上 下
27 / 34
第二章 いざ、王都へ

第二十七話 sideフィーナ/ミランダ

しおりを挟む
『あれ?』

「何!? お母様の身に何が起こっているの!?」


 ミランダに連れ出されたらしいお母様の後を追っていた精霊が、不意に驚嘆の声を上げた。

 麗しのお母様に何かあったのかと気が気じゃない私は、生垣の陰でゴロゴロのたうち回っている。
 クロエの目が痛いけど、仕方がないじゃない! 心配なものは心配なんだから!


『うーんとね。君の母親は無事に着替える部屋に連れて行ってもらってたよ? 桃色の人間の様子が気になったから後をつけているんだけど……黒い服装の男たちに囲まれているね。人間の世界ではこういう遊びが流行っているの?』

「流行っているわけないじゃない!」


 呑気な精霊の声に思わずツッコミを入れてしまう。

 よく分からないけど、どうやらトラブル発生らしい。
 ミランダがお母様を害そうとしていたわけではないと分かってホッとする一方で、城の中で何か不穏な動きがあることに不安を覚える。

 ミランダのことも心配だけど、もしお母様まで巻き込まれたら――


「こうしちゃいられないわ! クロエ、お母様の危機よ! 今度こそ行きましょう!」


 流石にお母様の危機とあってか、クロエはすっくと立ち上がって力強く頷いた。


「ええ、どうやらその方が良さそうです。ウォル、お願いします」

『アオーーーーン!!!』


 クロエの声を合図に、ウォルが遠吠えをした。そしてみるみるうちに身体が大きくなっていく。


「お嬢様!」


 軽やかな動きでウォルの背に飛び乗ったクロエが、私を引き上げてくれる。
 振り落とされないようにウォルの首元にギュッと抱きついて、トントン、と首元を撫でてやる。


「ウォル! お母様のところに向かうわよ!」

『ウォルルッ!!』


 ウォルが地面を蹴ると、中庭に突風が吹き抜けた。


「うわあっ!」

「なんだなんだ」


 俄かにざわめきが聞こえるが、ウォルは風となって王城の中に飛び込んでいく。
 速い! 景色がぐんぐん流れていく。


「フィーナ?」


 風となり城内を吹き抜ける私の耳に、風に乗ってお父様の声が届いた気がした。






 ◇◇◇


 なんなのよ、こいつら!


「んー! んー!」


 腕を掴まれ、口を塞がれた私は、空いた手足でジタバタと抵抗を試みる。


「ったく、威勢のいい女だな」


 頭上から舌打ちが降ってきて、グッと腕を後ろに回されて身動きが取れなくなる。


「おい、殺すなよ。こいつには全部罪を被ってもらうんだからよ」

「分かってる。アイツらはもう王子を捕らえた頃か?」

「あのお飾り王子はヒョロっこいし活力がねえからな。きっと上手く捕まえてるだろうよ」


 王子を捕える?
 何を言ってるの、この男たちは。

 ここは王城で、夜会でたくさんの貴族が集まっている夜だというのに。どうしてこうも余裕があるのか。

 その答えは簡単だ。
 きっと、かなりの上位貴族がこの男たちの裏にいるのね。
 ……こいつら、第二王子派閥なんだわ。

 表立って行動することはないが、第二王子を担ぎ上げようとする派閥があることは知っている。
 傀儡国家として裏で政治を牛耳るつもりなのか、国家を転覆しようとしているのか。

 原作小説では、そんな中央のゴタゴタについては触れられていなかった。
 押し上げようとしている当人を誘拐するなんて、正気の沙汰じゃないわ。でも、逆に考えれば第二王子派閥が、その第二王子を誘拐するとは疑われないでしょうね。

 そして、第一王子派閥の重鎮にその罪を着せて、勢力を落とすつもりなのか――

 そんなもの、私が全部証言すれば簡単に覆るものなのに、杜撰な計画過ぎない?

