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第2章エクスプレス グランドプロローグ
サイドAプロローグ マイ・オールド・フレンズ/樹上の撮影者
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実験ドックの中からグラウザーが笑顔で手を振っている。そして、その体に装着した2次装甲体のであるアーマーギアのセットを、手動で取り外していくのが見える。
その光景を大久保たちは眺めていた。そして、ディスプレイの中のガドニックに向けて呉川が告げた。
「しかし、教授。あなたがたには本当にお詫びしなければならない」
「何のことだね?」
唐突な言葉にガドニックが訝しげに答える。
「例の逃亡マリオネットのことです」
呉川が深刻に答えればガドニックは平静な表情のままであっさりと答えた。
「あぁ、ベルトコーネの逃亡のことかね。気にすることではないよ」
そう答えるガドニックの顔は努めて穏やかだった。そこには意図的に明るく振る舞う素振りはなかった。
「そもそもだ。首謀者たるディンキーはもう居ない。逃亡に成功したとはいえ彼自身が英国人への憎悪を持っていたとは考えにくい。彼にかぎらず、マリオネットたちはディンキーに忠誠を誓っていただけであり、その忠誠の対象が居ない今、彼らが英国人や白人たちにテロ行為を働く理由がない。第一、今現在に至るまで彼が日本国外に出て行ったとする証拠は何一つ出ていないのだろう?」
「それはたしかにそうですが――」
「ならば、気に病むことではない。君たちを含めて日本の警察諸君はベストを尽くしてくれた。それから先は世界中の関係諸機関で対処すべきことだ。むしろ我々が心配しているのは“彼”の事だ」
ガドニックの言葉に大久保が告げる。
「グラウザーですね?」
「そうだ。ベルトコーネはグラウザーに敗北している。彼ほどに戦闘にプライドを持つ存在ならば我々よりもグラウザー君に執着を持ったとしても不思議ではない。そのためにも何としてもこの2次装甲体の完成を急がねばならん。私はそう思うのだ」
ガドニックの言葉は至極正論だった。呉川たちの無用な謝罪と心配をやんわりと拒否しつつ、今、優先すべきことを改めて提示してきた。その言葉に大久保は答えた。
「それではあらためて、戦闘訓練のプランを練り直そうと思います。教授もご協力ありがとうございました」
大久保が礼を告げれば、ガドニックも画面越しに頷き返した。
こうして、グラウザーの戦闘装備のテストは不調のままに終わったのである。
@ @ @
彼らが帰りじたくを終え帰途についたのはすでに日が暮れた5時ごろの事である。
2台のワゴン車に分乗して、大久保らは一路第2科警研へと帰投する。
だが、一本の樹上から、彼らの様子を見下ろす1つの視線があった。
森林地帯の細い道を走り抜ける彼らを、デジタルカメラの超望遠型レンズが見下ろしていた。
「あの子、やっぱり警察が絡んでいたのね」
一人の青年女性がつぶやく。
「このあいだの有明ビルの取材で見かけてから何か変だと思ってたんだけど、ここを張ってて正解だったわね」
賭けが当たって、彼女の声も弾みがちだ。
「これで裏が取れたわ。警視庁の謎のセクション『第2科警研』の一端」
無音動作のオート連写モードに一眼レフデジタルカメラを設定したまま、彼女はリモコンシャッターを押し続ける。遠慮の無い無断撮影が薄暗い樹上で行なわれていた。そして、ワゴン車が走り去ったそのあとで彼女――“面崎 椰子香”――は樹上から降りてくる。
使いざらしのジーンズルックに彼女は潜入撮影の器材を満載していた。そしてカメラからメモリーカードを取出しつつ言う。
「これで第2科警研の情報も、いつでもウリに出せるわ」
面崎は歩き始めた。ここから離れたところの薮に愛車のバイクが止めてある。
彼女はさらに『ネタ』の商品価値を深めるべく行動を開始した。
その光景を大久保たちは眺めていた。そして、ディスプレイの中のガドニックに向けて呉川が告げた。
「しかし、教授。あなたがたには本当にお詫びしなければならない」
「何のことだね?」
唐突な言葉にガドニックが訝しげに答える。
「例の逃亡マリオネットのことです」
呉川が深刻に答えればガドニックは平静な表情のままであっさりと答えた。
「あぁ、ベルトコーネの逃亡のことかね。気にすることではないよ」
そう答えるガドニックの顔は努めて穏やかだった。そこには意図的に明るく振る舞う素振りはなかった。
「そもそもだ。首謀者たるディンキーはもう居ない。逃亡に成功したとはいえ彼自身が英国人への憎悪を持っていたとは考えにくい。彼にかぎらず、マリオネットたちはディンキーに忠誠を誓っていただけであり、その忠誠の対象が居ない今、彼らが英国人や白人たちにテロ行為を働く理由がない。第一、今現在に至るまで彼が日本国外に出て行ったとする証拠は何一つ出ていないのだろう?」
「それはたしかにそうですが――」
「ならば、気に病むことではない。君たちを含めて日本の警察諸君はベストを尽くしてくれた。それから先は世界中の関係諸機関で対処すべきことだ。むしろ我々が心配しているのは“彼”の事だ」
ガドニックの言葉に大久保が告げる。
「グラウザーですね?」
「そうだ。ベルトコーネはグラウザーに敗北している。彼ほどに戦闘にプライドを持つ存在ならば我々よりもグラウザー君に執着を持ったとしても不思議ではない。そのためにも何としてもこの2次装甲体の完成を急がねばならん。私はそう思うのだ」
ガドニックの言葉は至極正論だった。呉川たちの無用な謝罪と心配をやんわりと拒否しつつ、今、優先すべきことを改めて提示してきた。その言葉に大久保は答えた。
「それではあらためて、戦闘訓練のプランを練り直そうと思います。教授もご協力ありがとうございました」
大久保が礼を告げれば、ガドニックも画面越しに頷き返した。
こうして、グラウザーの戦闘装備のテストは不調のままに終わったのである。
@ @ @
彼らが帰りじたくを終え帰途についたのはすでに日が暮れた5時ごろの事である。
2台のワゴン車に分乗して、大久保らは一路第2科警研へと帰投する。
だが、一本の樹上から、彼らの様子を見下ろす1つの視線があった。
森林地帯の細い道を走り抜ける彼らを、デジタルカメラの超望遠型レンズが見下ろしていた。
「あの子、やっぱり警察が絡んでいたのね」
一人の青年女性がつぶやく。
「このあいだの有明ビルの取材で見かけてから何か変だと思ってたんだけど、ここを張ってて正解だったわね」
賭けが当たって、彼女の声も弾みがちだ。
「これで裏が取れたわ。警視庁の謎のセクション『第2科警研』の一端」
無音動作のオート連写モードに一眼レフデジタルカメラを設定したまま、彼女はリモコンシャッターを押し続ける。遠慮の無い無断撮影が薄暗い樹上で行なわれていた。そして、ワゴン車が走り去ったそのあとで彼女――“面崎 椰子香”――は樹上から降りてくる。
使いざらしのジーンズルックに彼女は潜入撮影の器材を満載していた。そしてカメラからメモリーカードを取出しつつ言う。
「これで第2科警研の情報も、いつでもウリに出せるわ」
面崎は歩き始めた。ここから離れたところの薮に愛車のバイクが止めてある。
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