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卒業、それから
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つまらない学園生活の終わりの日が来たことで、アランは少しだけ元気そうな表情を浮かべていた。朝食を用意するリリーも安堵の表情を浮かべる。
「アラン、あなたはとても優秀だわ。お父さんも喜ぶわよ。」
卒業の式典を見るためにいつもよりも華やかな洋服を身にまとったリリーは笑顔でアランを撫でる。
父親ーーそれはアランにとって遠くて、憎く、そして敬意の対象だった。士官学校の入学式に来てくれた記憶はなく、それ以降も会った記憶がなかった。
父・ゴードンは名のある騎士である。元はハルフレッドでリリーと共に暮らすハルフレッドの小騎士であったが、その実力が買われて王都シュミットへ異動となった。リリーはその後幼いアランと共にハルフレッドに残って二人で暮らしていた。
国からの支援もあり、生活に金銭的な苦労はなかった。しかしリリーは孤独を感じているのは確かだった。今でこそアランは優秀で問題もない子どもに育ったが、言葉も話せないほどの赤ん坊の頃からたった一人で育てていくことは苦労もひとしおだった。アランは学校へ入り、周りが見えるようになってからはそのことを少しずつ理解していった。
騎士である父は尊敬に値する存在であることをアランはよくわかっていた。しかし、母や自分を孤独にしている父に対する父としての印象は非常に悪かった。
「父さん…そうだね。」
母にかけられた褒め言葉に少しだけ引っかかりを抱きながらアランは返した。
最後の登校でもいつもと同じようにアランは一人で過ごした。
卒業の式典のとき、アランは前に立ち、首席代表として軽い挨拶を行った。
「このような場で挨拶させていただく機会をいただき光栄に思います。…」
テンプレートのような文章を話すだけの時間、先生たちは敬意の目線を向け、卒業生は冷ややかな目線を向けていた。
式典が終わり、帰る道のりで卒業生たちが口々に文句を並べたてる声が聞こえた。
「絶対コルトンが挨拶するって思ってたのになー」
「ほんと、今年だったのが運悪かったよな。」
コルトンは18歳級でこれまでずっと首席を保っていた者だった。学業も武術も優秀で、それは卒業のときまで変わらなかった。物静かで冷静なこともあり、アランの昇級に関しては何とも思っていない風を装っていたが、この日ばかりはコルトンも静かに唇を噛み締めて帰っていた。
アランは少しばかりの賞与としての銀貨をもらい、校門の前で母親と合流した。
「挨拶、かっこよかったわよ。あら、賞与もいただいたのね。今日はご馳走にしましょう。」
「うん、そうだね。…あの、母さん……」
何かを言いたげな素振りで、アランは言葉が詰まった。
「何かしら?」
「その、これまで、ありがとう。」
「何よ、これからもアランは素敵な私の息子よ。」
母はいつもより嬉しそうに笑った。そして二人で市場へ向かい、食事の買い出しへ向かうのだった。
その日からの時の流れはアランにとって非常に遅く感じられるものだった。毎日決まった時間に起きて一人で勉強したり、剣術の練習をしたり、あれほど嫌だった学校よりも苦痛が溜まるものだった。そして、時々同じようなことを考える。
『今、これだけ勉強して、8年後にどれだけ残るのだろう?』
全てが無駄に思える日々。それでも時間は普通以上に長く、遅く流れていくのだった。
「アラン、あなたはとても優秀だわ。お父さんも喜ぶわよ。」
卒業の式典を見るためにいつもよりも華やかな洋服を身にまとったリリーは笑顔でアランを撫でる。
父親ーーそれはアランにとって遠くて、憎く、そして敬意の対象だった。士官学校の入学式に来てくれた記憶はなく、それ以降も会った記憶がなかった。
父・ゴードンは名のある騎士である。元はハルフレッドでリリーと共に暮らすハルフレッドの小騎士であったが、その実力が買われて王都シュミットへ異動となった。リリーはその後幼いアランと共にハルフレッドに残って二人で暮らしていた。
国からの支援もあり、生活に金銭的な苦労はなかった。しかしリリーは孤独を感じているのは確かだった。今でこそアランは優秀で問題もない子どもに育ったが、言葉も話せないほどの赤ん坊の頃からたった一人で育てていくことは苦労もひとしおだった。アランは学校へ入り、周りが見えるようになってからはそのことを少しずつ理解していった。
騎士である父は尊敬に値する存在であることをアランはよくわかっていた。しかし、母や自分を孤独にしている父に対する父としての印象は非常に悪かった。
「父さん…そうだね。」
母にかけられた褒め言葉に少しだけ引っかかりを抱きながらアランは返した。
最後の登校でもいつもと同じようにアランは一人で過ごした。
卒業の式典のとき、アランは前に立ち、首席代表として軽い挨拶を行った。
「このような場で挨拶させていただく機会をいただき光栄に思います。…」
テンプレートのような文章を話すだけの時間、先生たちは敬意の目線を向け、卒業生は冷ややかな目線を向けていた。
式典が終わり、帰る道のりで卒業生たちが口々に文句を並べたてる声が聞こえた。
「絶対コルトンが挨拶するって思ってたのになー」
「ほんと、今年だったのが運悪かったよな。」
コルトンは18歳級でこれまでずっと首席を保っていた者だった。学業も武術も優秀で、それは卒業のときまで変わらなかった。物静かで冷静なこともあり、アランの昇級に関しては何とも思っていない風を装っていたが、この日ばかりはコルトンも静かに唇を噛み締めて帰っていた。
アランは少しばかりの賞与としての銀貨をもらい、校門の前で母親と合流した。
「挨拶、かっこよかったわよ。あら、賞与もいただいたのね。今日はご馳走にしましょう。」
「うん、そうだね。…あの、母さん……」
何かを言いたげな素振りで、アランは言葉が詰まった。
「何かしら?」
「その、これまで、ありがとう。」
「何よ、これからもアランは素敵な私の息子よ。」
母はいつもより嬉しそうに笑った。そして二人で市場へ向かい、食事の買い出しへ向かうのだった。
その日からの時の流れはアランにとって非常に遅く感じられるものだった。毎日決まった時間に起きて一人で勉強したり、剣術の練習をしたり、あれほど嫌だった学校よりも苦痛が溜まるものだった。そして、時々同じようなことを考える。
『今、これだけ勉強して、8年後にどれだけ残るのだろう?』
全てが無駄に思える日々。それでも時間は普通以上に長く、遅く流れていくのだった。
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