーラを押しつぶす形で今にも乗っかろうとしていた。一日に何度も
 暴風翼を使い、先程の攻撃で魔力の殆どを使ってしまったキーラは動こうにも動けずにいた。

 せっかくAランクモンスターという大物を倒したにも関わらず何とも締まらない最後に口角が微妙にピクピクしてしまうキーラ。


「ちょっ、待って、まっ…」


 身体をジタバタさせ何とかシェルアーマードの下からでようとするもそれよりも早くシェルアーマードが覆い被さる方が早かった。


「ったく、何してんだか」


 そう言ってモンスターを軽々持ち上げていたのはセリムだった。変なものを見るような目を向けながら「大丈夫か?」と手を差し出してくれる。

 あんたはいつも助けてくれるのねーー

 嬉しくもあり恥ずかしくもありぶっきらぼう口調になりながら「う、うるさいわよっ」と言う差し出された手をしっかりと握りかえした。

 手から伝わってくる体温を感じながらセリムに聞こえないように小声でお礼を伝えた。

 そしてその頃、時を同じくしてクロも戦闘を終え他の場所でも協力しAランクを倒すことに成功していた。

 それから一時間も立たぬうちに今回の防衛戦は終息するのだった。

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