6 / 6
最終話 アマリリスの幸せ
しおりを挟む
竜人は、成人すると鱗がポロリと剥がれ落ち、白磁のような艶やかな肌となる。
アマリリスも例外ではなく、成人を迎えた今、牢に繋がれていた頃とは比べ物にならないほどに美しく光り輝いていた。
そんなアマリリスを優しく見つめ、手を差し出す者がいた。
アマリリスを牢から救い出し、明るい未来を与えてくれた人――エクセリヴァーグ帝国の竜王アデルバート。
アマリリスが帝国へと救い出されて二年が経過していた。
しっかりと食事を摂れるようになり、睡眠も十分に取れている。これまでの遅れを取り戻すように勉学にも励んでグングン知識を吸収していった。何より、彼女を愛し敬うアデルバートの存在に支えられ、アマリリスは見違えるほど明るく、美しくなっていた。
そして今、二人は肩を寄せ合い、アマリリスはアデルバートが語る話に耳を傾けている。
「少し、昔話を聞いてくれるか?」
「はい、もちろんです」
いったい何を話そうとしているのだろう。
アマリリスはこてんと首を傾げてアデルバートの言葉を待つ。
そんな彼女の仕草に、アデルバートは優しく微笑み、頭をポンポンと撫でてから静かに語り始めた。
「始祖の竜王には、かけがえのない番がいた。互いに愛し愛され、敬い合っていた――」
それは、この国の始まりの物語。
――太古の時代、二人の竜人が国を興した。
二人は唯一無二の番であり、子宝にも恵まれた。
国は栄え、後世まで安泰だと謳われていたが――美しき王妃に魅了された異国の男によって、竜王は最愛の妻を攫われた。
命尽きるまで妻の行方を探し続けたが、ついには再会を果たすことができなかった。
アデルバートもまた、竜人の先祖返りであった。
竜王の記憶を受け継ぎ、何年もの間、引き裂かれた最愛の人を探し続けていた。
彼は直感していた。彼女も同じく、再びこの世に生まれ落ちていると。
「アマリリスを迎えに行った少し前、カルロがアマリリスの存在と、その居場所を予見した。俺はすぐさま状況確認のために王家の影を派遣した」
そうして持ち帰られた悲惨な報告内容に、アデルバートは怒りに打ち震えた。
直ちに偵察時に仕込んだ転移の魔法陣より出撃し、アマリリスの救出へと向かった。
「そしてあの日、ようやく君を救い出すことができたんだ」
「アデル様……私を見つけてくれて、ありがとうございます」
アデルバートの手を取り、柔らかく微笑むアマリリス。
アデルバートはフッと笑みを漏らすと、愛しい人の唇に触れるだけのキスを落とした。
――あの日、念願叶って再び巡り会ったアマリリスは、ひどく痩せこけ、美しい肌も、髪も、瞳も荒んでいた。アデルバートは燃えるような怒りを覚えたが、同時に何世代にも渡って、ようやくアマリリスと出会えたことに、今度こそ彼女を救い出せることに、血が沸騰するかのごとく歓喜した。
アマリリスを虐げた家族も、かつて竜王の番を攫って囲った国も許すつもりはなかった。
アマリリスは知らない。そして知る必要もない。
すでにこの世界の地図から、祖国が消え失せていることを――
アマリリスは、竜王陛下の唯一の番として、エクセリヴァーグ帝国の王妃となった。
そして今、彼女のお腹には、愛しい人の血を引く新しい生命が宿っている。
アマリリスの心は今、幸せに満ちていた――
――――――――――
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
本作は、『相手にした行いが全て自分に還ってくる薬』によって、虐げられヒロインが受けた非道な行いが暴かれる、という着想から短編にまとめてみました。ヒロインが直接的に暴力を受けるシーンが辛くて書けない作者なりに考えた回避策?でもあります。
拙作において残虐なシーンはあまり書いてこなかった(書けない…)のですが、アデルバートも狂愛じみてしまい、かなりダークなお話になってしまいました。。。
ハッピーエンド……?
お気軽に感想などいただけると嬉しいです!
ありがとうございました!
