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第17話 「もっと食べたい」

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「――ということがあったのじゃ。」
 落ち着いたナイアから話を聞いて、俺とノワールは心に錠前を掛けられたような罪悪感を得ていた。
 過去にトラウマを持っている幼女をいじるとか、俺たちはまさに外道だった。
「ノワール。ちょっと、鉄板を焼いてくれないか? ……今なら、五秒でも十秒でも土下座出来る気がする」
「ご主人。それより、刀を持ってきてください。セプクをセプクをしなければ……」
「ノゾム!ノワール! 顔を上げるのじゃ!! 妾はもう気にしておらんのじゃ!!」
 ナイアはいつも通り笑顔で、俺たちを許していた。
 相も変わらず頭痛薬もびっくりな優しさだった。
 ああ。
 守りたいこの笑顔。
「分かった。ナイアありがとう。……それじゃ、話を戻すぞ。……ええっと、何の話をしてたんだっけ?」
 俺は最後にナイアに礼をいって、気持ちを切り替える。
 ナイアも湿っぽいのは好きじゃないだろうし、それを知りながら謝るのはただの自己満足だ。
 俺が求める満足とはそういうのじゃない。そういうのは満足民のすることではない。
 それじゃ、満足できねぇぜ!!
「確か、この一ヶ月で稼いだ20万で、私のステータスをどう上げるかという話だったかと」
「そうじゃのう。確かそうじゃった」
 そうだった。そうだった。
 ……その時、俺に電流走る。
「なぁ、ノワール思いついたんだが……」
「なんでしょう?」
「直接、金を稼げそうなスキルはないか?」
「そこに気づくとは……」
 ノワールにもその発想は無かったようだ。
 やはり俺は天才か。
 そう言う訳で、該当スキルの絞り込みをした結果がコレだった。。

 <スキル一覧>
 スリ(初級)
 恐喝(初級)
 詐欺(初級)

「……そりゃあ、そうだわ」
「これはなんとも……言えませんね」
ノワールと二人でアゴを尖らせ、……ざわっ……ざわっと騒いでいると――
「このスキルを取るのは、止めて置いた方が良いのぅ。」
 ――ナイアにやんわりと止められた。
 取りそうに見えたのか。少し心外である。
 ……でも、正直スリにはちょっと憧れる。
 ワルサーP38とか、世紀末の魔術師とか。
 泥棒、怪盗はロマンだろう。
「まぁ、元から取るつもりはないけど、ナイアが止めるってことは理由があるのか?」
「うむ。この世界では、極稀に<鑑定>というスキルを使えるものが居るのじゃ。能力としては相手の情報を見るものじゃがのう」
「ふむふむ」
「普通、スキルと言うのは日常的に同じ行動を繰り返し、習得するものじゃ。……ならば、スリや恐喝といったスキルを持っていると分かればどうするかの?」
 あ、確実に斬首ですわ。ZAPですわ。ZAP。
「ノワール。地道にいこう」
「……ですね。」
 という訳で、やっぱりステータスを上げることにした。
「それじゃあ、どのステータスを上げるかなんだが……ナイア、どう思う?」
「いずれは、何か一つにを絞るべきかもしれんが、今の時点ではどのステータスも低すぎて、何かあった時にあっさりと死にかねんのじゃ。妾としては全体を程よく上げるのが良いと思うのぅ」
「ノワールはそれでいいか?」
「五百年生きた魔王の言葉です。私も死にたくはないのでそうしましょう。……それじゃあ、ご主人。操作をお願いします。」
「うん? 俺がやるのか?」
「ええ。私の貯金額を利用したスキルやステータスの購入は、ご主人にしか操作できません」
「ふむふむ。ならこんな感じで」

 名称
 <ノワール>

 LV:1
 HP   :40/40  (+20)
 MP   :20/20

 攻撃力  :5
 防御力  :10    (+5)
 魔力   :5
 魔力防御 :10    (+5)
 速さ   :15    (+10)

 所持スキル

 称号
 <ユニークスキル>
 <自我を持つ者>

 貯金額
 ¥0.-

 俺は二十万を消費して、ノワールのステータスを購入した。
 購入したステータスの内訳は、HP+20、防御力+5、魔力防御+5、速さ+10である。
「あ、均等に伸ばした訳ではないんですね?」
「四十しかなかったからな。死ににくくするなら、この方が良いかと思ってな」
「ふむ。良いと思うのじゃ。まぁ、まだまだ安心できるステータスではないがの」
「まぁ、そこは今後もおいおい上げていくということで」
 こうして、俺たちの会議は終わった。
 時間にして一時間くらいの筈なのに、果てしなく長かった気がする。
「よし。最後になにか現状に不満があるやつはいるかー?」
 ノワールもナイアも手を上げなかった。
 このパーティで会議をして初めてのことである。
 俺たちはやっと本当のパーティになれたのかもしれない。
 気づけば三人とも笑っていた。

 さぁ、ここから新しい世界を歩き出そう。
 俺と猫と魔王で……

 俺たちの冒険はこれからだっ!!

 ぐぅぅぅぅ~。
 そこで、ナイアの腹がなった。
「そう言えば、腹が空いたのじゃ」
「ああ。確かに良い時間ですね。ご主人。午後の依頼に行く前に何か食べていきましょう」
「……」
 俺は動きを止めた。
 ……うん。さっきノワールに所持金を全額入れたから、一円たりとも残ってないのだ。
「ご主人?」
「どうしたのじゃ? ノゾム。早う行かねば午後の依頼も無くなるぞ?」
「……すまん。ノワールに全額入れたから、金がない」
「なん……じゃと……?」
「ご主人ェ…」
 ……うん。正直スマンカッタ。
「ウガァ……クトゥン……」
「え? ……あっ! ちょっとナイア!! しっかりしてください!! ナイアっ!!」
 あ、やばい。腹が減り過ぎたナイアから冒涜的な声が漏れてる。
 食い物の恨みは天使を魔王に変えるらしかった。


 ……
 …………
 それからのことは思い出せない……
 どうやって逃げたのか。俺は頭にノワールを乗せ、気づけばギルドに来ていた。
 ……だが、ナイアは諦めた訳ではないだろう。
 俺とノワールは身を寄せ合いながら、曰く名状しがたい恐怖と戦っていた。

 あぁ……!! 窓に! 窓に!!!!


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