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壱:集会
壱の拾:集会/挨拶
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堀坂の御老は言う。
「それで、どうするつもりだ?」
御老から投げかけられた言葉に天龍のオヤジは即座に反応した。
「はい、一度向こうさんに話し通してみようと思います」
「そうか、するってぇとあの〝サイレント・デルタ〟とか言う仮面野郎の集団だな?」
「はい」
「まあそれが筋だろうな。なんだかんだ言ったって、あの七審って集まりの場を最終的に牛耳ってるのは、サイレントデルタの連中だ。そこに混ぜてもらっている側としちゃあ向こうさんの首を縦に振ってもらわにゃあ何もできねえからな。だが、それだけじゃあねえんだろう?」
御老が天龍のオヤジを睨む。それは叱責するための睨みではなく、更なる頭のキレを期待するがための睨みだった。
「はい。一度、七審の代表を他の者に変えたいと申し出てみます。それによって向こうが何らかの返事をしてくるはずです。
代表の変更に同意するなら〝思い切って榊原の野郎に渡す〟――
あの評議会の場で異国の連中と取引をするのが、どれだけ面倒なことなのか身をもって知るでしょう。下手を打てばその場で命を落とします。
逆に、代表の変更に同意しないのなら――」
天龍のオヤジが言葉を一区切りする。御老が言葉の続きをじっと聴き入っていた。だが御老はオヤジが言葉を続ける前にそれを遮るようにこう告げた。
「分かった。陽坊、お前の好きにやりな」
そう答える御老の顔は笑みが浮かんでいてどこか楽しげであった。そして御老はさらに続けた。
「腹ァ、座ったな。陽坊」
「はい」
御老から出た思わぬ褒め言葉にオヤジの顔にも明るさが差した。
「それでいい。お前ならこれくらいのしくじり。子分どもと力を合わせて。なんとかやってけるだろう。それと明石、今度こそお前の漢の見せ所だぜ。しっかりやんな」
「はい。肝に銘じさせていただきます」
氷室のオジキも御老の言葉にうなずきながら言葉を返す。
そして御老の言葉は俺の方へと向いたのだ。
「それで明石の後ろに突っ張ってる若ぇのは誰だ?」
オヤジが直々に俺のことを紹介してくれた。
「柳澤、俺の子分の一人です。腕が立ち頭が切れるので重宝してます」
俺はオヤジの言葉の後に続けて自ら名乗った。名乗り終えてから丁寧に頭を下げる。
「柳澤永慶と申します。以後お見知りおきを」
昔、駆け出しの頃、挨拶の名乗りと同時に頭を下げたら〝やり方がなってねぇ〟と怒鳴られてぶん殴られた記憶がある。
『頭を下げる前に名乗り終えて自分の声が相手に届いてから頭を下げるもんだ』と教えてくれたのも、天龍のオヤジだった。
ヤクザっぽい手荒い指導方法だったが、間違った事は一度だって聞かされたことはない。だから俺はこの人のやり方が間違っているとは微塵も思っちゃいない。今時、殴ってまで間違いを正してくれるような熱い人がどれだけいるだろうか?
