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第1章ルーキーPartⅡ『天空のラビリンス』
第15話 電脳室の攻防/―到達―
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ウェーナーがスリックタイヤを鳴らながら空中大地の上を疾走する。アクセルは限界までに開かれワイヤーケーブルを通じてスロットルを全開にする。
シリンダー内に吸い込まれた空気と水素ガスとニトロガス、そして幾つかの助爆成分は混ざり合いながらピストンで圧縮される。圧縮された混合ガスは、電磁火花で炸烈しエンジンを駆動させる力の源となる。230㎞毎時の速力で。
その幅30mのエンゼルリングの上をウェーナーが疾走している時だった。
「あれは?」
ハンドルを握り締め前方を見つめていたセンチュリーがつぶやく。その声に促されてアトラスが視線を動かせば、その視線の先には〝あいつ〟の姿が見えていた。
「ベルトコーネ!」
アトラスは思わず、そいつの名前を叫んだ。
第四ブロックの外周ビルの屋上と第五ブロックの空中大地との境目に10mほどの換気用空間がある。その第四ブロックの外周ビルのトップ。仁王立ちになり立ちはだかる男の姿がある。
黒いレザーのバイカーズジャケットの上下に見を包んだ白人男性。全身の至るところに鎖と革ベルトを巻きつけたベルトコーネである。
「兄貴!? 何者だ?」
「ベルトコーネ、南本牧で俺がやりあった相手だ!」
「兄貴の腕を砕いたヤツか!」
兄であるアトラスの言葉にセンチュリーも戦慄せざるを得ない。アトラスの片腕を砕いたあの男だ。それがあそこに立っている。それが何を意味しているのか分からぬセンチュリーではない。思わずハンドルを握る手に力がこもった。
「このまま行くぜ!」
「分かった――」
センチュリーの決断をアトラスは否定しない。この状況を突破できなければ事件解決はさらに遠のく。ためらうこと無くアクセルを全開にしたままセンチュリーはバイクを直進させる。そして、エンゼルリングの台地の上から空へと飛び出した。
@ @ @
一方、地上からは、センチュリーたちが見舞われている危機は朧気ながら伝わってきていた。
「どうした何があった?」
センチュリーたちの行動の成り行きを見守っていた近衛は上層階監視を行っている機動隊員に無線機越しに問いかけた。
「妨害です! 第4ブロック階層の外周ビル最上階に人影が見えます! 柱状の建築用鋼材の様なものを手にしています! 今、特攻装警に向けて投げました!」
その報告に近衛の胸中を焦燥感が襲う。妨害はあり得ることだ。だが、タイミングとしては最悪以外の何物でもない。それにも増して腹立たしいのは――
「くそっ! こちらからでは支援できない!」
敵もそれを十分に解っての行動なのだろう。それでも何もしない訳にはいかなかった。
「監視を怠るな! すべての情報は警備本部と情報機動隊に流せ! 落下物に注意しろ! マスコミを含む民間人を絶対に近づけるな!」
近衛は休むこと無く檄を飛ばした。そして、頭上を仰ぎアトラスたちの安否を思わずにはいられなかった――
@ @ @
センチュリーの駆るウェーナーが空中へ躍り出る。それと同時にアトラスはセンチュリーの肩越しに構えた10番口径の特装ショットガンを撃ち放った。狙う先にはベルトコーネが居る。彼もまた、アトラスたちに向けて一撃を放つのだ。
「来るぞ!」
太さ30センチは有ろうかと言う鉄骨を右手で軽々と持ち上げると、それを投げ槍競技の槍のように投げ放つのだ。
アトラスがショットガンで狙ったのはベルトコーネが右腕を振りかぶり、今まさに投射するその瞬間であった。10番口径の銃身から放たれた粘着榴弾タイプのスラッグ弾丸は有効射程ギリギリながら正確にベルトコーネに向けて直進していた。
ベルトコーネはその弾丸が己の顔面に向けて飛んで来るであろうとは、すぐに気付いたらしい。
本能的に弾丸を避けようと身を捩ったがために、鋼材を投げ放つ動作に僅かに狂いが生じていた。そして、その鋼材はほんの僅かにアトラスたちの10センチほど上へと投げ放たれていたのだ。
