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第43話 「本当にあった怖い話」

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 前回のあらすじ

 という夢を見たのさ。


「しかし、昨日のアレは何だったろうな」
「ええ。今になって思えば不思議体験でしたね」
「……ん? なにかあったのかのぅ?」
「ああ……実はな」
 俺たちは朝飯のカレーを食べながら、ナイアに昨日起こった不思議体験を説明した。
 あの後、気づいたらソファで寝てたんだが……不思議なこともあるものである。
「ほぅほぅ」
「一体、あの女の子の正体は何だったんだろうか?」
 まぁ、きっと俺とノワールが夢でも見てたんだろうけど。
 運命の夜でも似たようなことはあったし、主人とサーヴァントが同じ夢を見たりすることもあるだろう。
「……ご主人。私たちはとんでもない考え違いをしていたのかもしれません」
「ん? どうしたんだ? ノワール?」
 ――だが、そこでいきなりノワールが深刻そうにぽつりと呟いた。
「ご主人だって知ってますよね? あの恐怖の大王という予言を……」
「なっ!! まさか!!??」
「そう、……実はあの少女はプラズマだったのです!!」
「なっ……!! なんだってーっ!!!!」
 突然明かされる驚愕の事実。その発想は無かったぞノワール。
「プラズマが何のことかは知らんが、そんなに気になるなら本人に聞けば良いではないか。……のぅ?」
「ええっと……少し恥ずかしい感じもしますけど、気にして頂けるのは嬉しいですね」

 ……。
 ……。
 …………!?

「「ふぁっ!?」」

 俺とノワールはハモリながら、ナイアを見た。
 いつの間にか彼女の横には、昨日も見た半透明の女の子が居た。
「ななな、ナイアっ!!」
「一体、その子は何なのですか!?」
 狼狽える俺とノワール。
 まったく気配とか感じなかったぞ。
「ん? 昨日、会ったのであろう? まぁ、確かにここまでの力をもった精霊なぞあまりおらんからのぅ。驚くのも無理はないかもしれんがの」
「メルと申します。ノゾムさん、ノワールさん」
 そう言って、頭を下げてくる彼女。
 いきなりの展開で驚いたが……横で、もっきゅもっきゅとご飯を食べてる魔王さんのお陰で昨日のような衝撃は無かった。
 魔王少女……驚きのアニマルセラピーである。
「……あの、昨日は驚かせてしまってすいませんでした」
 そして、そんな魔王の横でそう言って頭を下げてくる彼女。
 落ち着いてみると、まったく怖くはない普通の女の子に見える。
 ――半透明ではあるけれど。
「いえ、こちらこそ変に驚いてしまってすいませんでした」
「ええ。私からも謝らせてください。すいませんでした」
 おはようっていうと、おはようって言う。
 相手が頭を下げると、こちらも頭を下げる。
 こだまでしょうか? いや、日本人です。
「えっと、メル……さん? 精霊っていうことでしたけど。」
「あ、はい。……とはいっても私はここから出たことがないので良く分からないんですが、ナイアさんが言うにはそういう存在らしいです」
 精霊ねぇ。
 そういうのもいるのか。
 ……さすがは異世界。俺の想像をはるかに超えてくるな。
「あれ? ナイアはメルさんと話したことがあったんですか?」
「うむ。一昨日の夜に、ノゾムとノワールが寝た後でな。少し話し相手になって貰ったんじゃ」
「……人と話すなんて初めてだったので、ドキドキしました」
 話を聞いてみると、メルさんはこの部屋で生まれた精霊という存在らしい。
 精霊とは高密度の魔力がある空間で極々稀に生まれる種族ということだった。
「それじゃあ、この部屋の色んな噂は……」
「噂なんて流れてたんですか? 私が生まれてからは、入居者さんのお役に立とうと思って頑張ってたんですが……皆さんすぐに出ていかれたので、噂というのは聞いたことが無いですね」
 ……うん。ソウダネ。
 十中八九彼らが出て行った理由はそのポルターガイストめいた、お、も、て、な、しだと思うが。
 ……まぁ、知らぬが花と言う言葉もある。
 ここは黙っておくのが優しさだろう。
「そうなんですね。」
「ええ。なので、一昨日にナイアさんが話しかけてくれた時は嬉しかったです」
「流石ナイアですね。ナイアはメルさんに気づいてたんですか?」
「うむ。部屋に入った時から視線を感じたし、魔力の流れがおかしかったからのぅ。害は無いようじゃったから最初は無視してたんじゃ」
 そして、夜。暇になって話しかけたと。
 ……やっぱり、魔王様は度胸がすげぇや。
「あ、あの……ノゾムさんたちは、この部屋から出ていくんですか?」
 そんなことを考えていると、彼女が質問してきた。
 ……そうだな。ここを出ていくと住む場所が無くなるから困るんだが、今まで彼女が住んでいた場所なんだし、出て行けと言われれば出て行かざるを得ないだろう。
「……そうですね。やはり、メルさんのお邪魔になっては申し訳ありませんし」
「えっ!!」
「ええ。知らなかったとはいえ、昨日も不愉快な思いをさせてしまったでしょうし」
 あ、ノワールも少し落ち込んでる。
 まぁ、昨日は下手なカラオケ大会を開催してしまったしな。
 しかも、即席のオリジナルラップである。
 ……うん。軽く死にたい。
 見られていたとは知らず、恥ずかしい限りだ。
「今日、理事長にお願いして、部屋を変えてもらうようにしますので……」
「あっ、あの待ってください!! もし良かったら……このまま住んで頂けませんか?」
「えっ。良いんですか?」
 出ていくことを考えていたんだが、どうやら家主からのOKが出たようだ。
「……はいっ。一昨日から私、少し楽しいんです。」
 なるほど。
 まぁ、ずっと一人暮らししてたようなものだろうし、寂しかったのかもしれないな。
 それならお言葉に甘えようと思う。
 俺としては一緒に住む人が増える分には賑やかで嬉しい限りだし。
「やりましたね! ご主人!! 家族が増えますよっ!!」
「おい、馬鹿。止めろ」
 ノワール。
 そんなに調子に乗ってると、後で手痛いしっぺ返しがくるぞ。
「それなら、お言葉に甘えたいと思います。本当に良いんですか?」
「はいっ!! ……もし良ければ、また歌も聞かせて下さいね」
 ……おっふ。
 止めて下さい。
 深夜テンションで歌ったラップを、朝方に思い出すと精神が崩壊してしまいます。
「ふふっ。歌があんなに楽しいものだとは知りませんでした。……ヘイッヨー、ヘイッヨー!」
「……っ!?」
 あ、ノワールがバタバタしてる。
 うん。合いの手パートはお前だったもんな。ダメージはでかかろう。
 さっき言った通り、見事なカウンターが返ってきたな。
 ヒグマ落としに並ぶ攻撃力だ。ゲームセットも近い。

