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グランドプロローグ『未来都市のタイムライン』
X6:世界情報ライブラリールーム〔天空のラウンジ〕/可能性
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それからしばらくの間、バー・アルファベットでは団欒と歓談が続いていた。話の中心はベルに集まっていた。
ミルドレッドがベルに問う。
「――それじゃ、学校のシステムを?」
「はい」
「なんでそんなことを?」
「それは――、あまりにも学校の采配が一方的だったので許せなくて」
「そのお友達の退学処分のこと?」
「はい、妊娠したのはカラオケで睡眠薬を飲まされて無理やりに乱暴されたことが原因なんです。ですが生徒指導の先生が〝ついて行ったのが悪い〟と言って友人の言い分を全く聞いてくれなくて――」
その言葉にアーサーが尋ねる。
「失礼、そのご友人だが普段は?」
「真面目とは言い難いですが、成績が悪いわけじゃないし、週末にちょっと大きい街に出かけるのは、今時の子ならよくあることです。それに、その生徒指導の先生が特別に気に入ってる子が別にいるのですが、大学の推薦枠をめぐって争っているという噂があったんです」
その言葉に頷きながらダンテが言った。
「なるほど、自分のお気に入りをねじ込むために、ライバルの身に降りかかった不幸を逆に利用してライバル排除の口実にしたというわけか。ベル、君は事実を突き止め不正を暴こうとしたというわけだね?」
ベルはその時のことを思い出しながら悔しさをかみしめつつ頷いていた。
「でも、暴いた事実はもみ消されて私が不正アクセスしたという事実だけが吊るし上げられて終わりました。他の生徒側からも処分が厳しすぎるって強い反発があったので強制退学ではなく自主退学扱いになりましたが」
「ふーん……」
ペロがため息をつく。
「何ともやりきれない終わりだねえ」
「はい、ですが向こうが権力を持っている以上私にはどうにも出来ませんでした」
ベルのそこまで話した時だった。
「失礼――」
そう告げながらダンテが立ち上がる。
「用事を思い出した」
そう言葉を残しながらペロとベルに意味ありげな視線を投げかけたのだ。
「えっ?」
ベルは驚きの声を漏らしたがダンテは悠然と去っていった。
その姿にアーサーが言う。
「始まったね。彼、こういう話は見過ごせないから」
「そうね。自由を尊ぶ彼にとって権力の横車はいちばん大嫌いだから」
アーサーとミルドレッドの会話にベルが戸惑っていると、ペロもまた立ち上がりながらベルに持ちかけてきたのだ。
「ベルちゃん。ちょっと一緒においで」
「えっ? あっはい!」
ベルは慌てて立ち上がる。その背中にミルドレッドとアーサーが声をかけた。
「またね、ベル」
「また会おう」
その言葉にベルは振り向いて会釈で返しながら――
「はい、今日はありがとうございました」
――と、丁寧に言葉を返したのだ。
ペロがベルに告げる。
「じゃあ行くよ」
「はい」
白うさぎに招かれるアリスのようにベルはペロの後をついて行った。その背中を見送りながらミルドレッドが言う。
「いい子ね、理不尽を前にしても行動せずにはいられない」
「そうだな」
アーサーが言う。
「だがまだまだ世の中の事を知らなさすぎる」
「でもそれは、私たちが教えてあげればいいわ。次世代を育てるためにね」
「ああ、もちろんだ」
そして、その言葉を残しながら二人もまた何処かへと去っていった。ネット世界の外側、彼ら本来の現実の生活へと帰還して行ったのである。
@ @ @
ベル=成宮倫子は特別限定フロア・コキュートスのメインエントラスフロアの真ん中へと立っていた。彼を招いた猫貴族・ペロにここに立っているようにと言われたためである。そのペロは傍らでなにやらゴソゴソやっている。
「あれ? どこにやったかな?」
ポケットやら背広の内側やら、あちこち探ってる。ベルは思わず問うた。
「あの、何してるんですか?」
「いや、その――〝鍵〟」
「え?」
そう教えられて思わずつぶやく。するとペロの来ている背広の襟元の後ろ側、そこに隠されている小さな鍵が覗いていた。
