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弐:名古屋

弐の壱:名古屋/港北SA

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 俺、柳澤はあの集会の夜から一週間を経過していた。
 その間はいつも通りの多忙な日々を、天龍の親父の下で過ごしていた。
 俺にとっては、何気ないいつも通りの日常。特別変わったことがあったとすれば、天龍の親父の表情がいつになくこわばっていて、こちらから声をかけにくかったことくらいか。

 そんな日々は、再び唐突に破られたのだった。


 †     †     †


 親父から呼び出しがあった。
 時刻は午前4時、家の外はまだまだ真っ暗だ。
 たとえ、どんなにしんどくとも愚痴は絶対に出せないのかこの商売だ。弱音を吐いたところで誰も同情してはくれないからな。
 俺の家はセキュリティ付きのタワーマンションにある。とはいえ仕事が多忙なので非番以外の日はなかなか帰ることも難しいのだが。

 愛用しているダークグレーのビジネススーツを着込む。Yシャツは濃紺で、ネクタイは高級感のあるクリーム色のトライバル模様。目元には愛用のめがねだ。シューズを履き愛車に乗り込むと、俺はまだ夜のとばりの真っ只中の街へと繰り出す。
 メルセデスベンツのSLC・AMGモデルの左ハンドル。ブラックパールのボディ。その車で俺は一路、天龍のオヤジと氷室のオジキが待つ指定の場所へと向かったのである。

 俺がたどり着いたのは、東名高速道路の港北サービスエリアだった。横浜市緑区の外れにあり、南側に北八朔公園と呼ばれる自然保護地域がある中規模のサービスエリアパーキングだ。
 俺は港北サービスエリアの駐車場の一番端の所へと場所を確保するとオヤジたちが来るのをじっと待つ。時刻的にも薄暗く、辺りには仮眠中の長距離トラックしか停まっていなかった。
 今の時刻は午前3時50分、待ち合わせとしては丁度いいくらいか。

 車の中でじっと待ち人を待てば、5分ほどして一台の車が隣に並んだ。

 それはリムジンだった。ベンツベースの黒ボディ。それがそれが俺のベンツSLCに寄り添うように止まる。俺にはそのリムジンの主が誰であるのか容易に想像がついた。
 俺はベンツから速やかに降り、リムジンの後部ドアのすぐに側に立つ。するとリムジンの窓が開き中から覗いたのは見知った人物の顔だった。

「総務部長」

 誰の目があるか分からない場所だ。俺は表の肩書きで呼びかけた。呼びかける対象である氷室のオジキが言う。

「用件を伝える」

 余計な前振りは一切なし。氷室さんとはそういう人だ。声で答える代わりに俺は視線を氷室さんへと集中させた。
 氷室のオジキの声がする。

「今から指定された場所へ飛べ。途中名古屋駅前でとある人物を拾え。さらなる詳しい情報はネット空間上のお前専用のデータベースへと保存してある」

 そこで俺は静かに一言だけ訪ねる。

「目的は?」 

 俺の問いに氷室のおじきは言う。

「行けばわかる」
「御意」

 オジキがそういうのなら俺は黙って従うだけだ。
 それがヤクザという組織なのだ。
 そしてその時、リムジンの後部シートから更なる声がする。

「ご苦労だな」

 天龍のオヤジである。

「お見送り、ご苦労さまです」
「あぁ、手間かけるが頼むぞ」
「はい」

 そして車内から俺に向けて1枚のカードが渡される。それが高額のマネーカードだということはすぐにわかる。必要経費だろう。受け取る俺に氷室のオジキが言う。

「では頼むぞ。吉報を待つ」
「はい、行ってまいります」

 そして、その言葉を残してリムジンは走り去った。
 俺はその車影を視線で追いながら、自分が乗るベンツのシートへと潜り込む。
 エンジンをかけると速やかに俺は走り去ったのだった。
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