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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
42. エレインとアレク
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「う…ここは…」
意識を取り戻したエレインは、重い瞼をこじ開けて辺りを見回した。床板は所々抜け、窓にはガラスが嵌められておらず、屋根も崩れ落ちていて隙間からは煌めく夜空が望める。
どうやらここは、どこかの廃屋の中のようだ。
「うっ、いてて…」
身体を起こそうと力を入れると、腹部に鈍い痛みが走る。手は後ろに回され、縄で縛られていた。足首も縛られているため、エレインは肘を突いて何とか身体を起こすことに成功した。
「目が覚めたか」
廃屋の暗闇の中から声がし、エレインはゆっくりとそちらを振り向いた。
「アレク…」
壁にもたれかかっていたアレクは、エレインの方へ歩みを進め、月明かりの下に姿を見せた。
「くく、気分はどうだ?」
「……最悪だわ」
下品な笑みを浮かべるアレクに、歯を食いしばりながら答えるエレイン。じわりと涙が滲みそうになるが、この男の前で二度と涙は見せるまいとグッと堪える。
「なんでこんなことを」
エレインが尋ねると、アレクは可笑しそうに笑った。
「ははっ、復讐だよ。お前と、例の『破壊魔神』に対するな」
「ホムラさん…?」
「そうだ。俺は今まで負け知らずでダンジョンを攻略して来た。街の奴らからは尊敬され、他の冒険者からも一目置かれ、ああ…最高の気分だった。だが、あの男のせいで…俺は敗者に成り下がった」
「…それは、単純に力が足りなかっただけでしょう。ホムラさんは何も悪くないじゃない…」
「黙れ!」
「うっ」
エレインの言葉に、カッと顔を高揚させたアレクは、平手でエレインの頬を張り倒した。
エレインは、ぐらりと身体が倒れそうになるのを何とか持ち堪える。そして、ぷっと血の塊を吐き出した。
「ふん、生意気な口をきくからだ。そう、あの男だって説教じみたことばかり言いやがって…ダンジョンの外に出たらただの無能に過ぎないくせにな」
「…どういうこと」
アレクはくつくつと肩を揺らしている。エレインが睨みつけると、大袈裟に片手を額に当てて天を仰いだ。
「ダンジョンの魔物は、地上に出たら無能に等しくなるんだろう?ははは、ダンジョンに引き篭もって偉そうな事を言っているが、一歩外に出れば力が出ない。『破壊魔神』と謳われているが、奴だって自分のフィールドでしか大口を叩けない情けない男なのさ!あはははは!」
「ぐっ…」
暗闇の中、アレクの渇いた笑い声がこだまする。
(この男…どうかしている…)
ダンジョンの階層主は、その階層を守護する役割を持つ。冒険者はダンジョンの踏破のためにその高い壁に挑む。敗北しようとも、鍛え直し、仲間と手を組み、勝てるまで何度だって挑み続ける。そうしてこれまでの冒険者たちは、着実にその到達階層を伸ばして来た。
一度や二度敗北しただけで、階層主を恨む冒険者はいない。お門違いも甚だしいのだ。
(アレクがこうなったのは、私のせい…?)
エレインの補助魔法のせいで、自らの強さを過信したアレク。友好関係を築けずに密やかに行使して来た補助魔法。パーティのためを思ってしたことが、一人の男の人格をも変えてしまったのか。
エレインの中で後悔の念がざわざわと渦巻くが、ふと、頭の中でホムラに言われた言葉が響いた。
『そこまで自分を責めなくていい。お前があんな奴らの為に心を痛める必要はない』
初めてアレクたちがホムラに挑み、散っていったあの日。パーティ時代のエレインの行動をホムラは理解し、受け入れてくれた。
(…そう、補助魔法は関係ない。アレクは自分が何でも出来ると勘違いしているんだ…)
「…それで、私をどうするつもりなの」
エレインが問いかけると、アレクはエレインに向き合い、言った。
「くくく、そうだな…もう少し痛めつけたら、『破壊魔神』を誘き寄せるための人質になってもらう」
「なんですって!?」
エレインはようやくアレクの行動の動機が掴めたような気がした。アレクは、エレインを人質に、ホムラをダンジョンの外へと引き摺り出そうとしているのか。
「…私のためにホムラさんが地上に降りてくるはずがないじゃない」
「さぁ、どうだろうな。やってみないと分からないさ」
エレインは、キッとアレクを睨みつける。そんなエレインに対し、アレクはその辺に転がっていた木の棒を手に取り、使い心地を確かめるように、数度木の棒を振った。
そして、アレクはじわりじわりとエレインに滲み寄って行った。
◇◇◇
「はっ…!エレイン…?エレインっ…」
目が覚め、ガバッとリリスが飛び起きた時にはすっかり日が沈んでいた。
痛む腹部を抑えつつ、リリスは辺りを見回す。
(確か…アレクはエレインを連れて廃屋街の方へ向かったはず…)
リリス1人でエレインを救い出せる可能性は低い。ギルドに事情を説明し、救援を仰ぐべきか。だが、すぐにギルドは動いてくれるのか。
どうすべきかリリスが頭を悩ませていると、キラリととあるものが視界に入った。
「これは…エレインの…」
そちらに目をやると、エレインのリュックが乱暴に投げ捨てられており、中身が散らばっていた。