「あ、もしかしてこれ?」
その鍵を手に取るとペロの前に差し出す。銅褐色に焼けた重厚そうな鍵である。無論、それはイメージであり物理的な鍵ではない。しかし――
「あぁ! そうそうこれこれ」
鍵が見つかって嬉しそうにしている。そんなペロにベルは思わず突っ込んだ。
「もしかして昔のアニメ映画のマネですか? 〝襟の後ろよ〟ってやつ」
その問いにペロは思わず頭を掻いていた。
「いやぁ、面目無い。でもこれでアソコに行ける。さ、僕の尻尾に掴まって」
「尻尾?」
ペロは三毛猫だが、中途半端な長さの尻尾がお尻から覗いている。それを恐る恐る掴む。
「こうですか?」
「OK! じゃあ行くよ!」
ペロはそう告げると〝鍵〟を頭上へとかざした。そしてそのまま鍵を開けるようにひねる仕草をする。すると音声メッセージが聞こえてきたのだ。
〔――管理者権限特別承認、世界情報ライブラリールーム【天空のラウンジ】へアクセスします――〕
天空のラウンジ――、その音声は確かにそう告げた。
「え? なんで?」
それはX-CHANNELの中でも最高位の特別ルーム。一般会員は絶対に入れない。そう――
「ペロさん? あなたまさか?」
――このX-CHANNELのオーナークラスでしかありえない。
「大丈夫! 行けば分かるよ」
ペロがにこやかにそう告げる。そして二人のシルエットはまばゆい光の奔流に包まれる。しかるのちに二人の姿はそこから消えたのである。
@ @ @
「さ、もう目を開けていいよ」
「ん――」
ペロに告げられてベルは静かに目を開ける。そしてそこで目の当たりにした光景に思わず感嘆の声を上げたのだ。
「うわぁ!」
感動に等しい声があがる。
それもそのはず。ベルの足元にはなにもない。宇宙空間に自らの身体が浮かび、周囲を無数の星空で包まれている。
そして足元はるかに青く光り輝く地球がある。それはまさに天空から見下された神の視座である。
あらためて周りを見回せば猫紳士のペロが空中に浮いている。ペロは静かに語り始めた。
「ようこそ、僕の特別な場所へ」
その言葉が意味することは一つだ。
「ま、まさか――ペロさん、あなたって?」
「まぁね、法的代表ではなく最終的な実権を握っている――と言うところかな。そうさ、このX-CHANNELは僕が運営しているんだ。ダミーの存在を何段階も挟んでるから正体を知られる事はまずないけどね」
それは意外すぎる事実だ。だが、それでも疑問はある。
「なぜ? X-CHANNELを?」
その問いに悪びれもせずペロは答える。
「そりゃあ〝情報〟を集めるためさ。下手に探しに行くより〝情報が勝手に集まる場所〟を作って待っていたほうが効率がいいからね。だから――」
ペロは星空を歩きながらベルのところへと歩み寄る。
「――君みたいな未来の可能性を秘めた人にも会えるんだよ」
「可能性――」
つぶやき返すベルにペロは頷く。
「いいかい? ベル。世の中には2つの人間がいる」
ペロはベルに両手を差し出す。まずは左手を掲げる。
「1つは、眼の前で起きる事や、自らの身に降りかかる理不尽に対して、何の疑念も持たずに流されるだけの存在――」
そして残る右手を掲げる。
「もう一つが、いかなる困難も、いかなる理不尽も見過ごさず、立ち止まること無く進み続け〝可能性〟を切り開く存在――」
ペロは左手を降ろしながら言う。
「僕はただ無意志に漫然と流されるだけの人間には興味はない。わざわざ手を差し伸べる必要も感じないし、差し伸べても無駄に終わるばかりだからね。だが――」
ペロはさらに右手をベルの方へと差し出しながら告げた。
「〝立ち止まらない〟人間は違う。時には迷い、時には間違い、傷づき、後悔することもあるだろう。だけどそう言う人たちこそが困難を乗り越えられる。そして――」
ペロの語る言葉に、ベルは思わず無意識のうちに呟いた。
「〝可能性〟を切り開く」
その言葉に、ペロは驚きつつも満面の笑みを浮かべ、そして両手でポテポテと拍手したのだ。
「正解! さすがベル――そう言う事さ。僕は〝可能性〟を秘めた人たちが大好きなんだ。君もそう、そして――」
