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第13話 「飲んどる場合かーッ!!」

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 あったかい布団で、ぐっすり寝る。
 こんなに楽しいことが他にあるだろうか。いや、無い。
 それも二日酔いで頭が痛いとなれば、尚更だ。
 ……そんな状態だったので、無理やり起こされた俺のコンディションは最低なものだった。
 おっと、誰だって聞きたそうなんで自己紹介させてもらうがよ。
 おれぁ、貯金好きな異世界人。成金 望だ。
「ご主人臭いです。ゲロの匂いがプンプンします」
 そして、言葉の暴力でプレイヤーにダイレクトアタックを決めてくるコイツが喋る猫こと、俺のスキル<ノワール>である。
「……ノワール。辞書でオブラートという言葉を引け。お前に足りないものがそこにある」
「あいにく、私の辞書にオブラートと言う言葉はありません」
 くっ。ああ言えばこう言う。
 親の顔が見てみたいぜ。
「まったく飲み過ぎじゃ。かように辛いのなら、少しは妾にも分ければ良かったものを……」
 そして、こっちはナイア。ロリババアな魔王様である。
 昨日、酒を飲めなかったのがそんなに悔しかったのか。
 見た目、幼女だもんな。月の光でメイクアップ出来るなら、ワンチャンあったかもしれないが。
 ……実際、出来ないのかな? ヴァンパイアらしいし。
 うっ……! 頭がっ! ……俺は考えるのを止めた。
 二日酔いとはかくも恐ろしいものなのか。
「うぅ。大きな声を出さないでくれ。……なんなら、俺を起こさないでくれ。死ぬほど疲れてるんだ」
「……ご主人。逆境の中でも、ニヤリと笑うのが男ですよ」
 ぐぬぬ。まぁ、自分のスキルにゲロ臭いとまで言われては寝てもいられないだろう。
 俺はもそもそと起き出し、水道でうがいをする。
 別に部屋で待っていても良かったのだが、ノワールはついてきた。
 いつもみたいに頭に乗ってこないのは、この猫なりの優しさかもしれない。
 ……ふぅ。
 うがいついでに顔も洗うと、いささかサッパリした。
 まだ、頭は痛いがこれなら午後には良くなるかもしれない。