 そう思った時、男たちの会話を思い返してサッと血の気が引いた。

 待って、さっきこいつら、なんて言ってた?
 殺すなって言ってなかった?
 ――殺す気なんだわ。私を。

 死人に口なし。適当な理由をあげつらって私に罪を着せて、余計なことを話さないように殺そうとしているんだわ。なんてことを考えるの。

 逃げなきゃ……!
 まさかこんな、命の危機に陥るだなんて!

 そう思っているのに、ガッチリ捉えられて身体が動かない。

 どうしよう……!
 私が、アネットを足止めしようとわざわざ遠くのパウダールームに来なければ、こんなことにはならなかったのに。


 天罰が下ったんだ。


 ここは小説の中じゃなくて今の私にとっては現実の世界だというのに……
 ヒロインに転生したからって浮かれて、ひとつの家族を壊そうとしたから……!

 胸に後悔の念が押し寄せ、嗚咽が漏れそうになる。
 口を塞がれているから、嗚咽になりきれなかった吐息が喉奥に詰まる。

 じわりと涙が滲み、身体が震えてきた時――


「お待ちなさい! 彼女をどこへ連れて行くおつもりですか?」


 暗い廊下に凛とした声が響いた。



 嘘。なんで――



 溢れた涙がポロリと頬を伝う。
 視線の先は、果敢にも男たちを鋭く睨みつけるアネットの姿があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって――― 生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話 ※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。 ※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。 ※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

【完結】モブなのに最強?

らんか
恋愛
 「ミーシャ・ラバンティ辺境伯令嬢! お前との婚約は破棄とする! お前のようなオトコ女とは結婚出来ない!」    婚約者のダラオがか弱そうな令嬢を左腕で抱き寄せ、「リセラ、怯えなくていい。私が君を守るからね」と慈しむように見つめたあと、ミーシャを睨みながら学園の大勢の生徒が休憩している広い中央テラスの中で叫んだ。  政略結婚として学園卒業と同時に結婚する予定であった婚約者の暴挙に思わず「はぁ‥」と令嬢らしからぬ返事をしてしまったが、同時に〈あ、これオープニングだ〉と頭にその言葉が浮かんだ。そして流れるように前世の自分は日本という国で、30代の会社勤め、ワーカーホリックで過労死した事を思い出した。そしてここは、私を心配した妹に気分転換に勧められて始めた唯一の乙女ゲームの世界であり、自分はオープニングにだけ登場するモブ令嬢であったとなぜか理解した。    (急に思い出したのに、こんな落ち着いてる自分にびっくりだわ。しかもこの状況でも、あんまりショックじゃない。私、この人の事をあまり好きじゃなかったのね。まぁ、いっか。前世でも結婚願望なかったし。領地に戻ったらお父様に泣きついて、領地の隅にでも住まわせてもらおう。魔物討伐に人手がいるから、手伝いながらひっそりと暮らしていけるよね)  もともと辺境伯領にて家族と共に魔物討伐に明け暮れてたミーシャ。男勝りでか弱さとは無縁だ。前世の記憶が戻った今、ダラオの宣言はありがたい。前世ではなかった魔法を使い、好きに生きてみたいミーシャに、乙女ゲームの登場人物たちがなぜかその後も絡んでくるようになり‥。    (私、オープニングで婚約破棄されるだけのモブなのに!)  初めての投稿です。  よろしくお願いします。

【完結】妻に逃げられた辺境伯に嫁ぐことになりました

金峯蓮華
恋愛
王命で、妻に逃げられた子持ちの辺境伯の後妻になることになった侯爵令嬢のディートリント。辺境の地は他国からの脅威や魔獣が出る事もある危ない場所。辺境伯は冷たそうなゴリマッチョ。子供達は母に捨てられ捻くれている。そんな辺境の地に嫁入りしたディートリント。どうする? どうなる? 独自の緩い世界のお話です。 ご都合主義です。 誤字脱字あります。 R15は保険です。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

処理中です...