ペロがそうつぶやくと同時に周囲の空間に5つの人物映像が浮かび上がる。
「――彼らもそうだ」
ペロが呼び出した映像に写っていた者――それはアトラスを始めとする『特攻装警』たちである。
ミルドレッドがベルに問う。
「――それじゃ、学校のシステムを?」
「はい」
「なんでそんなことを?」
「それは――、あまりにも学校の采配が一方的だったので許せなくて」
「そのお友達の退学処分のこと?」
「はい、妊娠したのはカラオケで睡眠薬を飲まされて無理やりに乱暴されたことが原因なんです。ですが生徒指導の先生が〝ついて行ったのが悪い〟と言って友人の言い分を全く聞いてくれなくて――」
その言葉にアーサーが尋ねる。
「失礼、そのご友人だが普段は?」
「真面目とは言い難いですが、成績が悪いわけじゃないし、週末にちょっと大きい街に出かけるのは、今時の子ならよくあることです。それに、その生徒指導の先生が特別に気に入ってる子が別にいるのですが、大学の推薦枠をめぐって争っているという噂があったんです」
その言葉に頷きながらダンテが言った。
「なるほど、自分のお気に入りをねじ込むために、ライバルの身に降りかかった不幸を逆に利用してライバル排除の口実にしたというわけか。ベル、君は事実を突き止め不正を暴こうとしたというわけだね?」
ベルはその時のことを思い出しながら悔しさをかみしめつつ頷いていた。
「でも、暴いた事実はもみ消されて私が不正アクセスしたという事実だけが吊るし上げられて終わりました。他の生徒側からも処分が厳しすぎるって強い反発があったので強制退学ではなく自主退学扱いになりましたが」
「ふーん……」
ペロがため息をつく。
「何ともやりきれない終わりだねえ」
「はい、ですが向こうが権力を持っている以上私にはどうにも出来ませんでした」
ベルのそこまで話した時だった。
「失礼――」
そう告げながらダンテが立ち上がる。
「用事を思い出した」
そう言葉を残しながらペロとベルに意味ありげな視線を投げかけたのだ。
「えっ?」
ベルは驚きの声を漏らしたがダンテは悠然と去っていった。
その姿にアーサーが言う。
「始まったね。彼、こういう話は見過ごせないから」
「そうね。自由を尊ぶ彼にとって権力の横車はいちばん大嫌いだから」
アーサーとミルドレッドの会話にベルが戸惑っていると、ペロもまた立ち上がりながらベルに持ちかけてきたのだ。
「ベルちゃん。ちょっと一緒においで」
「えっ? あっはい!」
ベルは慌てて立ち上がる。その背中にミルドレッドとアーサーが声をかけた。
「またね、ベル」
「また会おう」
その言葉にベルは振り向いて会釈で返しながら――
「はい、今日はありがとうございました」
――と、丁寧に言葉を返したのだ。
ペロがベルに告げる。
「じゃあ行くよ」
「はい」
白うさぎに招かれるアリスのようにベルはペロの後をついて行った。その背中を見送りながらミルドレッドが言う。
「いい子ね、理不尽を前にしても行動せずにはいられない」
「そうだな」
アーサーが言う。
「だがまだまだ世の中の事を知らなさすぎる」
「でもそれは、私たちが教えてあげればいいわ。次世代を育てるためにね」
「ああ、もちろんだ」
そして、その言葉を残しながら二人もまた何処かへと去っていった。ネット世界の外側、彼ら本来の現実の生活へと帰還して行ったのである。
@ @ @
ベル=成宮倫子は特別限定フロア・コキュートスのメインエントラスフロアの真ん中へと立っていた。彼を招いた猫貴族・ペロにここに立っているようにと言われたためである。そのペロは傍らでなにやらゴソゴソやっている。
「あれ? どこにやったかな?」
ポケットやら背広の内側やら、あちこち探ってる。ベルは思わず問うた。
「あの、何してるんですか?」
「いや、その――〝鍵〟」
「え?」
そう教えられて思わずつぶやく。するとペロの来ている背広の襟元の後ろ側、そこに隠されている小さな鍵が覗いていた。
「あ、もしかしてこれ?」
その鍵を手に取るとペロの前に差し出す。銅褐色に焼けた重厚そうな鍵である。無論、それはイメージであり物理的な鍵ではない。しかし――
「あぁ! そうそうこれこれ」
