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第2章エクスプレス グランドプロローグ
プレストーリー 滅びの島のロンサムプリンセス/覚悟と少年と心の封印
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「誰だよ。てめぇ」
彼は自らの背後にローラを隠すとクラウンを真っ向から睨みつけた。
「何勝手に仕切ってるんだよ。アンタ」
それが虚勢と言うものであることは誰の眼に見ても明らかだ。だが、その虚勢こそがラフマニたちがこの土地で生きていくために最も大切なモノだったのである。
「ローラは俺の仲間になるんだよ」
ラフマニは引かなかった。己の胸の奥から湧いてくる不安と恐怖とを必死に飲み込みながら、不気味なまでの威圧感を放つ眼前の敵に立ちはだかったのだ。
「ラフマニ……」
ラフマニの背中に守られながらローラが彼の名を呼べば、ラフマニは振り向かずに前を向いたままである。俄然、ローラの視線はラフマニの背中へと向かう。
大きかった。強かった。ローラの認識の中に、不意に〝頼もしい〟と言う言葉が沸き起こる。
今までにも誰かに守ってもらったことは何度か有る。だが、それは作戦行動の中で物理的防御として必要だったからそうしただけだった。ベルトコーネ、ジュリア、アンジェ、物理的に敵の攻撃を遮ってくれる者の影にかくれる。そう言った行為は今までにも何度かあった。
だが、今は違う。
ラフマニがクラウンに敵わないことくらい日の目を見るより明らかだ。本当ならここから彼の手を引いて一目散に逃走するのが最善の手のはずだ。だが、ローラはうっすらと感じていた。そんな事を望んでもラフマニは聞き入れないであろうということを。
その違い。それが何であるか、ローラは分かっては居ない。理解できていない。だが、ローラにはそれが好ましく、そして、嬉しくもあった。そして、何よりも――
「ラフマニ! やめて! あたしなら構わないから!」
「ローラ?」
ローラから悲鳴のような声が上がる。鳴き声混じりにローラは叫んだ。
「だめだよ、この人には勝てないよ。本気で怒らせたら死んじゃうよ!」
ラフマニを死なせたくなかった。無謀な戦いを挑ませて、彼を失いたくなかった。彼を守れるのなら自分が犠牲になるくらい構わなかった。
「あたしなら――あたしなら大丈夫――あたしが――」
ローラは知っていた。眼前のこの異形の道化師の実力を。彼が本当の力を行使したら。たとえローラの力をもってしても太刀打ち出来ないということを。自分だけが知っているその事実。それが故にローラは悟っていた。己が犠牲になるしか、この局面を回避できる手段がないということを。
ローラがラフマニを追い越し、クラウンの下へと向かおうとする。
「ありがとう。短い時間だったけど嬉しかった」
うつむきながらローラが感謝の言葉を口にする。その声はどことなく震えているのはラフマニを思い、恐怖に震えているがためだ。そのローラの行為をクラウンは満足気に何度もうなづきながら手を差し伸べる。
「姫、正しい判断です」
そして、クラウンがローラの手を握ろうとする。その時だった。
「駄目だ」
力強い言葉が響く。
「お前は渡さねぇ」
ラフマニがローラの肩をしっかりと掴むと、彼女を再び自らの背中へと隠す。
「何の真似です? 少年」
そう問いただすクラウンの声はどことなく怒りに満ちていた。
「ダメ! ダメよ!」
ローラの中を焦りが襲う。それだけはさせてはならない。クラウンを怒らせることだけは。だが――
「うるせぇ!」
――ローラの言葉と、クラウンの言葉、その両方をラフマニはきっぱりと拒否する。
「勝手なこと行ってんじゃんねえよ。ローラは嫌がってんじゃねぇかよ」
ラフマニが告げる。ローラを背後に守りつつ、自らの右手で、ローラの右手をしっかりと握る。そして、クラウンの眼を真っ向から睨みながらラフマニはなおも叫んだ。
