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幕間4:脱出行
幕間4-10:脱出行/3子と9蔵
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坂道を降りて行き芝生広場へと姿をあらわす。
そして、そこに広がる光景にエイトのおっさんは思わず声を漏らす。
「これ、全部お前がやったのか?」
俺たちの前に広がっているもの。それはさっき俺が自らの蜂をフルに駆使して武装警官部隊どもを全滅に追いやったその残骸だった。みれば微かに動いているが、ハッキリと起き上がって攻撃態勢へと移行する奴は誰も居ない。
「死んでるのか?」
「さあな、そこまで手加減する余裕ねえしな」
「死んでないと良いがな」
「大丈夫だろ、あの盤古様だぜ?」
判ってる。エイトが何を不安に思っているかを。警官殺しは罪が重い。その後の追求が執拗になる恐れがあるのだ。
念のため、蜂共をはなって生命反応を探知する。
「全員虫の息だが、一応、生きてる。まぁ、当分の間は入院だろうがな」
「ならいい」
エイトは俺の言葉に安堵したようだった。
その時、頭上から風が吹いてくる。
「ん?」
エイトがつぶやく。
「来たな?」
俺が夜空を見上げる。するとそこに浮かび上がったのは巨大な蟹のようなシルエット。それプラス、UFOと言うところか。
「ここだ! 9蔵!」
IDナンバーは〝494〟、通称〝9蔵〟――非人間型の巨大アバターを好み、状況に応じて絶大な力を発揮してくれる。俺のチーム4にとっちゃ物理戦闘の最後の切り札と言った存在だった。
「リーダー、迎えに来たよ!」
その黒い巨躯からは考えられないほどに少年のような透き通る声だった。俺は9蔵の本体をしっている。手酷いいじめにあい、この世の全てを憎みきったやつだった。そして、チーム4を二分して勃発した内ゲバで、俺を最も敵視したやつだった。だが今では――
「大丈夫? どっか怪我してない?」
「大丈夫だ。俺よりおっさんのほうが大変だ」
「え? マジ?」
「だから早く乗っけてやってくれ」
「わかった! 今、拾う!」
――今では俺とエイトのおっさんに事を肉親のように慕ってくれている。
エイトが頼りになる年寄りのご意見番なら、俺は間違いなく兄貴なのだろう。
「大丈夫? おじさん?」
9蔵はエイトをおじさんと言う。その巨大な2本のかに腕で器用にエイトを拾うと左腕の方に腰掛けさせるように載せていく。エイトが9蔵に言った。
「悪いな。坊主、もう煙も出ねえほど疲れちまってよ」
「安心して、ちゃんと運んでいくから」
「頼むぜ」
「うん!」
9蔵の巨大蟹アバターの頭部についているアイカメラが愛嬌たっぷりに動いている。そしてその視線は俺にも向けられる。
「それじゃリーダーも乗って! 急いで離脱するから。1太郎から逃走ルートのデータももらってるからさ」
「そうか、それじゃ頼むわ。俺も流石に疲れた」
「OK、しっかり掴まってて」
俺が右のカニ腕に乗ったのを確かめると9蔵は静かに高度を上げていく。だがその時、茂みの影から姿をあらわす奴がいた。
「あれ――だれ?」
9蔵が言う。エイトがそれに答えた。
「アトラスだ。やっこさん、再起動しやがった」
「しぶてぇ、全身滅多打ちにされたんだろ? おっさんの粒子ビームで」
本当だ。俺はそれを見ている。だがエイトは言う。
「あいつのもう一つのあだ名があってな――〝不死身〟って言うんだ。頑丈さだったら最新鋭機にすら負けないだろうぜ」
「げー、めんどくせえ」
俺が言えば、9蔵が言う。
「どうする? やっちゃう?」
「いや、相手にすんな。どうせ何もできん」
エイトの言うとおりだ。奴は虚しく地上から俺たちを見上げることしかできないでいる。なにか言いたげだったが、かまってやる必要はない。
「わかった――それじゃ姿を消すね。3子姉、お願い!」
「うん、わかった」
9蔵の背中からひょっこりと姿を表したのは3子だった。ライムイエローのベースボディのままだ。
「3子? なんでこっちにいるんだよ!?」
「えーだって、逃げるのに立体映像迷彩のカムフラージュ必要でしょ? トレーラーの方は6美に任せたからダイジョブだよ」
3子には6美と一緒にトレーラーで逃げるように言ってあったが、9蔵と合流して、こっちに戻ってきたらしい。本来なら命令違反だが、今回ばかりは適切な判断だった。
「サンキュー、助かるぜ。それじゃさっさとバックレるぞ」
「あぁ、こんなところ二度と来たくねえからな」
俺の声に続いてエイトのおっさんが言う。俺にはその言葉の意味と重みが痛いほどにわかっていた。
「じゃあ行こうか」
俺がもらした言葉を聞いて9蔵が高度をあげながら、3子がホログラムカモフラージュを発動させていく。そして俺達のシルエットは徐々に闇夜に消えていく。
俺は右手で指鉄砲をつくると地上のアトラスへとそれを向ける。
地上ではアトラスがデザートイーグルを構えていた。
「バン」
俺が冷やかすように撃つ真似をする。
地上でもアトラスがデザートイーグルのトリガーを引いている。
