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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part36 死の道化師・黒の巨人/新たなるプレイヤー
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「アナ! タブレット消して!!」
「え?」
ロングソファに寝そべって大型のタブレットで東京アバディーンの様相を垣間見ていたメガネルックの女性のアナだったが、それに対して鋭く叫んだプラチナブロンドのゾラだった。アナの手にしていたタブレットを蒼白の表情で見つめると慌てて駆け寄ってくる。
「ちょ――なに?」
アナが驚きの声をあげるが、それに構わずゾラはタブレットに映し出されていた光景をじっと見つめていた。そして――
「まずい!」
タブレットをおもむろに取り上げると、勢い良く床へと叩きつけたのである。
――ガッ!!――
叩きつけた瞬間にタブレットのプラズマディスプレイがひび割れ、内部基盤が火花をちらして砕け散った。無論、作動はできず一瞬にしてオシャカである。
「ちょっと何す――」
アナが抗議の声を上げる。だが反対に激高したのはゾラの方であった。
「アナ! 誰に見られてたかわかってるの? 浮かれるにも程があるわよ!」
「え?」
「〝クラウン〟知ってるでしょ?」
「知ってる――。けど、まさか?」
「〝あそこ〟に居たのよ。そしてこっちを見てたの! あいつと神の雷なら逆探知されかねない。それにモニターごしにまともに視線がかち合ったの。こっちの存在に気づいた可能性は極めて高いわ。なにしろアイツは――」
「そっか、そうだったね」
はじめは興奮してまくし立てていたゾラだったが、徐々に落ち着きを取り戻し、冷静に分析を加えている。そして、アナも右手を口元に当てる仕草をしながら冷静に状況判断をはじめていたのだ。抑揚を抑えた落ち着いた声で答えた。
「移動しよう。〝印し〟を付けられた可能性が高い」
「えぇ、私もそう思う」
「じゃ、早速準備しよう――エルサス!」
アナが何者かの名をよびかける。その声に導かれて姿を表したのは一体の男性型の黒人風の容貌を持ったアンドロイドだった。肌は褐色系、髪はプラチナブロンド――、190程の身長のボディを三つ揃えのトラディショナルスーツで包んでいる。足元には高級革靴を履き、両手には鋲付きの革グローブが嵌められている。
「お呼びでしょうか? マスター」
「ここを引き払うわ。予備の拠点に移動する。3分で準備して」
「かしこまりました。2分でお支度いたします。サーヴァントのメイドロイドにも補助させますのでお二人のお着替えもご準備いたします。少々お待ちを」
慇懃にうやうやしく上体を屈めて会釈をすると、体内無線で指示を出したのだろう。どこからか姿を表したメイドスタイルの女性型アンドロイドたちを駆使して速やかに退去準備を始めたのだ。そしてアナにゾラにそれぞれ1体のメイドロイドが歩み寄り、二人の着替えを補助し始める。その手際、まさに精密機械がごとしで瞬く間に部屋着のドレスから外出用の女性用ビジネススーツへと姿を変えていく。
その最中、テーブルの上に置いてあったスマートフォンが鳴った。
執事アンドロイドのエルサスがそれを採りスイッチを操作する。
「ハロー? ――イエス、少々お待ちを」
そしてスマートフォンを持参してゾラの耳へと添っとあてがう。その通話の主の名を彼女は唱えた。
〔サイラス?〕
〔やぁ、久しぶりだねミス・ゾラ〕
〔どうしたのこんな夜更けに? そっちは朝日が登ったばかりでしょ?〕
〔いや、NYじゃないよ。僕もこっちに来てるんだ。ビジネスの所用でね――、そしたら色々と面白い連中が姿を表したっていうじゃないか。いるんだろう? あの〝ピエロ〟〕
ピエロ――それが何を意味するか知らないゾラではない。
〔えぇ、居るわよ。絶賛暗躍中。あの海の上のスラムでさっきから何かやってるわ。それにあなたが一番手こずってる相手ですものね〕
〔あぁ、そのとおりさ。やつは僕らのビジネスには余りにも邪魔過ぎる。それに日本のポリスも存外に〝高性能な駒〟を造ってるじゃないか。このままでは僕らにとって面白くない結末を迎えるだろうね。だからちょっとしたジョーカーを切ることにした。君たちは知らない存在だが、なかなかにユニークだ。それに大変優秀でね〕