「どんなに食い物があったって、どんなに楽な暮らしだって。檻の中に閉じ込められるのとおんなじ暮らしだったら何の意味もねぇだろ! 朝から番まで監視の目を光らせられたら、だれだって息苦しくなるに決まってるだろ! いいか覚えとけ――」
ラフマニは思い切り息を吸うと、全身の力を込めてクラウンに叩きつける。
「人間はなぁ、自由じゃなきゃ死んじまうんだよ!」
その叫びが周囲にこだまする。
クラウンは答えない。沈黙を守ったままだ。ローラもあっけにとられていた。ラフマニの言葉がローラの不安と混乱に満ちた心を晴れやかに明確にしていく。
「自由――」
「あぁ、そうだ。自由だ。どんなに寒くたって、腹が減ってたって、仲間たちとすき喋って、やりたいことをやって、行きたい所に行って、笑って、怒って、泣いて――それでやっと人間なんだろ! 首に見えない鎖つけられて、それで息してても生きてることになるかよ! だからなぁ――」
そしてラフマニは振り返ると、ローラの眼を見つめながら答える。
「お前が今までどこで何をしてきたかなんてことはもう聞かねねぇ。でもな、自分が犠牲になればいいなんて考えるな! 一度仲間にするって決めたんだ。お前は俺の仲間だ、仲間は絶対渡さねぇ!」
ラフマニの意思は硬い。説得も振り切ることも無理だろう。ローラの中に諦めが沸き起こる。ただ、命の危険だけは避けたかった。もし、クラウンが本気を出したなら、自らが彼をかばうしか無い。たとえ正体が露見したとしてもだ。
それに対して、クラウンは2人を見下ろしたまま沈黙していた。ただ、思案して、ラフマニの視線と向き合っている。怒るのか、笑うのか、それとも殺意をむき出しにして、強引にローラを奪おうとするのか――
ほんの僅かの沈黙だったが、それは何十秒にも何十分にも感じられる、長い、長い沈黙である。
そして、クラウンが言葉を紡ぎだす。
「少年よ」
それは優しい語り口だった。
「名前を教えなさい」
ラフマニは臆すること無く、虚勢で声を荒げる事無く、落ち着いた口調で自らを名乗る。
「ラフマニ。ここいらのハイヘイズの頭だ」
それまで怒りの表情を微かににじませていたクラウンだったが、その顔色が晴れていく。そして、いつもの道化者の笑みへと回帰していく。
「ハイヘイズ――無戸籍の私生孤児、だれも守ることのない棄てられた子たちですね。このビルに居た子たち全てがハイヘイズですか」
クラウンの問いにラフマニは頷く。
「皆行き場がねぇ。だったら年上のやつが面倒見るしか無いだろう」
「それで、あなたが面倒を見てるわけですか。あの幼子たちを」
「あぁ、けっして楽じゃねぇがなんとか飢えずにはいさせてやれてるよ」
「なるほど。どおりでやけに子どもたちが多かったわけですね」
ラフマニと語り終えてクラウンは再び沈黙した。そして、何かを決めると、ラフマニにこう告げたのだ。
「わかりました。姫君をあなたに預けましょう。今ここで強引に連れ去っても後味が悪い。それになにより、ローラ姫に嫌われてしまいますからねぇ」
クラウンは冗談交じりに話すと、カラカラと笑い声を上げる。そのクラウンの言葉にラフマニもローラも安堵していた。
「本当だな?」
「えぇ、嘘は言いません。私は――下賤な輩とは違いますので」
「解った」
「いい返事です。ただし――」
ラフマニの言葉にクラウンも満足気に頷き返す。だが、彼の言葉はそこで終わらない。
「一つだけ条件があります」
「条件?」
「姫が涙を流し、あなたのところに留まった事を後悔するようなことが有ればそのときは――」
クラウンがラフマニを強く見つめる。その視線に込められたメッセージをラフマニは理解する。
「約束する。後悔させねぇ」
「ほほほ、良い返事ですねぇ。流石に子どもとはいえ、こんな場所でリーダーをしているだけはある。それでこそ大切な姫をあずける甲斐があるというモノです」
