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第1章ルーキーPartⅢ『天空のコロッセオ』
第27話 天空のコロッセオⅧ/―鋼の心臓―
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そして――
残る戦いは一つだけとなった。
マリーが倒れ、
アンジェが倒れ
ローラが逃走し、
ジュリアが破壊され、
ガルディノが霧散し、
コナンはその魔剣を断ち折られた。
最後に残された者、それはアトラスのその拳を砕いたアイツだった。それは現時点において、アトラスにしか太刀打ちできない相手である。
そして、彼もまたアトラスを待っていたのである。
@ @ @
第4ブロック階層の西側エリア。対峙するのはアトラスとベルトコーネ。
かつて南本牧の埠頭で向かい合い、互いの拳を破壊し合った同士である。
黒いレザー仕立てのバイカーズジャケットの上下を纏い、白髪オールバックの白人系。その全身を見てもコナンと異なり人工物めいた要素はその外見からは感じられない。ただ、その全身のそこかしこにベルト状の拘束具が存在している。今でこそ拘束は解かれているが、何らかの状況の時にはそれが作動してベルトコーネを拘束するのは確かである。
西側の外周ビルの間際、ベルトコーネは立ち尽くし、じっと眼前を見据えている。その視線の先には一人のアンドロイドが居る。
――特攻装警第1号機アトラス――
全身、特殊チタン合金で出来た最高強度の鋼の警察官である。
アトラスは身につけていたフライトジャケットを脱ぎだすと、それを片手で投げ放った。視線はベルトコーネからは離さない。ただ、一直線に眼前を見るのみだ。
二人の間に言葉はない。
ベルトコーネの視線が語る。
――来い――
アトラスの歩みが語る。
――お前を倒す――
ベルトコーネもまた両手を軽く開いて握りしめてを繰り返すと、骨が軋むかのような力を込めて握りしめる。構えはとらず両腕を自然に下へと下げている。いわゆる無為の構えだ。
対するアトラスは両腕を下へと下げているがいつでも構えを取れるように両腕に力が込められている。さしずめリングの中央へと向かうボクサーの如しである。
構えをとらず待ち構えるベルトコーネに対して、一撃の威力を狙って拳を固めるアトラス。
全く異なる2人は切っ先を先んじたのは、先に歩み始めたアトラスである。はじめはゆっくりと、そして徐々に足早に。少しづつ歩みを早め勢いを付けると両の拳にすべての力を込めて、弓の弦を引き絞るかのように両の拳を己の眼前で構える。
迷いは一切ない。ただ純粋に立ちはだかる敵を撃破する――、その一点においてのみアトラスは駆け抜け、その勢いを殺さぬままにベルトコーネの懐の間合いへと飛び込んでいく。
アトラスは理解していた。
ベルトコーネは飛び道具を持たない。純粋に己のパワーのみで戦うスタイルだ。
そうであるならベルトコーネの戦闘スタイルはアトラスと同等であるはずだ。
ベルトコーネには40フィートコンテナを一撃で破壊し、巨大な鋼材をダーツのように投げ放つ馬鹿げたようなパワーが有る。かたや、アトラスはパワーこそベルトコーネに劣るものの、そのボディの頑強さこそが何者にも勝る武器だった。
小細工は弄しない。弄する必要すらない。
ただ、その拳撃あるのみだ。
互いの間合いが2mを切った時だ。先手を打って攻撃したのはアトラスである。
飛び込みの勢いを殺さぬまま、右の拳でジャブを繰り出しベルトコーネの顔面を狙う。
ベルトコーネが右へとボディーをスウェーさせてかわすと、アトラスは左の拳をフック気味にベルトコーネの頭部を側面から狙う。
そのアトラスの拳を弾こうと、ベルトコーネの右腕が真下から跳ね上げられるように動き、アトラスの左手首を掴みにかかる。
手首を掴まれぬ様に踏みとどまるアトラスは右手で掌底をつくると、それをベルトコーネの脇腹へと打ち込んでいく。それを牽制するのはベルトコーネの左膝。
左の手首を掴まれずに済むと、アトラスも左膝の蹴りを繰り出して、ベルトコーネの胴体を狙う。
結果、互いの膝頭がぶつかり合い、2人は弾き返されるかのように後方へと退き飛び、4m程の間合いを取ることとなる。
アトラスもベルトコーネも、互いをじっと視線で射抜くかのように睨み合った。
否、睨むというより、攻撃の機会をじっと待ち、限界まで牽制しあっている。
