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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/集結編
Part23 静かなる男・前編/包囲網
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――タタタッ――
甲高い乾いた音が響いた。9ミリクラスの小銃弾の連続発射音――サブマシンガンが撃たれた音だ。音の方向はグラウザーの背後。兄のセンチュリーの真正面だ。その音に再び気を取られてグラウザーが再度背後を振り向く。するとセンチュリーもまたコンクリートの欠片の転がる音とサブマシンガンの銃声音のコンボに集中力を奪われた形となっていた。発射された弾丸はセンチュリーの目元をかすめていく。だがその弾丸は端から命中を狙った物では無かったのだ。
――ジジッ!――
不快な電磁ノイズの音を発しながらセンチュリーの目元を3発の弾丸がかすめて行く。そしてその直後、センチュリーは強烈な違和感をその弾丸から食らうこととなるのだ。
【 光学カメラ系作動状態 ―異常発生― 】
【 サーキットシグナル 】
【 ERROR! 】
【 ERROR! 】
【 ERROR! 】
センチュリーの〝目〟は突如エラーメッセージを大量に吐き出していた。
回路信号の異常、光学カメラ系統の作動異常、センチュリーの目が突然不具合を生じて目としての役割を止めてしまったのである。
「くそっ! 見えねぇ! 何だよこれ!」
その原因が先程の3発の弾丸にある事は明白だった。その原因をグラウザーは即座に見抜いていた。
【 外部電磁波受信センサー 】
【 >高出力無指向性電磁波確認 】
【 >微小回路焼損可能性有り 】
「電磁波?」
異常の正体を口にする。それが先程の弾丸によりもたらされたのは間違いない。弾丸に様々な機能を組み込んだ特殊弾丸。特攻装警たち自身も任務内容に応じてそう言ったものを使う時がある。発射速度を向上させる機能を有した〝ベースブリード徹甲弾〟などはその最たる物だ。苛立ち紛れにセンチュリーが叫ぶ。
「さっきのサブマシンガンの弾丸だ! 気をつけろグラウザー!」
その言葉が呼び水となった。さらなる弾丸がグラウザーたちに浴びせられていく。無論、重装甲で覆われた今のグラウザーよりも、丸裸に近いセンチュリーの方が狙いやすい。戦場においては弱い所から攻略して行くのは当然のセオリーだ。守りの強い所から無駄を生じさせながら攻撃を続けるのは単なる馬鹿である。センチュリーは自らが狙い撃ちにされている事を本能的に悟ったのである。
「くそぉっ!」
悪態をつくが視覚が奪われている以上、どうにもならない。弾丸を避けるためにもがくように体を動かすしか無い。それでも3発づつに区切って正確に射撃を続けてくる見えざる敵によってセンチュリーは単なる的にされていたのだ。
弾丸がセンチュリーの全身を襲う――
左肩口に2発被弾。通常なら弾いてしまう射角だったが、装甲を外して居る上にその弾丸の特性がセンチュリーの外部皮膚を〝焼いてしまう〟のだ。
右脇腹に3発被弾。正確な回避動作を行えないために、致命的な角度で弾丸を受けてしまう、右脇腹付近に食らった弾はセンチュリーの外皮素材に穴を開けて食い込む。
左大腿部を3発被弾。うち2発が外皮で弾かれ、残る1発が外皮に穴を開けて内部へと食い込んだ。
それら8発の弾丸を食らうまで瞬く間である。
グラウザーは兄の異変を察知すると体を反転させて彼を庇うようにその体を抱き起こす。そして逃れる場所を探して周囲を見回す。
「どこか身を隠す場所は――」
グラウザーの視線が周囲をサーチする。見つけたのは2箇所。ベルトコーネから離れた場所にあるコンクリート塀。もう一つが遮蔽物としては不完全だが、ベルトコーネにほど近い路上に積み上げられた鋼材の成れの果てだ。
どうする? どう判断する?
選択は2つに1つ、安全策をとってベルトコーネから離れるか、それともベルトコーネを死守するか、どれを選ぶべきかグラウザーは難しい判断を迫られたのだ。今グラウザーのそばには負傷した兄が居る。当然、彼の安全も担保しなければならない。
今、自分たちが置かれている状況と、これから起こりうる結果を必死に判断する。そして1秒とかからずに選択した結果を実行に移す。
「こっちだ!」
兄を抱きかかえてグラウザーは走り出す。向かった先はベルトコーネ近くの積み上げられた鋼材の束だ。グラウザーが選んだ選択――それはベルトコーネを死守する事だったのだ。
あのベルトコーネの恐ろしさ厄介さはグラウザー自身が身を持って知っている。それを闇社会に流出させる訳にはいかない。これだけは完膚なきまでに破壊への道筋をつけねばならないのだ。
ギリギリの選択条件下で、グラウザーが選んだのは警察官として当然である『証拠保存』と言う道であった。それが兄をさらなる危険に晒すことになったとしてもやむを得ない結果であった。グラウザーは兄たるセンチュリーへと告げたのだ。
「兄さんすいません! でも今はベルトコーネの残骸を渡す訳にはいきません!」
だが弟たるグラウザーの選択を兄は責めなかった。苦痛をにじませつつも、ハッキリとした口調でこう告げたのだ。
「それでいい! 優先順位を間違えるな!」
「はい!」
彼らは一人の個で有る以前に〝警察〟であった。そして市民の守り手であった。そしてそれはアンドロイド警察官として生を受けた彼らが絶対に放棄できない矜持でありプライドだった。そして兄は笑いながら弟へとこう言葉を送ったのである。
