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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part33 天へ……天から……/フィールを生み出す者たち
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そして地上では、新たな『魂の器』が創り起こされようとしていた。
すなわちフィールのために用意された新筐体――新ボディの建造である。
とは言え、全くのゼロからの作り起こしではない。ある程度の作り込みはすでになされていて、あとは中枢部の移設を行い、周辺システムと接続、そして準備済みの各パーツを接続するだけであった。
新筐体作成の指揮を執るは五条枝里だ。
「各パーツチェックリストはOKね。かすみ接続状況は?」
「内部単純化インナーフレームは構築完了、事前に準備しておいた柔構造外骨格との接続も完了、内部メカニズムは多班のあんちゃんたちの手伝いで繋ぎ終わったからあとは中枢部を接続してシステムチェック。その後に上半身と頸部と頭部を完成させて外装チェックして完了やな」
「道半ばってところね」
「いや、六合目くらいは過ぎたやろ。あとはあっち待ちや」
そう告げつつ指差す先には桐原と布平たちが指揮する旧筐体からの中枢部摘出作業が佳境を迎えようとしていた。
すでにフィールの旧筐体はほとんど分解され、内部メカニズムだけになっていた。それも中枢部の機能維持に最低限必要な部分だけであり、中枢頭脳と人工脊髄、そして付随する生命維持装置と外部から供給されている動力のみとなっていた。その中枢頭脳には大規模外部回線へと繋がる超高速通信ケーブルがつながれている。これが専用国際回線を通じて遠く英国のケンブリッジ、ガドニック教授のいるエバーグリーン機関へと接続されているのである。
実作業の指示を出していた桐原が布平に告げた。
「しのぶ、中枢システムの摘出、一通り終わったわよ」
「オーケィ、モニタリングデータも順調、基礎アイドルスピンドルシグナルは問題なく安定してるわ。今はガドニック教授の所で寝ている状態ね。あとは――あっちに移動させて接続すればOKよ。枝里! そっちは?」
「受け入れ準備は済んでるわ。いつでも良いわよ」
「よし、それじゃ行くわよ」
すべての準備が整い、この作業の確信となる部分へと突入する。
【中枢ユニット部取り付け接続オペレーション】
最も最新の注意が必要で一切のミスが許されないもっとも重要な部分だ。一つでも間違いがあれば、フィールは復活することはできないのだ。その緊張を皆にもたらすために布平はあえて鋭い声で全員に宣言した。
「ここから接続完了までの指揮は私が採ります。それではこれより接続オペレーションを開始します!」
「はい!」
布平の声に皆が一斉に頷いていた。全てはフィールをよみがえらせるため。その思いだけのためにこの場にいる全員が意思を一つにしていたのだ。そして、オペレーションは開始されたのである。
@ @ @
だがその傍らで黙々と独自の作業に没頭している人々が居た。
市野が率いているD班のメンバーと金沢ゆきであった。金沢がおこなっているのは新しいフィールの外見部の最終的な調整と仕上げ作業の準備だった。手足と胴体部の一部はすでに施工作業を終えていたが、それ以外は中枢部の接続を終えて柔構造外骨格の基礎的な構築が終わらないと、金沢たちの作業を開始することができない。
そのため今は作業がいつでもはじめられるように、必要な基礎材料を用意し、準備する事に専念するだけである。
金沢はD班のメンバーたちと打ち合わせをしていた。
「それで顔面部の人工皮膚の最終仕上げはこれで完了ってことですね」
「はい、植毛から微細な皺の加工まで全てOKです。あとは新しい身体に貼り付けるだけです」
「柔構造外骨格の基礎メッシュへの溶着加工もいつでもいけますよ」
「顔面の内部表情筋との接続もOKですよね?」
「はい、すぐに行けます」
