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第1章ルーキーPartⅠ『天空の未来都市』

第5話 リクエスト/都市の構造

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 そして、フィールは英国アカデミーの面々を連れて、第2ブロックの最上階へと向かう。ビルの中には、最下層から最上層へとビル全体を貫く3基の超大形ゴンドラエレベーターがある。さすがに80人もの人間が乗れる大形ゴンドラともなれば並の大きさではない。指し渡り、学校の教室1つ分くらいはあるだろうか。
 そこには、フィールを始めとする英国アカデミーの面々と警護の警官たちと言ったごくわずかな者たちしか乗っていなかった。
 そのゴンドラエレベーターはビルの中をゆっくりと上昇する。その行程は高さ140mほどなのだが、通常のビルの高速エレベーターと異なり、そのスピードは実にのんびりしたものである。

 言うなれば、この1000mビルは、それ自体が一種の「街」だ。超大形ゴンドラエレベーターは、その『街』における垂直方向の交通機関と言える。

 ゴンドラからは、ビルの内側と外側がよく見渡せる。内側は先に記した通りで、各ブロック毎に特色が出るのは、建築物の無い自由空間をどの様にレイアウト・設計するかだ。その目的や趣旨の違いは色濃く機能的に現れていた。

 一般向けの娯楽施設エリアとしての性格が強い第1ブロックは、ビルが密集しており、特にまとまった広い自由空間はとらず、数箇所に分散した自由空間を設けている。無論これはなんらかの2次使用を前提とした既利用区画である。
 また、これが第4ブロックとも成れば、敷地内中央に一括して広い敷地を有している。第4ブロックはコンベンション会場や国際会議場……あるいは学術施設などを設けるためにまとまった広い自由空間を必要とするためである。
 視点を屋外に向けてみる。するとそこには、奇妙なものが見えてきた。

「なんだね? あれは」

 ウォルターがおもわず驚嘆の声を上げる。

「支柱だね。斜めになっているな」

 タイムが呟く。

「フィール、あれは?」
「デルタシャフトと言って、ビルの構造を補強するために設けられた傾斜支柱です」
「なんと巨大な」

 ガドニック教授の問いにフィールが答える。それを追う様にメイヤーが呟いた。
 フィールは、求められなくとも自らデルタシャフトについて解説を始めた。

「デルタシャフトは、ビルの周囲200mの地点から、ビルの第4ブロック附近に向けて斜めに延びた巨大な支柱です。全長360m、傾斜角約55度、特殊軽量鋼材と炭素繊維の中空構造体でできております。本来は、将来全ての建築活動が終了しビル高さが1000mに達した際に、基礎部分の傾斜を防止する事を目的として備えられた物です。それが東西南北の4方向に1本づつ設置されております」

 解説を終えたフィールに尋ねる。

「なんだか、これを伝って行けば上の方に上れそうですね」
「はい、デルタシャフトは、3m角の4角形の断面を持っているので、内部の中空部分やシャフトの上面を用いれば、なんとか上る事も可能です。もっとも、最下部から順に高さ3.4mの防御フェンスが5重に設けられていますので通常は無理ですけど」

 エレベータはなおも上昇する。すると今度は、土星の輪の様な、環状の人工地盤が見えてきた。ビル本体の各ブロックの高さに合せて設けられた円環状の形の空中大地である。

「こんなものまであるのか」

 そこには人工農園や工業施設など様々な種の施設が設けられている。ビルの利用効率を上げるための知恵であった。

 そうしている間に、エレベーターは指定のフロアへと到着した。
 第1・第2ブロック共通メイン管理センター、第3ブロックと第2ブロックの境目の人工地盤の最下層である。
 ゴンドラエレベーターは、透明な光透過性の壁面を過ぎ、人工地盤の内部へと入って行く。人工地盤の周囲の外壁は6面とも強固な構造材であり一切光を通さない。ゴンドラは周囲の景色の見えないセクションで、速度を緩めると停止する。軽い弾む様な電子音のベルと共にドアが開き、列をなしてエレベーターから降りていけば、そこに一人の男性型アンドロイドが礼節をつくして彼らを出迎えてくれたのである。
 
「皆様、ようこそ、お待ちしておりました」

 プラスティック張りの床が光沢を放ち、その彼のシルエットを浮き上がらせている。凛として直立する彼に、ウォルターが英国の代表のリーダーとして自ら進み出た。待っていたアンドロイドはウォルターと握手を交わす。

「英国アカデミー、使節団団長のワイズマンです。今日はご無理を言って申し訳ない」
「いえ、よくおいでくださいました。日本警察・警視庁所属、特攻装警のディアリオともうします。本日は有明1000mビルへようこそおいでくださいました。それでは皆様を、当ビル管理センターへとご案内いたします」

 無機質でメカニカルな空気のそのフロアの中で、少し霞がかったダークメタリックブルーのボディは不思議と爽快な気配を伴っていた。洗練された立ち振舞を見せながら、ディアリオはフィールと英国アカデミーの者たちを、ビルの最深部へと招いていったのである。
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