アトラスの左手が手刀を作り、右手は拳を作り腰だめに構えられる。
対するベルトコーネは左半身を後ろに、右半身を前にして、右手を曲げ気味にして構えると左手は腰の裏で拳を作っていた。アトラスはその姿を冷静に見つめながら思う。
――やはり、一撃の一つ一つが重い――
一つだけ明確に解ることがある。このままのやり取りを続けていても、あの南本牧の再現になるだろう。ならば己に課した戒めを解くより他は無い。
――アレを使うなら今だ――
そう判断するアトラスは、この日のために己自身のために仕掛けておいたものを発動させる覚悟を決めた。これは試合ではない。戦いにルールは無いのだ。それは警察として生まれた身の上だと覚悟を決めた時からに当の昔に解っていたことなのだ。
そして――
アトラスはこの日のために己の体内に用意したその装置を起動させる。もはや迷いはなかった。
【 体内主動力レギュレーターリミッター解除 】
【 超電導バッテリーモードから 】
【 マイクロ核融合モードへ移行 】
【 1:炉内圧力 】
【 2:磁力係数 】
【 3:ヘリウム3濃度 ――共に上昇 】
アトラスはアンドロイドである。それも、特攻装警の中では、最も初期に作られた原理試作機だ。構造もシンプルで多彩な機能を持っているわけではない。そのため、様々な現場で機能不足から苦渋を味わうことは日常茶飯事だ。
だが――
だからこそ。アトラスは努力を惜しまない。己を信じ、己を成長させることに迷いが無い。そして、その努力のための手段にも迷いも遠慮も有りはしなかった。
アトラスの体内、その胸部のあたりから甲高いノイズが響いていた。耳障りな、頭に響くような、継続的なノイズ音だ。それは当然、ベルトコーネにも聞こえていた。突如聞こえてきたその音に、無表情な彼も戸惑いを感じずにはいられなかった。
「何だ?」
無口で感情を顔に現さないベルトコーネが、聞き慣れない音に珍しく言葉をともなって怪訝そうにその異音の源に視線を向けていた。
「なんの真似だ」
構えた拳はそのままに、相対する敵が仕掛けてくる行為のその意図を解しかねている。未知の不安は怖れとなり、恐れはベルトコーネの挙動の一部に垣間見えていた。表情から余裕が薄れる。アトラスを見つめていた視線に強い敵意が浮かび始めていた。
だが、アトラスは両手の拳を緩めて腕を下げると全身から力を抜いた。体の緊張を解き、攻撃のモーションを全て消し去ってしまう。いわゆる『無為の構え』だ。両足を緩く開いて立ち、その左目の視線をベルトコーネへと投げかけながらアトラスは穏やかに答える。
「別に特別なことじゃないさ」
そして、右半身と右足を静かに前へ進ませながら、右の手刀を日本刀を突きつけるかの如く突き出す。
「メイン動力を普段の物から、こういう時に使う特別製に載せ替えただけだ」
アトラスがそう語れば、彼の体内から発せられていた甲高いノイズはピークに達したかのようにはっきりと音で聞こえるほどに甲高く大きくなっていた。ベルトコーネにもそれが敵であるアトラスにとってこの時の為に用意しておいた〝奥の手〟であると感じずには居られなかった。
「ほう?」
ベルトコーネも構えた。右半身を前にして右腕をやや下気味に腰の前辺りにで横に構え、左手を胸の前で構える――、いわゆるボクシングのデトロイトスタイルだ。両足にも力を込め、いつでも飛び出せるように準備は抜かりはなかった。
同じくして、アトラスの認識の中にその情報が飛び込んでくる。そして、その時は来た。
【 1:炉内圧力 】
【 2:磁力係数 】
【 3:ヘリウム3濃度 】
【 ――上記3条件。臨界点突破 】
互いに引き絞られた弓のように射放たれるときを待っていた。その先を制してアトラスが告げる。
「お前のために〝心臓〟を入れ替えた」
そして、右膝を引き上げるのと同時に左足を踏みしめる。次の瞬間、鋼鉄の弾丸の如く、アトラスの身体は飛び出していく。
「超電導バッテリーから〝核融合炉心〟にな!」
引き上げた右足が台地を踏みしめるのと同時に“それ”は発動した。
【 強化型タンデムミラー型 】
【 マイクロ核融合炉心 】
【 ――点火―― 】
アトラスのチタン外殻の胸部の中、収められたパルス駆動の核融合炉心は脈動する心臓のように作動を開始した。
