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第14話 「いじめ、かっこ悪い」

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 おーす!
 みらいの チャンピオン! 
 元気しとぉや!!
 あ、いきなりすいません。
 ナリカネです。
 あの二日酔いの日から、約一ヶ月が過ぎた、今日この頃。
 ついに満月ということで、少しテンションが高くなってましたね。
 よくよく、考えれば魔王であるナイアが復活した日がちょうど満月だったらしく、次の満月を待つということはそういうことだった。
 ちなみに、この一ヶ月。
 俺たちは雑用依頼を中心に受けて、日銭を稼ぎながら毎日を過ごしていた。
 それは、涙あり笑いありの苦しい一ヶ月であった。
 まず、一番実入りが良い薬草採取だが、これは単純作業で面倒な上に、町の外に行く必要があるので危険もあった。
 ゴブリンから逃げた記憶は一度や二度ではない。
 その度にナイアが見せる屈辱の表情は筆舌に尽くしがたいものだった。
 魔王である自分がゴブリンから逃げるというのはそれほど悔しいのか。
 俺に例えるならなんだろう。カナブンが襲ってきて、逃げるような気分なのか。
 ……分からんが、多分違うな。
 そして、二番目が子守である。
 両親がいない間、子供の面倒を見るのだが、これがなかなかの重労働であった。
 子供というのは素直なもので、ノワールの真似をしたがって、隙あらば俺に上ろうとしてくるし、ノワールはノワールで子供達から逃げるのに必至であった。……ナイアなら子供と一緒になって遊んでたよ。親しみやすい魔王様である。
 実入りが良いので続けていたが、なかなかにハードな仕事であった。
 ……後日、子供たちの間で「だが断る」が流行って問題になったが、今となっては良い思い出だろう。
 ちなみに、それが原因で反抗期を嘆く親御さんが増えたので、子供達には「認識した。マイマスター」という言葉を教えておいた。
 俺は後日、保護者会に呼び出しをされた。
 その他、買い物や家の掃除などの簡単な依頼も受けていたので、ある程度この町に知り合いも増えていた。
 初めはみんなノワールを見て驚いたり、依頼に幼女を連れてくるなと怒られたりしたが、一つ一つ依頼をこなしていくと、それなりに受け入れてくれた。
 基本的にこの町には良い人が多かった。
 また、あれからも偶にギルドマスターやキリクさんに居酒屋に誘われて、奢ってもらうことがあった。
 キリクさんはギルドマスターに対しての苦手意識も薄れたようで、この間は普通にギルドマスターの受付に並んでいた。
 ……まぁ、いつも空いてるし、ギルドマスターに慣れたならそこを使った方が何倍も速いしな。
 ギルドマスターもキリクさんも一度は酷い二日酔いになったようだが、懲りずに酒を呑んでは吐いていた。……俺も同じことをしてるから何も言えないんだけどね。
 しょうがないのだ。
 わいわいと馬鹿話をしながら呑む酒は美味しいのだから。……奢りだし。