その中に、《転移門》の魔石があった。
リリスは一瞬躊躇い瞳を揺らしたが、すぐにその魔石を掴み取り、叫んだ。
「転移!70階層!」
意識を取り戻したエレインは、重い瞼をこじ開けて辺りを見回した。床板は所々抜け、窓にはガラスが嵌められておらず、屋根も崩れ落ちていて隙間からは煌めく夜空が望める。
どうやらここは、どこかの廃屋の中のようだ。
「うっ、いてて…」
身体を起こそうと力を入れると、腹部に鈍い痛みが走る。手は後ろに回され、縄で縛られていた。足首も縛られているため、エレインは肘を突いて何とか身体を起こすことに成功した。
「目が覚めたか」
廃屋の暗闇の中から声がし、エレインはゆっくりとそちらを振り向いた。
「アレク…」
壁にもたれかかっていたアレクは、エレインの方へ歩みを進め、月明かりの下に姿を見せた。
「くく、気分はどうだ?」
「……最悪だわ」
下品な笑みを浮かべるアレクに、歯を食いしばりながら答えるエレイン。じわりと涙が滲みそうになるが、この男の前で二度と涙は見せるまいとグッと堪える。
「なんでこんなことを」
エレインが尋ねると、アレクは可笑しそうに笑った。
「ははっ、復讐だよ。お前と、例の『破壊魔神』に対するな」
「ホムラさん…?」
「そうだ。俺は今まで負け知らずでダンジョンを攻略して来た。街の奴らからは尊敬され、他の冒険者からも一目置かれ、ああ…最高の気分だった。だが、あの男のせいで…俺は敗者に成り下がった」
「…それは、単純に力が足りなかっただけでしょう。ホムラさんは何も悪くないじゃない…」
「黙れ!」
「うっ」
エレインの言葉に、カッと顔を高揚させたアレクは、平手でエレインの頬を張り倒した。
エレインは、ぐらりと身体が倒れそうになるのを何とか持ち堪える。そして、ぷっと血の塊を吐き出した。
「ふん、生意気な口をきくからだ。そう、あの男だって説教じみたことばかり言いやがって…ダンジョンの外に出たらただの無能に過ぎないくせにな」
「…どういうこと」
アレクはくつくつと肩を揺らしている。エレインが睨みつけると、大袈裟に片手を額に当てて天を仰いだ。
「ダンジョンの魔物は、地上に出たら無能に等しくなるんだろう?ははは、ダンジョンに引き篭もって偉そうな事を言っているが、一歩外に出れば力が出ない。『破壊魔神』と謳われているが、奴だって自分のフィールドでしか大口を叩けない情けない男なのさ!あはははは!」
「ぐっ…」
暗闇の中、アレクの渇いた笑い声がこだまする。
(この男…どうかしている…)
ダンジョンの階層主は、その階層を守護する役割を持つ。冒険者はダンジョンの踏破のためにその高い壁に挑む。敗北しようとも、鍛え直し、仲間と手を組み、勝てるまで何度だって挑み続ける。そうしてこれまでの冒険者たちは、着実にその到達階層を伸ばして来た。
一度や二度敗北しただけで、階層主を恨む冒険者はいない。お門違いも甚だしいのだ。
(アレクがこうなったのは、私のせい…?)
エレインの補助魔法のせいで、自らの強さを過信したアレク。友好関係を築けずに密やかに行使して来た補助魔法。パーティのためを思ってしたことが、一人の男の人格をも変えてしまったのか。
エレインの中で後悔の念がざわざわと渦巻くが、ふと、頭の中でホムラに言われた言葉が響いた。
『そこまで自分を責めなくていい。お前があんな奴らの為に心を痛める必要はない』
初めてアレクたちがホムラに挑み、散っていったあの日。パーティ時代のエレインの行動をホムラは理解し、受け入れてくれた。
(…そう、補助魔法は関係ない。アレクは自分が何でも出来ると勘違いしているんだ…)
「…それで、私をどうするつもりなの」
エレインが問いかけると、アレクはエレインに向き合い、言った。
「くくく、そうだな…もう少し痛めつけたら、『破壊魔神』を誘き寄せるための人質になってもらう」
「なんですって!?」
エレインはようやくアレクの行動の動機が掴めたような気がした。アレクは、エレインを人質に、ホムラをダンジョンの外へと引き摺り出そうとしているのか。
「…私のためにホムラさんが地上に降りてくるはずがないじゃない」
「さぁ、どうだろうな。やってみないと分からないさ」
エレインは、キッとアレクを睨みつける。そんなエレインに対し、アレクはその辺に転がっていた木の棒を手に取り、使い心地を確かめるように、数度木の棒を振った。
そして、アレクはじわりじわりとエレインに滲み寄って行った。
◇◇◇
「はっ…!エレイン…?エレインっ…」
目が覚め、ガバッとリリスが飛び起きた時にはすっかり日が沈んでいた。
痛む腹部を抑えつつ、リリスは辺りを見回す。
(確か…アレクはエレインを連れて廃屋街の方へ向かったはず…)
リリス1人でエレインを救い出せる可能性は低い。ギルドに事情を説明し、救援を仰ぐべきか。だが、すぐにギルドは動いてくれるのか。
どうすべきかリリスが頭を悩ませていると、キラリととあるものが視界に入った。
「これは…エレインの…」
そちらに目をやると、エレインのリュックが乱暴に投げ捨てられており、中身が散らばっていた。
その中に、《転移門》の魔石があった。
リリスは一瞬躊躇い瞳を揺らしたが、すぐにその魔石を掴み取り、叫んだ。
「転移!70階層!」
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