上 下
376 / 462
第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part30 死闘・錯綜戦列/未知の2人の場合――

しおりを挟む
■何処かの高級ホテルにて。未知の2人の場合――

「あー、やってるやってる。ゾラこれ見なよ」

 そこはとあるホテルの一室だった。プライバシーが完全に守られたスイートルームの一室。理知的そうなふちなしメガネを付けたドレス姿のユダヤ系風の青年女性が居る。スカート丈は膝のあたりで無理な露出はしていなかった。
 ロングのソファによこ座りに腰掛けながら、手にしている大型のスマートパッドに映し出された中継映像を眺めていた。そしてそれを指し示しながら、彼女と同室にて滞在している連れの人物にも声をかけた。
 
「〝あの場所〟で派手にやってるよ。どうにかしてあのデカブツの暴走を止めたいみたいだね。出来るわけないじゃない! ボクのつくったアレはそう簡単に壊せないんだからさ!」

 冷酷――と言うより有り余る知識を持て余しているような傲慢さが垣間見えていた。
 
「当然でしょ。基礎プログラムとセキュリティは私も関わったんだから。突破も破壊もできっこないわ。たとえ基礎原理その物がわかったとしてもね」

 その声は冷ややかであり、他者をこばむ冷徹さがあった。スイートルームの奥のシャワー室から湯上がりの体にロングのバスタオルを巻いた女性が現れた。肌は白く、髪も銀髪、目は蒼く、アートの彫像のように細い体は神がかりな美しさを放っていた。その手には高級シャンパンの注がれたグラスを手にしている。アルコールを口にしながらゾラと呼ばれた女性は語る。
 
「第2頚椎から第6胸椎までで第2頭脳を構成しているのは当然として、肋骨や骨盤や大腿骨にも予備構成頭脳体を仕込んであるから、脊髄を破壊しただけでは壊れないわ。むしろ、暴走が早まるだけよ。際限ない爆縮を伴ってね」
「でもそれじゃ、あの街残らないじゃん」
「別に――」

 ゾラと呼ばれた女性は一気にグラスを飲み干すと吐き捨てた。
 
「今更この世界の人間が千人、万人、消えたからって何が変わるわけじゃ無し、ミニマムな悲しみが発生したって何の意味があるのよ。こんなくだらないゴミゴミした猥雑な星、終わらせるべきよ。そうでしょ?」
「否定はしないよ。でも――」

 ふち無し眼鏡の女性はスマートパッドを、ゾラと言う女性へと投げ渡した。
 
「――面白い見世物だよ。これだけたくさんの人間たちが、価値観ってくだらないレッテルを巡って右往左往してるんだからさ! ねぇ、賭けない? 誰が死んで、誰が生き残るか」

 ゾラはスマートパッドを受け取ると冷酷な笑みを浮かべながら答えた。
 
「面白いわね。乗ったわ。アナは誰にするの?」
「ボクは、ハイヘイズとか言うガキたちが死ぬのに一枚。それで日本警察のサイボーグ部隊が反撃されて全滅にもう一枚」
「なら、あたしは子どもたちが生き残るのに一枚。そして――」

 ゾラはスマートパッドに映る一人の人物を指差して告げた。
 
「この白い鎧の正義の味方が勝つことにもう一枚ね」

 そこに写っていたのはグラウザーであった。今まさに姿を表した字田のクモ型ボディと対峙している状況が映し出されていた。ゾラの選択に、アナと呼ばれた女性が揶揄をした。
 
「正義のヒーローが子どもたちを救って大団円? 安いシナリオだねぇ」
「あら、ハリウッドでもこう言う王道シナリオってけっこうまだ人気あるのよ? サイラスも言ってたわ。そう言う映画が一番手堅く小銭を稼げるって」

 それは命を軽んじる会話だった。命のやり取りをトランプのポーカーのように楽しんでいた。その傲慢なる遊びの存在を知るものは今は誰も居なかったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】えんはいなものあじなもの~後宮天衣恋奇譚~