〔サイラス。誰のことを言ってるの?〕
サイラスの意味深なセリフの連続に訝るゾラだったが、サイラスは重要なキーワードをスマートフォン越しに送ってきた。
〔――Lost B――、世の中って本当に面白いよ。人生を楽しくさせてくれる最高のゲームだ。あの薄汚れた洋上のチェス盤で僕も駒を進めることにしたよ。名付けるなら〝黒い巨人〟と言うべきかな〕
〔黒い巨人? なにそれ?〕
〔いずれ解るよ。それとそこを引き払うんだろう? よかったら僕のところに来ないか? 美女二人が来てくれるなら大歓迎さ〕
ゾラは一瞬、緊張を強いられた。ゾラとアナが退去を決めたのはついさっきだ。それをいつの間に知ったというのだろうか? それを皮肉交じりに嫌味を告げた。
〔サイラス! 覗き見は嫌われるわよ!〕
〔ハハッ、全部を覗いたわけじゃない。エルサスの行動ログの一部を眺めただけさ。君のシャワーシーンは見てないから安心してくれ。そちらに迎えを送るからサイラスのアドバイスに従ってくれ。それじゃ――〕
通話の相手であるサイラスは言うだけ言うと、一方的に通話を切ってしまった。その横暴さにため息をつきながらも今回は大人しく従うことにした。エルサスも絶妙なタイミングで〝迎え〟の来訪を告げてくる。
「ゾラ様。アナ様。サイラス様からのお迎えがいらしたそうです」
「えぇ、わかったわ。貴方はサーヴァントたちを連れて別動でついてきて」
「承知しました」
会話を終える頃には着替えも退去準備も終わったところである。
「行くよゾラ」
アナも着替え終えて歩き始めていた。
「サイラスからの迎えだろ?」
「えぇ、美女二人を迎えたいそうよ」
ゾラも歩きはじめる。二人の必要荷物はエルサスとメイドロイドが運んでいる。
「美女二人ねぇ――、アタシらなんか眼中にない癖にさ。だってアイツ、病的なロリコンじゃん!」
アナが忍び笑いをする。ゾラも否定しない。
「そうねアタシみたいに身長の高い女は、アイツも一番キライだからね。アタシも生身の男は嫌いなの。ね? アナ?」
そう囁きながらゾラはアナの右手を自らの左手で握った。アナもそれを握り返して答え返す。アナの口元が淫猥に歪んだ。
「分かってるよ。あとでたっぷり可愛がってあげるからさ。さ、行くよ――」
そんなやりとりを残しながら二人はそこから立ち去っていった。後にはなんの痕跡も残さなかったのである。
「え?」
ロングソファに寝そべって大型のタブレットで東京アバディーンの様相を垣間見ていたメガネルックの女性のアナだったが、それに対して鋭く叫んだプラチナブロンドのゾラだった。アナの手にしていたタブレットを蒼白の表情で見つめると慌てて駆け寄ってくる。
「ちょ――なに?」
アナが驚きの声をあげるが、それに構わずゾラはタブレットに映し出されていた光景をじっと見つめていた。そして――
「まずい!」
タブレットをおもむろに取り上げると、勢い良く床へと叩きつけたのである。
――ガッ!!――
叩きつけた瞬間にタブレットのプラズマディスプレイがひび割れ、内部基盤が火花をちらして砕け散った。無論、作動はできず一瞬にしてオシャカである。
「ちょっと何す――」
アナが抗議の声を上げる。だが反対に激高したのはゾラの方であった。
「アナ! 誰に見られてたかわかってるの? 浮かれるにも程があるわよ!」
「え?」
「〝クラウン〟知ってるでしょ?」
「知ってる――。けど、まさか?」
「〝あそこ〟に居たのよ。そしてこっちを見てたの! あいつと神の雷なら逆探知されかねない。それにモニターごしにまともに視線がかち合ったの。こっちの存在に気づいた可能性は極めて高いわ。なにしろアイツは――」
「そっか、そうだったね」
はじめは興奮してまくし立てていたゾラだったが、徐々に落ち着きを取り戻し、冷静に分析を加えている。そして、アナも右手を口元に当てる仕草をしながら冷静に状況判断をはじめていたのだ。抑揚を抑えた落ち着いた声で答えた。
「移動しよう。〝印し〟を付けられた可能性が高い」
「えぇ、私もそう思う」
「じゃ、早速準備しよう――エルサス!」
アナが何者かの名をよびかける。その声に導かれて姿を表したのは一体の男性型の黒人風の容貌を持ったアンドロイドだった。肌は褐色系、髪はプラチナブロンド――、190程の身長のボディを三つ揃えのトラディショナルスーツで包んでいる。足元には高級革靴を履き、両手には鋲付きの革グローブが嵌められている。