ヘリウム3から精製される超高温の灼熱プラズマはHMD発電ユニットへと誘導されて膨大な電力を生み出していく。そして、それはアトラスの全身へと行き渡り電動性の人工筋肉へと絶大なパワーを与えるのだ。
残る戦いは一つだけとなった。
マリーが倒れ、
アンジェが倒れ
ローラが逃走し、
ジュリアが破壊され、
ガルディノが霧散し、
コナンはその魔剣を断ち折られた。
最後に残された者、それはアトラスのその拳を砕いたアイツだった。それは現時点において、アトラスにしか太刀打ちできない相手である。
そして、彼もまたアトラスを待っていたのである。
@ @ @
第4ブロック階層の西側エリア。対峙するのはアトラスとベルトコーネ。
かつて南本牧の埠頭で向かい合い、互いの拳を破壊し合った同士である。
黒いレザー仕立てのバイカーズジャケットの上下を纏い、白髪オールバックの白人系。その全身を見てもコナンと異なり人工物めいた要素はその外見からは感じられない。ただ、その全身のそこかしこにベルト状の拘束具が存在している。今でこそ拘束は解かれているが、何らかの状況の時にはそれが作動してベルトコーネを拘束するのは確かである。
西側の外周ビルの間際、ベルトコーネは立ち尽くし、じっと眼前を見据えている。その視線の先には一人のアンドロイドが居る。
――特攻装警第1号機アトラス――
全身、特殊チタン合金で出来た最高強度の鋼の警察官である。
アトラスは身につけていたフライトジャケットを脱ぎだすと、それを片手で投げ放った。視線はベルトコーネからは離さない。ただ、一直線に眼前を見るのみだ。
二人の間に言葉はない。
ベルトコーネの視線が語る。
――来い――
アトラスの歩みが語る。
――お前を倒す――
ベルトコーネもまた両手を軽く開いて握りしめてを繰り返すと、骨が軋むかのような力を込めて握りしめる。構えはとらず両腕を自然に下へと下げている。いわゆる無為の構えだ。
対するアトラスは両腕を下へと下げているがいつでも構えを取れるように両腕に力が込められている。さしずめリングの中央へと向かうボクサーの如しである。
構えをとらず待ち構えるベルトコーネに対して、一撃の威力を狙って拳を固めるアトラス。
全く異なる2人は切っ先を先んじたのは、先に歩み始めたアトラスである。はじめはゆっくりと、そして徐々に足早に。少しづつ歩みを早め勢いを付けると両の拳にすべての力を込めて、弓の弦を引き絞るかのように両の拳を己の眼前で構える。
迷いは一切ない。ただ純粋に立ちはだかる敵を撃破する――、その一点においてのみアトラスは駆け抜け、その勢いを殺さぬままにベルトコーネの懐の間合いへと飛び込んでいく。
アトラスは理解していた。
ベルトコーネは飛び道具を持たない。純粋に己のパワーのみで戦うスタイルだ。
そうであるならベルトコーネの戦闘スタイルはアトラスと同等であるはずだ。
ベルトコーネには40フィートコンテナを一撃で破壊し、巨大な鋼材をダーツのように投げ放つ馬鹿げたようなパワーが有る。かたや、アトラスはパワーこそベルトコーネに劣るものの、そのボディの頑強さこそが何者にも勝る武器だった。
小細工は弄しない。弄する必要すらない。
ただ、その拳撃あるのみだ。
互いの間合いが2mを切った時だ。先手を打って攻撃したのはアトラスである。
飛び込みの勢いを殺さぬまま、右の拳でジャブを繰り出しベルトコーネの顔面を狙う。
ベルトコーネが右へとボディーをスウェーさせてかわすと、アトラスは左の拳をフック気味にベルトコーネの頭部を側面から狙う。
そのアトラスの拳を弾こうと、ベルトコーネの右腕が真下から跳ね上げられるように動き、アトラスの左手首を掴みにかかる。
手首を掴まれぬ様に踏みとどまるアトラスは右手で掌底をつくると、それをベルトコーネの脇腹へと打ち込んでいく。それを牽制するのはベルトコーネの左膝。
左の手首を掴まれずに済むと、アトラスも左膝の蹴りを繰り出して、ベルトコーネの胴体を狙う。
結果、互いの膝頭がぶつかり合い、2人は弾き返されるかのように後方へと退き飛び、4m程の間合いを取ることとなる。
アトラスもベルトコーネも、互いをじっと視線で射抜くかのように睨み合った。
否、睨むというより、攻撃の機会をじっと待ち、限界まで牽制しあっている。
アトラスの左手が手刀を作り、右手は拳を作り腰だめに構えられる。
対するベルトコーネは左半身を後ろに、右半身を前にして、右手を曲げ気味にして構えると左手は腰の裏で拳を作っていた。アトラスはその姿を冷静に見つめながら思う。