「あとは胴体部や頸部での貼り合わせ部の縁(へり)の部分よね。それはフローラでやってもらってるし――あとはあそこかぁ」
D班のメンバーとの打ち合わせの中で金沢は難しそうに思案している。D班の一人が金沢に問いかける。
「あそことは?」
その問いに金沢は自分の胸を指し示した。
「あぁ、それ? ここ。おっぱい」
「は?」
あまりにあっけらかんとあけすけな言葉に戸惑いと驚きを露わにせずには居られなかった。集まっているのは男性だけでなく女性も居たが、意外にも女性スタッフは金沢の思案の理由をはっきりと理解していたのだ。
「確かにそこは考えどころですよね。フィールの女性としての感性を尊重するなら大きくしてあげたいけど、そうすると重量の問題が出ますよね」
「えぇ、そうなのよ。できればEは無理でもDくらいにはしてあげたいけど、そうすると他の装備とのバランスや2次武装体との兼ね合いもあるし、内部に何を詰めるかって問題もあるし、今回は超電導バッテリーを入れるって聞いたから、高耐久シリコン系のクッション素材を入れたげて――とりあえずBかな。本人が不満に思ったら足してあげればいいし」
「ちなみに今までは?」
「今まで? あぁAよ。クッションもなにも基礎パネルそのままだったの。今回はじめて全身を人工皮膚で処理することになるから手抜きしないで丁寧にやってあげないとね。あっ! そうだ――」
そこで金沢は男性メンバーに対してにこやかに笑いながらこう告げたのだ。
「首から下の施行は女性だけでやりますから男性の方はご遠慮してくださいね。特に腰から下の部分の処理は――、これでもフィール、細かい所をけっこう気にするんで」
当然と言えば当然の指示だった。それに異を唱える男性たちは存在しない。むしろ関わるなと言わんばかりにその場に居合わせた女性メンバー全員が鋭い視線で頷いていたのは気のせいではなかったのである。
全ての工程は佳境へとさしかかっていた。
取り出された中枢部が移設され、所定の位置へとセットされる。マイクロサージャリー並みの細かな作業の後にモニターに表示されているステータスデータを、一つ一つ現物と照らし合わせながら最終確認を続けていく。脊髄、辺縁系、頭蓋内各部視聴覚系、随意運動機能系、内部外部表情筋系、特殊機能系――それらを丹念かつ速やかに粛々と作業は進められて行く。
無数に存在するチェック項目は一つまた一つと埋められてゆき、一時間近くが経過する頃にはほぼすべての項目が埋まっていた。そして布平は力強く宣言したのである。
「よしっ、最終接続全て完了、異常箇所は無しね。オールグリーンよ!」
高らかに作業の成功を告げれば、その場の全員に安堵の空気が流れていたのだ。
「あとは外骨格構造を構築して外皮構造を施行、最終的な外見の処理をゆきにやってもらってこれ完了ね。ゆき!」
「はい!」
「ここから先はお願いね。フィールのこと美人にしてあげてね」
「もちろんです!」
柔構造外骨格を含む基礎構造部の作業は一ノ原が指揮をする。強度を確認しながら各パーツを組み上げていく。瞬く間に女性型のシルエットが構築されていくが、人工皮膚が施工されてい居ないところは内部の人工筋肉や基礎パネルとなるバイオプラスチックのパネルがむき出しとなっていた。
その機械然とした外見を、金沢が指揮する外見部の担当スタッフが、フィールの醜美の要となる部分を丹念かつ丁寧に処置して施行をすれば全ての作業は完了である。
新筐体組み上げ開始から実に8時間近い時が流れようとしていた。時間的にはすでに早朝と言える時間にまで到達している。順調に行けば、朝日が上がりきる頃にはフィールは新しい身体で目覚めるはずなのだ。
今、作業用のメンテナンスベッドの上では、真新しい身体でフィールが横たわっている。そしてその体の上には純白のシーツがかけられている。その姿にはそれまでのフィールにあったいかにも機械然としたアクセのようなパーツが何一つ見られない。濃い栗色の髪はナチュラルなごく自然なものであり、血色の良い肌の色は生身のものとは何ら変わることがない。まぶたに植えられたまつげも。薄っすらと赤みのさす唇も、何一つごく普通の人間と変わることは無かった。
