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伍:横浜港
伍の壱:横浜港/御老と若造
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そして、偽装トレーラーは一路、東へとひた走る。そして、とある地点で停車すると俺たちをその場へとおろしてくれたのだった。
「世話になったな」
「こちらこそ。ありがとうございました」
「それじゃあらためて、話は詰めさせてもらう。連絡をする」
「了解です。オヤジたちにも伝えておきます」
「わかった」
俺は偽装トレーラーから降りるとガトリングのエイトの部下である818こと〝いっぱち〟とやり取りをしていた。エイトの子分たちであるエイト組と呼ばれる小グループの中で若衆頭みたいな立ち位置だ。
アバターの特徴は〝全身各部がワイヤーリール〟になっていること。直接戦闘から状況操作まで多彩にこなせるマルチタイプな機能の持ち主だ。
俺達みたいなヤクザ者とのやり取りにもなれていて、実に柔軟にこなしている。俺は安心して事後を託することができた。
「それじゃ、お疲れ様でした」
「おう、そっちもな」
頭を下げてくるいっぱちに対して、俺は右手をあげて挨拶を返した。
俺の視界の片隅では、田沼こと、カツのやつがビークラスターのフォーの部下の464こと〝6美〟と言う嬢ちゃんと会話していた。
「じゃあな。フォーの兄さんにもよろしく言っといてくれ」
「はい。わかりました。お疲れ様でした」
丁寧な言い回しが聞こえてくる。もともとの人柄が穏やかなのだろう。6美はマフィアのメンバーらしからぬ丁寧さで答え返したのだ。
「気をつけてな」
「はい」
俺たちは会話もそこそこに偽装トレーラーから離れていく。そして、連中はすぐさまに姿を消していったのである。
走りしさったトレーラーを記憶の片隅に起きながら、俺達はたどり着いた場所に佇んでいた。
――横浜、港北パーキングエリア・上り線側――
明治村へと出発する際にオヤジたちと落ち合ったのは下り線側だった。偽装トレーラーの中で氷室のオジキと連絡を取り合えば、この港北パーキングエリアで待てと言う。迎えに来るのだろう。
俺とカツは余計なことを口にせずにパーキングエリアの片隅でじっと迎えが来るのを待つことにする。それから5分ほど下だろうか、これたちの前に黒塗りの大型高級外車が横付けに停められる。
メルセデス・ベンツマイバッハSクラス、それをベースとして改造された防弾リムジンである。
カツとともに姿勢を正してその場で待てば、リムジンの後部ドアが自然に開いた。さらに左ハンドルの運転席の窓ガラスが開き、そしてその中から声がする。
「入れ」
やや高めのキーで独特のイントネーションで話すのは右の助手席に腰を下ろしている総務部長の氷室さんだ。
本来なら彼は天龍のオヤジとともに後部シートに座しているはずだ。ならば後部席には誰が乗っているのだろうか?
そんな事を不安に思いながら俺とカツとともに着衣の居住まいを正す。
「失礼いたします」
そう礼を口にしながら車内へと入っていった。
リムジンの中は3列のシート構成となっていた。運転席と助手席、最後尾の主賓席、そしてその間にある警護役/補助役のためのシートである。
平身低頭で頭を垂れながら俺たちはリムジンの中へと入っていく。
一番後ろのシートには堀坂の御老と、天龍のオヤジ。前列の助手席には氷室のオジキが座していた。堀坂の御老は臙脂色の和服の羽織袴。手には白木の杖の仕込み刀。天龍のオヤジは丹精に整えられた三つ揃えのスーツだった。
俺たちは三人に注視されながら、中列の簡易座席へと腰を降ろしていく。
その最後尾シートから聞こえてきたのは――
「ご苦労だったな。若いの」
――かつて聞かせてもらえたことのある渋くも重みのある声だったのだ。
「ご無沙汰しております。御老」
御老、堀坂周五郎、またの名を〝死なずの周五郎〟巨大ヤクザ緋色会の組織の中で最も古い経歴を持つ最重鎮だ。俺の返礼に頷きつつ、御老はカツのやつにも声をかけた。
「そっちの若いのは初めて見るな?」
その問いかけにカツは答える。
「田沼有勝と申します。よろしく申し上げます」
深々と頭を下げ丁寧に切り出す。カツも相手が大物だということを本能的に理解しているのだろう。無礼を働くような素振りは微塵もなかった。
「あぁ」
堀坂御老が柔和に応える。カツのその服装と身なりをじっと見つめて、こう言葉を続けた。
「あんちゃんよ」
「はい」
「随分と、体張ったな」
御老の視線と関心はカツの服装へと向いていた。あの粒子ビームで撃ち抜かれた跡の穴である。
「なんで撃たれたんだ? 鉛弾か? 光物か?」
「光物です。強力な粒子ビームでやられました」
「そうかい――」
有勝は苦もなく言い放つ。だがその言葉の裏を御老はちゃんと分かっていたのだ。
「命張ってくれてすまねえな」
そして、御老は自ら丁寧に頭を下げた。その様子に俺ならずとも驚くしかない。御老の言葉が続く。
「改めて礼を言うぜ。有勝のあんちゃんよ」
その言葉の裏には、有勝のやつが、今回のことを通じてどれだけ危険に身をさらして事に当たってきたことへの感謝と労いが多分にして含まれていた。
