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幕間2:浜名湖SA

幕間2-2:浜名湖SA/俺とおっさん

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 トレーラーの偽装出入り口を通じて外へ出れば、そこは深夜の駐車場だった。
 浜名湖SAは上り線、下り線ともに同じ施設を共用する。そして、浜名湖へと突き出した風光明媚なレイアウトが売りだった。
 トレーラーを降りてパーキング施設を通り過ぎ施設裏の公園へと足を踏み入れる。
 深夜なので誰も居ない。二人きりの空間だった。
 俺たちは浜名湖へと望みながら会話を始めた。先に口を開いたのはおっさんだった。
 
「今日は戦闘向きのやつは連れてきてないんだな」
「3子と6美か? たしかに攻撃的な力は無いが立体映像偽装や、相手の頭脳を乗っ取るスキルはすげえぞ? とりあえず、交渉相手の緋色会の連中を無事に帰せる方を優先したからな。敵を倒すのが任務じゃねえんだろ?」

 俺がそう言えばおっさんはしわだらけの顔で笑みを浮かべていた。
 
「合格だ。俺が言う前にそこまで読めるなら文句なしだな。とは言え、バックアップは賭けてるんだろ?」
「あぁ、ID494の9蔵きゅうぞうにいつでも出れるように待機かけてる」
「あの巨大ドローンのアバターのやつか」
「あぁ」

――ID:494――、通称『9蔵きゅうぞう

 非人間型のアバターを好み高い戦闘力を誇る。俺のチーム4にとっちゃ最後の切り札的存在だった。
 
「前に手酷くしくじった時に、おっさんにたっぷり教えてもらったからな」
「〝仕事をゲームにしても、仲間でゲームをするな!〟――だったな」

 俺はかつて一度、チーム運営をしくじって崩壊させている。離反を招いてチーム内で争う結果となったのだ。すべてを敵にしてしまった俺はいつ死んでもおかしくない状況だった。それを助けてくれたのがエイトのおっさんだったのだ。
 
「あの時のころと比べたら、あの嬢ちゃんたちもお前を完全に信頼している。チームは家族だ。親子だ。それを忘れんなよ」
「もちろんだよ。二度と忘れねぇよ」

 俺はかつてのしくじりの記憶を思い出しながらしみじみと答える。
 実を言うと俺も、3子や6美と大差ない生い立ちをしている。まともな家族を持った記憶がない。だから誰も信用出来ない。勝つか負けるか、誰が何点とったか、そう言う価値観でしか物を見れなかった。
 だから仲間ができたときも、コマとして使えるかダメかの評価しかできなかった。
 だが、アバターの向こうに居るのは間違いなく〝人間〟なのだ。俺はそれをエイトのおっさんから嫌という程教えてもらった。
 それが生まれて初めて〝信頼できる大人〟との出会いだった。
 それだけに俺はこの人に複雑な思いがあった。 

「おっさん、この間の集会、遅刻したのアレだろ? アバターと制御システムの接続に手間取ったんだろ」

 エイトのおっさんが俺の方を向かずにめんどくさそうに返事をする。

「あぁ」

 短い答えだったが十分だった。

「なんかまた、安定稼働時間短くなってねえか?」

 俺がそう突きつければ、おっさんはぶっきらぼうに答えた。

「んなこたぁ、わかってるよ。元々、無茶に無茶を重ねた体だからな」

 手に入れたアバターボディがどんなに強力でもそれをコントロールするのは人間だった。老いれば当然不都合が増える。こんな見てくれの俺たちでも、中身はれっきとした人間だ。
 傍らに視線を向ければしわだらけの風貌の中に笑みを浮かべてこう告げる。

「俺はこれでも、今の体に満足してんだ」

 俺はエイトのその言葉を無言で聞く。理由もしっかりわかってる。

「だろな、現実のあんたは――」
「言うなよ。二度と口にしねえ約束だ」
「悪ぃ」

 エイトのオッサンの強い言葉に俺は言葉を引っ込めた。それは俺とおっさんのルールだからだ。
 オッサンの〝本体〟が一体どうなっているのか? そのことは二度と口にしないし、詮索もしない。それが俺たちの間で取り決めた約束だからだ。
 でも俺は言わずにはいられなかった。

「おっさん」
「なんだ」
「やばそうな時は必ず言えよ」

 俺には薄々わかっていた。エイトのおっさんの〝本体〟は相当な年寄りだ。それも満足に体を動かせない寝たきりに近い体のはずだ。
 万年床か、施設のベッドの上か、いつ事切れるか分からない体でネットを経由して俺たちの組織に参加しているのだ。だがエイトのおっさんは――

「やかましい、俺の詮索するより、てめえのケツの汚れの心配でもしてろ」

――俺のことを徹底してガキ扱いだった。

「なんだまだ合格点じゃねえのかよ」
「赤点じゃねぇだけましだと思え」

 だが俺は不思議とこのおっさんには苛立ちも鬱陶しさも感じなかった。なぜなら――

「おっさん、頼むからまだ簡単に行かないでくれよ? まだ返すもの返してねえんだからよ」

 俺は冗談めかさずに真面目に言った。鼻で笑うような声がしておっさんは俺にこう言った。

「そう思うんだったら、さっさと一人前になれ。組織の〝頭〟になれる男にな」
「あぁ」

 俺にはわかっていた。エイトのおっさんが俺に何を期待しているのかを。

「なってやるさ、デルタのてっぺん取れるくらいにな」

 そう言葉を吐けば俺の気持ちを後押しするかのように夜風が吹き抜けた。
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