これこそがF班の5人が目指したモノであった。すなわち――
――リアルヒューマノイドコンセプト――
――より人間らしい存在としてのアンドロイド。その答えがここにあったのだ。
すなわちフィールのために用意された新筐体――新ボディの建造である。
とは言え、全くのゼロからの作り起こしではない。ある程度の作り込みはすでになされていて、あとは中枢部の移設を行い、周辺システムと接続、そして準備済みの各パーツを接続するだけであった。
新筐体作成の指揮を執るは五条枝里だ。
「各パーツチェックリストはOKね。かすみ接続状況は?」
「内部単純化インナーフレームは構築完了、事前に準備しておいた柔構造外骨格との接続も完了、内部メカニズムは多班のあんちゃんたちの手伝いで繋ぎ終わったからあとは中枢部を接続してシステムチェック。その後に上半身と頸部と頭部を完成させて外装チェックして完了やな」
「道半ばってところね」
「いや、六合目くらいは過ぎたやろ。あとはあっち待ちや」
そう告げつつ指差す先には桐原と布平たちが指揮する旧筐体からの中枢部摘出作業が佳境を迎えようとしていた。
すでにフィールの旧筐体はほとんど分解され、内部メカニズムだけになっていた。それも中枢部の機能維持に最低限必要な部分だけであり、中枢頭脳と人工脊髄、そして付随する生命維持装置と外部から供給されている動力のみとなっていた。その中枢頭脳には大規模外部回線へと繋がる超高速通信ケーブルがつながれている。これが専用国際回線を通じて遠く英国のケンブリッジ、ガドニック教授のいるエバーグリーン機関へと接続されているのである。
実作業の指示を出していた桐原が布平に告げた。
「しのぶ、中枢システムの摘出、一通り終わったわよ」
「オーケィ、モニタリングデータも順調、基礎アイドルスピンドルシグナルは問題なく安定してるわ。今はガドニック教授の所で寝ている状態ね。あとは――あっちに移動させて接続すればOKよ。枝里! そっちは?」
「受け入れ準備は済んでるわ。いつでも良いわよ」
「よし、それじゃ行くわよ」
すべての準備が整い、この作業の確信となる部分へと突入する。
【中枢ユニット部取り付け接続オペレーション】
最も最新の注意が必要で一切のミスが許されないもっとも重要な部分だ。一つでも間違いがあれば、フィールは復活することはできないのだ。その緊張を皆にもたらすために布平はあえて鋭い声で全員に宣言した。
「ここから接続完了までの指揮は私が採ります。それではこれより接続オペレーションを開始します!」
「はい!」
布平の声に皆が一斉に頷いていた。全てはフィールをよみがえらせるため。その思いだけのためにこの場にいる全員が意思を一つにしていたのだ。そして、オペレーションは開始されたのである。
@ @ @
だがその傍らで黙々と独自の作業に没頭している人々が居た。
市野が率いているD班のメンバーと金沢ゆきであった。金沢がおこなっているのは新しいフィールの外見部の最終的な調整と仕上げ作業の準備だった。手足と胴体部の一部はすでに施工作業を終えていたが、それ以外は中枢部の接続を終えて柔構造外骨格の基礎的な構築が終わらないと、金沢たちの作業を開始することができない。
そのため今は作業がいつでもはじめられるように、必要な基礎材料を用意し、準備する事に専念するだけである。
金沢はD班のメンバーたちと打ち合わせをしていた。
「それで顔面部の人工皮膚の最終仕上げはこれで完了ってことですね」
「はい、植毛から微細な皺の加工まで全てOKです。あとは新しい身体に貼り付けるだけです」
「柔構造外骨格の基礎メッシュへの溶着加工もいつでもいけますよ」
「顔面の内部表情筋との接続もOKですよね?」
「はい、すぐに行けます」
「あとは胴体部や頸部での貼り合わせ部の縁(へり)の部分よね。それはフローラでやってもらってるし――あとはあそこかぁ」
D班のメンバーとの打ち合わせの中で金沢は難しそうに思案している。D班の一人が金沢に問いかける。
「あそことは?」
その問いに金沢は自分の胸を指し示した。
「あぁ、それ? ここ。おっぱい」
「は?」