 部屋に戻ると、ナイアはベットに腰かけたまま待っていた。
 ああ、そうだ。
 冒頭で勘違いされそうだが、言っておくと、昨夜もナイアとノワールがベットで眠り、俺は床で寝た。
 幼女からベットを奪う勇気も、幼女と一緒に寝る勇気も俺にはない。
「おお。先ほどよりは見られる顔になったではないか」
「そうか。俺はイケメンだったのか。困ったな。異世界に来て磨きがかかったのかもしれない」
「ご主人。ゼロに何をかけてもゼロですよ」
 このノワール。容赦ねぇな。
 猫は愛玩動物だと思っていたころが俺にもありました。
 まぁ、そうやって馬鹿をやっていれば調子も戻ってくるものである。
 幸い、昨日の薬草採取で今夜までの宿泊料金はあることだし、今日は第二回これからどうしよう会議をすることにしよう。
 そもそも、昨日はお互いに何が出来るかの確認をしなかった所為で、ゴブリンに殺されかけたのだから。
 現状を確認することは大切である。
「やっと、頭が起きてきた。……昨日もしたばかりだが、今日も会議をしようと思う。二人とも良いか?」
「構いません。昨日みたいなことを避けるためにも話し合いは必要でしょう」
「妾も異存はない。……もう、ゴブリン如き雑兵から逃げるなどという屈辱的なことはごめんじゃからな」
 うむ。二人とも賛成のようだ。……特にナイアは凄い顔をしてるな。
 幼女がする顔じゃないぞ、それ。
「……じゃあ、まずそれぞれの現状から確認しようと思う。初めに俺から話そう。改めて、言うが俺は異世界転移者だ」
 二人ともこちらを見ている。それを確認して、俺は続けた。
「この世界には来たばかりで、知識どころか常識もない。前の世界では一般人だったから、取り立てて言うこともなし。この世界に来て変わったのは、<ノワール>っていうスキルを手に入れたことだけだ」
 話し終わって、反応を見るが、二人からは特に質問は無いようだった。
 少し間を取った後、ノワールが話し出す。
「では、次は私ですね。私は、この身に収められたお金を利用し、<スキル>及び<ステータス>を習得することが出来るという<ユニークスキル>です」
「なんじゃとっ!! ……それは、誠か!!」
 いきなり、ナイアが大声を出した。
 ……うん。やっぱり聞いてるだけで異常なスキルだよな。
 お金を払えば強くなる。
 課金厨、乙。と言われても仕方がない能力だ。
「とんでもないの……。妾も五百年生きてきたが、これほど凄まじい能力は初めて聞いたのじゃ」
「はい。……ただ、現在の貯金額は五千円程度。この世界で言えば、銀貨で五枚。正直言って、この金額では何も出来ません」
「ぬ? ノワールよ。主たちは妾のへそくりを取ったのではなかったか? 金額も銀貨などとは比べ物にならんほどあったはずじゃが……」
「その節はすいませんでした。……そのお金は私という<スキル>を習得する代償として捧げられ、消費されたのです」
なるほどのぅ、と呟き、静かになるナイア。少し、情報を整理しているようだった。
今の内に、俺もいくつかノワールに確認することにする。
「なぁ、ノワール。<ユニークスキル>って何だ?」
「<ユニークスキル>というのは、世界において取得者が一人しかいない<スキル>のことです」
「そうなのか。……<ノワール>で覚えることは出来るのか?」
「……可能ですが、<ユニークスキル>は最低でも億クラスの金額が必要になります。あまり現実的ではないでしょう」
 そうか。届かない世界の話なら、意味は無いだろう。
 俺は最後に、気になったことを聞く。
「そうか。……最後の質問なんだが、銀貨五枚ってなんだ?」
「ふふふ。実は昨日、帰りがけにキリクさんに貰いました。初めての銀貨の味はレモンの味でしたよ」
 なんとっ! コイツ、人が酔っぱらってる時に一人だけ良い思いをっ!
 ……まぁ、コイツが貰ったのなら使い道はコイツの自由だろう。
 もともと、予定外の収入だったんだし。
 などと会話をしていると、いつの間にかナイアが俺たちを見ていた。
 どうやら情報の整理は終わったらしい。
「ふむ。最後は妾かの。妾は三百年前に滅ぼされた魔王じゃ。全盛期であれば、この世界最強の存在とも良い勝負じゃったが、今はせいぜい人間の子供程度の力しかないのじゃ」
 改めて聞いても、凄まじい落差だよな。この魔王。
 まぁ、生き返ったというだけで異常な程に規格外な存在だということだろう。
「……魔法も使えないんだよな?」
「この町に来るときに魔力を限界以上に出し切ったからのぅ」
 ううむ。やはり、現状はただの幼女のようだ。
 諸行無常とはよく言ったものである。
「俺たちの目標はとりあえず、一億を稼ぐことだ」