――やはり、一撃の一つ一つが重い――
一つだけ明確に解ることがある。このままのやり取りを続けていても、あの南本牧の再現になるだろう。ならば己に課した戒めを解くより他は無い。
――アレを使うなら今だ――
そう判断するアトラスは、この日のために己自身のために仕掛けておいたものを発動させる覚悟を決めた。これは試合ではない。戦いにルールは無いのだ。それは警察として生まれた身の上だと覚悟を決めた時からに当の昔に解っていたことなのだ。
そして――
アトラスはこの日のために己の体内に用意したその装置を起動させる。もはや迷いはなかった。
【 体内主動力レギュレーターリミッター解除 】
【 超電導バッテリーモードから 】
【 マイクロ核融合モードへ移行 】
【 1:炉内圧力 】
【 2:磁力係数 】
【 3:ヘリウム3濃度 ――共に上昇 】
アトラスはアンドロイドである。それも、特攻装警の中では、最も初期に作られた原理試作機だ。構造もシンプルで多彩な機能を持っているわけではない。そのため、様々な現場で機能不足から苦渋を味わうことは日常茶飯事だ。
だが――
だからこそ。アトラスは努力を惜しまない。己を信じ、己を成長させることに迷いが無い。そして、その努力のための手段にも迷いも遠慮も有りはしなかった。
アトラスの体内、その胸部のあたりから甲高いノイズが響いていた。耳障りな、頭に響くような、継続的なノイズ音だ。それは当然、ベルトコーネにも聞こえていた。突如聞こえてきたその音に、無表情な彼も戸惑いを感じずにはいられなかった。
「何だ?」
無口で感情を顔に現さないベルトコーネが、聞き慣れない音に珍しく言葉をともなって怪訝そうにその異音の源に視線を向けていた。
「なんの真似だ」
構えた拳はそのままに、相対する敵が仕掛けてくる行為のその意図を解しかねている。未知の不安は怖れとなり、恐れはベルトコーネの挙動の一部に垣間見えていた。表情から余裕が薄れる。アトラスを見つめていた視線に強い敵意が浮かび始めていた。
だが、アトラスは両手の拳を緩めて腕を下げると全身から力を抜いた。体の緊張を解き、攻撃のモーションを全て消し去ってしまう。いわゆる『無為の構え』だ。両足を緩く開いて立ち、その左目の視線をベルトコーネへと投げかけながらアトラスは穏やかに答える。
「別に特別なことじゃないさ」
そして、右半身と右足を静かに前へ進ませながら、右の手刀を日本刀を突きつけるかの如く突き出す。
「メイン動力を普段の物から、こういう時に使う特別製に載せ替えただけだ」
アトラスがそう語れば、彼の体内から発せられていた甲高いノイズはピークに達したかのようにはっきりと音で聞こえるほどに甲高く大きくなっていた。ベルトコーネにもそれが敵であるアトラスにとってこの時の為に用意しておいた〝奥の手〟であると感じずには居られなかった。
「ほう?」
ベルトコーネも構えた。右半身を前にして右腕をやや下気味に腰の前辺りにで横に構え、左手を胸の前で構える――、いわゆるボクシングのデトロイトスタイルだ。両足にも力を込め、いつでも飛び出せるように準備は抜かりはなかった。
同じくして、アトラスの認識の中にその情報が飛び込んでくる。そして、その時は来た。
【 1:炉内圧力 】
【 2:磁力係数 】
【 3:ヘリウム3濃度 】
【 ――上記3条件。臨界点突破 】
互いに引き絞られた弓のように射放たれるときを待っていた。その先を制してアトラスが告げる。
「お前のために〝心臓〟を入れ替えた」
そして、右膝を引き上げるのと同時に左足を踏みしめる。次の瞬間、鋼鉄の弾丸の如く、アトラスの身体は飛び出していく。
「超電導バッテリーから〝核融合炉心〟にな!」
引き上げた右足が台地を踏みしめるのと同時に“それ”は発動した。
【 強化型タンデムミラー型 】
【 マイクロ核融合炉心 】
【 ――点火―― 】
アトラスのチタン外殻の胸部の中、収められたパルス駆動の核融合炉心は脈動する心臓のように作動を開始した。
ヘリウム3から精製される超高温の灼熱プラズマはHMD発電ユニットへと誘導されて膨大な電力を生み出していく。そして、それはアトラスの全身へと行き渡り電動性の人工筋肉へと絶大なパワーを与えるのだ。
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