 そんなこんなで、俺たちはわいわいと朝食のカレーを食べ、学校へ行くために部屋を出た。
 ちなみに、メルさんは部屋から出るのは怖いらしく、俺たちを玄関で見送ってくれた。


 その後、俺たちは昨日と同じくバス停でナンバと一緒になった。
「よぉ。」
「ああ、おはようナンバ」
「ナンバさん、おはようございます」
「おはようじゃ。ナンバ」
 せっかくなので、バスが来るまで雑談をして時間を潰すことにする。
「そう言えば、最上階にはやっぱりおかしなことはあったのか?」
「ああ。……まぁ、色々な」
 そういえば昨日、最上階に幽霊が出るとか教えてくれたのはナンバである。
 だが、今その話をするのは止めておこう。
 ……まだ、ラップのダメージが抜けてないからな。
「そう言えば、昨日と今日は俺もおかしなことが起きたぜ」
「うん? そうなのか?」
 ――と、そんなことを考えていると、少し深刻そうにナンバが口を開いた。
 ナンバにしては珍しい口ぶりである。
「ああ。……まず、昨日なんだが、楽しみにしてたアイスが消えてたんだよ。冷蔵庫にしっかりと入れてたはずなのにな」
「……ナンバ。ソフトクリームは好きか?」
「おお。まぁな。お前も好きなのかソフト?」
 凄い嫌な予感がしてきた。
 ……昨日、メルさんが用意してくれたアイスだが、良く考えればアレはどこから調達してきたんだろうか。
「あとは、昨日カレーを作り過ぎた筈なんだが、今日見てみたらちょうど一人分になってたんだ……」
「……」
「……」
「……」
 俺とナイアは静かに目を合わせ、腹を撫でていた。
 ……ナンバさん。アンタのカレーは世界一だったよ。


 その朝、俺は購買でナンバにアイスを奢った。
 それで少し罪悪感は薄れたのだが、俺の頭には一つの謎が残っている。

 実は昨日、メルさんが用意してくれたものは、アイスの他にも一つある。

 ……あの離婚届は一体どこから調達してきたのだろうか。
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