一方、センチュリーたちはそれを避けきるため――ギリギリの判断を下す。
「すまねえ兄貴!」
そう叫ぶとセンチュリーはショットガンを握るアトラスの右腕を咄嗟に己の右手で掴む。そして、そのまま野球のオーバースローのモーションのままに兄であるアトラスの身体を投げ放とうとする。
「何をする?!」
センチュリーはバイクのコントロールはすでに諦めていた。今は敵の妨害をかいくぐり、なんとしてもビルの外壁へと到達せねばならない。自らの兄の身体を投げる動作でアトラスを鋼材の飛翔軌道から離しつつ、投げる動作の反作用で自らもその場所から離れようとしていた。
兄を確実にビルへ到達する軌道へ送り込むと、自分もバイクを放棄し足でそれを蹴り飛ばす。
「センチュリー!」
センチュリーは自分自身よりもアトラスがビルへ到達する軌道を獲得することを何よりも優先させていた。アトラスはその事を悟るとセンチュリーの動作に抵抗すること無く、1000mビル外壁への放物線軌道を受け入れた。
視界の片隅にベルトコーネを視認すれば、ヤツがそれ以上の妨害を仕掛けてこないことに取りあえずは安堵する。かたや振り向けば、右手で親指を立てて破顔して笑う弟の姿があった。
「そうか、アイツには簡易飛行機能が!」
アトラスはセンチュリーが自分よりもアトラスのことを何故優先させたのか理解した。センチュリーにはウィンダイバーと呼ばれる簡易飛行機能が備わっている。それをフル稼働させれば多少は下の位置になるだろうがビル到達は不可能ではない。しかし、アトラスにはそのような機能はなく重量もアトラスのほうが重いことからビル到達が困難になるのは明らかだった。
「先に行くぞ!」
そう叫べばバイクを蹴り飛ばして反動でビルへと向かうセンチュリーの姿があった。
もう大丈夫だ。そう判断して、アトラスは空中を突進する。そして、体操選手の様にその身を回転させると、頭を進行方向へと向け、その手に握っていたショットガン『アースハーケン』を構えてトリガーを引く。
一発目を放ったのちに再度トリガーを引く。
2つの弾丸が、1000mビルのガラス壁面を打ち砕く。
爆発力を有したスラッグシェルは、目標物に命中した際に強くひしゃげて張り付き、しかるのちに爆発する。戦車の粘着榴弾に近いそれは、有明1000mビルのガラス壁面に大穴を開けるのに必要十分な威力を有している。アトラスがその弾丸を2度射ったのは確実を喫してのことだ。
ガラス壁面に大穴を開け、アトラスはビル内へと転がり込む。ビル内の空間に砕け散った超硬質のプラスティックガラスが飛散し虹色の雨を振らせた。
アトラスが転がり込んだその先は、フィールの惨劇があったあの最上階フロアからはかなり下で第4ブロックの最下層にほど近い。
アトラスは巨大なガラス壁面をぶちやぶり内部ビルのフロアを横転する。横転したのちに、そこからさらに室内のプラスティック製のフェンスを突き破り、ホールの吹き抜けへと再びダイブする。
アトラスは再び落ちる。
自由落下のその末に彼がその動きを止めたのは、大きな吹き抜けの底の緑化帯の上であった。ビル内に設けられた小型の植物プラントの一つである。彼の周囲には原色の花々が、本来の季節を無視してあでやかな色を振りまいている。
転がり落ちたアトラスは極彩色の自然の絨毯の上で仰向けになり、やっと止まった。丈の高い草花の群の中で、アトラスは仰向けに大の字になる。彼の視界からは、はるかに高い吹き抜け天井のてっぺんが見える。視界の周囲は濃いグリーンで、南方植物の肉厚な鋭い緑木の葉が多量に茂っている。
アトラスはその緑色の原色の世界の中に居る。右手を額に当てると、じっとその目を閉じた。アトラスは意識を集中させ落ち着きを取り戻そうとしている。そして、そのまま十秒ほど横になってゆっくりとその身を起こす。アトラスが周囲に目線を配れば、そこはとてつもなく広いコミニュケーションルームエリアであった。
アトラスは周囲を見回した。敵影を警戒して身構えながら視線を走らせる。同時に、センチュリーの姿も探したが、当然その周囲にセンチュリーの姿は当然なかった。
