上 下
41 / 78
四:明治村・後編

四の四:明治村後編/面接の答え

しおりを挟む
 フォーは神妙な声で言う。
 
「おっさんの本体は寝たきりなんだよ。完全看護のベッドの上で身動き一つできねぇ。それを中枢神経に直接ネットシステムを接続してアバターボディを動かしてる。当然、体にも負荷がかかる。あと何回起動できるか俺にもわからねぇ。でも――」

 フォーの右手がエイトの体からはなれる。非接触式のアクセスで内部システムを再起動させたようだ。
 
「――こう言う裏世界に何が何でも戻りたい理由があるんだ。ヤクザとしてけじめを付けるってな」
「ヤクザ――」

 俺がそう声を漏らせばカツのやつもつぶやく。
 
「やっぱり任侠の人だったんですね」

 エイトと拳を交わしあった者として思い至ることころがあったのだろう。
 
「あぁ、でもこの話は内緒だぜ。バラされるの無茶苦茶嫌がるからな。っと――目をさますぜ」

 フォーがエイトから離れて立ちすくむ。俺たちも少し距離を取りエイトを見守った。

――キュィィイイン――

 甲高い電子音がする。内部動力が再起動をはたしその全身に動力が伝わっているのが判る。そして、仰向けに横たわっていたその体躯は徐々に動き出ていったのである。
 
「―――」

 無言のままエイトは上体を起こすと、右手を突いて全体を起こしていく。そして、そのまま立ち上がりその身を起こしていく。俺もカツもその光景をじっと見守るしか無い。
 緊張してやつが言葉を発するのを待てば、やつは右手を自らの頭部に当てると生身の人間がするように頭をかるく左右に振る。そして、こう一声発したのだった。
 
「効いたぜ、久しぶりに死にかけた」

 彼の視線は俺たちの方へと向く。

「よくやったな。見事だったぜ」

 俺たちの目の前に立ち上がったのは背丈1メートル90は有りそうな大男だった。分厚いバイカーレザージャケットに身を包み、赤いシャツに白いスカーフを襟元に巻いている。レザーのロングパンツにゴツいライダーブーツ――と隙無く決めている。その頭部のガトリング頭は8つの砲身を束ねて四角いフレームで保持されている。
 その四角いフレームの四隅に4基のアイカメラが設置されている。
 そのアイカメラが俺たちを見つめていた。
 表情は浮かべられないはずなのに、不思議とそこには人間らしい視線を感じるのだ。
 改めて数歩足元を踏みしめながらエイトは俺達の方へと向き直る。

「改めて名乗らせてくれ。サイレントデルタ、9大幹部の一人〝ガトリングのエイト〟だ。よろしく頼むぜ」

 そう告げながらエイトは右手を差し出した。

「緋色会の若衆の柳澤です」

 継いでカツ――

「田沼と言います。柳澤さんから兄弟盃いただいてます」

 エイトは田沼の手を握り返しながらこう問い返してきた。

「緋色会の身内じゃねえんだろ?」
「はい残念ながら今のところは」

 すまなそうに答える田沼にエイトはこう諭したのだ。

「気にすんな。お前くらいの力量だったら喜んで受け入れてもらえるさ。なあ?」

 エイトの声は俺へと向けられる。

「ええ、間違いなく」

 俺の言葉にエイトも頷いている。そして彼はこう答えたのだ。

「いいコンビだ。文句なしだ。今日の面接は〝合格〟だ」

 一つの答えが出た。俺達の両肩から緊張が抜けるのがよくわかった――
 俺たちは無事生き延びたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

処理中です...