魯恒凛
キャラ文芸
第7回キャラ文芸大賞奨励賞受賞しました。応援ありがとうございました! 天龍の加護を持つ青龍国。国中が新皇帝の即位による祝賀ムードで賑わう中、人間と九尾狐の好奇心旺盛な娘、雪玲は人間界の見物に訪れる。都で虐められていた娘を助けたまでは良かったけど、雹華たちに天衣を盗まれてしまい天界に帰れない。彼女たちが妃嬪として後宮に入ることを知った雪玲は、ひょんなことから潘家の娘の身代わりとして後宮入りに名乗りを上げ、天衣を取り返すことに。 天真爛漫な雪玲は後宮で事件を起こしたり巻き込まれたり一躍注目の的。挙句の果てには誰の下へもお渡りがないと言われる皇帝にも気に入られる始末。だけど、顔に怪我をし仮面を被る彼にも何か秘密があるようで……。 果たして雪玲は天衣を無事に取り戻し、当初の思惑通り後宮から脱出できるのか!? えんはいなものあじなもの……男女の縁というものはどこでどう結ばれるのか、まことに不思議なものである

小さな奇跡

鷹さん
キャラ文芸
入学式と言っても、桜はだいたい散っている。しかし入学式はいろんな人の希望という名の芽が集まっている。 希望という名の芽が開く事は、芽を出すよりかは小さな奇跡に過ぎないないと誰かが言っていた。 そう俺は今日入学する!! 希望とう名の芽を持たずに。 記憶を失った天才サッカープレイヤーと、それを支える1人の女性の物語

愚者の園【第二部連載開始しました】

木原あざみ
キャラ文芸
「化け物しかいないビルだけどな。管理してくれるなら一室タダで貸してやる」 それは刑事を辞めたばかりの行平には、魅惑的過ぎる申し出だった。 化け物なんて言葉のあやで、変わり者の先住者が居る程度だろう。 楽観視して請け負った行平だったが、そこは文字通りの「化け物」の巣窟だった! おまけに開業した探偵事務所に転がり込んでくるのも、いわくつきの案件ばかり。 人間の手に負えない不可思議なんて大嫌いだったはずなのに。いつしか行平の過去も巻き込んで、「呪殺屋」や「詐欺師」たちと事件を追いかけることになり……。

ずっとここにいるから

蓮ヶ崎 漣
キャラ文芸
ある雨の中、捨てられた僕たちを拾ってくれた人に僕は恋をして。 でも、僕の想いは彼女には届かないこと知って悲しくて家を出た。 僕たちと彼女の共同生活のお話。

忍チューバー 竹島奪還!!……する気はなかったんです~

ma-no
キャラ文芸
 某有名動画サイトで100億ビューを達成した忍チューバーこと田中半荘が漂流生活の末、行き着いた島は日本の島ではあるが、韓国が実効支配している「竹島」。  日本人がそんな島に漂着したからには騒動勃発。両国の軍隊、政治家を……いや、世界中のファンを巻き込んだ騒動となるのだ。  どうする忍チューバ―? 生きて日本に帰れるのか!? 注 この物語は、コメディーでフィクションでファンタジーです。登場する人物、団体、名称、歴史等は架空であり、実在のものとは関係ありません。  ですので、歴史認識に関する質問、意見等には一切お答えしませんのであしからず。 ❓第3回キャラ文芸大賞にエントリーしました❓ よろしければ一票を入れてください! よろしくお願いします。

【完結】あやかしの隠れ家はおいしい裏庭つき

入魚ひえん
キャラ文芸
これは訳あってあやかしになってしまった狐と、あやかしの感情を心に受け取ってしまう女の子が、古民家で共に生活をしながら出会いと別れを通して成長していくお話。  * 閲覧ありがとうございます、完結しました!  掴みどころのない性格をしている狐のあやかしとなった冬霧と、冬霧に大切にされている高校生になったばかりの女の子うみをはじめ、まじめなのかふざけているのかわからない登場人物たちの日常にお付き合いいただけたら嬉しいです。 全30話。 第4回ほっこり・じんわり大賞の参加作品です。応援ありがとうございました。

逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーが、クラスの女子に頼まれてゲーム大会に出場する話~

呂暇郁夫
キャラ文芸
LC学園高等学校。 日本で初めて「ゲーム特化」の一芸入試を採用したこの高校には、全国で選りすぐりのプロゲーマーが集まっている。 が、そんなことは”この世でもっとも模範的な委員長”をめざす亜熊杏介には関係がなかった。 ゲーム? みんなが好きなら好きにすればいいんじゃないか? 杏介は学園一の善良な高校生として、毎日を平和に過ごしている。 教室の壁や空気と同化して過ごすことを理想としており、だれからの注目も望んでいない。 ――だというのに。 「お願い――あたしといっしょに『電甲杯』に出てくれないかな?」 ある日の唐突な言葉が、彼の人生に波乱をもたらすことになる。 ――これは、だれよりも偽物のゲーマーが、いつか本物に至るまでの物語。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

処理中です...