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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part37 凶刃と凶弾と凶拳と/黒い方舟・転移する影

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 それはまさに見えざる檻である。
 一見すると何も無いかのように見える。だがヘリという形態すらからも遠ざかったそれは小型の静音ローターを無数に装着し徹底した光学ステルスを施した長方形の箱型のシルエットをしていた。
 通称『黒い方舟』
 それにより運ばれるのは人間ではない。
 サイボーグとすら呼べない。
 武装警官部隊盤古、情報戦特化小隊第2小隊。

――人間を辞めた連中――

 そう侮蔑される者たち。 
 それは横須賀のとある秘匿施設から離陸すると静かに音もなく、東京アバディーンの方角へと進行を開始した。
 黒い方舟――、その中に何があるのか。知る者は皆無である。
 
 
 @     @     @
 
 
 そして――、同時刻、横浜の南本牧のコンテナターミナル。
 かつて、アトラスやセンチュリーたちが武装暴走族を相手に過酷な戦闘を展開したあの地に佇む2つのシルエットがあった。
 一人は人間――、ロングコートとスーツ姿の長髪の日本人だ。
 もう一人は全身をフード付きマントで覆った身長2m程の巨大な人形シルエット。
 彼らは頭上を見上げていた。人間の肉眼では見えないはずの〝黒い方舟〟を確かにその目で捉えていたのだ。
 スーツ姿の彼は頭上を仰ぎ、特殊センサーフィルターの仕込まれたふちなしメガネを通じて空を仰いでいた。電子装置的な光学処理が施されたそのレンズには確かに黒い方舟のシルエットが映っているらしい。
 
「〝連中〟まで投入するとはな、それほどまでにあの土地が憎いらしい」

 彼は黒い方舟を視認すると一人で勝手に納得するかのように軽く頷き、そして歩きだし傍らの巨躯へと語りかけたのだ。

「行くぞ。バルバトス――、弟たちに挨拶だ」

 問いかけに対して声では答えなかったが、明らかにその声に反応してスーツ姿の男の後を追って歩き出したのだ。
 
「バルバトス、〝転移開始〟」

 男がそう命じるとフード付きマントのシルエットは微かな電子音を奏でる。そして彼らの歩く先の空間に直方体の光の檻を浮かび上がらせたのである。そして、二人自らその光の檻へと足を踏み入れる。そののち、光の檻の中へと完全に入り込むと、光の檻の中の空間と映像はノイズまみれのモニター画像のように瞬く間に掻き消えていく。
 そして、いつしか姿をすっかり消すと同時に、光の檻は僅かな残渣すらも残さずに霧散せしめたである。
 彼らが何者なのか、知る者は居ない。
 後には無人のコンテナターミナルだけが残されたのである。
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