 ちなみに、新人がギルドマスターや中堅冒険者と仲良く酒を呑んでいると目立つらしく、他の冒険者との交流もそこそこ増えた。
 特にノワールやナイアは一部の冒険者にはたまらない可愛さらしく、毎回ちやほやされていた。
 ……俺? 俺はゴブリンとかいうザコから逃げて、気絶したということで毎回可愛がられてましたよ。
 ちくせう。こんなに俺と冒険者の間で意識の差があるとは思わなかった……!
 それから、宿泊はずっとおばちゃんの宿に泊まっている。
 初日のお金も返した上で、ずっと格安の部屋を借りている俺たちをいつも何も言わずに泊めてくれてる。
 本当に良い人である。
 まぁ、そんな一ヶ月のお陰で、ノワールの貯金額は十五万程になっていた。
 ちなみに、この世界の通貨で換算するなら、金貨で十五枚、銀貨で百五十枚、銅貨なら千五百枚ということになる。
 前の世界では高校生だった俺からすれば、そこそこの金額に見えるが、異世界はそんなに甘くなかった。
「ところで、ノワール。具体的に攻撃魔法とかだと、いくらくらい貯めれば習得出来るんだ?」
「そうですね。一番簡単な初級魔法で二十万程でしょうか。中級魔法なら二百万。上級なら五千万程ですね。時空間系魔法だけ、更に金額は上がるようですが。」
 そうなのか。
 まぁ、転移で一億って言ってたしな。
 ううむ。ということは、時を止めたり、戻したり、飛ばしたり、加速させたりすることは難しいのか。
残念である。
「……やはり、規格外の能力よな。絶対に他の人間には知られん方が良いぞ。発狂してしまうかもしれんからの。」
「そうか? 結局、今もまだ何も覚えられないから実感は沸かないが……そう言えば、普通はどうやってスキルを習得していくものなんだ?」
「……ふむ。そうさのぅ。例えば剣術などであれば、鍛錬や実戦で剣を握っていれば身につくと聞くのぅ。魔法ならば、魔力操作を訓練しながら、適正属性を覚えていく感じかのぅ」
「なるほど」
「それでも、才能の違いや環境などで習得には差が出るものなのじゃ。さらに中級ならば百、上級ならば千人に一人いるかどうか、という確率じゃ。……代償はあるとはいえ、確実に好きなスキルを覚えられるというのは、はっきり言って普通の人間には受け入れがたかろう」
「……それは確かにな。分かった、ノワールのことはパーティの秘密としよう」
 話を聞いてると、確かにチートも良い所だろう。
 必至で努力して辿り着いた境地。
 もしくは、どれほど努力しても辿り着けなった境地に、金の力で行くようなものだ。
 俺が反対の立場なら殺意の波動に目覚める自信がある。
「……ちなみに、ナイアはその……平気なのか?」
 俺は不安になったので聞いてみた。
 この魔王様が波動に目覚めたのなら、遠からず俺とノワールは歴史の闇に消えるだろう。
「かっかっかっ。ノゾムよ、妾は魔王じゃぞ? 今でこそこんな姿に甘んじておるが、時間さえ経てば妾とて力を取り戻していく。全盛期の妾ならば、龍王とすらほぼ互角と言って差し支えない。そんな妾からすれば、ノワールの能力は確かに規格外じゃが、嫉妬をするには及ばんの」
 あ、この魔王様はもっとチートでしたわ。
 そう言えば、首跳ねられて、心臓突かれて、全身消滅させられたのに、自力で復活したんだったか。
 ううむ。俺が知っている限り、前世の漫画でもそこまでの規格外はいなかったしな。
「それは良かったです。ナイアに睨まれながら冒険を続けることになってたら、ストレスで毛が抜けていたかもしれせんし」
 ふむ。
 ノワールも胸をなで下ろしている。
「……ところでノワール。最近、お前が俺の頭に乗りまくる所為で、俺は少し、自分の毛根が心配なんだが」
「ご主人。どれほどの絶望が見えていても覚悟することです。覚悟が絶望を吹き飛ばすのですから」
「俺はお前に自分の足で歩いて欲しいんだけどな。お前には立派な足があるんだから」
「良いじゃないですか。実際、私の歩幅でご主人についていくのは結構大変なんですよ?」
 そういうもんかね。まぁ、なんだかんだ言って、ノワールは俺の頭から降りるつもりはないみたいだ。
 なら、この会話に意味は無いだろう。それこそ、不毛という奴だ。
 ~審議中~
「そう言えば、ナイア。今日の夜が満月ですが、体の調子はどうですか?」
「うむ。今は昼間じゃからのぅ。殆ど変わりはないのじゃ。夜になれば、回復すると思うのじゃが……」
 ふむ。
 そういえば、この一ヶ月で、この二人はそれなりに仲良くなったようだった。
 前は、会話もどことなくぎこちなかったのが今では普通に話している。
 猫と仲良くする幼女。良い絵である。
 今日も世界は平和です。
「お巡りさん。こちらです。」
 通報された。俺の目が気に入らなかったらしい。
 主人を売るとは、なんとも非情なスキルである。


 さて、時間も流れて、今、俺たちは町の外に来ている。
 ヴァンパイアであるナイア曰く、満月の日に寝るなんてトンデモナイそうだ。
 それに一秒でも早く、ゴブリンたちにリベンジしたいらしかった。
 ……本当に悔しかったんだろうなぁ。
 もう、日は落ち込み、空の色は夕暮れから、もっと深い闇へと変わってきた。
「来たのじゃ。……来たのじゃ。おお!!妾の時間が来たのじゃ!!」
 ふと、急にナイアがそう言い始めたかと思うと、変化が現れた。
 ナイアの体から、赤く澄んだ光がこぼれ始める。
 それは柔らかく光り、体を流れるように滑り、まるで血のように巡っていた。
 純粋に綺麗だと思った。この暗い夜の中でさえ、赤い光に包まれた彼女の白肌は欠片も輝きを損なってはいなかった。
 むしろ、この夜という全てが、彼女を祝福しているように見えた。
「かかかっ。魔力が集まってくるのじゃ!! 力が満ちてきよる!!」
 おお。
 本当に満月というのは凄いらしい。
 過去最高に魔王らしいぞ、ナイア。
 俺が内心でそう称賛していると――
「うぉぉぉーっ!!待っているのじゃっー!ゴブリーン!!」
 ――そう言葉を残し、ナイアは走り出してしまった。
 俺たちを置いて。
「……って、ちょっと待てナイア―っ!!」
「ご主人!! 聞こえてませんよ!!」
 何してくれてんだ!! あの魔王!!
 え!? ってかどうする!?
「ご主人!! このままだと見えなくなりますよ!!」
「くそっ!!ほっとけるわけないよなっ!!」
 俺はノワールを頭にのせて、走り出した。