立ち上がり次の行動の手がかりを探す。センチュリーのその後が気にかかったが、別段、不安に思う程ではない。むしろ、常日頃から自分と一緒に修羅場をくぐり抜けてきた弟である。これくらいの困難は日常茶飯事。無事乗り越えているはずだ。
そのまま顔を降り上げれば目の前には、このフロアのマップが壁に張り付けられていた。
そこは3つのフロアをぶちぬいた吹き抜けホールであり、そこから周囲の会議室や小コンベンションホール、あるいは諸々のコミニュケーション施設へと移動できる場所である。
周辺には4機のスパイラルエスカレーターがある。無論、今は全て停止して動かないであろう。
今、アトラスの耳には、機械が動作する時に鳴らす甲高いあの音すらもどこからも届かない。
アトラスはゆっくりと、視線を動かし続ける。人の気配はない。
ゆっくりと、そして、全身をまんべんなく動かしてみる。異常は無い。あれだけの危険行為を行ないながらも、アトラスの身体にはなんの異変も見られなかった。アトラスはじっと自分の身体を見つめた。
「当然だ、あの人の造ってくれた身体だからな」
アトラスはそっと呟く。右手に手にしていたアースハーケンを腰裏のホルスターに収めると、植物プラントの多量の植物を掻き分けながらフロアへと出る。アトラスは周囲を見回しながらつぶやいた。
「さて」
どうしたものか? と、アトラスは思う。彼に与えられた目的と任務は鏡石からの預り物をディアリオに届ける事だ。だが、それ以外には、このビル内で起きている事件について正確な情報を得て、なんとかして地上の近衛さんたちに伝えなければならない。
アトラスは考える、まず犯人かあるいは首謀者、そして、それらに加担する共犯者や配下の不法アンドロイドを見つけ出す必要がある。アトラスは自分の取るべき行動を速やかに決定した。とりあえずは、連絡を取りうるべき警察関係者を探す。
必要な情報を得ればその次の行動が決定できるはずだ。
アトラスは歩き始める。そこは、外周ビルの2階、そこからも外周ビルの至る所へと移動する事ができる。
「上へ向かうか」
そう考えたアトラスに確たる確証が有る訳ではなかった。ただ、理由は一つ。
――とりあえず高いところから状況を見下ろそう。
そんな漠然とした判断があるだけだ。
シリンダー内に吸い込まれた空気と水素ガスとニトロガス、そして幾つかの助爆成分は混ざり合いながらピストンで圧縮される。圧縮された混合ガスは、電磁火花で炸烈しエンジンを駆動させる力の源となる。230㎞毎時の速力で。
その幅30mのエンゼルリングの上をウェーナーが疾走している時だった。
「あれは?」
ハンドルを握り締め前方を見つめていたセンチュリーがつぶやく。その声に促されてアトラスが視線を動かせば、その視線の先には〝あいつ〟の姿が見えていた。
「ベルトコーネ!」
アトラスは思わず、そいつの名前を叫んだ。
第四ブロックの外周ビルの屋上と第五ブロックの空中大地との境目に10mほどの換気用空間がある。その第四ブロックの外周ビルのトップ。仁王立ちになり立ちはだかる男の姿がある。
黒いレザーのバイカーズジャケットの上下に見を包んだ白人男性。全身の至るところに鎖と革ベルトを巻きつけたベルトコーネである。
「兄貴!? 何者だ?」
「ベルトコーネ、南本牧で俺がやりあった相手だ!」
「兄貴の腕を砕いたヤツか!」
兄であるアトラスの言葉にセンチュリーも戦慄せざるを得ない。アトラスの片腕を砕いたあの男だ。それがあそこに立っている。それが何を意味しているのか分からぬセンチュリーではない。思わずハンドルを握る手に力がこもった。
「このまま行くぜ!」
「分かった――」
センチュリーの決断をアトラスは否定しない。この状況を突破できなければ事件解決はさらに遠のく。ためらうこと無くアクセルを全開にしたままセンチュリーはバイクを直進させる。そして、エンゼルリングの台地の上から空へと飛び出した。
@ @ @
一方、地上からは、センチュリーたちが見舞われている危機は朧気ながら伝わってきていた。
「どうした何があった?」
