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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part29 死闘・創造頭脳/世界を書き換えた男

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 特攻装警が他の汎用型のアンドロイドと一線を画すのには理由がある。
 単に物を考え行動を決定すると言うだけならばそう難しくはない。ロボットであるならプログラミンどうりか、指示内容に不足する部分を自己推測する程度。アンドロイドでも高度な自己推論能力と判断能力を保有しつつ、原則として与えられた命令と指示を厳守することさえできれば良いのだ。
 だが特攻装警は違う。
 特攻装警は警察である。
 法を遵守し、人間を監視し、膨大な社会情報を取捨選択し、操作対象となる被疑者を選び出し、その行動を法や判例に照らし合わせ、犯罪の証拠物件を見つけ出し保全し、逮捕対象者の行動を制限し拘束し、緊急避難行為においては刑を執行し、さらには被害者を保護し、その尊厳を守るという極めて高度かつ困難を極める条件が要求されるのである。
 それゆえ、特攻装警には人間並み、あるいはそれ以上の倫理観とモラル、そして人間に対する高度な感受性が求められていたのである。
 
 一方でこの時代、急速にコンピュータ技術は進化を遂げていた。特にノイマン型のアーキテクチャから離れて、高次AIを運用するために開発された多種多様な非ノイマン型のニューロアーキテクチャの発達と普及が進んでいた。
 
 脳皮質のハイパーコラム構造を模した思考装置『シンクキューブ』
 量子素子による多次元並列高速演算装置『アキュームレートシリンダー』
 ブルーレーザー光励起光量子ホログラム推論装置『フォトンブレイン』

 その他、様々な高次AI装置が開発され商品化されて行く。
 そしてそれらは劇的な技術発展が進んでいたロボット・アンドロイド開発へと投入され、ロボットの実用化と商業化に一段と強い弾みをつけることとなった。
 だが、アンドロイドの実用化に対しては依然として越えられない壁が存在していた。ロボットとアンドロイドを画するのは、より人間に近いルックスと、より高度な自己判断能力を有し、人間に近い優れた自我の発露が、在るか否か? と言う点にあった。
 だがどんなに優れた高次AI装置を駆使しても、自由意志の元となる〝自我〟の発露が見られなかったのである。
 自我の発露に対しては様々な方法でのアプローチがなされた。
 大脳生理学からのアプローチ、精神医学からのアプローチ、旧来の人工知能理論からのアプローチ、さらにはヴァーチャル・リアリティからのアプローチや、脳ホログラム理論からのアプローチなども行われた。 
 世界中の科学者/技術者が開発にしのぎを削る中、その〝越えられない壁〟はある偉大なる天才の登場により打ち破られることとなるのである。
 
 その者の名はチャールズ・ガドニック――
 
 フォン・ノイマンの再来と呼ばれ、
 今を生きる偉人とまで呼ばれた異能の天才。
 また多種多様な異ジャンルへの知識や造詣も深く、
 〝万能の天才〟の名をレオナルド・ダ・ヴィンチから奪ったとまで言われる人物であった。
 
 彼は意外な物から人工頭脳の構築を想起した。
 それは珪素を基本とした人工生命の創出である。
 珪素系の高分子からヒゲ根状に自己成長する素材を発見・開発した彼はそれを元に〝人間の頭脳の模倣〟を試みることになる。
 それはまるで阿寒湖のマリモを思わせるものであり、人間の脳組織と比較しても勝るとも劣らない優れた成長性と組織性を現したのである。そしてそれは容器形状や水流などにより、成長パターンの誘導が比較的容易であり、ガドニックが狙った人間の脳の模倣と言う狙いは決して間違ってなかった。
 そして、小規模な頭脳体を構築して論理素子として、高次AI素子としての機能性をテストし、それがそれまでの既存の高次AI装置とは比べ物にならない位の性能を発揮することとなる。
 ガドニックはその事実から〝人工自我の発露する頭脳体〟の作成は可能である、と判断。開発と作成に着手するのである。
 こうして産み出されたのが――
 
 特殊高分子人工頭脳ユニット『クレア頭脳』

――であり、そのクレア頭脳において人工自我を発露させ自我意識体の制御ロジックとして機能する――

 人工自我統括管理オペレーションシステム『マインドOS』

――だったのである。

 ハードウェアとしてのクレア頭脳と、ソフトウェアとしてのマインドOSの完成は、頭脳素子の未熟さ故に発展の止まっていたアンドロイド開発に多大な後押しをすることとなる。そして世界には実用可能な域に達したアンドロイドたちが爆発的な勢いで世界に普及していく事となる。
 そしてそれは人間世界のあらゆる事情を根こそぎ書き換えるものであり、文明社会の基本パラダイムを根底から覆すものであった。それ故かガドニック教授は――
 
『世界を書き換えた男』

――と呼ばれることとなったのである。だがそこに込められた言葉は賞賛の声だけでは無かったのである。
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