鍵が見つかって嬉しそうにしている。そんなペロにベルは思わず突っ込んだ。
「もしかして昔のアニメ映画のマネですか? 〝襟の後ろよ〟ってやつ」
その問いにペロは思わず頭を掻いていた。
「いやぁ、面目無い。でもこれでアソコに行ける。さ、僕の尻尾に掴まって」
「尻尾?」
ペロは三毛猫だが、中途半端な長さの尻尾がお尻から覗いている。それを恐る恐る掴む。
「こうですか?」
「OK! じゃあ行くよ!」
ペロはそう告げると〝鍵〟を頭上へとかざした。そしてそのまま鍵を開けるようにひねる仕草をする。すると音声メッセージが聞こえてきたのだ。
〔――管理者権限特別承認、世界情報ライブラリールーム【天空のラウンジ】へアクセスします――〕
天空のラウンジ――、その音声は確かにそう告げた。
「え? なんで?」
それはX-CHANNELの中でも最高位の特別ルーム。一般会員は絶対に入れない。そう――
「ペロさん? あなたまさか?」
――このX-CHANNELのオーナークラスでしかありえない。
「大丈夫! 行けば分かるよ」
ペロがにこやかにそう告げる。そして二人のシルエットはまばゆい光の奔流に包まれる。しかるのちに二人の姿はそこから消えたのである。
@ @ @
「さ、もう目を開けていいよ」
「ん――」
ペロに告げられてベルは静かに目を開ける。そしてそこで目の当たりにした光景に思わず感嘆の声を上げたのだ。
「うわぁ!」
感動に等しい声があがる。
それもそのはず。ベルの足元にはなにもない。宇宙空間に自らの身体が浮かび、周囲を無数の星空で包まれている。
そして足元はるかに青く光り輝く地球がある。それはまさに天空から見下された神の視座である。
あらためて周りを見回せば猫紳士のペロが空中に浮いている。ペロは静かに語り始めた。
「ようこそ、僕の特別な場所へ」
その言葉が意味することは一つだ。
「ま、まさか――ペロさん、あなたって?」
「まぁね、法的代表ではなく最終的な実権を握っている――と言うところかな。そうさ、このX-CHANNELは僕が運営しているんだ。ダミーの存在を何段階も挟んでるから正体を知られる事はまずないけどね」
それは意外すぎる事実だ。だが、それでも疑問はある。
「なぜ? X-CHANNELを?」
その問いに悪びれもせずペロは答える。
「そりゃあ〝情報〟を集めるためさ。下手に探しに行くより〝情報が勝手に集まる場所〟を作って待っていたほうが効率がいいからね。だから――」
ペロは星空を歩きながらベルのところへと歩み寄る。
「――君みたいな未来の可能性を秘めた人にも会えるんだよ」
「可能性――」
つぶやき返すベルにペロは頷く。
「いいかい? ベル。世の中には2つの人間がいる」
ペロはベルに両手を差し出す。まずは左手を掲げる。
「1つは、眼の前で起きる事や、自らの身に降りかかる理不尽に対して、何の疑念も持たずに流されるだけの存在――」
そして残る右手を掲げる。
「もう一つが、いかなる困難も、いかなる理不尽も見過ごさず、立ち止まること無く進み続け〝可能性〟を切り開く存在――」
ペロは左手を降ろしながら言う。
「僕はただ無意志に漫然と流されるだけの人間には興味はない。わざわざ手を差し伸べる必要も感じないし、差し伸べても無駄に終わるばかりだからね。だが――」
ペロはさらに右手をベルの方へと差し出しながら告げた。
「〝立ち止まらない〟人間は違う。時には迷い、時には間違い、傷づき、後悔することもあるだろう。だけどそう言う人たちこそが困難を乗り越えられる。そして――」
ペロの語る言葉に、ベルは思わず無意識のうちに呟いた。
「〝可能性〟を切り開く」
その言葉に、ペロは驚きつつも満面の笑みを浮かべ、そして両手でポテポテと拍手したのだ。
「正解! さすがベル――そう言う事さ。僕は〝可能性〟を秘めた人たちが大好きなんだ。君もそう、そして――」
ペロがそうつぶやくと同時に周囲の空間に5つの人物映像が浮かび上がる。
「――彼らもそうだ」
ペロが呼び出した映像に写っていた者――それはアトラスを始めとする『特攻装警』たちである。
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