クラウンの言葉に耳を傾けていたラフマニだったが、そこでどうしても問いたいことがあった。
「それにより、アイツらはどこ行ったんだ?」
「あぁ、それならご心配なく。皆さん、無事です。ただちょっと怖い思いをしたようですので、手当をして少々眠っていただいております。だれも欠けてはいませんよ」
クラウンの言葉を丸々信じるわけには行かなかったが、最悪の事態が告げられるよりはマシだった。だがクラウンはさらに言葉を吐いた。
「それと、ここを襲っていた者たちはすべて私が始末しました。遺体を残しておいても面倒でしょうからそれも掃除済みです。同じ連中が二度と来ることはないでしょう」
始末――、その言葉がもたらすニュアンスに一抹の恐ろしさが漂う。ただ、この滅びの島――東京アバディーンでは人死になど決して珍しいことではない。ましてや街の深部では当たり前に起こることだ。
これまでは命じられるままに当たり前に人の命を奪ってきた。それこそ野の雑草を毟り取る様に。だが、今の自分ではそのような真似はできない。命じられていないからではない。それがなにか言葉には形容できないのだが、ラフマニに会い、語り合ったこのほんの僅かな間で、自分の中の何かが明らかに変わりつつある。否、ディンキーと言う亡霊から解き放たれたことで、少しづつ彼女を構成する全てが変容しつつ有る。
ローラは思う。強く思う。こんな思いは初めてだが、やはり思う。
――人の〝死〟が恐ろしい、そして、気持ち悪い――
ローラは自分の胸を両手で押さえた。沸き起こってくるのは不安――、そして過去に自分が成した行為の記憶のフラッシュバック。
斬った、撃ちぬいた、潰した、焼いた、締めた、千切った――、
そして、そして、そして――
聞こえる。断末魔の声が、叫びが、苦しみが、怒りが、恨みが、嘆きが――、
そして、そして、そして、そして――
己が敵に対して吐き続けた呪いの言葉、おのれを縛る呪縛の言葉。
――死ね――
その言葉の意味を、ローラは今こそ理解した。
「うっ――!」
嘆くよりも、泣くよりも、今はただ、悲鳴を上げるしか無い。
「うわぁぁぁぁああっ!!」
彼は自らの背後にローラを隠すとクラウンを真っ向から睨みつけた。
「何勝手に仕切ってるんだよ。アンタ」
それが虚勢と言うものであることは誰の眼に見ても明らかだ。だが、その虚勢こそがラフマニたちがこの土地で生きていくために最も大切なモノだったのである。
「ローラは俺の仲間になるんだよ」
ラフマニは引かなかった。己の胸の奥から湧いてくる不安と恐怖とを必死に飲み込みながら、不気味なまでの威圧感を放つ眼前の敵に立ちはだかったのだ。
「ラフマニ……」
ラフマニの背中に守られながらローラが彼の名を呼べば、ラフマニは振り向かずに前を向いたままである。俄然、ローラの視線はラフマニの背中へと向かう。
大きかった。強かった。ローラの認識の中に、不意に〝頼もしい〟と言う言葉が沸き起こる。
今までにも誰かに守ってもらったことは何度か有る。だが、それは作戦行動の中で物理的防御として必要だったからそうしただけだった。ベルトコーネ、ジュリア、アンジェ、物理的に敵の攻撃を遮ってくれる者の影にかくれる。そう言った行為は今までにも何度かあった。
だが、今は違う。
ラフマニがクラウンに敵わないことくらい日の目を見るより明らかだ。本当ならここから彼の手を引いて一目散に逃走するのが最善の手のはずだ。だが、ローラはうっすらと感じていた。そんな事を望んでもラフマニは聞き入れないであろうということを。
その違い。それが何であるか、ローラは分かっては居ない。理解できていない。だが、ローラにはそれが好ましく、そして、嬉しくもあった。そして、何よりも――
「ラフマニ! やめて! あたしなら構わないから!」
「ローラ?」
ローラから悲鳴のような声が上がる。鳴き声混じりにローラは叫んだ。
「だめだよ、この人には勝てないよ。本気で怒らせたら死んじゃうよ!」
