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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編 

Part13 神の雷/バックアップ

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 そして、グラウザーがセンチュリーからの言葉に驚き、ふいに声を漏らしたその瞬間であった。

「えっ?」

 その言葉と同時にグラウザーの懐へと瞬時に飛び込んできたのはベルトコーネである。眼前に構えられたベルトコーネの両の拳、しかし、質量制御をフル使用せずある程度制限するのなら、その拳を武器として使用するのはまだまだ可能である。
 グラウザーから見て右側にベルトコーネが回り込む。
 ――否、物理的なフットワークを無視して空中飛行したかのように移動してくる。それは攻撃目標の周囲を自由自在に3次元移動する戦闘ヘリにも似ていた。予測不能な位置の死角へとベルトコーネが回り込む。そのベルトコーネが繰り出してくる拳打の全てを躱しきるのは現時点では不可能だ。
 見えない位置からの右フック。それはグラウザーの胸板の上部、胸骨の上ほど辺りに食い込むとグラウザーの身体を安々と弾き飛ばす。そして弾き飛ばされた方向には、いつ移動してきたのかベルトコーネはすでに待機していてフルパワーで左ひざの蹴りをグラウザーの背部へと見舞った。
 動きを止められたグラウザーの前方にベルトコーネが回り込む。斜め下から上方へとベルトコーネの左フックが炸裂する。装甲ヘルメットに守られていると言えどグラウザーの頭部にダメージを与えるには十分すぎるほどである。
 動きを止めかけたグラウザーにベルトコーネはなおも攻撃を加える。グラウザーの左側に回り込むと右足を引き絞り一気に旋回させる。グラウザーのお株を奪う回し蹴りである。十数mの距離をグラウザーが転げ回る。それをさらに狙おうとベルトコーネは視線でグラウザーの姿を追っているのが分かった。
 それを目の当たりにしてセンチュリーが叫んだ。
 
「くそぉっ!」

 そしてデルタエリートの引き金を連続して引けば、そのから10ミリオート弾が3初発射される。それはベルトコーネに命中することはなかったが、弾丸同士がマイクロ通信回線網で連携しており、攻撃目標に肉薄した際の絶妙な3次元位置で相互連携し合い、自動的に作動を開始したのだ。
 
――シュボッ!――

 瞬間的に炸裂したそれは眩いばかりの白色光と濃厚な電磁波ノイズを撒き散らした。しかも3発同時であり、ベルトコーネの視界の前方から側面方向に至るまで、180度をカバーするショック閃光であった。
 
【対サイバネティックス用、マイクロフラッシュグレネード弾丸】
 
 10ミリオート弾丸の僅かなスペースに、フラッシュグレネードと電磁ノイズ放射装置の機能を巧妙に組み込み、さらに超小型のマイクロ通信回線網が組み込まれていて、数発同時連携のフラッシュ閃光が可能な超ハイテク弾丸であった。
 武装アンドロイドや武装サイボーグに対してい用いる物で、目潰しやセンサー撹乱のために開発された経緯がある。これもまた特攻装警を生み出した第2科警研の技術者の手によるものである。
 それは手負いのベルトコーネの視界を一時的に奪うには十分なものであり、グラウザーはその機会を逃さずに、すかさず立ち上がり転がるように後方へと退くと、ベルトコーネから距離を取った。それ以上のダメージは致命傷になる。それだけは避けねばならなかった。

「くそっ! 小細工しおって」

 一時的に奪われた視界の代わりに聴覚を駆使してグラウザーたちの姿を探す。たとえ視界が効かなくとも、コウモリのエコーロケーションの如くベルトコーネは巧みにグラウザーたちの位置を捉えていく。それは南本牧でのアトラスとの戦闘でも用いていた特殊能力だ。
 かたや、現状を冷静に見守るセンチュリーの視界の中では、片膝を地面につき左手で目元をかきむしるベルトコーネの姿がある、かろうじて逃げられたがこれも気休めでしか無いのは、これまでの戦いから明らかだった。
 センチュリーは体内回線を通じてグラウザーに指示を出した。
 
〔グラウザー! 単分子ワイヤーは使えるか?〕
〔はい、フィール姉さんの改良型があります〕
〔それならワイヤーの展開準備だ! 今ならヤツは視界がきかねえ。単分子ワイヤーなら奴の超音波視覚の裏をかける!〕
〔了解です!〕

 センチュリーの言葉にグラウザーが返答する。それに続けてセンチュリーが告げた。

〔しかし十分気をつけろ! やつは慣性制御を移動手段にする事もできる! 歩いて走ってのフットワークじゃねえ。加速・急減速・軌道変更も自由自在。精密コントロールのドローン並だ! どうあがいてもあっちが有利だ! ならば絶対逃げられないように縛り上げるしかねえ!〕
〔慣性制御移動? そんなことまで?〕
〔あぁ、どう見てもそれしか考えられねえ。攻撃や防御に使っていた機能を駆使して自分自身を自由自在に〝すっ飛ばせる〟んだ! 奴めとんでもねえ隠し技持ってやがった!〕

――と、その時だった。二人の体内回線機能へと直接語りかけてくる声がある。

〔――1分待て――〕

 それは二人とも聞き慣れない声だった。壮年の男性の声、まだ若々しさが残された声だ。声はセンチュリーたちが反応する前にさらに言葉を続けた。
 
〔特攻装警の諸君、1分持ちこたえろ。その間に私がヤツの〝能力〟を私が封印する〕

 自信有りげに確定的に告げる言葉。それを耳にして問いかけたのはグラウザーだった。
 
〔誰ですか?〕

 その問いに帰ってきた言葉にセンチュリーもグラウザーも戦慄することとなる。
 
〔〝神の雷〟 そう言えば分かるはずだ〕

 センチュリーは知っていた。グラウザーも朝を始めとする涙路署の先輩捜査員たちから聞かされていた。
 闇社会最強の電脳犯罪者。東京アバディーンの支配者。出会ったのならとにかく逃げろ。情報機動隊の電脳エキスパートですら、そう噂し合うほどなのだ。神の雷の名を聞かされて驚かないはずがなかった。その驚きは沈黙となって現れる。
 だが、特攻装警の二人の沈黙に対して〝神の雷〟ことシェン・レイは冷静に言葉を続けた。
 
〔君たちには恩義がある。街の子供達を守ってくれた事への恩義だ。その礼がしたい。ヤツの力の源を私が絶つ。それまでの1分、なんとしても持ちこたえろ。できるか?〕

 その言葉に、にわかには信じがたい物が多少なりともある。だが今は選択肢は無い。とっさの判断でシェン・レイからの回線越しの問いかけにグラウザーは答えた。
 
〔1分ですね?〕

 センチュリーも答えを口にする。

〔わかった。やってみるぜ〕
 
 そう口にするが早いか、グラウザーたちの足はベルトコーネのもとへと向かっていた。

〔頼むぞ。こちらも作業を開始する〕

 シェンのその言葉にグラウザーの力強い声が響いた。
 
〔はい!〕

 その声が合図となった。今、特攻装警と神の雷の奇跡の共同作戦が始まったのである。
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