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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part33 天へ……天から……/フィールへの贈り物
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フィールのその求めにジュリアは頷いている。そしてそこに声をかけてきたのは誰であろう、アンジェだったのだ。
「フィールさん」
フィールがジュリアの方へと視線をむける。ジュリアは告げた。
「あなたに会えてよかった」
その言葉にマリーも頷いていた。
「願わくば、あなたにお願いがあるの」
「お願い?」
「えぇ」
ジュリアがフィールから身体を離すと、3人はフィールの下へと集まってくる。そして列を成すとフィールへと向けて、何事かを求めてきたのだ。
「あなたに救って欲しい人が居るの」
さらにアンジェが告げる。
「私達の妹――ローラを救けてほしいの」
ジュリアもフィールに求めていた。
「あの子はまだどこかで彷徨っているはず。あの子の力を求めて襲おうとする者がかならず居るはず。私たちはそれを危惧していた。あの子の力、知っているわよね?」
「はい、光の力――〝光圧〟ですね?」
フィールの答えにジュリアは頷いていた。
「あの力は出力と容量こそ未熟だが、根源的な原理は極めて高度なものだ。その原理的サンプルとしてあの子を捉えようとする輩はかならず居るはずなのだ。それを守ってやってほしいのだ」
「わたしが?」
「そうだ」
フィールが疑問の声を上げるがそこにきっぱりと告げたのはジュリアである。
「でもわたしはすでに死んでいて」
「それは違うわ」
フィールの疑問をさらに断ち切ったのはアンジェである。
「貴方はまだ地上へと戻れる可能性がある」
「私が?」
「えぇ、そうよ。貴方の頭へとつながっているその〝金色の糸〟――それはあなたの魂が貴方の肉体から切り離されていないことを示している。死している物はその糸は切れてしまうが、死に捕らわれていない者はその糸は何が起きても切れないのよ」
マリーが言葉を挟む。
「私達はすでに切れている。もう地上へとは戻れない」
その言葉に驚きみずからの頭上と、そしてジュリアたちの頭上をそれぞれに仰いでみる。フィールの頭上の糸は切れておらず、フィールが歩いてきた方向へとどこまでも続いている。かたやジュリアたちの頭上の糸はプッツリと切れ、虚しく漂っていた。その違いの意味をフィールは速やかに悟ったのである。
そして、フィールを労うようにジュリアが告げる。
「貴方は誤ってここへと来てしまったのよ。でも――、最後にあなたにもう一度会えて本当に良かった」
「そうね、これだけでも十分に〝救われたわ〟」
「もう思い残す事は無いわね」
「そうね」
ジュリアとアンジェが言葉を交わし、その隣でマリーが頷いていた。
そして3人はその手をフィールの両手へと差し出す。そこには異なる色で光り輝くものが存在していた。それをフィールへと渡そうとする。
「貴方にはこれをあげるわ。あなた脆すぎるもの」
苦笑しつつジュリアが渡した物、それは――
【頑丈さ】
「私はこれを――、あなたなら私の力を使いこなせるはずよ」
アンジェが満面の笑みで手渡して来た物。それは――
【雷】
「これを――」
シンプルな言葉でマリーが手渡してきた物。それは――
【業火】
その3つをフィールは受け取る。託されたそれを手放してはならない、そう確信したからだ。アンジェが告げた。
「それを、あなたが信じる物のために、そして、アタシたちの妹のローラを守るために使ってほしいの」
更にジュリアが続ける。
「そして願わくば、少しでも多くの人の命が救われることを願う」
最後にマリーが言う。
「寒さで振るえている世界中の子どもたちを、その力で温めてあげて」
それが悲しきマリオネットとしてこの世に生を受けた彼女たちが最後にたどり着いた思いに他ならなかったのだ。それを理解し、その力を受け継いだ時に――
――奇跡は起きる――
「あっ?」
不意に驚きの声を漏らしたのはフィールだ。彼女の両足が地面から離れたのだ。そして静かに空へと舞い上がっていく。ゆっくりと、そして着実に空へ、空へと、高みを増していく。その姿に3人は寂しそうに告げた。
ジュリアが微笑みながら告げる。
「負けるなよ」
アンジェが手を降っていた。
「あなたに会えて良かった」
マリーがその両手を組んで祈りを捧げるような仕草を示していた。
「アトラスと言ったかしら? あなたのお兄さんによろしくね」
そしてフィールは悟った。己がまだ〝死ぬべき時ではない〟と言うことに。
「みなさん!?」
天へ、天へと、高みは増していく。そして、フィールを見送る3人たちのシルエットは瞬く間に小さくなっていく。フィールは告げる。万感の思いを込めて。
「必ず――、必ず約束は果します! 必ず!」
もう二度と逢うことも無いだろう。その彼女たちに向けて叫べばアンジェたちはしっかりとうなずき返していた。そしてアンジェたちは歩きはじめていた。向かう先は新たなる生か、それとも贖罪の道か――、それは誰にもわからない。