「お前、やりゃあできるじゃねえかよ」
それは弟であるグラウザーが警察としての技量を身に着けた事を認める言葉だったのである。
甲高い乾いた音が響いた。9ミリクラスの小銃弾の連続発射音――サブマシンガンが撃たれた音だ。音の方向はグラウザーの背後。兄のセンチュリーの真正面だ。その音に再び気を取られてグラウザーが再度背後を振り向く。するとセンチュリーもまたコンクリートの欠片の転がる音とサブマシンガンの銃声音のコンボに集中力を奪われた形となっていた。発射された弾丸はセンチュリーの目元をかすめていく。だがその弾丸は端から命中を狙った物では無かったのだ。
――ジジッ!――
不快な電磁ノイズの音を発しながらセンチュリーの目元を3発の弾丸がかすめて行く。そしてその直後、センチュリーは強烈な違和感をその弾丸から食らうこととなるのだ。
【 光学カメラ系作動状態 ―異常発生― 】
【 サーキットシグナル 】
【 ERROR! 】
【 ERROR! 】
【 ERROR! 】
センチュリーの〝目〟は突如エラーメッセージを大量に吐き出していた。
回路信号の異常、光学カメラ系統の作動異常、センチュリーの目が突然不具合を生じて目としての役割を止めてしまったのである。
「くそっ! 見えねぇ! 何だよこれ!」
その原因が先程の3発の弾丸にある事は明白だった。その原因をグラウザーは即座に見抜いていた。
【 外部電磁波受信センサー 】
【 >高出力無指向性電磁波確認 】
【 >微小回路焼損可能性有り 】
「電磁波?」
異常の正体を口にする。それが先程の弾丸によりもたらされたのは間違いない。弾丸に様々な機能を組み込んだ特殊弾丸。特攻装警たち自身も任務内容に応じてそう言ったものを使う時がある。発射速度を向上させる機能を有した〝ベースブリード徹甲弾〟などはその最たる物だ。苛立ち紛れにセンチュリーが叫ぶ。
「さっきのサブマシンガンの弾丸だ! 気をつけろグラウザー!」
その言葉が呼び水となった。さらなる弾丸がグラウザーたちに浴びせられていく。無論、重装甲で覆われた今のグラウザーよりも、丸裸に近いセンチュリーの方が狙いやすい。戦場においては弱い所から攻略して行くのは当然のセオリーだ。守りの強い所から無駄を生じさせながら攻撃を続けるのは単なる馬鹿である。センチュリーは自らが狙い撃ちにされている事を本能的に悟ったのである。
「くそぉっ!」
悪態をつくが視覚が奪われている以上、どうにもならない。弾丸を避けるためにもがくように体を動かすしか無い。それでも3発づつに区切って正確に射撃を続けてくる見えざる敵によってセンチュリーは単なる的にされていたのだ。
弾丸がセンチュリーの全身を襲う――
左肩口に2発被弾。通常なら弾いてしまう射角だったが、装甲を外して居る上にその弾丸の特性がセンチュリーの外部皮膚を〝焼いてしまう〟のだ。
右脇腹に3発被弾。正確な回避動作を行えないために、致命的な角度で弾丸を受けてしまう、右脇腹付近に食らった弾はセンチュリーの外皮素材に穴を開けて食い込む。
左大腿部を3発被弾。うち2発が外皮で弾かれ、残る1発が外皮に穴を開けて内部へと食い込んだ。
それら8発の弾丸を食らうまで瞬く間である。
グラウザーは兄の異変を察知すると体を反転させて彼を庇うようにその体を抱き起こす。そして逃れる場所を探して周囲を見回す。
「どこか身を隠す場所は――」
グラウザーの視線が周囲をサーチする。見つけたのは2箇所。ベルトコーネから離れた場所にあるコンクリート塀。もう一つが遮蔽物としては不完全だが、ベルトコーネにほど近い路上に積み上げられた鋼材の成れの果てだ。
どうする? どう判断する?
選択は2つに1つ、安全策をとってベルトコーネから離れるか、それともベルトコーネを死守するか、どれを選ぶべきかグラウザーは難しい判断を迫られたのだ。今グラウザーのそばには負傷した兄が居る。当然、彼の安全も担保しなければならない。
今、自分たちが置かれている状況と、これから起こりうる結果を必死に判断する。そして1秒とかからずに選択した結果を実行に移す。
「こっちだ!」
兄を抱きかかえてグラウザーは走り出す。向かった先はベルトコーネ近くの積み上げられた鋼材の束だ。グラウザーが選んだ選択――それはベルトコーネを死守する事だったのだ。
あのベルトコーネの恐ろしさ厄介さはグラウザー自身が身を持って知っている。それを闇社会に流出させる訳にはいかない。これだけは完膚なきまでに破壊への道筋をつけねばならないのだ。
ギリギリの選択条件下で、グラウザーが選んだのは警察官として当然である『証拠保存』と言う道であった。それが兄をさらなる危険に晒すことになったとしてもやむを得ない結果であった。グラウザーは兄たるセンチュリーへと告げたのだ。
「兄さんすいません! でも今はベルトコーネの残骸を渡す訳にはいきません!」
だが弟たるグラウザーの選択を兄は責めなかった。苦痛をにじませつつも、ハッキリとした口調でこう告げたのだ。
「それでいい! 優先順位を間違えるな!」
「はい!」
彼らは一人の個で有る以前に〝警察〟であった。そして市民の守り手であった。そしてそれはアンドロイド警察官として生を受けた彼らが絶対に放棄できない矜持でありプライドだった。そして兄は笑いながら弟へとこう言葉を送ったのである。
「お前、やりゃあできるじゃねえかよ」
それは弟であるグラウザーが警察としての技量を身に着けた事を認める言葉だったのである。
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