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しおりを挟むしかし、叫んだ教員はすぐに教室を飛び出していってしまった。おかげで教室にいた皆は呆気に取られていたが、隣の教室で教員の先ほどの言葉が響いたことにより我に返り、やっと大変なことが起きていることに気づく。
「絶対、前回の騎士団が来たのと関係あるよ」
「やっぱり、バーレン子爵令息は本当に……」
「また、そういうのがあったっていうの? 怖いわ……」
途端に騒ぎ出す生徒達だったが、すぐにアルフォンス先生が黒板を叩き声を響かせる。
「今から事情を聞いてくるから、静かにして待っていろ。ちなみにうるさくした奴は騒音についてのレポートを五十枚書かせてやるからな」
アルフォンス先生はそう言って教室を出ていくと何人かは悪態や舌打ちをするが効果はあったのか静かになった。まあ、こそこそと話は今だにしているようだが。
そんな中、隣にいたサーザント子爵令嬢も小声で私に話しかけてきた。
「ミルフォード侯爵令嬢、きっとあの人達に何かあったんです」
そう言って五つの空席を見るので私は驚いてしまう。
「えっ、どういうことですか?」
「あれ……知らないんですか? デビット・バーレン子爵令息が暴漢に襲われて亡くなったっていう噂を?」
「はっ、知らない。どういうこと?」
私は驚きすぎてつい丁寧な話し方が崩れてしまう。すると、サーザント子爵令嬢はなぜか頬を赤くして見つめてきたが、すぐに我に返ると答えてきた。
「あくまで噂ですが最近、人気のない路地裏でバーレン子爵令息らしき遺体が発見されたみたいなんですよ」
「だから、最近騎士団がこの学院に調べにきたのね……。でも、それと今日の事は違うかもしれませんよ」
しかし、サーザント子爵令嬢は指を横に振って笑う。
「いえいえ、あの教員の慌てようだと学院の重要な関係者に何かあったんです。そうなると今日来ていないあの人達ぐらいしか思い当たりませんよ。それに噂だと昨日、王太子殿下が取り巻きと一緒にバーレン子爵令息の死の真相を調べに行ったらしいですからね」
「それで何かあったと……」
「おそらくは……。なにせバーレン子爵令息を殺した暴漢はいまだに捕まっていないらしいですから」
「そんな……」
私は仮にも婚約者である王太子殿下に何かあったかもしれないと思い青ざめてしまう。すると、サーザント子爵令嬢は慌てて頭を下げてきた。
「す、すみません。私、余計なことを……」
「……いいえ。サーザント子爵令嬢は何も悪くありません。むしろおかげで色々と知れましたから感謝しています」
私はなんとか微笑むとサーザント子爵令嬢は感激した様子になる。
「ミルフォード侯爵令嬢……。私、幸せです。こんなにミルフォード侯爵令嬢と仲良くなれるなんて。……でも、記憶が戻ったらこういう風に話すこともできなくなるかもしれないんですよね……」
サーザント子爵令嬢は残念そうに言ってくるため「そんなことはない」と言いたかったのだが私には言うことができなかった。それは夢の事を思い出したからだ。
記憶が戻ったら今の私は……。いいえ、それよりも……
私は悲しげな表情を浮かべているサーザント子爵令嬢を見つめる。記憶が戻ったらきっとまた悪役令嬢と言われるエレーヌに戻るのだ。そのエレーヌの側にいるサーザント子爵令嬢はどうなってしまうのだろうと。途端に心配になってしまった私は祈るように言った。
「サーザント子爵令嬢、私が記憶が戻ったらなるべく離れて下さい。きっとスミノルフ男爵令嬢をまた傷つけようとします。そしてサーザント子爵令嬢も……。だから決して話しかけてはいけませんよ」
「ミルフォード侯爵令嬢……わかりました。でも、記憶が戻るまでは私達友達ですよ」
「友達……良いのですか?」
私は不安げにそう尋ねるとサーザント子爵令嬢は手を取り頷く。
「もちろんですよ。ただ、スミノルフ男爵令嬢関連じゃなければ大丈夫だと思います。だからミルフォード侯爵令嬢の記憶が戻っても仲良くなれるよう頑張ってみます」
「サーザント子爵令嬢……」
私は感極まってそう呟くとサーザント子爵令嬢は苦笑する。
「でも、危なかったらすぐに逃げますね」
「ふふ、お願いですよ」
私達は笑いあう。しかし、すぐにその笑みが消えてしまった。それは教室に重苦しい雰囲気を漂わせた騎士が入ってきたからである。そんな騎士の横にアルフォンス先生が並ぶ。
「お前達、今日からしばらくこの学院は休校になる」
アルフォンス先生がそう言った瞬間、皆が口々に「やっぱり何かあったんだ」と呟き、慌ただしく帰り支度を始めた。きっと安全な家に早く帰りたいのだろう。
「私も今日は早く帰りますね」
そう言って肩を回し眠そうな顔で帰っていくサーザント子爵令嬢を見送った私はふと王太子殿下の席見つめた。
大丈夫かしら……。それに……
バーレン子爵令息の席を見つめた私は目を瞑り祈りを捧げる。
嫌われてはいたけれど、やはり知った方が亡くなるのは辛いものね。それにしても馬車を狙われた件もあるし王都は思った以上に危険な場所なのかも……
そう思った後に私は首に下げているネックレスに触れる。やはり、魔法を使えた方が良いのではと思ってしまったのだ。だが、そんな事を考えていたら急に頭の中に靄がかかったような状態になりボーッとしてきたのだ。そしてなぜかお母様の顔を思い出しまだ魔法は早いと思ってしまった。
「やっぱり、まだ早いわよね……」
私はそう呟いた後に帰り支度を始めるようとすると、眉間に皺を寄せたアルフォンス先生が近寄って私を覗き込んできた。
「厄介なものを……。何を考えているんだ……」
そう言って、私の顔の前で指を鳴らす。すると頭の中の靄が消え、スッキリしたのだ。
「どうだ? 少し何か思い出したか?」
「いいえ。頭がスッキリしただけです。あの、何をしたのですか?」
私がそう尋ねると、アルフォンス先生は一瞬悩んだ様子を見せたが小声で答えてきた。
「顔色が悪かったから精神を和らげる魔法を使った。ちなみにこの事は内密に。生徒に魔法を使ったとなると問題だからな」
アルフォンス先生はそう言って睨みをきかせてきたので私は首振り人形のように何度も頷く。
「わ、わかりました」
「ふん。とにかくさっさと帰れ。それと……体に気をつけろよ」
最後は心配そうにしながら言ってくるアルフォンス先生に私はつい嬉しくなり微笑む。
「はい、わかりました。先生もお気をつけてお帰り下さいね」
「……ああ、そうする」
アルフォンス先生は目を細めて頷くと、すぐに背を向け教室を出ていってしまった。そんなアルフォンス先生が去った方を見つめてつい頬が緩んでしまった。
「サーザント子爵令嬢にアルフォンス先生。心配してくれる人がいる今の私は幸せ者ね」
そう呟くと私は再び帰り支度を始めるのだった。
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