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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編
Part14 GUILTY―断罪―/断罪の詩
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シェン・レイの視線は彼方で特攻装警たちと拳を交えているベルトコーネへと向いていた。その視界の中では特攻装警の二人が持てる力の全てを込めて最大にして唯一の奸計をベルトコーネへと仕掛けようとしていた所であった。
肉眼では視認の困難な漆黒の単分子ワイヤー――、それが空間を縦横無尽に駆け回り、瞬く間に不可視のトラップを形成している。肉眼では見えないが、シェン・レイの光学処理されたゴーグル越しの視界であるならそれは十分に視認可能である。
目潰しを仕掛けられ通常光学視界を奪われたベルトコーネが、超音波視覚の特性を逆手に取られてまんまと単分子ワイヤーの蜘蛛の巣へと捕らえられたところである。ベルトコーネは必殺の蹴りを空中で固定されたような姿勢で全身を拘束されていた。脱出は明らかに困難であり、たとえ脱出できたとしても相当な時間がかかるであろう。
「流石だな。日本警察の名を冠しているのは伊達ではないというわけだな」
ならば彼らの役目はひとまず終わりだ。その事を彼らに知らせなければならない。その時二人の会話が聞こえてきた。
〔なんてやつだ!〕
〔あぁ、ここまで厄介な特殊能力にお目にかかったのは俺も初めてだぜ! こんなもんどうやってお終いにしたらいいのか――キリがねぇ!〕
ベルトコーネの脱出の可能性を知った特攻装警の二人はさらなる焦りを見せている。
いや。ここまで仕掛けてくれたのならばもう十分だ。後はこちらに任せてもらおうではないか。シェン・レイは無線回線を通じて二人に呼びかけた。
〔心配ない。これで終わらせられる〕
驚く顔が垣間見える。シェン・レイはさらに告げた。
〔ここからは私がやる〕
それはねぎらいであり賞賛の言葉である。求められた仕事を完ぺきにこなしたが故に、シェン・レイがその後を引き継げるのだから。その言葉の賞賛のニュアンスを彼らも察したのだろう。センチュリーの声で返事が返されてきた。
〔頼んだぜ――神の雷〕
それもまた感謝と賞賛を含んだメッセージだ。互いが互いを視線で確認し合い頷きあう。そしてそれはなすべき作業がバトンタッチされたことを意図していた。
――ならば渡された役目を私もこなそう――
シェン・レイは自らの胸中にそんな思いを抱いたのである。
@ @ @
ここからヤツに下す物――
それは『鉄槌』にほかならない。
どれほど殺しただろう?
どれほど壊しただろう?
どれほど不幸に陥れただろう?
どれほど恐れさせただろう?
どれほど絶望を味あわせただろう?
どれほど失わせただろう。
どれほどの人々を苦しめただろう?
罪悪感も持たず、
罪を理解もせず、
償いもせず、
詫びもせず、
疑いもせず、
妄執し、
狂信し、
服従し、
崇拝し、
襲い、
壊し、
殺し、
消し去り、
暴走して、暴走して、暴走して、暴走して――
そしてヤツはいつしか〝狂える拳魔〟の名を冠するようになった。
それは彼が自らの意志で始めたものではない。
創造主によってそうなるべく造られたのだ。その意味においては同情すべき部分はあるだろう。だが選択ができなかったわけではない、自由がなかったわけではない。
歩みを変えることはできたはずだ。
罪を認め、過ちを認め、償うことはできたはずだ。
おのれの手首に課せられた鎖を受け入れ、咎を受け入れることは可能だったはずだ。
しかし、彼はそれを拒否した。
彼の〝妹〟は罪を認識した。おのれの咎を受け入れた。救いを求める者たちの声を聞き、過ちの歩みを止め生き方を根底から変えた。そして創造主に課せられた宿命という名の見えない鎖を断ち切り、最果ての地において何も持たざる乳飲み子たちのために命をかけて彼らを救い償いの生涯を生きると心に決めた。
そう、たとえアンドロイドだとしても自ら罪は認められるのだ。
だがヤツはそれを拒絶した。
鎖と軛を断ち切り、檻を抜け出し、罪もない人々を殺め、逃亡の道を選び――
逃げて、逃げて、逃げて、逃げて――
