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46 アルフォンスside

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 ある日、俺、アルフォンス・S・マグルスが所属する魔術会マグルスの杖に匿名で手紙がきた。
 魔王軍の生き残りが現れたから助けが欲しいと。当然、すぐに調査に出るかと思ったがなぜか今回、上層部が難色を示したのだ。まあ、原因はすぐにわかった。調査対象が秘密主義に外部からの接触を嫌っているローライト王国だったからだ。
 正直、これには俺も頭を痛めた。なにせこの国は過去に別件で俺達を突っぱねてきた記憶があるから。
 だが、今度は魔王軍の生き残りという言葉を聞いた以上、向こうが拒否しても俺達は動かなければならない。だからなんとか色々なツテを使い、ローライト王国の宰相と話し合いにまで持っていったのだ。
 そして、やっと内密に動くならと調査許が降りたのだが……
 
「はたしてまともな調査ができるのやら……」

 そう呟くと隣りの机で作業していた少年……俺の部下でもあるミゲルが肩をすくめた。

「ローライト王国に魔王軍の生き残りってあり得ないですよ。あそこは聖女アリスティア様の子孫が住んでるところですよね? ええと確か……」
「ミルフォード侯爵家だ」
「ああ、そうです。そのミルフォード侯爵家がいるから大丈夫なのでは?」
「ああ、最初は上層部でもそれが理由で行くことを渋られた。だが、こちらに助けを求める手紙が来た以上は行かないといけないと結論が出てな」
「なるほど」
「ということだから、これから俺達の班がローライト王国に行かないといけない。だから皆に声をかけておいてくれ」
「わかりました」

 ミゲルは頷くと早足で部屋を出て行く。もちろん俺もすぐに旅支度を始めようとしたのだが、つい本棚に目がいってしまう。
 ある本が気になってしまったからだ。

 『聖女が使用する力』か……

 俺はそのタイトルの本を本棚から手に取る。それから中身をパラパラとめくった後、自然と口角が上がってしまった。
 ローライト王国に行けば今まで一度もお目にかかれなかった魔法が見れるかもしれない。特に聖女アリスティアの子孫から。そう思ったからだ。

 確かミルフォード侯爵家の一人娘が聖エールライト魔法学院に通っていたな。

 俺は本の表紙に描かれた聖女アリスティアを見つめる。そしてつい鼻で笑ってしまった。ミルフォード侯爵家の一人娘であるエレーヌ嬢は聖女アリスティアと生写しと言われているぐらい似ているらしいからだ。
 正直、そんなことはないだろうと思っていたが心の底では期待もしていた。もちろん容姿のことではない。聖女アリスティア並とは言わずとも末裔ならある程度の力があるのではと思ったからだ。
 俺は期待を込めながら本の表紙に描かれた聖女アリスティアをなぞる。

「……まあ、どのみち確かめればわかるか」

 そう呟くとそっと本棚に本を戻すのだった。



 聖エールライト魔法学院に教員となって初日の朝、俺は教室に向かいながら先に学院に潜入していたミゲルから情報を聞いていた。

「なるほどな。そうなると王太子の周りが騒がしい以外はまともな学院って事か……」

 そう呟くと学生服を着たミゲルが頷く。

「はい。でも、その王太子殿下周りがなかなか面白い事になってまして」
「面白いね……。正直、王家は大丈夫なのかと問いただしたいところだがな」
「まあ、問いただしたところで無駄でしょう」
「確かにそうだな……」

 同意した後、俺は思わず舌打ちしそうになった。なぜならローライト王国に来てすぐに大規模な調査をしたいと宰相に願い出たがやはり聞いてもらえなかったから。
 おかげでマグルスの杖は現在ローライト王国内で自由が利かない状況である。

 自分達でなんでも出来ると思っているのだろうな……

 俺は溜め息を吐くとミゲルに視線を向けた。

「とにかくお前は今まで通り学院内の方の監視をしてくれ。誰が魔王軍の生き残りと関わっているかわからないからな」

 そう言いながら俺はカイル第二王子のことを思い出す。現在このローライト王国内で一番怪しい人物だからだ。

「一週間前から存在しない人物アメリ・サーザントに化け編入してきた……。いったい何がしたいんだかな……」

 するとミゲルが肩を小刻みに振るわせ言ってきた。

「それならこれからわかりますよ。ね、先生」

 そして俺を上から下まで見て笑みを浮かべたのだ。間違いなくバカにしているだろう。そのため、目の前で握り拳を作るとミゲルは慌てて逃げていった。

 ふん、似合わないのは俺が一番理解してるさ。

 教員の格好をした自分に苦笑しながら教室に向かう。だが、すぐに気持ちを切り替えた。教室の中から騒がしい声が聞こえてきたからだ。

 なんだ?

 教室に入ると一人の女子生徒に複数の生徒が絡んでいたのだ。俺は思わず顔を顰めかけたが、女子生徒の顔を見て驚いてしまう。聖女アリスティアにそっくりだったから。

 驚いた。本当にそっくりだ……

 職場にあった本の表紙を思い出すが、すぐ我に返り女子生徒……エレーヌ・ミルフォードとこの国の王太子であるケルビン・ローライトの間に入った。

「お前は人前で女性の腕に痣をつける趣味でもあるのか?」

 俺がそう尋ねると、ケルビン王太子は顔を真っ赤にして慌ててエレーヌ嬢から手を離す。どうやら、まともな判断はまだできたらしい。
 だが、その後のケルビン王太子の言動に俺は呆れてしまった。考えが足らないことを理解したからだ。

 ……この国の将来をこいつに任せて大丈夫なのか? 