有勝もまたその言葉の意味を理解して答えたのだった。
「ご厚情痛み入ります」
その答えに御老も満足気に頷いたのだった。
「世話になったな」
「こちらこそ。ありがとうございました」
「それじゃあらためて、話は詰めさせてもらう。連絡をする」
「了解です。オヤジたちにも伝えておきます」
「わかった」
俺は偽装トレーラーから降りるとガトリングのエイトの部下である818こと〝いっぱち〟とやり取りをしていた。エイトの子分たちであるエイト組と呼ばれる小グループの中で若衆頭みたいな立ち位置だ。
アバターの特徴は〝全身各部がワイヤーリール〟になっていること。直接戦闘から状況操作まで多彩にこなせるマルチタイプな機能の持ち主だ。
俺達みたいなヤクザ者とのやり取りにもなれていて、実に柔軟にこなしている。俺は安心して事後を託することができた。
「それじゃ、お疲れ様でした」
「おう、そっちもな」
頭を下げてくるいっぱちに対して、俺は右手をあげて挨拶を返した。
俺の視界の片隅では、田沼こと、カツのやつがビークラスターのフォーの部下の464こと〝6美〟と言う嬢ちゃんと会話していた。
「じゃあな。フォーの兄さんにもよろしく言っといてくれ」
「はい。わかりました。お疲れ様でした」
丁寧な言い回しが聞こえてくる。もともとの人柄が穏やかなのだろう。6美はマフィアのメンバーらしからぬ丁寧さで答え返したのだ。
「気をつけてな」
「はい」
俺たちは会話もそこそこに偽装トレーラーから離れていく。そして、連中はすぐさまに姿を消していったのである。
走りしさったトレーラーを記憶の片隅に起きながら、俺達はたどり着いた場所に佇んでいた。
――横浜、港北パーキングエリア・上り線側――
明治村へと出発する際にオヤジたちと落ち合ったのは下り線側だった。偽装トレーラーの中で氷室のオジキと連絡を取り合えば、この港北パーキングエリアで待てと言う。迎えに来るのだろう。
俺とカツは余計なことを口にせずにパーキングエリアの片隅でじっと迎えが来るのを待つことにする。それから5分ほど下だろうか、これたちの前に黒塗りの大型高級外車が横付けに停められる。
メルセデス・ベンツマイバッハSクラス、それをベースとして改造された防弾リムジンである。
カツとともに姿勢を正してその場で待てば、リムジンの後部ドアが自然に開いた。さらに左ハンドルの運転席の窓ガラスが開き、そしてその中から声がする。
「入れ」
やや高めのキーで独特のイントネーションで話すのは右の助手席に腰を下ろしている総務部長の氷室さんだ。
本来なら彼は天龍のオヤジとともに後部シートに座しているはずだ。ならば後部席には誰が乗っているのだろうか?
そんな事を不安に思いながら俺とカツとともに着衣の居住まいを正す。
「失礼いたします」
そう礼を口にしながら車内へと入っていった。
リムジンの中は3列のシート構成となっていた。運転席と助手席、最後尾の主賓席、そしてその間にある警護役/補助役のためのシートである。
平身低頭で頭を垂れながら俺たちはリムジンの中へと入っていく。
一番後ろのシートには堀坂の御老と、天龍のオヤジ。前列の助手席には氷室のオジキが座していた。堀坂の御老は臙脂色の和服の羽織袴。手には白木の杖の仕込み刀。天龍のオヤジは丹精に整えられた三つ揃えのスーツだった。
俺たちは三人に注視されながら、中列の簡易座席へと腰を降ろしていく。
その最後尾シートから聞こえてきたのは――
「ご苦労だったな。若いの」
――かつて聞かせてもらえたことのある渋くも重みのある声だったのだ。
「ご無沙汰しております。御老」
御老、堀坂周五郎、またの名を〝死なずの周五郎〟巨大ヤクザ緋色会の組織の中で最も古い経歴を持つ最重鎮だ。俺の返礼に頷きつつ、御老はカツのやつにも声をかけた。
「そっちの若いのは初めて見るな?」
その問いかけにカツは答える。
「田沼有勝と申します。よろしく申し上げます」
深々と頭を下げ丁寧に切り出す。カツも相手が大物だということを本能的に理解しているのだろう。無礼を働くような素振りは微塵もなかった。
「あぁ」
堀坂御老が柔和に応える。カツのその服装と身なりをじっと見つめて、こう言葉を続けた。
「あんちゃんよ」
「はい」
「随分と、体張ったな」
御老の視線と関心はカツの服装へと向いていた。あの粒子ビームで撃ち抜かれた跡の穴である。
「なんで撃たれたんだ? 鉛弾か? 光物か?」
「光物です。強力な粒子ビームでやられました」
「そうかい――」
有勝は苦もなく言い放つ。だがその言葉の裏を御老はちゃんと分かっていたのだ。
「命張ってくれてすまねえな」
そして、御老は自ら丁寧に頭を下げた。その様子に俺ならずとも驚くしかない。御老の言葉が続く。
「改めて礼を言うぜ。有勝のあんちゃんよ」
その言葉の裏には、有勝のやつが、今回のことを通じてどれだけ危険に身をさらして事に当たってきたことへの感謝と労いが多分にして含まれていた。
有勝もまたその言葉の意味を理解して答えたのだった。
「ご厚情痛み入ります」
その答えに御老も満足気に頷いたのだった。
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