だが、銃は弾切れだったようだ。
俺たちは明治村をあとにしたのだった――
そして、そこに広がる光景にエイトのおっさんは思わず声を漏らす。
「これ、全部お前がやったのか?」
俺たちの前に広がっているもの。それはさっき俺が自らの蜂をフルに駆使して武装警官部隊どもを全滅に追いやったその残骸だった。みれば微かに動いているが、ハッキリと起き上がって攻撃態勢へと移行する奴は誰も居ない。
「死んでるのか?」
「さあな、そこまで手加減する余裕ねえしな」
「死んでないと良いがな」
「大丈夫だろ、あの盤古様だぜ?」
判ってる。エイトが何を不安に思っているかを。警官殺しは罪が重い。その後の追求が執拗になる恐れがあるのだ。
念のため、蜂共をはなって生命反応を探知する。
「全員虫の息だが、一応、生きてる。まぁ、当分の間は入院だろうがな」
「ならいい」
エイトは俺の言葉に安堵したようだった。
その時、頭上から風が吹いてくる。
「ん?」
エイトがつぶやく。
「来たな?」
俺が夜空を見上げる。するとそこに浮かび上がったのは巨大な蟹のようなシルエット。それプラス、UFOと言うところか。
「ここだ! 9蔵!」
IDナンバーは〝494〟、通称〝9蔵〟――非人間型の巨大アバターを好み、状況に応じて絶大な力を発揮してくれる。俺のチーム4にとっちゃ物理戦闘の最後の切り札と言った存在だった。
「リーダー、迎えに来たよ!」
その黒い巨躯からは考えられないほどに少年のような透き通る声だった。俺は9蔵の本体をしっている。手酷いいじめにあい、この世の全てを憎みきったやつだった。そして、チーム4を二分して勃発した内ゲバで、俺を最も敵視したやつだった。だが今では――
「大丈夫? どっか怪我してない?」
「大丈夫だ。俺よりおっさんのほうが大変だ」
「え? マジ?」
「だから早く乗っけてやってくれ」
「わかった! 今、拾う!」
――今では俺とエイトのおっさんに事を肉親のように慕ってくれている。
エイトが頼りになる年寄りのご意見番なら、俺は間違いなく兄貴なのだろう。
「大丈夫? おじさん?」
9蔵はエイトをおじさんと言う。その巨大な2本のかに腕で器用にエイトを拾うと左腕の方に腰掛けさせるように載せていく。エイトが9蔵に言った。
「悪いな。坊主、もう煙も出ねえほど疲れちまってよ」
「安心して、ちゃんと運んでいくから」
「頼むぜ」
「うん!」
9蔵の巨大蟹アバターの頭部についているアイカメラが愛嬌たっぷりに動いている。そしてその視線は俺にも向けられる。
「それじゃリーダーも乗って! 急いで離脱するから。1太郎から逃走ルートのデータももらってるからさ」
「そうか、それじゃ頼むわ。俺も流石に疲れた」
「OK、しっかり掴まってて」
俺が右のカニ腕に乗ったのを確かめると9蔵は静かに高度を上げていく。だがその時、茂みの影から姿をあらわす奴がいた。
「あれ――だれ?」
9蔵が言う。エイトがそれに答えた。
「アトラスだ。やっこさん、再起動しやがった」
「しぶてぇ、全身滅多打ちにされたんだろ? おっさんの粒子ビームで」
本当だ。俺はそれを見ている。だがエイトは言う。
「あいつのもう一つのあだ名があってな――〝不死身〟って言うんだ。頑丈さだったら最新鋭機にすら負けないだろうぜ」
「げー、めんどくせえ」
俺が言えば、9蔵が言う。
「どうする? やっちゃう?」
「いや、相手にすんな。どうせ何もできん」
エイトの言うとおりだ。奴は虚しく地上から俺たちを見上げることしかできないでいる。なにか言いたげだったが、かまってやる必要はない。
「わかった――それじゃ姿を消すね。3子姉、お願い!」
「うん、わかった」
9蔵の背中からひょっこりと姿を表したのは3子だった。ライムイエローのベースボディのままだ。
「3子? なんでこっちにいるんだよ!?」
「えーだって、逃げるのに立体映像迷彩のカムフラージュ必要でしょ? トレーラーの方は6美に任せたからダイジョブだよ」
3子には6美と一緒にトレーラーで逃げるように言ってあったが、9蔵と合流して、こっちに戻ってきたらしい。本来なら命令違反だが、今回ばかりは適切な判断だった。
「サンキュー、助かるぜ。それじゃさっさとバックレるぞ」
「あぁ、こんなところ二度と来たくねえからな」
俺の声に続いてエイトのおっさんが言う。俺にはその言葉の意味と重みが痛いほどにわかっていた。
「じゃあ行こうか」
俺がもらした言葉を聞いて9蔵が高度をあげながら、3子がホログラムカモフラージュを発動させていく。そして俺達のシルエットは徐々に闇夜に消えていく。
俺は右手で指鉄砲をつくると地上のアトラスへとそれを向ける。
地上ではアトラスがデザートイーグルを構えていた。
「バン」
俺が冷やかすように撃つ真似をする。
地上でもアトラスがデザートイーグルのトリガーを引いている。
だが、銃は弾切れだったようだ。
俺たちは明治村をあとにしたのだった――
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