センチュリーたちの行動の成り行きを見守っていた近衛は上層階監視を行っている機動隊員に無線機越しに問いかけた。
「妨害です! 第4ブロック階層の外周ビル最上階に人影が見えます! 柱状の建築用鋼材の様なものを手にしています! 今、特攻装警に向けて投げました!」
その報告に近衛の胸中を焦燥感が襲う。妨害はあり得ることだ。だが、タイミングとしては最悪以外の何物でもない。それにも増して腹立たしいのは――
「くそっ! こちらからでは支援できない!」
敵もそれを十分に解っての行動なのだろう。それでも何もしない訳にはいかなかった。
「監視を怠るな! すべての情報は警備本部と情報機動隊に流せ! 落下物に注意しろ! マスコミを含む民間人を絶対に近づけるな!」
近衛は休むこと無く檄を飛ばした。そして、頭上を仰ぎアトラスたちの安否を思わずにはいられなかった――
@ @ @
センチュリーの駆るウェーナーが空中へ躍り出る。それと同時にアトラスはセンチュリーの肩越しに構えた10番口径の特装ショットガンを撃ち放った。狙う先にはベルトコーネが居る。彼もまた、アトラスたちに向けて一撃を放つのだ。
「来るぞ!」
太さ30センチは有ろうかと言う鉄骨を右手で軽々と持ち上げると、それを投げ槍競技の槍のように投げ放つのだ。
アトラスがショットガンで狙ったのはベルトコーネが右腕を振りかぶり、今まさに投射するその瞬間であった。10番口径の銃身から放たれた粘着榴弾タイプのスラッグ弾丸は有効射程ギリギリながら正確にベルトコーネに向けて直進していた。
ベルトコーネはその弾丸が己の顔面に向けて飛んで来るであろうとは、すぐに気付いたらしい。
本能的に弾丸を避けようと身を捩ったがために、鋼材を投げ放つ動作に僅かに狂いが生じていた。そして、その鋼材はほんの僅かにアトラスたちの10センチほど上へと投げ放たれていたのだ。
一方、センチュリーたちはそれを避けきるため――ギリギリの判断を下す。
「すまねえ兄貴!」
そう叫ぶとセンチュリーはショットガンを握るアトラスの右腕を咄嗟に己の右手で掴む。そして、そのまま野球のオーバースローのモーションのままに兄であるアトラスの身体を投げ放とうとする。
「何をする?!」
センチュリーはバイクのコントロールはすでに諦めていた。今は敵の妨害をかいくぐり、なんとしてもビルの外壁へと到達せねばならない。自らの兄の身体を投げる動作でアトラスを鋼材の飛翔軌道から離しつつ、投げる動作の反作用で自らもその場所から離れようとしていた。
兄を確実にビルへ到達する軌道へ送り込むと、自分もバイクを放棄し足でそれを蹴り飛ばす。
「センチュリー!」
センチュリーは自分自身よりもアトラスがビルへ到達する軌道を獲得することを何よりも優先させていた。アトラスはその事を悟るとセンチュリーの動作に抵抗すること無く、1000mビル外壁への放物線軌道を受け入れた。
視界の片隅にベルトコーネを視認すれば、ヤツがそれ以上の妨害を仕掛けてこないことに取りあえずは安堵する。かたや振り向けば、右手で親指を立てて破顔して笑う弟の姿があった。
「そうか、アイツには簡易飛行機能が!」
アトラスはセンチュリーが自分よりもアトラスのことを何故優先させたのか理解した。センチュリーにはウィンダイバーと呼ばれる簡易飛行機能が備わっている。それをフル稼働させれば多少は下の位置になるだろうがビル到達は不可能ではない。しかし、アトラスにはそのような機能はなく重量もアトラスのほうが重いことからビル到達が困難になるのは明らかだった。
「先に行くぞ!」
そう叫べばバイクを蹴り飛ばして反動でビルへと向かうセンチュリーの姿があった。
もう大丈夫だ。そう判断して、アトラスは空中を突進する。そして、体操選手の様にその身を回転させると、頭を進行方向へと向け、その手に握っていたショットガン『アースハーケン』を構えてトリガーを引く。
一発目を放ったのちに再度トリガーを引く。
2つの弾丸が、1000mビルのガラス壁面を打ち砕く。
爆発力を有したスラッグシェルは、目標物に命中した際に強くひしゃげて張り付き、しかるのちに爆発する。戦車の粘着榴弾に近いそれは、有明1000mビルのガラス壁面に大穴を開けるのに必要十分な威力を有している。アトラスがその弾丸を2度射ったのは確実を喫してのことだ。