夜の闇に潜み、潜み、潜み――
かつての仲間を追い求め、その償いの日々の姿を侮辱し、
その終局にはついに、何の罪もない小さな命を無碍に刈り取ろうとした。
それはただ、かつての殺戮の日々へとかつての仲間を引きずり戻そうとしたいがためであった。
愚かである。
ただひたすら愚かである。
有害である。害悪である。この世界には存在を許されない。
狂える拳魔――その者の名は〝ベルトコーネ〟
マリオネット・ディンキーと呼ばれた老テロリストが残した、悪夢の残骸である。
そしてもうひとり、
その者は人々から〝神の雷〟と呼び称されていた。
真の名はシェン・レイ、あえて社会の法に背を向けて闇社会に潜み、その持てる力のすべてを注いでこの世界の片隅にうずくまるようにして生きている〝持たざる者たち〟のたちを救い護るために生きると誓った者である。
その彼が最も心を砕いて護っていた者たち――、それがハイヘイズと呼ばれる混血の無戸籍孤児たちであった。
あらゆる社会から、あらゆるソサエティから、あらゆる民族コミニュティから、排除され、無視され、黙殺され、いずれは飢えて路上で息絶えるはずの子たちであった。彼はそのハイヘイズの子らに生きるチャンスをもたらすために全力を注いできた。あらゆる社会へ立ち向かい、あらゆるソサエティと対立し、あらゆる民族コミニュティと対話し、常にその小さな合われた子たちが胸を張って生きていける道を作り上げるために戦い続けてきた男だ。
その彼が心血を注いで庇護して来た命――、それにベルトコーネは手をかけた。
拳を振るい、小さな命を刈り取ろうとした。
失われては居ない。だが、まだその命がどうなるかは油断を許さない。
そしてシェン・レイはある事実に気づいていた。
この不幸をもたらしたベルトコーネと言う狂える拳魔を再び解き放てば、何処かの地にてまた同じような悪夢と惨劇をもたらすであろうという事だ。
あの拳魔を生み出し、育て上げ、そして妄執の如きドグマを与えた老テロリストはすでに息絶えた。誰もかの老テロリストを認めるものは居ない。その遺志を受け継ぐ者も居ない。ただ狂える拳魔と呼ばれるアンドロイドをおいては――
ならばそうだ――
「もう、終わりだ。ベルトコーネ」
――終わらせねばならないのだ。
肉眼では視認の困難な漆黒の単分子ワイヤー――、それが空間を縦横無尽に駆け回り、瞬く間に不可視のトラップを形成している。肉眼では見えないが、シェン・レイの光学処理されたゴーグル越しの視界であるならそれは十分に視認可能である。
目潰しを仕掛けられ通常光学視界を奪われたベルトコーネが、超音波視覚の特性を逆手に取られてまんまと単分子ワイヤーの蜘蛛の巣へと捕らえられたところである。ベルトコーネは必殺の蹴りを空中で固定されたような姿勢で全身を拘束されていた。脱出は明らかに困難であり、たとえ脱出できたとしても相当な時間がかかるであろう。
「流石だな。日本警察の名を冠しているのは伊達ではないというわけだな」
ならば彼らの役目はひとまず終わりだ。その事を彼らに知らせなければならない。その時二人の会話が聞こえてきた。
〔なんてやつだ!〕
〔あぁ、ここまで厄介な特殊能力にお目にかかったのは俺も初めてだぜ! こんなもんどうやってお終いにしたらいいのか――キリがねぇ!〕
ベルトコーネの脱出の可能性を知った特攻装警の二人はさらなる焦りを見せている。
いや。ここまで仕掛けてくれたのならばもう十分だ。後はこちらに任せてもらおうではないか。シェン・レイは無線回線を通じて二人に呼びかけた。
〔心配ない。これで終わらせられる〕
驚く顔が垣間見える。シェン・レイはさらに告げた。
〔ここからは私がやる〕
それはねぎらいであり賞賛の言葉である。求められた仕事を完ぺきにこなしたが故に、シェン・レイがその後を引き継げるのだから。その言葉の賞賛のニュアンスを彼らも察したのだろう。センチュリーの声で返事が返されてきた。
〔頼んだぜ――神の雷〕
それもまた感謝と賞賛を含んだメッセージだ。互いが互いを視線で確認し合い頷きあう。そしてそれはなすべき作業がバトンタッチされたことを意図していた。
――ならば渡された役目を私もこなそう――
シェン・レイは自らの胸中にそんな思いを抱いたのである。
@ @ @
ここからヤツに下す物――
それは『鉄槌』にほかならない。
どれほど殺しただろう?