 幸いなのかどうなのか。
 二分程、追いかけた所で、ナイアはゴブリンを発見し、戦闘に入った。
 ……うん。結果から言うと戦闘というか虐殺だった。
 ナイアが手をかざす度に、放たれた炎球がゴブリンを燃やしていくのだ。
 三体居たゴブリンはあっという間に黒焦げになっていた。……これは酷い。
「かかかっ!!! どうじゃぁああああ!! 妾の手にかかればこんなもんじゃー!!」
 高笑いするナイア。……うん。本当に魔王だわ。
 だって、このゴブリンたちまだ何もしてないもんな。
 通り魔も良い所である。
「ぬぅ!! 何を言うかノゾム!! こやつらは先週の薬草採取の時に襲ってきた奴らじゃぞ!!」
 え? そうなのか?……よく見わけがつくな。俺には全くわからん。
 ……というか、頭の中を読むんじゃない。
「ご主人こそ、その恥ずかしい思考を声に出さないで下さい」
「ああ。察したわ」
 独り言には気を付けよう。いつの間にか癖になるからな。
 一人っ子のみんな。お兄さんとの約束だぞ。
 まぁ、ナイアが言っていることが本当なら、このゴブリンたちは先週、俺たちを喰うつもりだったんだし、仕方がないということだろう。輪廻と因果は回るのだ。
 インガオホー。ハイクを読むがいい。
 そうやって、のほほんと雑談をしていると、急に足元の地面が揺れた。
「うぉっ! なんだ。」
「うぬっ!」
「ご主人! 下がってください!」
 ノワールに従って、慌ててその場から下がると――

 ボゴッ!!
 ガチンッ!!

 ――いきなり、大きな音がして地面が割れたかと思えば、俺の目の前でなにかが超スピードで打ち合わされた。
 みれば、それは巨大な何かの口であった。
「うおぉぉぉぉっ!!! なんだ!? なんだあああぁぁ!!!」
 状況を理解した俺は、高速で後ずさる。
 すると、地面からのそのそと、そいつは姿を現した。
 例えるなら、巨大なイグアナとでも言うべきだろうか。
 全長を現したそいつは優に五メートルはあるように見えた。
 そして、感情の読めない瞳が、ぎょろりとこちらを見ていた。
「……何を見てますのん?」
 俺が尋ねると、そいつは足を曲げた。……まるで力を溜めるように
 うん。俺でもわかる。これは駄目だ。
 そいつが俺に飛びかかろうとした瞬間――

 ドンっ!!

 ――ナイアが炎球を飛ばして、そのタイミングを潰した。
 そいつは進むタイミングをずらされて、態勢を崩してはいたが、体の表面に傷のようなものは見えなかった。
 それを見て俺は――

「逃げるぞおおぉぉぉ!!ナイアああああぁぁぁ!!」
「分かったのじゃ!!ノゾム!!」
 ――全力でその場から駆け出した。
「くそっ!! 何なんだよ!! あいつは!!」
「アイツはオオトカゲというモンスターじゃ!! 雑魚の部類ではあるが、そこそこ硬い鱗と牙を持っておる。肉なんかも食用に人気じゃの!!」
「ナイア!! 満月なんですから、指先一つでダウンとか取れないんですか!?」
「妾とてそうしてやりたいが!! まだ、力が足りんのじゃ!!」
 全力で走ってはいるが、後ろの気配は全然なくならない。
 後ろを見ると、案の状追ってきていた。
 足はそれほど速いようには見えなかったが……くそっ!!俺よりは確実に早い。
 幸い、スタートダッシュの差で今はまだ距離があるが……
 どうする!? どうする!?
 俺が半ばパニックになりながら考えていると――
「ノゾム!! 遅いのじゃ!!」
「んなこと言ったって……ふぁっ!!??」
 ――ナイアが俺を担ぎ上げた。
 俗にいう、たわら担ぎである。
「加速するから、じっとしているのじゃ!!」
 そう言って、速度を上げるナイアさん。満月で身体能力も上がったのか……
 俺はそのたくましい腕に体を預けるしか出来なかった。


 その後、オオトカゲは門番の人が倒してくれた。
 前は良く見えなかったが、門番の人は凄い勢いで槍を投げていたらしく、オオトカゲの眼球から槍が生えてた時はびびった。
 ゴブリンと違って、顔から上が飛んで行ったりしなかったのはさすがだが……。
 門番の人は俺がナイアに抱えられているのを見て、腹を抱えていた。
 くそ。命懸けで逃げてきた人間になんて仕打ちをするんだ。
 お前ら人間じゃねぇ!!
 ……いや、命を助けてくれたんだ。
 感謝こそすれ、恨むのは筋違いだろう。笑われるくらい許してやろうじゃないか。
 俺はそう思い、門番の人に礼を言った。


 翌日、俺が幼女にたわら担ぎされていたことがギルド中に知れ渡っていた。

 俺は泣いた。
 
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