フィールを動かす力は勢いを増していた。凄まじい力でまさに〝連れ戻されていた〟
濁流のような力に飲まれた時、フィールの意識は再び深い眠りへと落ちていったのである。
「フィールさん」
フィールがジュリアの方へと視線をむける。ジュリアは告げた。
「あなたに会えてよかった」
その言葉にマリーも頷いていた。
「願わくば、あなたにお願いがあるの」
「お願い?」
「えぇ」
ジュリアがフィールから身体を離すと、3人はフィールの下へと集まってくる。そして列を成すとフィールへと向けて、何事かを求めてきたのだ。
「あなたに救って欲しい人が居るの」
さらにアンジェが告げる。
「私達の妹――ローラを救けてほしいの」
ジュリアもフィールに求めていた。
「あの子はまだどこかで彷徨っているはず。あの子の力を求めて襲おうとする者がかならず居るはず。私たちはそれを危惧していた。あの子の力、知っているわよね?」
「はい、光の力――〝光圧〟ですね?」
フィールの答えにジュリアは頷いていた。
「あの力は出力と容量こそ未熟だが、根源的な原理は極めて高度なものだ。その原理的サンプルとしてあの子を捉えようとする輩はかならず居るはずなのだ。それを守ってやってほしいのだ」
「わたしが?」
「そうだ」
フィールが疑問の声を上げるがそこにきっぱりと告げたのはジュリアである。
「でもわたしはすでに死んでいて」
「それは違うわ」
フィールの疑問をさらに断ち切ったのはアンジェである。
「貴方はまだ地上へと戻れる可能性がある」
「私が?」
「えぇ、そうよ。貴方の頭へとつながっているその〝金色の糸〟――それはあなたの魂が貴方の肉体から切り離されていないことを示している。死している物はその糸は切れてしまうが、死に捕らわれていない者はその糸は何が起きても切れないのよ」
マリーが言葉を挟む。
「私達はすでに切れている。もう地上へとは戻れない」
その言葉に驚きみずからの頭上と、そしてジュリアたちの頭上をそれぞれに仰いでみる。フィールの頭上の糸は切れておらず、フィールが歩いてきた方向へとどこまでも続いている。かたやジュリアたちの頭上の糸はプッツリと切れ、虚しく漂っていた。その違いの意味をフィールは速やかに悟ったのである。
そして、フィールを労うようにジュリアが告げる。
「貴方は誤ってここへと来てしまったのよ。でも――、最後にあなたにもう一度会えて本当に良かった」
「そうね、これだけでも十分に〝救われたわ〟」
「もう思い残す事は無いわね」
「そうね」
ジュリアとアンジェが言葉を交わし、その隣でマリーが頷いていた。
そして3人はその手をフィールの両手へと差し出す。そこには異なる色で光り輝くものが存在していた。それをフィールへと渡そうとする。
「貴方にはこれをあげるわ。あなた脆すぎるもの」
苦笑しつつジュリアが渡した物、それは――
【頑丈さ】
「私はこれを――、あなたなら私の力を使いこなせるはずよ」
アンジェが満面の笑みで手渡して来た物。それは――
【雷】
「これを――」
シンプルな言葉でマリーが手渡してきた物。それは――
【業火】
その3つをフィールは受け取る。託されたそれを手放してはならない、そう確信したからだ。アンジェが告げた。
「それを、あなたが信じる物のために、そして、アタシたちの妹のローラを守るために使ってほしいの」
更にジュリアが続ける。
「そして願わくば、少しでも多くの人の命が救われることを願う」
最後にマリーが言う。
「寒さで振るえている世界中の子どもたちを、その力で温めてあげて」
それが悲しきマリオネットとしてこの世に生を受けた彼女たちが最後にたどり着いた思いに他ならなかったのだ。それを理解し、その力を受け継いだ時に――
――奇跡は起きる――
「あっ?」
不意に驚きの声を漏らしたのはフィールだ。彼女の両足が地面から離れたのだ。そして静かに空へと舞い上がっていく。ゆっくりと、そして着実に空へ、空へと、高みを増していく。その姿に3人は寂しそうに告げた。
ジュリアが微笑みながら告げる。
「負けるなよ」
アンジェが手を降っていた。
「あなたに会えて良かった」
マリーがその両手を組んで祈りを捧げるような仕草を示していた。
「アトラスと言ったかしら? あなたのお兄さんによろしくね」
そしてフィールは悟った。己がまだ〝死ぬべき時ではない〟と言うことに。
「みなさん!?」
天へ、天へと、高みは増していく。そして、フィールを見送る3人たちのシルエットは瞬く間に小さくなっていく。フィールは告げる。万感の思いを込めて。
「必ず――、必ず約束は果します! 必ず!」
もう二度と逢うことも無いだろう。その彼女たちに向けて叫べばアンジェたちはしっかりとうなずき返していた。そしてアンジェたちは歩きはじめていた。向かう先は新たなる生か、それとも贖罪の道か――、それは誰にもわからない。
フィールを動かす力は勢いを増していた。凄まじい力でまさに〝連れ戻されていた〟
濁流のような力に飲まれた時、フィールの意識は再び深い眠りへと落ちていったのである。
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