御老は俺の声を聞いてから、落ち着いた声で返してくる。
「いい目をしてるな。仕事を任せられそうだ。じきに面倒事が起こるだろう。その時ぁ、陽坊たちの代わりにひとっ走りしてもらう事になるぜ」
「その時は何なりとお申し付けください」
「おぅ」
短く返されたその声に御老が俺に対して感じた思いが詰まっている、そんな感じがした。
そして、その場の空気は流れるように、御老の背後に佇んでいる長髪の若者へと注がれていく。その視線に気づいてか御老は問い返してきた。
「気になるか? 俺のツレが」
その言葉に天龍のオヤジが尋ねた。
「御老、何者です?」
オヤジの問いかけに御老はいたずらっぽく笑いながら背後の男に声をかけた。
「教えてやれ」
その言葉に御老の背後に立つ男はかすかに頷くと、その口を開いたのだ。
「叢雲 湖南、堀坂様からこの名を賜りました。そのお身柄を守らせて頂いております」
妙に丁寧――と言うか、御老の普段の言葉遣いをさらに古風に丁寧に仕立て上げていった、そんな言葉遣いだった。
「それで、どうするつもりだ?」
御老から投げかけられた言葉に天龍のオヤジは即座に反応した。
「はい、一度向こうさんに話し通してみようと思います」
「そうか、するってぇとあの〝サイレント・デルタ〟とか言う仮面野郎の集団だな?」
「はい」
「まあそれが筋だろうな。なんだかんだ言ったって、あの七審って集まりの場を最終的に牛耳ってるのは、サイレントデルタの連中だ。そこに混ぜてもらっている側としちゃあ向こうさんの首を縦に振ってもらわにゃあ何もできねえからな。だが、それだけじゃあねえんだろう?」
御老が天龍のオヤジを睨む。それは叱責するための睨みではなく、更なる頭のキレを期待するがための睨みだった。
「はい。一度、七審の代表を他の者に変えたいと申し出てみます。それによって向こうが何らかの返事をしてくるはずです。
代表の変更に同意するなら〝思い切って榊原の野郎に渡す〟――
あの評議会の場で異国の連中と取引をするのが、どれだけ面倒なことなのか身をもって知るでしょう。下手を打てばその場で命を落とします。
逆に、代表の変更に同意しないのなら――」
天龍のオヤジが言葉を一区切りする。御老が言葉の続きをじっと聴き入っていた。だが御老はオヤジが言葉を続ける前にそれを遮るようにこう告げた。
「分かった。陽坊、お前の好きにやりな」
そう答える御老の顔は笑みが浮かんでいてどこか楽しげであった。そして御老はさらに続けた。
「腹ァ、座ったな。陽坊」
「はい」
御老から出た思わぬ褒め言葉にオヤジの顔にも明るさが差した。
「それでいい。お前ならこれくらいのしくじり。子分どもと力を合わせて。なんとかやってけるだろう。それと明石、今度こそお前の漢の見せ所だぜ。しっかりやんな」
「はい。肝に銘じさせていただきます」
氷室のオジキも御老の言葉にうなずきながら言葉を返す。
そして御老の言葉は俺の方へと向いたのだ。
「それで明石の後ろに突っ張ってる若ぇのは誰だ?」
オヤジが直々に俺のことを紹介してくれた。
「柳澤、俺の子分の一人です。腕が立ち頭が切れるので重宝してます」
俺はオヤジの言葉の後に続けて自ら名乗った。名乗り終えてから丁寧に頭を下げる。
「柳澤永慶と申します。以後お見知りおきを」
昔、駆け出しの頃、挨拶の名乗りと同時に頭を下げたら〝やり方がなってねぇ〟と怒鳴られてぶん殴られた記憶がある。
『頭を下げる前に名乗り終えて自分の声が相手に届いてから頭を下げるもんだ』と教えてくれたのも、天龍のオヤジだった。
ヤクザっぽい手荒い指導方法だったが、間違った事は一度だって聞かされたことはない。だから俺はこの人のやり方が間違っているとは微塵も思っちゃいない。今時、殴ってまで間違いを正してくれるような熱い人がどれだけいるだろうか?
御老は俺の声を聞いてから、落ち着いた声で返してくる。
「いい目をしてるな。仕事を任せられそうだ。じきに面倒事が起こるだろう。その時ぁ、陽坊たちの代わりにひとっ走りしてもらう事になるぜ」
「その時は何なりとお申し付けください」
「おぅ」
短く返されたその声に御老が俺に対して感じた思いが詰まっている、そんな感じがした。
そして、その場の空気は流れるように、御老の背後に佇んでいる長髪の若者へと注がれていく。その視線に気づいてか御老は問い返してきた。
「気になるか? 俺のツレが」
その言葉に天龍のオヤジが尋ねた。
「御老、何者です?」
オヤジの問いかけに御老はいたずらっぽく笑いながら背後の男に声をかけた。
「教えてやれ」
その言葉に御老の背後に立つ男はかすかに頷くと、その口を開いたのだ。
「叢雲 湖南、堀坂様からこの名を賜りました。そのお身柄を守らせて頂いております」
妙に丁寧――と言うか、御老の普段の言葉遣いをさらに古風に丁寧に仕立て上げていった、そんな言葉遣いだった。
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