ガラス壁面に大穴を開け、アトラスはビル内へと転がり込む。ビル内の空間に砕け散った超硬質のプラスティックガラスが飛散し虹色の雨を振らせた。
アトラスが転がり込んだその先は、フィールの惨劇があったあの最上階フロアからはかなり下で第4ブロックの最下層にほど近い。
アトラスは巨大なガラス壁面をぶちやぶり内部ビルのフロアを横転する。横転したのちに、そこからさらに室内のプラスティック製のフェンスを突き破り、ホールの吹き抜けへと再びダイブする。
アトラスは再び落ちる。
自由落下のその末に彼がその動きを止めたのは、大きな吹き抜けの底の緑化帯の上であった。ビル内に設けられた小型の植物プラントの一つである。彼の周囲には原色の花々が、本来の季節を無視してあでやかな色を振りまいている。
転がり落ちたアトラスは極彩色の自然の絨毯の上で仰向けになり、やっと止まった。丈の高い草花の群の中で、アトラスは仰向けに大の字になる。彼の視界からは、はるかに高い吹き抜け天井のてっぺんが見える。視界の周囲は濃いグリーンで、南方植物の肉厚な鋭い緑木の葉が多量に茂っている。
アトラスはその緑色の原色の世界の中に居る。右手を額に当てると、じっとその目を閉じた。アトラスは意識を集中させ落ち着きを取り戻そうとしている。そして、そのまま十秒ほど横になってゆっくりとその身を起こす。アトラスが周囲に目線を配れば、そこはとてつもなく広いコミニュケーションルームエリアであった。
アトラスは周囲を見回した。敵影を警戒して身構えながら視線を走らせる。同時に、センチュリーの姿も探したが、当然その周囲にセンチュリーの姿は当然なかった。
立ち上がり次の行動の手がかりを探す。センチュリーのその後が気にかかったが、別段、不安に思う程ではない。むしろ、常日頃から自分と一緒に修羅場をくぐり抜けてきた弟である。これくらいの困難は日常茶飯事。無事乗り越えているはずだ。
そのまま顔を降り上げれば目の前には、このフロアのマップが壁に張り付けられていた。
そこは3つのフロアをぶちぬいた吹き抜けホールであり、そこから周囲の会議室や小コンベンションホール、あるいは諸々のコミニュケーション施設へと移動できる場所である。
周辺には4機のスパイラルエスカレーターがある。無論、今は全て停止して動かないであろう。
今、アトラスの耳には、機械が動作する時に鳴らす甲高いあの音すらもどこからも届かない。
アトラスはゆっくりと、視線を動かし続ける。人の気配はない。
ゆっくりと、そして、全身をまんべんなく動かしてみる。異常は無い。あれだけの危険行為を行ないながらも、アトラスの身体にはなんの異変も見られなかった。アトラスはじっと自分の身体を見つめた。
「当然だ、あの人の造ってくれた身体だからな」
アトラスはそっと呟く。右手に手にしていたアースハーケンを腰裏のホルスターに収めると、植物プラントの多量の植物を掻き分けながらフロアへと出る。アトラスは周囲を見回しながらつぶやいた。
「さて」
どうしたものか? と、アトラスは思う。彼に与えられた目的と任務は鏡石からの預り物をディアリオに届ける事だ。だが、それ以外には、このビル内で起きている事件について正確な情報を得て、なんとかして地上の近衛さんたちに伝えなければならない。
アトラスは考える、まず犯人かあるいは首謀者、そして、それらに加担する共犯者や配下の不法アンドロイドを見つけ出す必要がある。アトラスは自分の取るべき行動を速やかに決定した。とりあえずは、連絡を取りうるべき警察関係者を探す。
必要な情報を得ればその次の行動が決定できるはずだ。
アトラスは歩き始める。そこは、外周ビルの2階、そこからも外周ビルの至る所へと移動する事ができる。
「上へ向かうか」
そう考えたアトラスに確たる確証が有る訳ではなかった。ただ、理由は一つ。
――とりあえず高いところから状況を見下ろそう。
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