どれほど壊しただろう?
どれほど不幸に陥れただろう?
どれほど恐れさせただろう?
どれほど絶望を味あわせただろう?
どれほど失わせただろう。
どれほどの人々を苦しめただろう?
罪悪感も持たず、
罪を理解もせず、
償いもせず、
詫びもせず、
疑いもせず、
妄執し、
狂信し、
服従し、
崇拝し、
襲い、
壊し、
殺し、
消し去り、
暴走して、暴走して、暴走して、暴走して――
そしてヤツはいつしか〝狂える拳魔〟の名を冠するようになった。
それは彼が自らの意志で始めたものではない。
創造主によってそうなるべく造られたのだ。その意味においては同情すべき部分はあるだろう。だが選択ができなかったわけではない、自由がなかったわけではない。
歩みを変えることはできたはずだ。
罪を認め、過ちを認め、償うことはできたはずだ。
おのれの手首に課せられた鎖を受け入れ、咎を受け入れることは可能だったはずだ。
しかし、彼はそれを拒否した。
彼の〝妹〟は罪を認識した。おのれの咎を受け入れた。救いを求める者たちの声を聞き、過ちの歩みを止め生き方を根底から変えた。そして創造主に課せられた宿命という名の見えない鎖を断ち切り、最果ての地において何も持たざる乳飲み子たちのために命をかけて彼らを救い償いの生涯を生きると心に決めた。
そう、たとえアンドロイドだとしても自ら罪は認められるのだ。
だがヤツはそれを拒絶した。
鎖と軛を断ち切り、檻を抜け出し、罪もない人々を殺め、逃亡の道を選び――
逃げて、逃げて、逃げて、逃げて――
夜の闇に潜み、潜み、潜み――
かつての仲間を追い求め、その償いの日々の姿を侮辱し、
その終局にはついに、何の罪もない小さな命を無碍に刈り取ろうとした。
それはただ、かつての殺戮の日々へとかつての仲間を引きずり戻そうとしたいがためであった。
愚かである。
ただひたすら愚かである。
有害である。害悪である。この世界には存在を許されない。
狂える拳魔――その者の名は〝ベルトコーネ〟
マリオネット・ディンキーと呼ばれた老テロリストが残した、悪夢の残骸である。
そしてもうひとり、
その者は人々から〝神の雷〟と呼び称されていた。
真の名はシェン・レイ、あえて社会の法に背を向けて闇社会に潜み、その持てる力のすべてを注いでこの世界の片隅にうずくまるようにして生きている〝持たざる者たち〟のたちを救い護るために生きると誓った者である。
その彼が最も心を砕いて護っていた者たち――、それがハイヘイズと呼ばれる混血の無戸籍孤児たちであった。
あらゆる社会から、あらゆるソサエティから、あらゆる民族コミニュティから、排除され、無視され、黙殺され、いずれは飢えて路上で息絶えるはずの子たちであった。彼はそのハイヘイズの子らに生きるチャンスをもたらすために全力を注いできた。あらゆる社会へ立ち向かい、あらゆるソサエティと対立し、あらゆる民族コミニュティと対話し、常にその小さな合われた子たちが胸を張って生きていける道を作り上げるために戦い続けてきた男だ。
その彼が心血を注いで庇護して来た命――、それにベルトコーネは手をかけた。
拳を振るい、小さな命を刈り取ろうとした。
失われては居ない。だが、まだその命がどうなるかは油断を許さない。
そしてシェン・レイはある事実に気づいていた。
この不幸をもたらしたベルトコーネと言う狂える拳魔を再び解き放てば、何処かの地にてまた同じような悪夢と惨劇をもたらすであろうという事だ。
あの拳魔を生み出し、育て上げ、そして妄執の如きドグマを与えた老テロリストはすでに息絶えた。誰もかの老テロリストを認めるものは居ない。その遺志を受け継ぐ者も居ない。ただ狂える拳魔と呼ばれるアンドロイドをおいては――
ならばそうだ――
「もう、終わりだ。ベルトコーネ」
――終わらせねばならないのだ。
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