あまりにあっけらかんとあけすけな言葉に戸惑いと驚きを露わにせずには居られなかった。集まっているのは男性だけでなく女性も居たが、意外にも女性スタッフは金沢の思案の理由をはっきりと理解していたのだ。
「確かにそこは考えどころですよね。フィールの女性としての感性を尊重するなら大きくしてあげたいけど、そうすると重量の問題が出ますよね」
「えぇ、そうなのよ。できればEは無理でもDくらいにはしてあげたいけど、そうすると他の装備とのバランスや2次武装体との兼ね合いもあるし、内部に何を詰めるかって問題もあるし、今回は超電導バッテリーを入れるって聞いたから、高耐久シリコン系のクッション素材を入れたげて――とりあえずBかな。本人が不満に思ったら足してあげればいいし」
「ちなみに今までは?」
「今まで? あぁAよ。クッションもなにも基礎パネルそのままだったの。今回はじめて全身を人工皮膚で処理することになるから手抜きしないで丁寧にやってあげないとね。あっ! そうだ――」
そこで金沢は男性メンバーに対してにこやかに笑いながらこう告げたのだ。
「首から下の施行は女性だけでやりますから男性の方はご遠慮してくださいね。特に腰から下の部分の処理は――、これでもフィール、細かい所をけっこう気にするんで」
当然と言えば当然の指示だった。それに異を唱える男性たちは存在しない。むしろ関わるなと言わんばかりにその場に居合わせた女性メンバー全員が鋭い視線で頷いていたのは気のせいではなかったのである。
全ての工程は佳境へとさしかかっていた。
取り出された中枢部が移設され、所定の位置へとセットされる。マイクロサージャリー並みの細かな作業の後にモニターに表示されているステータスデータを、一つ一つ現物と照らし合わせながら最終確認を続けていく。脊髄、辺縁系、頭蓋内各部視聴覚系、随意運動機能系、内部外部表情筋系、特殊機能系――それらを丹念かつ速やかに粛々と作業は進められて行く。
無数に存在するチェック項目は一つまた一つと埋められてゆき、一時間近くが経過する頃にはほぼすべての項目が埋まっていた。そして布平は力強く宣言したのである。
「よしっ、最終接続全て完了、異常箇所は無しね。オールグリーンよ!」
高らかに作業の成功を告げれば、その場の全員に安堵の空気が流れていたのだ。
「あとは外骨格構造を構築して外皮構造を施行、最終的な外見の処理をゆきにやってもらってこれ完了ね。ゆき!」
「はい!」
「ここから先はお願いね。フィールのこと美人にしてあげてね」
「もちろんです!」
柔構造外骨格を含む基礎構造部の作業は一ノ原が指揮をする。強度を確認しながら各パーツを組み上げていく。瞬く間に女性型のシルエットが構築されていくが、人工皮膚が施工されてい居ないところは内部の人工筋肉や基礎パネルとなるバイオプラスチックのパネルがむき出しとなっていた。
その機械然とした外見を、金沢が指揮する外見部の担当スタッフが、フィールの醜美の要となる部分を丹念かつ丁寧に処置して施行をすれば全ての作業は完了である。
新筐体組み上げ開始から実に8時間近い時が流れようとしていた。時間的にはすでに早朝と言える時間にまで到達している。順調に行けば、朝日が上がりきる頃にはフィールは新しい身体で目覚めるはずなのだ。
今、作業用のメンテナンスベッドの上では、真新しい身体でフィールが横たわっている。そしてその体の上には純白のシーツがかけられている。その姿にはそれまでのフィールにあったいかにも機械然としたアクセのようなパーツが何一つ見られない。濃い栗色の髪はナチュラルなごく自然なものであり、血色の良い肌の色は生身のものとは何ら変わることがない。まぶたに植えられたまつげも。薄っすらと赤みのさす唇も、何一つごく普通の人間と変わることは無かった。
これこそがF班の5人が目指したモノであった。すなわち――
――リアルヒューマノイドコンセプト――
――より人間らしい存在としてのアンドロイド。その答えがここにあったのだ。
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