「お呼びでしょうか? マスター」
「ここを引き払うわ。予備の拠点に移動する。3分で準備して」
「かしこまりました。2分でお支度いたします。サーヴァントのメイドロイドにも補助させますのでお二人のお着替えもご準備いたします。少々お待ちを」
慇懃にうやうやしく上体を屈めて会釈をすると、体内無線で指示を出したのだろう。どこからか姿を表したメイドスタイルの女性型アンドロイドたちを駆使して速やかに退去準備を始めたのだ。そしてアナにゾラにそれぞれ1体のメイドロイドが歩み寄り、二人の着替えを補助し始める。その手際、まさに精密機械がごとしで瞬く間に部屋着のドレスから外出用の女性用ビジネススーツへと姿を変えていく。
その最中、テーブルの上に置いてあったスマートフォンが鳴った。
執事アンドロイドのエルサスがそれを採りスイッチを操作する。
「ハロー? ――イエス、少々お待ちを」
そしてスマートフォンを持参してゾラの耳へと添っとあてがう。その通話の主の名を彼女は唱えた。
〔サイラス?〕
〔やぁ、久しぶりだねミス・ゾラ〕
〔どうしたのこんな夜更けに? そっちは朝日が登ったばかりでしょ?〕
〔いや、NYじゃないよ。僕もこっちに来てるんだ。ビジネスの所用でね――、そしたら色々と面白い連中が姿を表したっていうじゃないか。いるんだろう? あの〝ピエロ〟〕
ピエロ――それが何を意味するか知らないゾラではない。
〔えぇ、居るわよ。絶賛暗躍中。あの海の上のスラムでさっきから何かやってるわ。それにあなたが一番手こずってる相手ですものね〕
〔あぁ、そのとおりさ。やつは僕らのビジネスには余りにも邪魔過ぎる。それに日本のポリスも存外に〝高性能な駒〟を造ってるじゃないか。このままでは僕らにとって面白くない結末を迎えるだろうね。だからちょっとしたジョーカーを切ることにした。君たちは知らない存在だが、なかなかにユニークだ。それに大変優秀でね〕
〔サイラス。誰のことを言ってるの?〕
サイラスの意味深なセリフの連続に訝るゾラだったが、サイラスは重要なキーワードをスマートフォン越しに送ってきた。
〔――Lost B――、世の中って本当に面白いよ。人生を楽しくさせてくれる最高のゲームだ。あの薄汚れた洋上のチェス盤で僕も駒を進めることにしたよ。名付けるなら〝黒い巨人〟と言うべきかな〕
〔黒い巨人? なにそれ?〕
〔いずれ解るよ。それとそこを引き払うんだろう? よかったら僕のところに来ないか? 美女二人が来てくれるなら大歓迎さ〕
ゾラは一瞬、緊張を強いられた。ゾラとアナが退去を決めたのはついさっきだ。それをいつの間に知ったというのだろうか? それを皮肉交じりに嫌味を告げた。
〔サイラス! 覗き見は嫌われるわよ!〕
〔ハハッ、全部を覗いたわけじゃない。エルサスの行動ログの一部を眺めただけさ。君のシャワーシーンは見てないから安心してくれ。そちらに迎えを送るからサイラスのアドバイスに従ってくれ。それじゃ――〕
通話の相手であるサイラスは言うだけ言うと、一方的に通話を切ってしまった。その横暴さにため息をつきながらも今回は大人しく従うことにした。エルサスも絶妙なタイミングで〝迎え〟の来訪を告げてくる。
「ゾラ様。アナ様。サイラス様からのお迎えがいらしたそうです」
「えぇ、わかったわ。貴方はサーヴァントたちを連れて別動でついてきて」
「承知しました」
会話を終える頃には着替えも退去準備も終わったところである。
「行くよゾラ」
アナも着替え終えて歩き始めていた。
「サイラスからの迎えだろ?」
「えぇ、美女二人を迎えたいそうよ」
ゾラも歩きはじめる。二人の必要荷物はエルサスとメイドロイドが運んでいる。
「美女二人ねぇ――、アタシらなんか眼中にない癖にさ。だってアイツ、病的なロリコンじゃん!」
アナが忍び笑いをする。ゾラも否定しない。
「そうねアタシみたいに身長の高い女は、アイツも一番キライだからね。アタシも生身の男は嫌いなの。ね? アナ?」
そう囁きながらゾラはアナの右手を自らの左手で握った。アナもそれを握り返して答え返す。アナの口元が淫猥に歪んだ。
「分かってるよ。あとでたっぷり可愛がってあげるからさ。さ、行くよ――」
そんなやりとりを残しながら二人はそこから立ち去っていった。後にはなんの痕跡も残さなかったのである。
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