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第0章【ナイトバトル】

第4話 武装サイボーグ/拳骨

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――ガシャッ!――
 
 武装サイボーグの肉体がアスファルト上で激突音を奏でる。肉が潰れるような音がしないのは、この男の肉体がかなりの割合で金属製の人工物に置き換わっていることの証拠だ。ダッジを飛び降り、急ぎ駆けつけるとアトラスは被疑者の生死を確認する。

「息はあるか――」

 意識は喪失状態だが呼吸は正常と言えた。

「頭部外傷軽微、放置しても問題ないな」

 そう速やかに判断しつつ行動不能に陥っている武装サイボーグを見下ろすと彼に対して宣言を始めた。
 
「特攻装警第1号機アトラス、これより逮捕状況に関する証拠映像の警視庁データベースサーバーへのアップロードを行う。容疑者1名、傷害未遂・銃刀法違反・サイボーグ関連法違反・公務執行妨害、以上の現行犯として逮捕、身柄を確保する。逮捕時刻は証拠映像データに添付、以上!」

 特攻装警は自分自身が見聞きした視聴覚のデータを〝犯罪案件に関わる物を自分自身の意志で判断して〟日本警察のコンピュータネットワークに対してアップロードする事が出来る。そのため、常に正確な証拠物件をリアルタイムで抑えられるので、特攻装警が行う逮捕行為に不当逮捕はほぼありえない。

 ひと通り宣言し終えるとガンホルスターの端に携帯していたアイテム――対サイボーグ用のスタンガンを取り出す。間髪置かずに側頭部に押し当てスイッチを入れれば被疑者は全く動かなくなる。
 違法に武装しているサイボーグの逮捕には手錠は用いられない。サイボーグ用途に強化されたスタンガンで無力化したうえで、特殊精製された強化ワイヤーで完全拘束する規定となっている。
 アトラスに問いかけながらがセンチュリーが近づいてくる。

「死んだか? 兄貴」
「いや、生命に問題はない。丈夫なもんだ」
「頭部と内蔵の一部くらいしか残してねぇみてえだな。放っといても平気だろう」
「あぁ、サイボーグ犯罪者は扱いが厄介だからな。なまじ戦闘力が高い分、被疑者への人権配慮なんて事をしていると、こっちが返り討ちにあう。証拠さえ抑えておけば人権屋も黙らせられる」
「じゃ、ほっとくってことで」
「無論だ」

 よくある人権屋も、違法武装サイボーグが出始めた頃は、警察に対してやかましかった。

 いわく――『サイボーグにも人権がある』

 だが、その被害の甚大さと警察組織自体へのダメージの大きさがクローズアップされたことで、一般世間の人々は現実をすぐに理解した。すなわち、生身の犯罪者とサイボーグの犯罪者とでは、全く異なる異次元の存在であると――
 今ではサイボーグ犯罪者への人権配慮など気にする法曹関係者は誰もいない。
 アトラスが低い声でつぶやく。
 
「それより――」

 言葉と同時にアトラスの右腕が跳ね上がる。右の拳の甲の部分が後方へと打ち込まれて、それはかたわらのセンチュリーの顔面で鈍い打撃音を炸裂させる。
 
――ゴンッ!!――
 
「いでっ!!」

 悲鳴のような声が起きる。それと同時にアトラスは警句の言葉を発する。
 
「なんで殴られたかわかるな?」

 アトラスは視線も向けずに言い放った。センチュリーは顔面を思わずなでさする。
 
「ちょ、チタンのゲンコツで裏拳は――」
「それですんでマシだと思え。一歩間違えば脳天を撃ちぬかれてる」
「――――」
 
 兄の指摘したとおりだ。冗談を挟む隙も詫びる言葉も無い。
 
「それにこの辺り一区画まるごと敵に掌握されてる。オレたちの行動は全て筒抜けだろう」
「まさか――、ディアリオのサポート入ってるんだぜ?」
「そのディアリオとの回線が数十秒分前から切れてる。オレたちがこのエリアに飛び込んでからだ。そういう状況だ。待ち伏せされてどんな攻撃を食らって不思議じゃない。もう少し頭を使え。だいいち、勢いだけでやれる相手なのか?」

 ぐうの音も出なかった。反論するよりも先に詫びの言葉が出てきた。

「わりぃ」

 センチュリーの言葉に、アトラスは振り返りつつ続ける。
 
「行くぞ、ディアリオとの回線が回復しないのが不安要素だが」

 センチュリーもアトラスの視線にうなづきながら答える。
 
「そうも言ってられねえ。なにより時間がねえ」

 二人とも言葉には出さなかったが明確に分かっていることがある。すなわち〝人の命〟がかかっている。それ以上は何も語らすに先を急ぐ。アトラスはダッジに乗り込み、センチュリーは倒れたバイクを引き起こした。そして、今まで以上に慎重に愛機を走らせていく。

 そう――
 もはや猶予はならないのだ。
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