 改めて確認するのは、昨日決めた俺たちの最終目標だ。
「ええ。そして、私たちの立場上。異世界者であることと、魔王であることはバレない方が良いでしょう」
「うむ。だからこそ、身元不詳でもなれる冒険者になったのではないか」
 ここまでは良い。問題はこれからだ。
「だが、冒険者として稼ぐなら、少なくともランクを上げて討伐依頼を受けることが望ましい」
「ですが、ランクを上げるためには戦闘能力が必要です」
「……現状の妾達には出来ぬということじゃな」
 うーん。と頭を捻る俺たち。もっと手っ取り早くお金を稼ぐ手段は無いものか。
 三人寄ればとはいうが、集まったのが異世界初心者、生後三日の猫、三百年死んでいた魔王、では文殊の知恵も出ないようだった。
「しばらくは、地道に雑用依頼をこなして金を貯めて、<ノワール>による強化を狙うしかないか」
「私もそれしか思いつきません。弱いモンスターと言われるゴブリンですら、今の私からしたら、遥か格上に見えました」
「ぐぬぬ。妾も良案が出んのじゃ。次に月が一度でも満ちたのなら、魔力もそこそこ回復するのじゃが……」
 ……ん?
 今、ナイアがさらっと凄いことを言っていたような。
「ナイア。魔力が回復するっていうのは……」
「ん? ああ。妾のヴァンパイアという種族特性でな。月の満ち欠けなどに大きく影響を受けるのじゃ。普段から全盛期に向けて少しづつ回復しておるが、満月の夜は別格じゃ。ゴブリンなんぞ、軽くあしらえる程度には回復する筈じゃ」
 おお! ここにきて明るい情報じゃないか。
 それなら、話は決まったな。
「それじゃあ、当面の行動は雑用をこなしつつ、<ノワール>に貯金して強化していくこと。そして、満月の後はパーティとして冒険者のランクアップを狙うってことで良いか?」
「妥当だと思います」
「ぬぅ。悔しいが、それしかあるまい」
「よしっ。じゃあ、その方針でいこう。……最後に、現状に不満があるメンバーは言ってくれ。三人しかいないパーティだ。遠慮は無しでいこう」
 俺が会議を閉めるために、そう言うと
「うむ!」
 ナイアが元気よく手を挙げた。ノワールは今回は無いらしい。
 昨日の銀貨が相当嬉しかったと見える。
「じゃあ、ナイア」
「うむ。妾から一つお願いじゃ。……ノワールよ。妾に対する敬語を止めてくれぬか?」
 うん? これは前回俺も言われたな。
「……ナイア様。理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うむ。この数日、一緒に行動して、妾はお主のことを一つの人格として認めておる。今では同じパーティのメンバーじゃ。上下の無い対等な関係を望むのじゃ」
 成る程。……相変わらず、ナイアは魔王様とは思えないほど、人格者だ。
「成る程。分かりました。……ですが、敬語を止めることは出来ません。これは、ナイア様が尊重してくださった、私という人格が持つ特徴なのです。どうか、ご容赦頂ければと思います」
「……ふむ。そう言われれば返す言葉もないのぅ。では、妥協点じゃ。せめて名前の様付けを止めてくれんかの? ノゾムにもつけておらんし、そのくらいは良いじゃろう?」
 これは、俺も常々疑問だった。
 ノワールは俺のことをご主人と呼ぶ。……うーむ。どうせならマスターと呼ばれたい。
 その方がカッコいい気がするし。
「……分かりました。ご寛容有難う御座います。ナイア。今後ともよろしくお願いします。」
「うむ。今はそれでよい。そのうち態度も、もう少し軽くなることを期待しておるのじゃ。」
 などと俺が考えていると、話はまとまったようだった。
「ちなみに、ノワール。俺のことはご主人様と呼んでも良いんだぜ? マスターならなお良し。」
「ご主人。早くギルドに行きますよ。」
 華麗なスルーを決め、俺の頭に乗ってくる、ノワール。
 二日酔いじゃなければ、マキシマムでホルモンな曲で、ヘドバンしてやったものを。
 ちなみに、ギルドに着けば俺以上に顔色が悪いギルドマスターが受付をしていた。
 明らかに二日酔いである。
 でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要なことじゃない。
 問題はあの、壁際で正座させられている冒険者だ。
 あれは確かに昨日一緒に呑んだキリクさんだろう。
 ……どうやら、今日の体調不良を他のパーティメンバーに怒られているようだった。

 …
 ……

 いやあ……お酒は強敵でしたね。

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