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第二章

2-4.アドルフの苦悩2

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「みんなの前で着替えなきゃいけないの? 」

アレクに「そうだよ」と言われ、セシルは慣れない作法に戸惑いながらも服のボタンを外そうとする。

そのぎこちない素直な反応に、まさか本当に信じるとは思わなかったアレクが赤面して慌てる。

想定外の反応に動揺するアレクに代わってルイが後ろからやってくると、「そんなわけないよ」と、シャッとカーテンを締めた。

嘘だとわかったセシルは衝撃を受けたが、カーテンを閉められたことで試着室は少し薄暗くなり、ただでさえ凝ったデザインで着辛いところ、更に手元がよく見えずドレスに苦戦する。

ドレスを着ることはできたものの、背中の調整紐を一人で結ぶことができない。

セシルはカーテンをから器用に顔だけ出して、キョロキョロと店員を探す。

「一人じゃ、着れない?」

セシルの様子に待ってましたと言わんばかりに学習しないアレクが近づいてくるも、セシルは先ほどの嘘を思い出して拒絶する。

「アレクはだめ!」

大袈裟に落ち込んだようなリアクションを見せるアレクの代わりに、先ほど紳士的な対応を見せたルイにセシルは目を遣る。

「ルイ」

セシルが申し訳なさそうに控えめに、座っていたルイを呼ぶので、ルイが立ち上がりセシルの元へくる。

「どうした? 」

「背中の部分どうすればいいかわからなくて…」

ルイは少し迷って、同じように女性店員を探すも、人払いしてしまったせいでそこには誰もいない。

「入っていい? 」

警戒心なく、うん、と頷くセシルに促され、「ルイだけずるい! ずるい!」とふてくされるアレクを無視して、ルイが試着室に入る。




背中の紐を編み上げるためにウエストに手が置かれると、セシルはまた心拍数が上がるのを感じた。

「細いな」

すぐ後ろから皇太子の低く甘い声をかけられるせいで、胸がつまりそうになる。

逃げ出したくなる羞恥をセシルはグッと我慢して、人形のようになされるがままになる。

ルイは器用に手早く結ぶと、「できたよ」とセシルを正面に向かせた。

水色の淡いシルクのドレスで、セシルの可憐さが際立つドレスだった。

「ありがとうございます! 」

苦戦していた着替えをいとも簡単に整えてもらえたので、セシルは揚々として試着室を出ようとする。

すると、ルイに腕を掴まれる。

「これは、あんまり見せたくないな」

ルイは少し困ったように呟く。

「え?」

ルイの見つめる先には、ドレスから伸びる長い手足、華奢でありながら美しい曲線が綺麗に浮き出た肢体。

ざっくり開いたデコルテは、少女だったはずのセシルから女性らしく艶めかしさを感じさせる。

しっかりとしたドレスを着たことのなかったセシルは、まじまじと自分の服装を見て、改めて恥ずかしくなる。

「や、やっぱ脱ぐ! 」

そう言ってルイに退室してもらおうとしていた時に、「セシル着れた?」と、アレクの陽気な声が響く。

「アレク、私やっぱりドレスじゃないのが着たい、着替える! 」

しかし聞く気はないのか、アレクがカーテンに手をかける。

「開けるよ!」

「え、待って、やだ! だめ!」

セシルの静止虚しく、シャッとカーテンが開けられる。

そして一言「うわお! めちゃめちゃ艶かしいね!」

アレクはご満悦といった風。

ノリノリで出た言葉に、セシルは真っ赤になってしゃがみ込み、ぐずぐずと泣き出す。

「ドレスやだ、恥ずかしい」

一方のアレクはどこ吹く風で、「セシルのスタイルの良さを際立たせるためにも、もうちょっとウエスト絞ったデザインがいいかな」とぶつぶつと言いながら、採寸のために女性店員をようやく呼んで、指示を出そうとする。

セシルは羞恥から立ち上がれずに「舞踏会行きたくない」と泣く。

ルイはあやすように頭を撫でて、丈の微調整のために試着室の外に連れ出すとそのままソファに座る。

アレクからドレスを隠すように、ルイの胸に身を寄せながらセシルはぐずぐずと不安を漏らす。

そして、中に入ってきたアドルフがその不可思議な光景にあんぐりと口を開け、冒頭の状態というわけだった。
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