ラフマニを死なせたくなかった。無謀な戦いを挑ませて、彼を失いたくなかった。彼を守れるのなら自分が犠牲になるくらい構わなかった。
「あたしなら――あたしなら大丈夫――あたしが――」
ローラは知っていた。眼前のこの異形の道化師の実力を。彼が本当の力を行使したら。たとえローラの力をもってしても太刀打ち出来ないということを。自分だけが知っているその事実。それが故にローラは悟っていた。己が犠牲になるしか、この局面を回避できる手段がないということを。
ローラがラフマニを追い越し、クラウンの下へと向かおうとする。
「ありがとう。短い時間だったけど嬉しかった」
うつむきながらローラが感謝の言葉を口にする。その声はどことなく震えているのはラフマニを思い、恐怖に震えているがためだ。そのローラの行為をクラウンは満足気に何度もうなづきながら手を差し伸べる。
「姫、正しい判断です」
そして、クラウンがローラの手を握ろうとする。その時だった。
「駄目だ」
力強い言葉が響く。
「お前は渡さねぇ」
ラフマニがローラの肩をしっかりと掴むと、彼女を再び自らの背中へと隠す。
「何の真似です? 少年」
そう問いただすクラウンの声はどことなく怒りに満ちていた。
「ダメ! ダメよ!」
ローラの中を焦りが襲う。それだけはさせてはならない。クラウンを怒らせることだけは。だが――
「うるせぇ!」
――ローラの言葉と、クラウンの言葉、その両方をラフマニはきっぱりと拒否する。
「勝手なこと行ってんじゃんねえよ。ローラは嫌がってんじゃねぇかよ」
ラフマニが告げる。ローラを背後に守りつつ、自らの右手で、ローラの右手をしっかりと握る。そして、クラウンの眼を真っ向から睨みながらラフマニはなおも叫んだ。
「どんなに食い物があったって、どんなに楽な暮らしだって。檻の中に閉じ込められるのとおんなじ暮らしだったら何の意味もねぇだろ! 朝から番まで監視の目を光らせられたら、だれだって息苦しくなるに決まってるだろ! いいか覚えとけ――」
ラフマニは思い切り息を吸うと、全身の力を込めてクラウンに叩きつける。
「人間はなぁ、自由じゃなきゃ死んじまうんだよ!」
その叫びが周囲にこだまする。
クラウンは答えない。沈黙を守ったままだ。ローラもあっけにとられていた。ラフマニの言葉がローラの不安と混乱に満ちた心を晴れやかに明確にしていく。
「自由――」
「あぁ、そうだ。自由だ。どんなに寒くたって、腹が減ってたって、仲間たちとすき喋って、やりたいことをやって、行きたい所に行って、笑って、怒って、泣いて――それでやっと人間なんだろ! 首に見えない鎖つけられて、それで息してても生きてることになるかよ! だからなぁ――」
そしてラフマニは振り返ると、ローラの眼を見つめながら答える。
「お前が今までどこで何をしてきたかなんてことはもう聞かねねぇ。でもな、自分が犠牲になればいいなんて考えるな! 一度仲間にするって決めたんだ。お前は俺の仲間だ、仲間は絶対渡さねぇ!」
ラフマニの意思は硬い。説得も振り切ることも無理だろう。ローラの中に諦めが沸き起こる。ただ、命の危険だけは避けたかった。もし、クラウンが本気を出したなら、自らが彼をかばうしか無い。たとえ正体が露見したとしてもだ。
それに対して、クラウンは2人を見下ろしたまま沈黙していた。ただ、思案して、ラフマニの視線と向き合っている。怒るのか、笑うのか、それとも殺意をむき出しにして、強引にローラを奪おうとするのか――
ほんの僅かの沈黙だったが、それは何十秒にも何十分にも感じられる、長い、長い沈黙である。
そして、クラウンが言葉を紡ぎだす。
「少年よ」
それは優しい語り口だった。
「名前を教えなさい」
ラフマニは臆すること無く、虚勢で声を荒げる事無く、落ち着いた口調で自らを名乗る。
「ラフマニ。ここいらのハイヘイズの頭だ」
それまで怒りの表情を微かににじませていたクラウンだったが、その顔色が晴れていく。そして、いつもの道化者の笑みへと回帰していく。
