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20 ケルビンside

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 あの後、いつまで経ってもレイノル達は戻って来なかった。
 不審に思った私、ケルビン・ローライトとバリー、そしてラルフはミルフォード侯爵家の別邸に向かったのだが、レイノル達とは合流できなかった。それどころか別邸の前には何事もなかったかのように門番が立っていたのだ。

 ……バレずに侵入したということか? だが、時間があまりにも経ち過ぎてる。もう、日が出てしまうぞ……

 茂みに隠れながらそう思っていると、横で別邸を観察していたラルフが不安そうに私を見てくる。

「もしかして行き違いになったのかな……」
「合流予定時間を二時間過ぎても来なかったんだぞ。さすがにそれはないだろう。きっと中に入ったが出れなくなったんじゃないか?」
「うーん。それこそないんじゃないかな。だって、あの門番を見てみなよ」

 定期的に別邸の周りを歩く門番を指差し、ラルフが苦笑すると横にいたバリーが納得した表情を浮かべた。

「警備も兼ねた門番……手薄過ぎる。ミルフォード侯爵家は財政が苦しいのか?」
「いや、聖女アリスティア様の末裔であるミルフォード侯爵家に悪さしようと思う連中がそもそもいないんだよ」

 ラルフがそう答えるとバリーは手を打ち頷く。

「なるほど。それなら、なんでレイノル達は合流地点に来なかったんだ? もうとっくに何か情報を得て戻っても良い頃なのに……あっ、もしかしたら何も出なくて本邸に向かったとか?」
「さすがにそれはないよ。でも、何も出なくてレイノルが赤っ恥をかいたからしばらく頭を冷やしているってのはあるかも」
「じゃあ、今頃は合流地点にいる可能性はあるな。ケルビン殿下、そういうことだから決まりで良いよな」

 笑みを浮かべたバリーが私を見てきたので頷く。

「よし、合流地点に戻ろう」
「了解。レイノルのやつきっと悔しそうにしてるだろな」
「友人として気づかないふりをしてあげようよ」

 そう言ってラルフとバリーは楽しげに笑っていたが、合流地点に着く前にその笑みは消えていた。なぜなら戻る途中にレイノルとバーレン子爵の遺体を発見してしまったからだ。

「そんな……」

 私は何かの間違いではないかとレイノルの遺体に歩み寄ろうとしたがバリーに慌てて止められてしまう。

「危ないから離れてろ!」
「しかし……あれが本当にレイノルかを……」
「間違いなくレイノルだ! それより警戒しろ! さっき、あそこを通ったが何もなかった!」

 バリーがそう言って剣を抜くため、状況を理解した私も剣を抜こうとする。しかし、私の手を勢いよくラルフが掴み首を横に振った。

「戦闘より逃げた方が良いよ」
「しかし、レイノルの仇を……」
「わかった。ケルビン殿下、走るぞ」

 バリーとラルフは私の両脇を掴んで走り出す。私は思わず二人の手を振り払おうとしたが途中でやめた。二人がかつてないほど焦った表情をしていたから。
 だから、私は冷静になることができ黙って走る。そのおかげが無事に人気のある場所に到着することができた。
 二人はホッとした様子で私を離し、座り込む。

「くそっ……どういう事だ⁉︎」

 バリーは悔しそうに地面を叩くと、ラルフが顔を真っ青にしながら答えた。

「わからないけど、デビットを殺した奴と一緒だってことだけはわかる……」

 ラルフの言葉に私もバリーも二人の遺体を思い出す。二人の胸の部分は穴が空き、バーレン子爵にいたっては首と胴が離れていた。

「もう、俺達の手には負えないな……。どうするケルビン殿下?」

 バリーがそう尋ねてくるが既に私の中で答えは出ていた。だが、私はすぐに答えなかった。誰かの視線を感じたからだ。
 そんな私の様子に気づき、ラルフが尋ねてくる。

「どうしたの?」
「視線を感じたんだ……」

 そう答えると同時にバリーがいつでも動ける体勢になる。

「路地裏からこちらを見てる奴がいる」
「なんだと……」

 私はバレないように横目で路地裏を見る。そこには髑髏の仮面を付けた黒いローブ姿の人物が立っていたのだ。しかし、すぐその人物は後ろにゆっくりと下がり暗がりへと消えていった。

「あいつが犯人かな……。ケルビン殿下はどう思う?」

 真っ青な顔でそう聞いてくるラルフに私はすぐに答えられなかった。もし、そうだと答えたらきっとレイノル達みたいに殺されてしまうかと思ったから。だから、私は首を横に振る。

「きっと、頭のおかしくなった奴だろう。そんなことより、私達はしばらく休憩しよう」

 そう言って無理矢理、作り笑いを浮かべる。そんな私の肩をバリーが嬉しそうに叩いた。

「休憩なら良い場所を案内してくれる連中がいるぞ」

 そう言うと立ち上がりある方向を指差す。そんなバリーの指差す方向を見て私は思わず安堵した。

「確かに今なら最高の休憩場所かもな」
「そうだね。でも、ケルビン殿下……その後は大変かもよ」

 そう言うラルフに私は苦笑しながら頷いた。

「覚悟の上だよ。だが、今はゆっくり休みたい」

 私は肩をすくめた後、巡回中であろう騎士に手を振るのだった。



 あれから、私達は巡回中の騎士に保護され騎士団の詰所で休んでいた。

「私の所為だな……」
「それはどういう事ですか?」

 騎士が入れてくれた飲み物を飲みながらそう呟いた時、ちょうど詰所に入ってきたグラビス・シールド侯爵がそう尋ねてくる。すると、慌ててバリーとラルフが首を横に振った。

「違う。側にいて止めなかった俺達の責任だ」
「そうだよ。僕達がデビットの死を調べようと言ったのが悪いんだ」

 二人はそう言うが私は首を横に振る。

「私の王太子としての心配はしなくていい。今はそれどころじゃないからな」
「ケルビン殿下……」

 二人は申し訳なさそうな表情を浮かべるが、私は力なく笑って頷く。そんな様子を見ていたシールド侯爵は驚いた顔をした。まあ、それもそうだろう。場合によっては王太子の座を降りても良いと言っているようなものだからだ。

 それくらいの失態をしたのだから当然だろう。

 私は力なく項垂れる。するとシールド侯爵が私の目線まで腰を下ろしてくる。

「……良いのですか?」

 私の瞳を見つめながらシールド侯爵がそう尋ねてきたので頷いた。

「ああ。この件が解決するならな」
「……わかりました。では、三人ともこれから王宮に行き、国王陛下と宰相のビルグリッド・グリーンシス公爵に今日あった事を説明して下さい」
「わかった……」

 私は力なく頷きバリーとラルフと共に馬車の方に向かっていく。しかし、途中で立ち止まると振り向いた。

「シールド侯爵、気の所為かもしれないが私達を見ていた人物がいた」
「特徴は?」
「髑髏の仮面を付けた黒いローブ姿だ」
「わかりました。注意して見ておきましょう」
「頼む」

 私はそう言うと疲れた顔のバリーやラルフが待つ馬車に向かって再び歩き出すのだった。
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