 今は桃色髪の女子生徒……ルイーザ・スミノルフと共に席に戻っていくケルビン王太子の背中を呆れながら見ていると、視界の端に困り顔のエレーヌ嬢が映った。おそらく記憶喪失だから自分の席もわからないのだろう。
 俺は何も言わない従者を一瞥し、内心溜め息を吐くと彼女に声をかける。

「君はエレーヌ・ミルフォードだな。席はそこだからさっさと着け」
「あ、はい」

 ホッとした様子で席に着くエレーヌ嬢に俺は違和感も感じてしまう。まあ、すぐに魔力を高めてエレーヌ嬢を見ることで理解したが。

 魔力が感じられない。あの胸の辺り……魔導具辺りで魔法を封じられているのか?

 思わず眉間に皺が寄る。魔力を封じるという行為は体にも負担がいくからだ。だから、俺は授業をしながらもついエレーヌ嬢に視線がいってしまった。少し心配だったのもある。
 だがエレーヌ嬢を気にしているうちに隣りの席に座るアメリ・サーザント……いや、魔法か魔導具辺りで姿を変えたカイル第二王子の方が気になってしまったのだ。なにせカイル第二王子はエレーヌ嬢に探るような視線や絡みつくような視線を度々向けていたからだ。
 だが、それでカイル第二王子がなぜ姿を変えていたのか理解することができた。

 エレーヌ嬢に近づくためだったか。まあ、確かに彼女はケルビン王太子の婚約者ではあるんだが……

 そう思ったがある考えが浮かび俺はついカイル第二王子を見てしまう。

 まさか……

 思わず握り拳を握ってしまった。俺の考えた通りならカイル第二王子は最低な奴だからだ。

 ……全く、この国の上に立つ連中はろくな奴がいない。これは多少強引に進めてもいいかもな。

 そう思った後、少しは恥をかけといわんばかりにカイル第二王子に難しい質問を投げるのだった。



「やはりか……」

 そう呟くと今日集めた情報を報告してきたミゲルが頷く。

「ミルフォード侯爵令嬢が階段から転げ落ちた日に学院にいた複数の人物の所在が弄られていましたよ」
「その中にカイル第二王子もいたと……」

 俺は溜め息を吐く。これで余計な仕事が増えたことがわかったからだ。

「全く、魔王軍の生き残りにバカな二人の王子か……」
「ろくな国ではないですね」
「だが、知ってしまった以上やるしかない」
「では、どうします?」
「優先はもちろん魔王軍の生き残りを探す。ただあの二人も注意しよう。それと……」

 俺はルイーザ嬢のことを考える。それはケルビン王太子とエレーヌ嬢の仲が悪くなった原因はルイーザ嬢だからだ。
 編入してきてから何かとケルビン王太子に絡むようになり、今ではケルビン王太子は婚約者そっちのけでルイーザ嬢に構うようになっている。

 正直、ケルビン王太子は自分の立場を理解してるのかと問いただしたいがそれよりもルイーザ嬢だ。なんとなく胡散臭さいのである。

 だが、見た感じ魔王軍の生き残りと関わりがあるようには感じない……

「……それでも、調べてる価値はあるか」

 俺はそう判断するとミゲルを連れ、早速ルイーザ嬢を調べに向かうのだった。



 残念ながら、今回ルイーザ嬢と魔王軍の生き残りとの関わりは見つからなかった。
 まあ、相変わらず胡散臭さはあったが。それに彼女から微力ながら感じたのだ。魔導具で詳しく調べないとわからないが聖なる力を。

 魔王軍の生き残りと関係ないにしても気になるな。

 やっとケルビン王太子と別れて家に帰っていくルイーザ嬢の後ろ姿を見つめながら、俺は隣りにいるミゲルに声をかける。

「彼女の後ろに誰かいると思うか?」
「いえ、アルフォンス師団長がこちらに来る前に調べましたけれどいないはずです。ただ、他の生徒達と違い胡散臭さは常にありましたね」
「先ほど見たあれか……。確かにタイミングが良すぎるな」
「はい。まるでこれから何かが起こるのがわかっているようです。もう少し彼女を見ておきますか?」
「ああ。しばらく調査対象に入れておいてくれ」
「わかりました。ちなみにミルフォード侯爵家はどうします?」
「王家から近づくなと最初に忠告されている。しかもいっさいミルフォード侯爵家の情報はもらえなかった」
「怪しいですね」
「ああ、だからタイミングを見て念入りに調査をする。もちろんバレないようにな」

 そう言うとミゲルは苦笑しながら頷いた。

「わかりました。では、いつでも動けるように皆に声をかけておきます」
「頼む」

 俺は頷いた後、今日ルイーザ嬢を追跡するついでに集めた情報を思い出す。

 まさか、ミルフォード侯爵家が一番怪しくなるなんてな……。そうなると……

 ふとエレーヌ嬢の顔がよぎった。彼女は関係あるのだろうかと。だが、すぐに頭を振る。

 私情を挟むな。彼女だって魔王軍の生き残りと通じてるかもしれないんだ。
 だが、それでも……

 俺は職員室で見せたエレーヌ嬢の表情を思い出す。そして、願わくばあれが本来の姿であってほしいと思うのだった。
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