「ハイヘイズ――無戸籍の私生孤児、だれも守ることのない棄てられた子たちですね。このビルに居た子たち全てがハイヘイズですか」
クラウンの問いにラフマニは頷く。
「皆行き場がねぇ。だったら年上のやつが面倒見るしか無いだろう」
「それで、あなたが面倒を見てるわけですか。あの幼子たちを」
「あぁ、けっして楽じゃねぇがなんとか飢えずにはいさせてやれてるよ」
「なるほど。どおりでやけに子どもたちが多かったわけですね」
ラフマニと語り終えてクラウンは再び沈黙した。そして、何かを決めると、ラフマニにこう告げたのだ。
「わかりました。姫君をあなたに預けましょう。今ここで強引に連れ去っても後味が悪い。それになにより、ローラ姫に嫌われてしまいますからねぇ」
クラウンは冗談交じりに話すと、カラカラと笑い声を上げる。そのクラウンの言葉にラフマニもローラも安堵していた。
「本当だな?」
「えぇ、嘘は言いません。私は――下賤な輩とは違いますので」
「解った」
「いい返事です。ただし――」
ラフマニの言葉にクラウンも満足気に頷き返す。だが、彼の言葉はそこで終わらない。
「一つだけ条件があります」
「条件?」
「姫が涙を流し、あなたのところに留まった事を後悔するようなことが有ればそのときは――」
クラウンがラフマニを強く見つめる。その視線に込められたメッセージをラフマニは理解する。
「約束する。後悔させねぇ」
「ほほほ、良い返事ですねぇ。流石に子どもとはいえ、こんな場所でリーダーをしているだけはある。それでこそ大切な姫をあずける甲斐があるというモノです」
クラウンの言葉に耳を傾けていたラフマニだったが、そこでどうしても問いたいことがあった。
「それにより、アイツらはどこ行ったんだ?」
「あぁ、それならご心配なく。皆さん、無事です。ただちょっと怖い思いをしたようですので、手当をして少々眠っていただいております。だれも欠けてはいませんよ」
クラウンの言葉を丸々信じるわけには行かなかったが、最悪の事態が告げられるよりはマシだった。だがクラウンはさらに言葉を吐いた。
「それと、ここを襲っていた者たちはすべて私が始末しました。遺体を残しておいても面倒でしょうからそれも掃除済みです。同じ連中が二度と来ることはないでしょう」
始末――、その言葉がもたらすニュアンスに一抹の恐ろしさが漂う。ただ、この滅びの島――東京アバディーンでは人死になど決して珍しいことではない。ましてや街の深部では当たり前に起こることだ。
これまでは命じられるままに当たり前に人の命を奪ってきた。それこそ野の雑草を毟り取る様に。だが、今の自分ではそのような真似はできない。命じられていないからではない。それがなにか言葉には形容できないのだが、ラフマニに会い、語り合ったこのほんの僅かな間で、自分の中の何かが明らかに変わりつつある。否、ディンキーと言う亡霊から解き放たれたことで、少しづつ彼女を構成する全てが変容しつつ有る。
ローラは思う。強く思う。こんな思いは初めてだが、やはり思う。
――人の〝死〟が恐ろしい、そして、気持ち悪い――
ローラは自分の胸を両手で押さえた。沸き起こってくるのは不安――、そして過去に自分が成した行為の記憶のフラッシュバック。
斬った、撃ちぬいた、潰した、焼いた、締めた、千切った――、
そして、そして、そして――
聞こえる。断末魔の声が、叫びが、苦しみが、怒りが、恨みが、嘆きが――、
そして、そして、そして、そして――
己が敵に対して吐き続けた呪いの言葉、おのれを縛る呪縛の言葉。
――死ね――
その言葉の意味を、ローラは今こそ理解した。
「うっ――!」
嘆くよりも、泣くよりも、今はただ、悲鳴を上げるしか無い。
「うわぁぁぁぁああっ!!」
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