アマリリスも例外ではなく、成人を迎えた今、牢に繋がれていた頃とは比べ物にならないほどに美しく光り輝いていた。
そんなアマリリスを優しく見つめ、手を差し出す者がいた。
アマリリスを牢から救い出し、明るい未来を与えてくれた人――エクセリヴァーグ帝国の竜王アデルバート。
アマリリスが帝国へと救い出されて二年が経過していた。
しっかりと食事を摂れるようになり、睡眠も十分に取れている。これまでの遅れを取り戻すように勉学にも励んでグングン知識を吸収していった。何より、彼女を愛し敬うアデルバートの存在に支えられ、アマリリスは見違えるほど明るく、美しくなっていた。
そして今、二人は肩を寄せ合い、アマリリスはアデルバートが語る話に耳を傾けている。
「少し、昔話を聞いてくれるか?」
「はい、もちろんです」
いったい何を話そうとしているのだろう。
アマリリスはこてんと首を傾げてアデルバートの言葉を待つ。
そんな彼女の仕草に、アデルバートは優しく微笑み、頭をポンポンと撫でてから静かに語り始めた。
「始祖の竜王には、かけがえのない番がいた。互いに愛し愛され、敬い合っていた――」
それは、この国の始まりの物語。
――太古の時代、二人の竜人が国を興した。
二人は唯一無二の番であり、子宝にも恵まれた。
国は栄え、後世まで安泰だと謳われていたが――美しき王妃に魅了された異国の男によって、竜王は最愛の妻を攫われた。
命尽きるまで妻の行方を探し続けたが、ついには再会を果たすことができなかった。
アデルバートもまた、竜人の先祖返りであった。
竜王の記憶を受け継ぎ、何年もの間、引き裂かれた最愛の人を探し続けていた。
彼は直感していた。彼女も同じく、再びこの世に生まれ落ちていると。
「アマリリスを迎えに行った少し前、カルロがアマリリスの存在と、その居場所を予見した。俺はすぐさま状況確認のために王家の影を派遣した」
そうして持ち帰られた悲惨な報告内容に、アデルバートは怒りに打ち震えた。
直ちに偵察時に仕込んだ転移の魔法陣より出撃し、アマリリスの救出へと向かった。
「そしてあの日、ようやく君を救い出すことができたんだ」
「アデル様……私を見つけてくれて、ありがとうございます」
アデルバートの手を取り、柔らかく微笑むアマリリス。
アデルバートはフッと笑みを漏らすと、愛しい人の唇に触れるだけのキスを落とした。
――あの日、念願叶って再び巡り会ったアマリリスは、ひどく痩せこけ、美しい肌も、髪も、瞳も荒んでいた。アデルバートは燃えるような怒りを覚えたが、同時に何世代にも渡って、ようやくアマリリスと出会えたことに、今度こそ彼女を救い出せることに、血が沸騰するかのごとく歓喜した。
アマリリスを虐げた家族も、かつて竜王の番を攫って囲った国も許すつもりはなかった。
アマリリスは知らない。そして知る必要もない。
すでにこの世界の地図から、祖国が消え失せていることを――
アマリリスは、竜王陛下の唯一の番として、エクセリヴァーグ帝国の王妃となった。
そして今、彼女のお腹には、愛しい人の血を引く新しい生命が宿っている。
アマリリスの心は今、幸せに満ちていた――
――――――――――
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
本作は、『相手にした行いが全て自分に還ってくる薬』によって、虐げられヒロインが受けた非道な行いが暴かれる、という着想から短編にまとめてみました。ヒロインが直接的に暴力を受けるシーンが辛くて書けない作者なりに考えた回避策?でもあります。
拙作において残虐なシーンはあまり書いてこなかった(書けない…)のですが、アデルバートも狂愛じみてしまい、かなりダークなお話になってしまいました。。。
ハッピーエンド……?
お気軽に感想などいただけると嬉しいです!
ありがとうございました!
52
お気に入りに追加
232
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~
ハートリオ
恋愛
38才偽修道女…
恋や結婚とは無縁だと納得して生きて来たのに今更皇帝陛下にプロポーズされても困ります!!
☆☆
30年前、8才で修道院に預けられ、直後記憶を失くした為自分が誰かも分からず修道女の様に生きて来たアステリスカス。
だが38才の誕生日には修道院を出て自分を修道院に預けた誰かと結婚する事になる――と言われているが断るつもりだ。
きっと罰せられるだろうし、修道院にはいられなくなるだろうし、38才後の未来がまるで見えない状態の彼女。
そんなある夜、銀色の少年の不思議な夢を見た。
銀髪銀眼と言えばこの世に一人、世界で最も尊い存在、カード皇帝陛下だけだ。
「運命を…
動かしてみようか」
皇帝に手紙を出したアステリスカスの運命は動き始め、自分の出自など謎が明らかになっていくのと同時に、逆に自分の心が分からなくなっていき戸惑う事となる。
この世界で38才は『老女』。
もはや恋も結婚も無関係だと誰もが認識している年齢でまさかの皇帝からのプロポーズ。
お世継ぎ問題がまるで頭に無い皇帝は諦める気配がなく翻弄される中で自分の心と向き合っていく主人公は最後に――
完結済み、
1~5章が本編で、
6章はこぼれ話的な感じで、テネブラエ公話が少しと、アザレア&レケンス姉弟(主にレケンス)話です。
*暴力表現、ラブシーンを匂わせる表現があります。
*剣、ドレス、馬車の緩い世界観の異世界です。
*魔法が普通ではない世界です。
*魔法を使えた古代人の先祖返りは少数だが存在します。
精霊王の娘なのに婚約破棄されたので、護衛係兼幼馴染と一緒に国に帰ります。
北城らんまる
恋愛
「シェルレニア・ノーゼン。おまえに婚約破棄を言い渡す」
精霊王の娘シェルレニアは、友好関係にあるライゴン王国の王子ノウスと結婚するため、婚約者として王国の王城で暮らしていた。しかしノウス王子は平民の娘と浮気していて、シェルレニアは婚約破棄を言い渡されてしまう。シェルレニアや精霊王、はてや精霊自体を侮辱する発言を繰り返すノウス王子に、シェルレニアは傷つけられ、護衛係兼幼少時代の遊び相手であるザクロを連れて精霊王国に帰ることにした。話を聞いた精霊王は、怒り心頭。ライゴン王国に攻め入ることを決意する──
帰国後、傷心するシェルレニアに、シェルレニアを秘かに想うザクロが口にしたこととは……?
※数年前に投稿していた短編小説を大幅改稿・加筆しています。
※全6話
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ご感想ありがとうございます!
そうなのです、彼は始祖の竜の記憶も引き継いでいるので、よりアマリリスへの執着が激しいのです。
アマリリスには今のところ記憶は引き継がれておりませんが、何かのきっかけで蘇るかもしれませんね。でもきっと辛い記憶もあると思うので、今のままの方が幸せなのかも…
お気持ち分かります。
辛い事件を見るたびに心がギュッと苦しくなります。
私の作品ではこれまでになかったダークなお話になったので、スッキリいただけたとのことで良かったです!